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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
62/64

62・そして僕らは途方に暮れる

 転移した魔童連盟の一同は、複数あるサブ拠点の一つに現れた。そこは森迷宮の中心目指して移動途中に築いた、かつての拠点の一つであった。


 覇王樹アヴァンダルの真下に一大拠点を手にした後も、避難用として複数の隠れ家をキープしていたのだ。転移門で繋げば一瞬で行き来出来るので維持も簡単だ。


 そんな拠点の一つに転移した魔童連盟は、とりあえず即座にテラリスに対する迎撃体勢を敷いた。

 正直みんな疲れてはいたがこれを怠る訳にはいかない。今すぐにでもテラリスが転移門から部隊を送り込んで来るかも知れないからだ。


 ま、実際は来ないのだがそこまでは知るよしもない。


 とは言え両軍共に死力を尽くした末での事だ。ほぼ無尽蔵の魔力貯蔵タンクを誇るダンジョンマスター・エダルでさえ大転移の消費で魔力切れに近い状態。

 なのでテラリスが来るとしても少数精鋭の無謀な特攻くらいであろうとエルドウィンは推測していた。


 そして大転移門はなんの問題もなく閉鎖された。ただひたすら待つだけのその一時間弱は魔童連盟にとって嫌になるくらい長く感じられたと言う。


 ちなみにその間に免悟とシントーヤ、気獣の殿軍組が、別の場所に設置された転移門から普通の「空間転移」で帰って来た。

 間違って攻撃を食らわない様に通信魔法で事前連絡済みだ。

 一応心配していたらしく、帰って来たシントーヤにネビエラが飛びついて行った。


 転移門を閉鎖してようやく一同は休憩を取った。そしてその後、気獣を周辺の哨戒に出して初めて一同はこの拠点が見張られている事に気付く。


「マッジか?、うぜーな。たぶんビブリットの探索者だろうけど…」


 気獣によると、総勢十数名の団体がこの拠点を見張っているらしい。恐らくはこの森迷宮に数多く潜っている無所属の探索者パーティーだと思われた。

 さすがにテラリスの別動隊にピンポイントで動きを捕捉されていたのならとっくに本隊と連係して動いている筈だ。なので現時点ではこの拠点を見張る一団にそれほどの脅威はない筈。


 だが迷宮核とダンジョンマスターは何かとお金になる。続々とこの森迷宮に乗り込んで来る大国はダンマスの位置情報だけでも大金を支払う用意がある事をすでに公言している。

 よって、今この森迷宮に潜むほとんどの探索者はダンマス・エダルを追いかけていると言っても過言ではなかった。


 そんな状況だから、誰のものとも知れない怪しい拠点を見張ってる奴がいても不思議ではない。下手すれば他の隠れ家に見張りが付いてる可能性も大いにありうるのだ。

 そして今の所大した脅威ではなくともこいつらがいずれ更なる脅威を呼ぶのは間違いなかった。


 なので、


「なんかムシャクシャするからこいつらぶっ潰そうぜ?」



「「「賛成〜」」」



 エルドウィンが雑な殺意を漂わせると、なんかすぐに子供らも乗っかって来た。(う〜〜ん、なんだろこれ…)免


 テラリス部隊の圧倒的なプレッシャーから解き放たれたせいか、メンバーは皆妙に気分が弛んでいるみたいだ。

 と言っても実際あのテラリス部隊と比べたら、そこら辺にたむろする探索者パーティーなんか泥まみれのジャガイモみたいなもんだしな(意味不明)。


 それにこの拠点を見張る一団は、どうやら続々と人員を増やしつつあった。恐らく単なる監視だけでなく、人数を揃えたら襲撃を仕掛けて来そうな様子だ。それなら早めに潰しておくに限るか。


 ちなみにこちらが見張りに気付いた事はまだ相手には悟られてないっぽい。と言うのも、気獣は高感度センサーで敵を感知するや否や、すぐに報告に帰って来たのだ。ん?、どうしたんだろ…、なんかスゴいきっちり仕事するね?。


