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Shining Heart  作者: 201Z
21/71

6−1


冥界の門〜イヲス・αゲート〜


人を寄せ付けまいとする切り立った岩が立ち並ぶ山にそれはあった。


「まだ使えるようですね」


クレイルは地面にある石造りの大きな門の前にいた。


「久しい匂いだ」


「まだ居たんですか?」


「相も変わらず連れないやつ」


「変わらないですね、ガイナス」


門の一部分である石の獣が動きを見せる。


「当たり前であろう門番なのだからな」


「まぁ、門そのものですからね」


「そりゃそうだな」


石の獣、ガイナスは豪快に笑う。


「それでなんの用だ」


「セレディナスに少しね」


「冥王に?そりゃ無理だな」


「どうしてです?」


「冥王は行方知れず、その影響で冥界は酷い有様だ」


「セレディナスがいない?バルディはどうしたんです?」


「居るには居るが、ありゃもう操り人形だな」


「ガイナス、門を開けてもらえますか?」


「構わんが今行けばベウケットの餌になるぞ」


「私を嘗めないでいただきたいですね」


「そうゆうところも相も変わらずか…気をつけて行けよ」


「ありがとう、ガイナス」


地面が目を開けるように裂け、クレイルは裂け目に飛び降りた。


「着いたようですが…これは昔の麗容さは見る陰もないですね」


木々は枯れ、池は沼に荒れ果てた大地が広がっている。


「…早くデア城へ向かいましょう」


クレイルは気持ちを切り替えて駆け出すと

ベウケットが地面から出て来た。

ベウケットは体は芋虫のようで目は無く、人を丸呑みするほどの大きな口を持っている。


「早速のお出ましですか…」


クレイルは手をベウケットに翳し、詠唱した。


「シャール」


ベウケットの周囲に冷気が漂い、一瞬で凍り付いた。


「さすがに冥界は魔力が満ちている分威力が違いますねぇ」


ベウケットが地面を突き破り、次々と出て来た。


「次から次へと…こうなればまとめて倒しますか」


ベウケットは口から霧状のものを吐き出す。


「これは…毒…」


近くにあった朽ちた木が更に変質していく。


『…ベウケットにこんな能力はなかった筈ですが…』


クレイルは咳き込みながら地面に片膝をつく。


「エシュール」


突風が吹き荒れる。ベウケット達は無数の風の刃に切り裂かれ、身を散らして倒れる。


「大丈夫?」


クレイルは声を掛けられたがまだ咳き込んでいる。


「フルール」


クレイルのいる地面に緑色の魔法陣が現れ、クレイルは緑の光に包まれた。するとクレイルの咳きは治まった。


「すい…ません 助かりました」


クレイルはお礼をいいながら立ち上がった。そこには冥界の民、リベットである法衣に身を包む、頭の左右に渦巻いた角を持つ女性がいた。


「人間がこんな所で何をしてる?」


「ちょっと知り合いに用がありまして」


「人間が冥界に知り合い?」


「セレディナスに」


『人間が王妃様と?』


冥界の民、渦巻いた角を持つ女性は疑問に思う。


「…しかし、今、王妃様は…」


「えぇ、門番に聞きましたよ」


「そうですか…」


「見たところ神官の様ですが、お願いがあります」


「えぇ確かにそうですが、お願いとは?」


「バルディに御目通りを願えないでしょうか?」


「王子にですか?」


「はい」


渦巻いた角を持つ女神官はクレイルを見定めるように全身を眺める。


『門番であるガイナスが通したということは危険な人物ではないだろうけど…』


女神官は危険性はないと判断して答える。


「分かりました、ですがあまり期待しないでください」


「構いません」


「分かりました、私の名はリベル宜しくでは王子のいるデア城に向かいましょう」


二人はデア城に向かった。




デア城〜ケルベルの間〜


