5−4
フェイは双剣でフィアスカルに次々と攻撃していくが全て骨の車輪で防がれた。
ふと気が付いたフィアスカルが防ぐばかりでほとんど攻撃してこないに、例え攻撃して来たとしても自分にではなくエレメンタルブレードに向けてだった。
フィアスカルの持つ骨の車輪を見ると最初の状態と変わっており、骨の車輪の外周に飛び出ている尖った物の先に紅い火が灯っている。それも一ヵ所だけでなく他の突端にも灯っていり。
「なんだあれ」
「こちらの攻撃を受ける度に増えているように思うが」
「どんな意味があるんだ」
「どんな意味があるかしらんが気をつけろ あと一つで全てが灯る」
フィアスカルは両手の骨の車輪を投げてきた。
フェイはそれを上手く躱し、フィアスカルへと向かってエレメンタルブレードを下方から振り上げる。
イケるっと思った瞬間、骨の車輪はフィアスカルの手元に戻り、二つの車輪に防がれた。。
そして、最後の一つに火が灯る。
「さぁ、これからどうなるか」
キューレは高い建物の屋根からその様子を見下ろしていた。
フィアスカルはエレメンタルブレードを押し返し、フェイを後方へと押し退けると両手を広げてカタカタと上顎と下顎を打ち鳴らす。
一頻り打ち鳴らすと動きを止め、下顎が外れたように開け放たれる。
両腕が機械的に動き、突端に全てに紅い火が灯った二つの骨の車輪を向かい合うように合わせた。するとフィアスカルの身体を纏っていた青い炎は消え、糸が切れた操り人形のように崩れ落ち、重なり合う骨の車輪だけが宙に残された。
「なんだ何も起きないじゃないか」
「いや、来るぞ」
「えっ」
「危ない!」
翼を広げたクロノスが滑空するように飛んで現れ、勢いのままフェイを抱えて飛び上がる。
「これからってところで…」
キューレは嘆くと建物から飛び降りた。
クロノスがフェイを抱えて飛んだ直後、重なり合う骨の車輪から炎が噴き出した。
噴き出した炎はドーム状の天井へとぶつかり火柱になり、時が止まったよう動きを止める。
「ありがとう、クロノスさん」
「いいのよ」
「すいませんがあそこに降ろしてもらえませんか?」
フェイの示す場所にはレイナとリーシュがいた。
「分かったわ」
フェイを抱えたクロノスはレイナとリーシュのいる町外れに降り立った。
地面に着地するとクロノスの翼は消えた。
「無事でよかったっす」
「クロノスさんのおかげでなんとかね」
「クロノスさんって本当に天使だったんですね」
「ほんとにって信じてなかったの?」
クロノスは苦笑いする。
「すいません」
「いいのよ、私も修業不足ってことかな」
「そうゆうことじゃな」
「なんですって」
「自分でゆうたことじゃろ」
「ひとに言われるとなんか…」
「そこまでにしたらどうだ?レイファ」
フェイ達の会話に割って入るように声が聞こえた。
「えっ!?どうして私の名前を?」
声の方を見るとスチュアートが歩み出る。
「まったくわしだ」
スチュアートの持っている杖の石が光り、白き衣を纏う、神々しい姿に変化した。
「エロ爺」
「ラファエロだ!」
「…どうしてここへ?」
スチュアートともとい、ラファエロは体裁取り繕うように咳ばらいをする。
「フェルセルクがここに現れたと情報が入ってな」
「兄さんが?じゃあ、これをやったのは」
クロノスは停止する火柱を見た。
「おそらくな」
「あの…」
「あっ!この方はエロっじゃなくて大天使ラファエロ……様です」
「その間はなんじゃ」
敬称までの微妙な時間に突っ込む。
フェイ達は軽く頭を下げて挨拶をした。
「やはり面白い逸材じゃな、うむ」
ラファエロはフェイをまじまじと見て感嘆し頷く。
「レイファ、この子達について行きなさい」
「はい …ってえぇ〜いきなり何を」
「僕は構いませんが」
「俺もっす」
「私もいいですよ」
「ほら、問題ないようだから行きなさい」
「って君達、いいの?いきなり現れた正体不明…ではないけど、あやしいとは思わないの」
「ん〜あやしいとは思いますけど悪い人には見えないので」
『確かに悪い人ではないんだけど…』
クロノスは考えながらラファエロを見遣り、フェイ達に視線を移す。
『この子達はもう少し他人に対して疑うということを覚えた方が……これは私がついてた方がいいかもしれないな』
「は〜、分かりました」
クロノスはため息をつき、了承する。
「わしはよる所があるでな…そうじゃトールは造っておいたぞ使いなさい」
ラファエロはそうクロノスに言い残し、立ち去った。
『トール?』
「トールってなんっすか?」
「それはね、私達の移動手段よ。天力によって距離は変わるけど瞬間的に異なる場所へと行けるの」
クロノスはトールの場所を感覚で察知するとフェイ達を引き連れてトールのある場所に向かった。
