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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
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8・鎧狼再び

「うわ!、鎧狼だ…!」


 子供たちはすぐに騒然となった。


「みんな慌てるな。荷物を盾にして集まれ、絶対にバラけるなよ」


 子供たちは浮わついた気分から一転、すぐに怯えて免悟の後ろに回った。


 ええい、服を掴むな、動けねーだろ!。


 免悟は子供の手を払って前に出る。鎧狼の数は5匹。結構ヤバい?。

 鎧狼はこっちが気付いた事に気にする様子もなく悠々とやって来る。数的には圧倒的にこっちが多いのに襲う気満々だ。


 なんだよ、その索敵には戦力分析能力も備わっているのか?。的確な状況判断だよまったくもう!。


 鎧狼は前回の免悟の時と同様に、近くまで来ると散開した。逃がさないようにするためだ。つまり戦力を分散させる事を気にもしていない、完全な獲物としか見られていないのだ。まあその通りなんだけど。


 だーがしかし、免悟だって当然用意はしている。免悟は肩に掛けていたクロスボウに矢をセットした。

 昨日の内に街の装備屋で買っておいたのだ。テコで弦を引き上げ、引き金を引くと矢が発射されるやつ。


 クロスボウは小型だが精巧な出来で、10万Gだったが迷わず買った。普通の弓矢は面倒臭そうだったのでクロスボウが良かったのだ。

 魔力を使わない飛び道具で、あらかじめ矢をセットしておけば後は射つだけ。とりあえず【浮遊術】を多用しそうなので、店にある中で一番相性が良さそうな武器がこのクロスボウだったのだ。


 散らばった鎧狼は完全に包囲網を形成すると、順次隙を見つけて襲いかかって来た。


 免悟は右手にクロスボウを持ち、左掌に光弾の発動エフェクトを煌めかせて迎え撃った。

 鎧狼は免悟の魔法発動に一瞬反応を見せたが、特に今さら行動に変化は無かった。

 免悟は光弾を詠唱させながら、ギリギリまで引き付けてからクロスボウの矢を放つ。そして連続して【光弾】も発射。


 タイミングを合わせた鎧狼たちの襲撃に、免悟のW矢が交錯する。


 クロスボウには手応えあった。耳の端で狼の短い叫び声を捉える。しかし光弾の方はそれらしき反応なく、おそらく外れた。

 免悟は素早くクロスボウを放り出すと、再度【光弾】を詠唱しながら剣を抜く。


 二匹の鎧狼が免悟の背後、子供たちの塊へと飛んで行くのが見えた。免悟から見えない向こう側へと。


 子供たちの輪が崩れて悲鳴が弾けた。


 免悟が駆け寄ると、目の前で鎧狼の一匹が子供の一人に喰らい付き振り回す姿が見えた。

 免悟は即座に発動可能な光弾を至近距離で撃った。鎧狼も激しく動いているので子供に当たる可能性もあったが、この距離なら確実に致命傷だ。ここで仕留めるのと、逃がすのとでは天地の差がある。

 そして免悟は迷わず撃ったら即後ろを振り向いた。予想通り免悟に背後から近付く鎧狼がいたのだ。


 免悟は慌てて剣を突き出した。もちろん光弾は撃ち終えるやすぐさま再詠唱を開始している。

 免悟の背後に忍び寄った鎧狼は、すぐ反応して免悟の剣は届かなかった。だが足止めにはなった。しかしその代わり別の狼が子供に襲い掛かる。


 くそ、完全に免悟を牽制しつつ、弱い所から崩しにかかっている…。


 免悟が襲われた子供の方へ回り込もうとすると、すぐにその隙を突いて別の狼が寄って来る。結局どうしても後手に回ってしまうのだ。ただ結構荷物が多いので、それを盾に子供たちがバラけないのがまだ救いだ。


 ああっ、めんどくせえっ!!。


 免悟は多重発動を承知で【浮遊術】を唱えた。


 発動可能になった光弾で鎧狼を追い払うと、また光弾の再詠唱を行いながら、その間に発動可能になった浮遊術で子供たちの真上に浮き立った。


 これなら裏に回られる事はないし良く見える。子供には悪いが、時間を掛けてでもじっくり狙い撃ってやる!。


 だが、免悟が宙に浮くと狼たちの足は止まった。光弾の有効範囲内に近寄って来なくなったのだ。


 モンスターと言えど鎧狼とて普通の生態をもつ動物だ。別に血に狂った怪物ではなく、食事のために獲物を襲うだけだ。むしろ彼らもハンターであり、あえて強い敵に戦いを挑もうなどと言う気はさらさら無い。手を出してみて手強ければ無理する必要はないのだ。

 とは言うものの、狼たちはすぐに逃げる訳ではなく、遠巻きにして隙を伺っていた。まだ獲物に未練があったのだろう。


 だがそれは免悟にとっては不都合な話だ。中途半端な行動を取られるのが一番迷惑なのだ。

  【浮遊術】を解けばまたすぐ襲いかかって来るかもしれないし、かと言ってこのまま浮き続けるのもまたつらい。


 とりあえず免悟は一番手前の鎧狼に向けて、待機時間一杯まで保持した光弾を撃って遠ざけた。

 大抵の呪文は自動詠唱を終え発動完了となると、そのままの状態で保持できる時間が存在する。光弾の場合そのキープ時間を過ぎると勝手に矢を発射してしまう。キャンセル機能がないのだ。

 狙われた鎧狼は一瞬だけ警戒して遠ざかるが、また元の位置に戻ってしまう。


 逃げるか襲うかどっちかにしろよ!。


 このままじゃジリ貧な免悟は、子供の一人に言ってクロスボウを拾わせた。

 冷静になって数えてみると、いつの間にか鎧狼は三匹しかいなかった。一匹だけ子供たちの足元に死体で転がっているので、もう一匹は逃げたのだろう。


 免悟は手を伸ばしてクロスボウを受けとると、矢をセットして地面に降りた。浮遊術自体はまだ発動したままだ。


 さあこれでどうだ?。もし襲いかかって来ても、すぐに浮いて迎撃だ。


 しかし鎧狼は免悟の誘いを看破したのか、しばらく思案げにうろついた後あっさり退却した。

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