一人の衛兵が冥王宮騎士団長である人物の執務室の扉を叩く。


「ラズゥール騎士団長、失礼します」


扉を開けて衛兵が入ってきた。


「なんだ」


額に一本の鋭い角を持つ鎧の男が入ってきた衛兵に鋭い視線を送る。


「バ、バルディ様に謁見したい人物いるとリベル様がおっしゃっています」


衛兵はその鋭い視線に一瞬、怯むが用件を伝える。


「リベルが」


「いかがなさいますか?」


「ケルベルの間に通せ、私が会おう」


「承知致しました」


そして、クレイルはリベルと一緒に何の飾り気もない殺風景な部屋、ケルベルの間に通された。


「リベル、バルディに会いたいと言う奴はそいつか…」


ラズゥールはクレイルに視線を移す。


「んっ!人間!リベル!どうして人間なんか連れて来た」


「この方はセレディナス様の知人の方の様で」


「馬鹿な人間の知り合いなど」


「本当です、と言っても信じられないでしょうから証拠を見せましょう」


クレイルは上に着ている服を全て脱ぎ、上半身裸になり二人に背中を見せた。


「これって…」


「なんで制約印が!?」


「申し遅れましたが私の名はクレイル・シュヴァルツ」


「シュヴァルツ…確か大昔の記述に地上を破滅に導く魔王を封印した人間がいたと」


「それがお前というわけか」


クレイルは服を着る。


「えぇ」


「そうか」


ラズゥールは納得する。


「それでバルディに会いたいのだったな」


「はい」


「残念だが逢っても話せるかどうかわからんぞ」


「どうしてですか?」


「バルディはもうあいつのいいなりだ…」


「あいつとは?」


「ジグ・レーデル卿よ」


「何者なんですか?」


「人間界進攻派の長だ」


「レーデル卿は人間を殲滅しようと画策しています」


「どうして人間を!?」


「何をぬけぬけとお前ら人間が冥界に攻め込み、その際にセレディナス殿下が行方知れずなられたのだ!」


ラズゥールは拳を強く握り締め、声を荒らげる。


「普通の人間が冥界に入ることなんて」


「事実です」


「いつのことなんですか?」


「つい先日のことです」


「一体誰が…容姿はどんな感じでしたか?」


「全員、黒いローブを着ていて顔は全く見えず、黒い獣を連れていました」


「黒い獣…どうやらヴァルキリアの手の者ようですね」


「ヴァルキリア?あの闇の帝王がなぜ王妃様を………!!」


ラズゥールは何かに気付いた。


「リベル、この人間をバルディに逢わせてやれ、私は急いでやらなければいけないことができた」


ラズゥールはケルベルの間から足早に出ていった。


「では、こちらに」


リベルはラズゥールが出ていった扉とは反対側にある扉を開けた。


中はこじんまりとしていて、ケルベルの間と同じように何もない部屋だった。


「ルペネート」


リベルがそう言うと白い球体が部屋の中心に現れ、リベルはそれに触れた。


「貴方もこれに触れて下さい」


クレイルは言われる通りに白い球体に触れた。


「我らを彼の地にルシファール」


二人の姿が一瞬にして消えた。


そして、二人とは先程の殺風景な部屋から打って変わって絢爛豪華な装飾の施された部屋に着いた。


「ここは?」


「冥王宮ルシファールです」


「ここにバルディが?」


「はい、王子は此処におられます」


「ここで何をしているんだい?」


二人が部屋から出ると何者かに話し掛けられた。


「レルク様!?」


そこには狐目に眼鏡を掛けた長髪の男がいた。


「ど、どうして王宮に?」


リベルの背筋がピンっと伸び、緊張した面持ちで訊ねた。


「ちょっとね、それで」


「あっ、今、この方を王子の元へ案内してる所でして」


「またラズゥールに命令されたんですか?全くあの男は…あとは私が王子の元へ連れて行きますからリベル君は下がっていいですよ」


「でも、レルク様が」