「これがトール?」
レイナが地面にある光が溢れている円形の輪を示す。
「そうよ、さぁ入った入った」
まず最初にクロノスが円の中に入り、三人を招く。
四人全員が円の中に入ると円形の輪が内側へと収縮してそれと共に四人の姿が消えた…。
着いた先はトロッコの分岐点で通れなかった途切れたレールの向こう側だった。
「すごいほんとに別の場所に着いたよ」
「ここは分岐の途切れたレールの先?」
フェイは後ろを見るとそこは崖で向こう側に崩落があった場所が見える。
「こっちに上に登る階段があるっすよ」
「じゃあ、早速行ってみましょう」
クロノスは先陣をきって階段に踏み出す。
「全くそうゆう呑気な所は変わってないの」
「ん?何か言った?」
「いや、何もいっとらん」
四人は上へ続く階段を登って行く。
階段を登りきると大小様々な岩が点在する広い場所に出る。
「なにあれ!?」
「まずいな」
そこには触手の赤いグワールが居た。
そして、フェイ達に気付き複数の触手を素早く伸ばしてきた。
「隠れろ!」
グレネリスが咄嗟に言葉を発すると四人はすぐに岩陰に隠れたが赤い触手は岩を溶解し四人は露になった。
「一旦戻ろう!」
フェイ達四人は登ってきた階段を急いで降りる。
「あれがグワール初めて見たわ」
「どうするんっすか?あれじゃ進めないっすよ」
「痛っ」
「レイナどうした?」
「ちょっと腕をくじいただけ」
「見せてみ」
フェイは傷を見て、鞄の中から水と包帯を出し傷口を水で洗い流してから包帯を巻いた。
「ありがとう」
「うん」
「グワールは怒りに満ちておった」
「何で怒ってたんすか?」
「さぁな、大事な何かを盗られたのかもしらんな」
「大事な何か……!?」
クロノスは何かを思い出した。
「確か天上構文図書の記述にこうあるわ…グワール、翡翠の瞳を護りし魔獣」
「翡翠の瞳?」
「翡翠の瞳についての記述は探したんだけどその本だけ誰かに持ち出されたようなの」
「それが無くてあぁなっているってことは倒して通るしかないか」
「倒すったってあの触手は岩を溶かすほどっすよ」
「それはやってみないと分からないよ」
「どうやら追って来たみたいね」
階段から溶解する音と蠢く音がする。
「グレネリスとっびきり強い炎出せるか?」
「出来るが何をする気じゃ?」
「出来るならいいんだ、合図するからよろしく」
階段から先に触手だけが伸びてきた。
フェイはエレメンタルブレードで触手を切り落とした。切られた触手は蒸発するかのように消滅し、そして、グワールの雄叫びが聞こえる。
「グレネリス」
フェイは階段の正面に立ち、腕輪を構える。
腕輪の朱いオーブから階段に向かって業火の如く大量の炎を放たれる。すると生き物の焼ける臭いがしてきて、階段の上から何か落ちてきた。
「これは教会での」
「あの石じゃな」
フェイは落ちてきた正八面体の石を拾うと光りオーブへ入っていった。
「いまのなんだったの?」
「分からないけどなんだか不思議な力を持っている石だよ」
『今の石はたしか…いえ、まさかね』
クロノスはオーブに消えた石に心当たりがあるように思案する。
「とにかくこれでやっと通れるっすね」
四人は階段を再び上っていくと途中で黒い煤が残っている場所があり、そこを通り過ぎ階段を登りきる。
「全くあっさりと倒してくれちゃって」
「お前は!フェイク」
「やぁ、また会ったね」
「ここで何を!?」
「ちょっとこれをね」
「それは?」
「翡翠の瞳」
突然、フェイの背後からドサッという音がして振り返るとレイナが倒れていた。
「レイナ!?」
フェイは倒れているレイナを抱えた。
「ひどい熱だ。お前レイナに何をした!?」
フェイクに向かって言い放つ。
「何もしてないさ、でもそれは多分グワールの毒だ」
「グワールの毒?」
「あとは自分達で頑張んな」
フェイクは立ち去ろうと振り返った。
「待つっす」
リーシュはボーガンを構える。
「毒のことを知ってることを話すっす」
「いやだと言ったらどうする?」
「撃つ」
「そうですか」
そう言いフェイクは歩き始めた。
「待つっす!」
リーシュはボーガンを放った。
矢はフェイクへ向かって飛んで行くがカードが現れ、カードに突き刺さる。
そのカードは壁のように広がり、フェイクの姿を隠れるまで広がると崩れて地面に散乱した。
カードが崩れた向こうにはもうフェイクの姿はなかった。
「逃がしたっす!」
「それより早くここを出て町へ」
フェイはレイナを背中に担ぎ、フェイとリーシュは奥へ進んだ。
クロノスは二人の後に続くとカードの散乱した場所を通る時、何かに気付いた。
「これって…」
一枚のカードを拾い上げて懐に仕舞う。そして、フェイ達は外へ出た。




