7−2
〜ケルン診療所〜
「レイナの様子はどうですか?」
「まだ眠っているわ」
「そうですか…」
「心配ないっすよ、いまは明日の準備をするっす」
「今日はここに泊まりゃいい、どうせまだ宿も決まっとらんのじゃろ」
「ありがとうございます」
「気にせんでえぇ、後で夕飯を持って来るでな」
ケルンはそういい診療室を出ていった。
「明日の準備って?」
「海を渡る船が見つかってその出発が明日なんっすよ」
「ずいぶん急なことね、まだレイナちゃんが目を覚ましてもいないのに」
「大丈夫、船医もいるっすから」
「それにいつここに奴らが来るか分からないから」
「奴ら?」
「まだ話してませんでしたね」
フェイがそう言うとグレネリスが説明する。
「ヴァルキリアじゃ、お前も名は知っているだろう?フラビナルで何を探ってたかはしらんがな」
「目的はわからないけどこの宝玉、オーブを狙っているみたいなんだ」
「オーブというよりその中に宿る大精霊の力が欲しいのかもね」
「グレネリスの?」
「大精霊の力はほんの少しだけでも世界を簡単に滅ぼすことが出来るからね」
「そんなに凄いの?」
「わからんな、この中に永くいたんでな本来の力がどれくらいのものだったか」
「いつからオーブの中にいるっすか?」
「さぁな」
「天界にいた時にはもうオーブの中だったわね」
「そうじゃったか」
「これだから年寄りは…」
「何をひよっこが!」
「何よ、じじぃ!」
「二人共、レイナが寝てるだよ!」
「すまん」
「ごめんなさい」
二人は同時に謝った。
そこへ、ケルンが食事を持って入って来た。
「こんなもので済まないが」
パンとスープを持って来た。
「いえ、ありがとうございます」
「隣の部屋に空きベットがある寝るときゃそこ使うといい」
ケルンは机にパンとスープを置きながら言う。
「何かあったら2階におるでな」
そう言い残し、ケルンは出て行った。
フェイ達は食事を済ませ眠りに就いた。
〜夢の中〜
「ここは…」
レイナは暗闇の中に一人佇んでいると蒼い光が現れ、声が聞こえた。
「私はミリアリス、ここは貴女の夢の中です」
「私の夢の中?」
「そう貴女に頼みがあってお邪魔させていただきました」
「頼み?」
「助けてください」
「突然助けてと言われてもなにをどうすれば…」
「もう…時間が…」
声が途切れ、蒼い光が消えた。
〜サウザンド号〜
レイナは仄かに揺れるベッドの上で目を覚ました。
「おはようございます」
見知らぬ男に声を掛けられて混乱しつつもレイナは体を起こし周りを見渡した。
部屋の開いた丸窓からは波の音と海鳥の鳴き声が聞こえる。
「ここは船の中で、私は船医のラスティンです」
船が突然、大きく揺れて停止する。
「どうしたんだ?ちょっと見てくるから君はここに」
ラスティンは医務室を出て甲板に向かう。
レイナはベッドから降り、部屋の丸窓から外を見ると海中に黒い影が見える。
「何だろう?」
ラスティンが甲板に着くとフェイ達や船員が水の触手と戦っている。
「相手が水じゃきりがない!」
船を囲むように一気に水の壁がせり上がった。
「怯むな!帆をたため!ルクト、アースお前達は船内に入れ!」
グラハムは舵を握りながら指示をしている。
「どうしてさぁ〜」
「遊びじゃないんだ!」
怒号にルクトとアースはラスティンの脇をすり抜け急いで船室に入った。
「グラハム、なにが起きてるんです?」
「恐らくこれが例の魔物だ、お前は船室に戻って子供達とあの少女を見ていてくれ」
「わかりました」
「こうなったら一気に」
「やめるんじゃそんな事したら船が持たん」
「じゃあ、どうすれば?」
「たぶん本体さえ抑えればなんとかなるはずよ」
「それでその本体は一体どこにいるんっすか?」
「私の予想だと船底よ」
「そんな所にいる奴をどう……」
その時、水の壁から水の触手が舵を握るグラハムの背後から飲み込んだ。
「ゴボッゴボッ…」
息が出来ずにもがき苦しむグラハム。
そこへすかさずフェイが水の触手を斬るとグラハムを包んでいた水は弾け、触手は水の壁へと戻った。
「大丈夫ですか?」
グラハムは咳込みながらも礼を言った。
「すまない、借りができたな」
「そんないいですよ」
フェイの言葉が言い終わらない内にグラハムが言う。
「危ない!」
グラハムが手を延ばしたが再び現れた水の触手が今度はフェイを飲み込み、水の壁の中に引きずり込んだ。
「フェイィィ!」
ラスティンは医務室に戻ろうと廊下を歩いていると医務室の入り口でルクトとアースが立ち尽くしている。
「二人ともそんなところでどうしたです?」
話し掛けながら部屋の中を覗くと部屋は水浸しになっていて船壁に大きな穴があいている。
「これは!?何があったんです?」
「水が…」
「あのねぇちゃんを…」
「なんてことです、これは中に居ても安全じゃないですね」
ラスティンはルクトとアースを連れてグラハムの元へ向かった。
ラスティンが甲板に着くとグラハムはずぶ濡れの状態で舵に寄り掛かっている。
「グラハム!」
ラスティンはグラハムに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「心配ない少し水を飲んだだけだ」
「そうですか」
「それよりラスティンどうしてお前がここに?」
「医務室もやられてあの少女が連れていかれました」
