6−2
デア城〜地下古書室〜
ラズゥールは沢山積み上げられた古書の中にいた。
「これでもない!どこに…」
何かを探して、本を開いては閉じ、開いては閉じるの繰り返しを幾度も続けてようやく目的の物を見つける。
「在ったこれだ」
そこには革張りの分厚い本があり、冥界の王族の刻印が刻まれている。
「…やっと見つけた…」
突然、地下古書室の扉が開き、息を切らしたリベルが入って来た。
「ラズゥールさん…」
「どうした落ち着けリベル」
「レルク様が…」
「レルクがどうした?」
「クレイルさんと一緒にピエモンテ牢獄に」
「あの人間と一緒に!?誰の命令だ?」
「バルディ様の命令です」
『バルディ…ということはレーデルか』
ラズゥールはすぐに誰の意図かに気付く。
「ちっ行くぞ、リベル」
「はい」
二人はピエモンテ牢獄に向かった。
ピエモンテ牢獄〜南棟〜
クレイルとレルクの二人は薄暗い明かりの灯った牢の中にいた。
「困ったことになりましたね…」
「何とかしてでないと」
「魔法は?」
「無理です、この建物に使われているのはアンチマテリアルという物質で魔法を無力化します」
『この閉塞感はそれでですか』
「今は時が来るのを待つしかないです」
冥王宮ルシファール〜???〜
大理石の長机の上にある幾つかの燭台だけが灯る部屋の中、レーデルと不穏な輩が卓を囲む。
「キース、計画は順調か」
「えぇ、もちろんよ」
大鎌を肩に立て掛けて椅子に座る修道女が然も当然のごとく余裕な声色で答える。
「どうしてあの二人を生かしておいたんですか?」
姿勢正しく椅子に座る顔の上半分を銀の仮面で覆った男がレーデルに訊いた。
「あの二人にはまだ使い道がある、王子と同じようにな」
「あの人間をやるときが来たら俺に任せてくれ」
大理石の長机に足を組んで乗せて、椅子に座る目に傷のある男が牙のような鋭い歯を見せて言う。
「ガウゼスにしては珍しくやる気ですね」
「あの人間には借りがある」
「そうね、私がせっかく神鎌の分身である偽鎌エルセニスを貸してあげたのにアッサリ負けて逃げてきたんですものね」
「けっ!そうゆうお前も人のこと言えねぇだろうが」
「なんですって!私はセリウスに止められたからよ」
「どうだかな」
「まぁまぁ、二人とも」
顔の上半分を銀の仮面で覆った男が止めに入った。
「相も変わらず仲が悪いことで」
黒のローブを着た黒髪の男と黒い鹿のような生き物が現れた。
「なんで此処にいるのよ、貴方がこちら側に着ちゃまずいでしょ?」
「キースの言う通りだビーゼルス。勝手な行動は慎め」
レーデルはビーゼルスに釘を刺す。
「はいはい。行くよ、シュラフ」
ビーゼルスとシュラフは暗闇に消える。
「なにあの態度!」
「全く不愉快な奴だ」
「そうですか?僕はあぁゆうのは嫌いじゃないですよ」
「セリウス、お前は変わってんだよ」
「それはどうも」
ガウゼスの言葉に顔の上半分を銀の仮面で覆った男は微笑む。
『そういうとこがだよ』
ガウゼスは心の中で呟く。
〜???〜
ほの暗い空間が広がり、その中に白い石で造られた檻がある。
その中にいる誰かにビーゼルスが語りかける。
「いつ見ても美しい」
檻の中には模様の入った両頬に銀色の長髪、華奢な女性がいた。
「外道に褒められても何も感じぬ」
「さすがは冥王セレディナス様はどんな状況でも強気でらっしゃる」
セレディナスは何かをしようと構えた。
「無駄ですよ、そのアンチマテリアルの檻の中では魔法が使えませんから」
「いつまで私を此処へ閉じ込めておくつもりか?」
「私はただ命令を受けているだけですからお答えしかねますね」
「では何の目的で私を連れ去った?」
「それはご自分がよく分かってるんでは?」
「なにを言っている………まさか」
セレディナスは何かに思い当たる。
「はい、それではまた」
ビーゼルスは恭しく頭を垂れる。そして、元の体勢に戻ると踵を返す。
「行きますよ、シュラフ」
ビーゼルスとシュラフは暗闇に消えた。
ピエモンテ牢獄〜正門〜
ラズゥールとリベルは堅牢な門の前にいた。
ラズゥールは拳を力強く大きな扉を叩く。
「誰かいないか!?」
「全く返事がないですね」
「妙だな」
リベルが正門の大きな扉に触れると重々しい音をたてながら開く。
リベルは突然、開いた扉に驚き、手を引っ込める。
「中に入るぞ」
「あっ!はい」
二人は開いた扉から中に入ると目の前に庭園があり、奥には左右に別れた建物がある。
そして、その間には監視塔がそびえ立っている。
二人は庭園を駆け抜けようと踏み出すがすぐに動きを止める。
「気を付けろ、リベル」
