8−3
アフロネイロ〜時流間元〜
「ここか」
声の主は扉を開けた。中は床も壁も天井も透明でその下には大小さまざまな幾つもの歯車が動いている。
「早いなもう戻ってきたか」
ラファエロは視線をそのまま、書類を書きながら言った。
「それで…」
下を向いていた顔をあげるとそこには一風変わった甲冑を着た者が立っていた。
「久し振りだな、ラファエロ」
「久し振り?誰だ」
「忘れているとは全くお前達は危機感がないな、ラファエロ・デ・ルシアス・ミラコシウス」
「わしの名を………」
ラファエロの脳裏に一人の人物の名前が浮かぶ。
「ケイオスか、よく生きて…」
「何をぬけぬけと、生きていただと?私はあの時のことは一度も忘れたことはない!」
腕を真横に振るい、入口の壁に拳を叩き付ける。
衝撃と共に壁に亀裂が広がる。
「…本題に入ろう」
ケイオスは心を落ち着けてる。
「時のエレメントを渡せ」
「断る」
「やはり、そう素直に渡すわけはないか…では大事な弟子の命と引き換えではどうだ?」
ケイオスはそう言うと空中に映像が現れた。
そこには身動きが取れないよう拘束され、喉元に刃物を当てられたクロノスがいた。
「人質とは卑怯な手を!」
「さぁどうするね」
「………分かった…」
ラファエロは室内にある時間を表すレリーフをケイオスに渡した。
「こいつを砕けば時のエレメントが現れる」
ケイオスは受け取るとレリーフを手で握り潰しレリーフは砕け散った。
砕けたレリーフはまた再生し、元通りになるとレリーフから紫の輝く宝石、時のエレメントが浮き出てきた。
ケイオスは時のエレメントを手に取り、確認した。
「どうやら本物のようだな」
「当たり前じゃ。さぁ、弟子を解放するんじゃ」
「物は確保した、放してやれ」
クロノスの喉元にあった刃物は消え、拘束は解かれ、そこで空中にあった映像は消えた。
「さて、仕上げだ」
ケイオスは時のエレメントをしまい、ケイオスの左腕全体に帯状の魔法陣が現れる。
「なにをする気だ」
ケイオスはいきなり、足を一歩踏み出して帯状の魔法陣を纏う左手をラファエロの胸に突き付ける。
「ぐわぁぁぁ…」
ラファエロの胸に帯状の魔法陣の一部が入り込み、ラファエロの悲鳴が響く。
ラファエロの胸から帯状の魔法陣が巻き付いた光の球が引き抜かれた。
「なに…を…」
「力無きことに苦しむがいい」
ラファエロは気を失って倒れる。ケイオスはそんなラファエロを尻目に時流間元から出ていった。
アフロネイロ〜回廊〜
「クロノスさんを放せ!」
フェイとレイナの目の前には手足を鎖で拘束されたクロノスとその喉元に剣を突き付ける仮面を着けた者がいた。
「…」
突然、仮面を着けた者はクロノスを解放しその場から立ち去ろうとした所をフェイが止めた。
「待て!」
フェイはエレメンタルブレードを構えるが仮面を着けた者は剣を仕舞う。
そこへケイオスが現れた。
「目的は果たした、行くぞ」
空間が裂けて暗闇が現れた。
「おい!待てよ!」
フェイは二人の方へ向かおうと駆け出すと仮面を着けた者は見覚えのあるボーガンで矢を放ってきた。
フェイは矢をエレメンタルブレードで弾きながら駆けていくが仮面を着けた者は強力な一本の矢を放ち、エレメンタルブレードで受け止める。
「くっ…」
フェイはエレメンタルブレードに力を籠めるとブレードの刃は朱く染まった。
「炎斬」
フェイは矢を受け止めた状態から朱い刃を放つと矢と朱い刃は打ち消し合うように消えた。
そして、仮面を着けた者とケイオスの方を見たが二人の姿はなかった。
二人が消えたと同時にアフロネイロの振動は収まった。
「クロノスさんは無事?」
「大丈夫、気を失っているだけみたい」
「あいつら一体?(それにあのボーガン…)」
「甲冑の方はフルヴァリーナイツの一人じゃ」
「フルヴァリーナイツ?」
「ヴァルキリアの騎士よ、元々は天界の扉を守護する者だったらしいわ」
「どうしてそんな人がヴァルキリアに?」
「さぁ、わからないわ」
「とりあえず、先程の部屋に戻った方が良いじゃろうな」
フェイ達は来た道を戻り、癒雨凪へと引き返した。
アフロネイロ〜格子角〜
「やっと収まったみたいだな」
「一体、なんだったんでしょう?」
格子角の内部全体に亀裂が走り、今にも崩壊しそうになっている。
「ロゼ姉、あそこから出れそうですぜ」
クックが示す、そこには少し崩れた壁がある。
「あいつらはまだ気付いてないようね、早いとここんなとこ出るわよ」
「でもこのままじゃ通れないだる」
壁の隙間を瓦礫が塞いでいる。
「通れないじゃなくて通れるようにしなさいよ」
クックとスリックは言われた通りに塞いでいる瓦礫を少しずつ退かす。
「できやしたぜ、ロゼ姉」
ロゼ達、三人はグラハム達に気付かれないように格子角から出た。
「今にも崩れそうだなこの部屋」
「早く此処から出ないと生き埋めになるかもしれないですね…」
「さっきから気になってたんだがあいつらの声が聞こえないな」
「あれ?確かに何処にもいない、この閉鎖された空間からどうやって…」
「船長、ちょっといいですか?」
乗組員の一人がグラハムに言う。
「どうした?」