 ふふふ、と言うのも気獣のリーダー・グリドラは例の失態以降心を入れ替えたのであった。


 子供みたいに遊び気分でいられる時期はとっくに終わったのだ。感情の赴くまま好き勝手動いていてはあるじの役には立てないし、誉めても貰えないと言う事に気付いたのである。


 なのでグリドラは食事制限に苦悩するダイエッターのように甘い誘惑と戦った。冷静に考えてみれば、気獣にとって主のお褒めの言葉以上に重要なものなど何一つ無いのは揺るぎない事実だ。

 グリドラは己のユルい行動規範を改め、精神的な更なる成長レベルアップを遂げたのだった。そしてそれにより仲間たちを強いリーダーシップで制御する事が可能になったのである。


 グリドラのスキル「りーだーしっぷ」がLv2にUPしました。(想像)


 当初はリーダーをウザがっていた気獣らも、最終的にはエダルに誉められる回数が増えて結果オーライw。さっすがリーダーや!。(グリドラどや顔)



 そんな訳で魔童連盟はさっそく庭掃除に動き始めた。


 それじゃあサクッと殺りますか!。


 免悟たちは失われたメンバーの喪失感を頭から振り払うかのように行動を起こした。


 まずエダルが超攻撃型(大)魔法「暴走超過オーバーラン」の詠唱を始めた。

 虹色オーラのエフェクトが隠れ家を突き抜けて立ち昇り、うねるような機械的脈動音が周囲に轟く。


 大魔法なだけあってこの詠唱エフェクトはかなり分かり易くヤバい。しかも詠唱時間が長いので、その間に何らかの対策を取るのは簡単だ。

 だから、これが脅しになって素直に逃げてくれるのならばそれはそれで良かったのだ。ちょっと寂しい気はするけど。


 だがそんな警告メッセージはその探索者集団に伝わらなかったようだ。


 一応ちらほらと逃げ出す探索者もいたのだがその決断は遅すぎた。大抵の奴等は欲に目が眩んで判断が鈍ったのか、大した用意も出来ずに慌てふためくだけだった。



「GO!!!」



 準強化クラスの全体効果が1分弱続く蹂躙魔法が発動した。


 魔童連盟のメンバーは一斉に拠点を飛び出し探索者たちに襲いかかった。ほんの直前に逃げた探索者も、倍速化した気獣にすぐさま追い付かれ、無防備な背後を攻撃されて死んだ。


 結局中途半端な対応しか取れなかった探索者一団は、為すがままに一方的な攻撃を食らって全滅した。

 多少の抵抗はしたものの、大魔法「暴走超過」のステータス嵩上げが為された集団に素で対抗できる訳もない。


 ま、こんな大味な大魔法で簡単にハメられちゃう輩なんてタカが知れてるけどね。


 その後、一応息のあった者を尋問したが、やはり普通の探索者である以上の情報は取れなかった。なので全員始末してこの場を後にした。


 行く先はまた別の拠点だ。


 そこは大転移門ではなく、標準サイズの転移門しかない一番ショボい拠点だ。そこが最も人目に付きにくい所だったからだ。


 とりあえず今は誰からの追跡も振り切っておきたい。みんなしばらくはそっとしておいて欲しい心境だったのだ。


 そして幸いその拠点に見張りはいなかった。なので一先ず気獣を索敵代わりに放し飼いにして、それぞれ休憩時間とした。つっても部屋数が少ないので雑魚寝みたいなものだったが…。


 と、そこへ免悟に魔法通信が入った。


『おお、無事だったか!』


 地上にいるデヒムスからだ。

 どうやら追加の戦闘奴隷の目処がついたらしい。ついでにデヒムス自身も転移魔法で迷宮にやって来た。とりあえず5人の戦闘奴隷を引き連れて現れ、拠点はさらに狭くなった…。