「もう一仕事か」
黒のローブを身に纏い、身の丈ほどの大刀を背中に携えた布で目を隠した金色の髪の男が二人の前にいた。
「何者だ!」
『いや、あの容姿、あの人間が言っていた闇の帝王の配下か』
「これから死ぬ者に答えるだけ無駄だな」
「そんなもので目を塞いでいて勝てるとでも」
「今に分かるさ」
「リベル、先に行け」
「でも…」
「お前がいても足手纏いになるだけだ、行け!」
リベルは建物に向かって走って行こうとしたすぐにラズゥールが止める。
「待て!これを持って行け」
リベルに向かって本を投げる、リベルは蹌踉けながらも確りと受け取った。
「これは?」
「持って行けば分かる」
布で目を隠した金色の髪の男は距離を取りながら横を駆け抜けていくリベルを横目で見送る。
「追わないんだな」
「その必要はない、すぐ片付くからな」
「まあ、追おうとしても俺が止めたがな」
ラズゥールは腰の左右に携えた剣の柄に手を掛けていた。
「口が減らない奴だな」
ラズゥールは二振りの剣を引き抜いて構える。
「剣は抜かないのか?」
「貴方はそれに価する力じゃない」
「気に障る奴だな」
ラズゥールはグッと地面を踏み締めるように一歩を踏み出すとそこから加速して布で目を隠した金色の髪の男に片方の剣で切り掛かる。
「欠伸が出るほどに遅い」
男は僅かな所作で軽々とラズゥールの剣を躱した。
「身軽だな、これではどうだ」
ラズゥールはもう片方の剣を既に突きの体勢で構えていた。
「次は何が出るか」
ラズゥールは三段回に分けて突きを繰り出した。
一度目の突きは布で目を隠した金色の髪の男の脇を掠め、二度目は男の肩スジを掠めた。そして、三度目は男の頭の横を掠めた。
『こいつ本当に見えないのか?』
ラズゥールは全て躱されたことに内心驚きつつ後方へと跳び退き、布で目を隠した金色の髪の男から距離を取る。
「少しは出来るようですね」
目を覆っていた布がハラリと落ちた。
「少しだけなら遊べるかもな」
布で目を隠した金色の髪の男は背中に携えた大刀を抜いた。
『起きろデスヴァルク』
しかし、大刀は何の反応も示さない。
『まだ目覚めるには時間が掛かりそうだな』
『妙な刀だな、微かだが胎動を感じる』
「私の名を教えてあげますよ」
「突然、どうした?」
「貴方を少しは認めてあげるということ、私の名はワグ」
ワグはデスヴァルクを構え、ラズゥールも二振りの剣を構えた。
僅かな静寂の後に互いに相手の方向へと走り出した。
ワグは大刀を下方から相手の脇腹目掛けて振り上げる。だがラズゥールにそれを一方の剣で受け流される。
受け流されたことで体勢を崩したワグにラズゥールは再び、三段突きを繰り出すがそこにはもうワグはいなかった。
「なんて速い奴だ」
「貴方が遅いだけのこと」
ワグの頭の中に声が聞こえた。
『アニキ、いつまで遊んでるの?目的、忘れてないよね』
『もちろんだ』
『ならいいけど遊びが過ぎるのはアニキの悪い癖だよ』
『分かってるよ、で目的の物は確認してるんだろ』
『当たり前でしょ』
「では、そろそろ終わりにしようか」
大刀から禍々しい気が放たれ始めた。
『やっと起きたか』
「なんだこの肌がピリピリ来る感じは」
ラズゥールは気構えた。
「これは本気で掛からないと危険だな」
大刀に変化が起こり、大刀を握るワグの右腕と一体に成っていく。
「さぁ、行くよ」
ワグは大刀、デスヴァルクを振うと空気が振動し地面に裂傷が走る。
「今のは何だ!」
砂埃が立ち上がる。ラズゥールは砂埃を防ぐように口許を片腕で覆う。
「やはり遅いな」
ラズゥールの背後からワグの声が聞こえ、ラズゥールは言葉なく倒れた。
「この程度なら本気を出すまでもなかったな」
ワグの右腕は元の姿に戻っており、大刀を背中の鞘へ仕舞うと建物が建ち並ぶ方へと向かった。
ピエモンテ牢獄〜監視塔〜
「はぁ…はぁ……ここは何処だろう」
リベルは息を切らしながら宛も無く歩いていく。
「あれは」
リベルは監理室という文字と矢印が書かれた札を壁に見つけ、そこへと向かって歩いて行くが誰とも出会わない。
「ここに居た者達は何処に行ったんだろう」
そして、監理室へ着いた。
「ここに二人の居場所が分かる物があるといいけど」
室内を捜索し始めた。
「これは…囚人名簿?」
リベルは机の上に置いてある囚人が投獄されている場所が書かれた名簿を見つけた。
「えぇっとツヴァイ…ツヴァイ…ツヴァイ・レルクーイ……」
名前を呟きながら名前を探す。
「あった!二人とも一緒の部屋のようね、南棟のA087号特別監房」
リベルは監理室を出て、南棟に向かった。