「向こうの壁に出れそうな穴が」
「じゃあ、あいつらはそこから出たのか」
「では私達も此処が崩れる前に早く出よう」
「あぁ、そうだな」
グラハム達は壁に開いた穴から出た…そして、その直後に格子角が崩壊した。
アフロネイロ〜癒雨凪〜
フェイ達が癒雨凪に着くとそこにはたくさんの人が運び込まれていた。
「これは何ともひどいな」
「うん…」
その場で立っていると救護にあたっている人が話しかけてきた。
「怪我人ですか…レイファ?誰か早く担架を!」
担架を持った者が来てクロノスを乗せて運んで行った。話しかけてきた人もクロノスの名前を呼びかけながら付いていき、フェイ達もその後を付いていった。
そこへフィーナがレクの腕を肩に掛けて運んできた。
「誰かレクを…なにこれ」
手当てを終えたマレが治癒凪の入口にレクを担いだフィーナを見つける。
「フィーナ!」
「マレ、レクが」
「フィーナ達も襲われたのか」
「もって?」
「あぁ話は後に今はレクの治療が先」
「でも、マレも怪我してるのに」
マレの腕に巻かれた包帯から薄く血が滲んでいる。
「心配ない、手当てはしたからそれに人手が足りない状態だからね」
フィーナはレクを壁にもたれ掛けるように床に座らせた。そして、マレはレクの治療を始めた。
「これでよしっと」
クロノスが気が付き、ゆっくりと瞼を開ける。
「レイファ、大丈夫か?」
「ネクト…?」
「大丈夫そうだな」
「よかった、気が付いて」
レイナは安堵する。
「レイファ、目が覚めて早速の所悪いけど何が起こっているんだ?話では賢者の方々も深手を負われたそうらしいが」
「……なんですって!?」
クロノスは意識が徐々にはっきりとなり跳び起きた。
「レイファ」
ネクトの言葉に耳を貸さずにクロノスは癒雨凪から駆け出ていき、フェイ、レイナ、ネクトはその後を追う。
途中、癒雨凪の出入口の辺りに居たフィーナとレイナはぶつかった。
「ごめんなさい」
レイナは謝り、ふと目をやるとフェイを助けてくれたマレとレクがいた。
「大丈夫ですか?」
レクの治療が思うように行かず、徐々にマレの力を削いでいく。
「ミリアリス、力を貸して」
レイナはレクの胸の辺りに手を置くと淡い蒼のベールに包まれた。
アフロネイロ〜癒雨還〜
クロノスはある部屋の扉を開け放つ。
「そんな……」
部屋の中心には正六角形の柱があり、その各面に小窓の付いた箱が置かれている。そして、その中には…。
クロノスは一つの箱に近付く。
中には生気が薄れ、天力も感じられないラファエロが眠っていた。
「じじぃ…」
クロノスは涙を流しながら強く拳を握り絞めた。
部屋の入口からそれを見たネクトは無言でフェイを制止すると誰かが話しかけてきた。
「君達、この世界から逃げるんだ」
二人は声の方に目をやるとそこにはフェイクがいた。
「あんたは!フェイク、逃げろっていきなりなんなんだ?」
「そう突っ掛かるような言い方をすることはなかろう」
「……」
「それで理由を聞かせてもらおうか」
「それは賢者の力とエレメントが奪われたことによってこの世界の要が消え、ソフェルは消滅する」
「そんな馬鹿な話が!そんな話聞いたこともないし、それに揺れは収まって何か起こる様子はないじゃないか」
話し声が中まで聞こえたのか、クロノスが話に入って来た。
「本当の話よ、そのことはごく一部の者しか知らないことのだけど」
「そんな…」
「均衡状態を保っている、今のうちにこの世界のすべての人達を連れて脱出しなければ」
「すべての人を…無理よ、それだけの人達を別空間に転移させるなんて賢者の力じゃなければ…」
「君はその賢者の弟子だ。賢者の力は与えられるものではなく身の内に眠るもの、現象と本質を見誤ってはいけない」
「……解りましたやってみます」
クロノスはフェイクの言葉に納得する。
突然、オーブが強い輝きを放つ。
「なっなんだ?」
「ようやく目覚めたか」
「目覚めた?」
「三つ目のオーブがな」
「クロノスさんは後をお願いします、俺は三つ目のオーブを探してきます」
フェイはそう言ってその場を後にしようとしたらクロノスに呼び止められた。
「ちょっと待って」
クロノスはフェイクから受け取っていた物を出すとオーブへと吸い込まれた。
「どうしてクロノスさんが」
「さぁ行きなさい」
フェイは頷くと駆け出していった。
「ネクト、この世界の民をアフロネイロへ、各村へ繋がるトールはまだ使えるはずです」
「分かった」
「私達も行こう準備をしなければ」
フェイクとクロノスはアフロネイロのとあるところへ向かった。
アフロネイロ〜癒雨凪〜
「これでもう大丈夫です」
「すごい…傷が消えてる」
レイナはマレの傷の箇所も力を使い治し終えていた。
「ありがとう」
「気にしないでこっちも助けてもらったから」
レイナはそう言って癒雨凪を出た。
『フェイはどこに向かったんだろう?』
そう思いながら歩いているとオーブが強い輝きを放った。
「なに?この光」
「どうやら三つ目のオーブが近くにあるようね」
「どこにあるの?」
「取りあえずはこの回廊を真っ直ぐね」
レイナはミリアリスの言う通りに回廊を進んだ。