「レイナも!?」
「それが関係してるか分からないけど水の動きが止まったようですよ」
「本当だな」
「何とかして二人を助けるっす」
「それは難しいだろうな、この状況だまたいつ奴らが来るかわからない」
「なにか方法はないのですか?グラハム」
「…ないな」
〜水の回廊〜
「無事か?フェイ」
「なんとかねってここは?確か水に飲み込まれたはずだけど」
フェイは周りを見ると全て水でできた回廊にいた。
「何かの意思が働いているみたいじゃな」
「とりあえず先に進んでみよう、ここから出る方法が見つかるかもしれない」
「そうじゃな」
フェイは水の回廊を歩き始めた。
「一体何が起こったの?」
レイナは周りを見渡すと回廊が渦を巻くように上へと昇っていて、レイナの真上には黒い影が見え、その周りから日の光が射しこんでいる。
「手荒な事をしてごめんなさい」
「この声、夢の…」
レイナは声の方を見ると水でできた円錐状の台があり、頂点には夢で見た蒼い光が輝いていた。
「もう時間がないの、だから」
「分かったわ、何をすればいいの?」
「私をここから外して欲しいの」
レイナは台座に近付いた、蒼い光は近くでみると球体の形をしている。
レイナは言われた通りに光る蒼い球体を掴み引っ張った。
「んん〜〜全然、ビクともしない」
レイナは一生懸命、引っ張ってると台座が動いた。
「危ない離れて」
水の床から水の巨人がはい出てきた、巨人は天井に届く程でレイナはあまりの大きさで後退りした。
「なんなの?」
「クゥアール、水の精霊が集まり形作ったものよ」
ミリアリスの声が心の中に聞こえる。
水の巨人クゥアールはレイナに向かって手を伸ばして掴もうとした。
そこへ…
「炎斬」
朱い刃が巨人クゥアールの伸ばした手に当たり、水蒸気が広がる。
フェイは回廊の途中から飛び降りレイナの近くに着地した。
「レイナ、大丈夫か?」
「うん」
「どうしてこんな所に」
「それは…」
水蒸気が晴れると無傷のままの水の巨人クゥアールがいた。
「手は吹き飛ばしたはず…」
「相手は水じゃ、この場所ではいくらでも再生は可能じゃよ」
「じゃあ、どうすれば…」
そこへレイナが言う。
「あれを外せばこいつを何とかできるはず」
レイナは水の巨人クゥアールの頭にある角の先端を指差し言った。
「あれは蒼弓のオーブ」
「えっあれが二つ目の」
『この場所の影響か気配は感じられなかったが…まさか…試す価値はありそうじゃな』
「あんな所までどうやっていけば」
「フェイ、足元に炎斬を放て!水を爆発させる。その爆発を利用してあそこまで飛ぶんじゃ」
「分かったよ」
「レイナ離れて」
「うん」
「行くぞ」
「うん」
フェイはその場で飛び上がり、身体を捻ると水の床にエレメンタルブレードの鋒を斬り込み、炎斬を放つ。
水の床は爆発して水蒸気が吹き上がった。それと共にフェイの身体は蒼弓のオーブへと高く舞い上がる。
フェイは蒼弓のオーブの納まる台座部分をエレメンタルブレードで斬ると切り取られた台座は弾けて消え、フェイは露わになったオーブを掴み、水の床に着地する。
水の巨人クゥアールの身体は弾けて無数の粒が宙に留まる。
「これが蒼弓のオーブ」
蒼弓のオーブは透き通るような青で中心がキラキラと輝いている。フェイはオーブに見蕩れてじっ〜と見ていると声が聞こえた。
「そろそろ離してくれる炎の力を持つ貴方に持っていられると熱くて堪らないわ」
フェイはすぐに弓のオーブを水の床に置いた。
「ありがとう、助けてくれた事に感謝するわ、あの子達も喜んでいるわ」
フェイとレイナの二人は上を見ると水の粒が踊るように渦巻いている。
「きれい」
水の精霊達の舞いに見蕩れる二人を他所に大精霊達は会話する。
「水の精霊達か」
「そうよ、グレン」
「久し振りじゃな、ミリア」
「そうね、どれくらい振りかしらね」
「一つ聞きたい事があるんじゃが」
「なに?」
「あの娘が契約者なのか?」
「そうですよ、まだ契約はしていませんが」
『偶然か?契約出来るものがこんなにも傍にいるとは』
グレネリスはそう思いながらもレイナを呼ぶ。
「レイナ」
「ん?なに?」
「オーブを手に取るんじゃ」
レイナはグレネリスの言う通り、蒼弓のオーブを手に持った。すると蒼弓のオーブは強い輝きを発した。
「選ばれし子よ、我は汝に支える」
「どうして私に?」
「貴女が求めた故に汝に力を与える、我と契約を…」
「私が求めた?」
「海のように深き心の奥底で」
「………分かった」
レイナは何か思い当たる節があるのか了承した。
「契約は果たされた」
輝きが消えるとオーブはレイナの手にはなく、蒼い石がはめ込まれた首飾りが首に掛けられていた。
「これからよろしくな、レイナよ」
首飾りの青い石から声が聞こえた。
「うん」
「契約は終わったようじゃな」
「どうゆうことなんだグレネリス」
「レイナは蒼弓のオーブの大精霊ミリアリスと契約したんじゃよ、お前が我としたようにな」
「そうなんだ………それってレイナが契約者だったってこと?」
「そうなるな」
フェイがグレネリスと話しているとレイナが話しかけてきた。
「フェイ、皆の所へ戻ろう」
「あっぁうん、そうだな」
フェイは少し動揺したように言葉を返す。
「ってここからどうやって出ればいいんだ?」
「大丈夫、まかせて」
レイナは自信あり気に言う。