「良いんですよ、ラズゥールには私から言っておきます。それにリベル君」


「はい」


「君は上級神官試験が近いんですから」


「ですが、今は試験どころでは…」


「確かにそうですが、備えは必要ですよ」


「分かりました」


リベルはレルクの言葉を素直に受け止めて立ち去った。


「さてと、行きましょうか」


レルクは長髪をふわりと翻し、向きを変える。長髪が靡いた時に首筋に模様が刻まれているのが見えた。


クレイルはレルクの着いていく。


「ラズゥールは失礼なことを言いませんでしたか」


「えぇ」


「あいつはあれでとても良い奴なんですがね、お聞きになったと思いますが先の件がありますからピリピリしているんですよ」


「そのことは見てて分かります」


「それに私達、二人は幼少の頃から冥王を母親ように慕っていましたから」


「そうなのですか」


「とっ着きました、この部屋です」


レルクは部屋の扉を叩く。


「王子、レルクです」


「入れ」


レルクは先に部屋へ入った。


部屋の中には大きな寝具に入ったまま上半身だけ起こしている銀髪の両頬に模様の入った青年がおり、首には異彩を放つ蛇のような首輪があった。


「何の様?レルク」


「王子にお会いしたいという方がお越しです」


「通して」


クレイルが部屋の中に入ってきた。


「……クレイル!?」


冥王の子息であれバルディは見知った顔に前のめりになる。


「バルディ、久しぶりですね」


「どうしてここへ?」


「それは…」


麓町ゼルゼの教会で遭ったことを話した。


「そんな僕も母上もそんなこと許可していない!」


「分かっています。だから来たのです」


「そうか、それは手間を取らせて悪かったね」


「バルディ、少し王宮の中を回っていいですか?」


「そんなこと聞かなくても君なら好きに回っていいさ、レイク、クレイルを案内してやって」


「はい、かしこまりました」


二人は部屋を出た。


「あれは何ですか?」


クレイルはレルクが部屋の扉を閉じるなり訊いた。


「気付かれましたか、あれは幻惑の法具ミスティク」


「ミスティク…確か着けられた者を操る法具」


「あれを着けているため時折レーデル卿に操られているのです」


「外すことは出来ないんですか?」


「着けた者にしか外せません」


「これはツヴァイ」


「レーデル卿…」


そこには額に三本の小さな角を持つ小太りの男がいた。


「んっ……!何故、人間が王宮内にいる、汚らわしい」


精緻な布を口許に当て、目を細めて厭わしい表情をする。


「どうゆうことだ、レルク・ツヴァイ」


「この方はセレディナス様に会いに来られたのです」


「セレディナスに?奴め人間なんかとつるんでいたのか、消えてくれて清々したわ」


レーデルは高々と嘲笑った。


「くっ!」


レルクは奥歯を食い縛り、狐目を開くと鋭い目付きでレーデルを睨む。


「おぉこわい、その人間を牢に容れろ!」


「貴方の言うことなど」


「王子の言うことでもそんなことを言えるかな?」


レーデルはレルクとクレイルの背後に視線を送る。


「レーデルの言うことを聞け、これは命令だ」


「レーデル!おまえぇ…!」


「落ち着いて下さい」


クレイルはレルクを宥めると二人の背後にガシャンと鎧がぶつかり合うような音が聞こえた。


「銃機兵、二人を牢に容れろ」


レーデルは命令する。二人の背後には重厚な鎧を纏う人型の機械がいた。


「精霊粒子兵器?完成してたのか…」


「まだ試作品だがね、さぁ連れて行け!」


「イエス、メイレイヲジュダクシマシタ」


「素直に言うこと聞いた方が良さそうですね」


「えぇ」


銃機兵は二人の身体を掴み、牢へと連行する。


レーデルは二人を牢へと連行する後ろ姿を見てほくそ笑む。


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