 正直言うと全く戦闘に向いてないデヒムスは、地上で物資の調達さえやっててくれればそれで良いのだが、地上は地上で問題が発生したようだ。


「おう、わざわざ迷宮に下りて来てどったの?」


「いや、ダンジョンマスターの協力者探しが始まったみたいでな、もうビブリットには居られねえんだわ…」


 デヒムスは自身の一族が経営する商会を使って物資の売買を行っていたのだが、ダンジョンマスターが森迷宮産品をこっそり流すルートを辿ろうとする動きが現れたらしい。(実際かなり流してる)


 デヒムスの一族、バンナルク商会自体は単なる善意の仲介業者と言う言い訳も通用するが、ダンマス集団の内情を詳しく知ってるデヒムスが身バレするのは非常にマズい。当分の間ビブリットでは活動しない方がいい、となったのだ。


「あー、そっちもか…」


「チッ!(最悪だな)」


 図らずもメンバー勢揃いとなった拠点の一室に、どんよりとした雰囲気が流れ出す。


 デヒムスおじさんがお土産持って来たと思ってみんな集まって来たのに、不吉な情報しか無いってタイミング悪すぎ。


 うっわ、なんかやだな、このシケた空気…。


 しかし現実的に状況はかなり厳しい。テラリスとの初戦はなんとか乗り越えたものの、あくまでこれは最初の一戦に過ぎない。しかもこれからは各国の部隊が、時に連繋しながらダンマス包囲網を敷いて来るだろう。

 もちろん基本各国は互いを牽制し合って足を引っ張り合うんだが、残念ながら免悟たちにそれを助長出来る政治力や謀略は無い。


 無いんだよね……。


 無いってのにここからは国家との交渉も選択肢の一つとして視野に入れなければならないのだ。


 そう、はっきり言ってこの先、魔童連盟が単独で生き残れる要素はほぼ無い。


 だいたいこの戦いは、さっき拠点周辺をウロついていた探索者みたいに、あくまで普通のパーティー単位で攻めて来るのが前提だったのだ。

 つーかテラリスめ!、あんな非常識な部隊編成を先にやられたら、他の国もそれに合わせた対応するしかないだろ?。こんな狭い迷宮を戦禍の渦に巻き込みやがって、迷宮潰す気か!。


 結果、虎の子の一大拠点はあっさり陥落するし。こうなったら何処かの勢力と手を組んで協力し合うしか道はない。しかもそれは良くて対等な関係、下手すりゃ足元見られちゃうだろう。

 何しろこちらが提示出来るカードと言えばダンマスだけだ。つまる所エダルの自由をどれだけ切り売りするか、そんな胸糞悪い交渉しか出来ないのだ。


 そう伝えればきっとエダルは黙ってその選択を受け入れるだろう。そして恐らくエダルは誰も恨んだりはしない。あいつはそう言う奴だ。


 だがそれじゃあダメだ!。


 そもそもこれは免悟、ひいては魔童連盟全員の認識の甘さが問題なのだ。迷宮核とスキル「魔核連繋」があれば大抵の事は出来る、そんな安易な考えでエダルを担ぎ出したのだ。

 もし果たすべき返済義務があると言うのなら、免悟を含めた全員が支払うべきなのだ。


 それにもっと言うと、免悟はエダルのその聖人臭い寛容さが我慢ならなかった!。(←はあ?)


 エダルごときが上から目線で人の罪を赦す、なんてのに甘んじるのは俺のプライドが許さんのだ!。


(あーのーねぇ、エダルを見捨てる気が無いのはみんな同じだけどさ、なんか考え過ぎじゃないですか免悟さん?)カル


(うんにゃ、これがヤンデレって奴だよ。限りなく精神病んでるってだけですぐにデレるんだよ、ね?)フェイ


(違うわっ!!!)免


(武士に情けは無用…か、分からんでもないぜ!)エルド


((((↑ここにも新たなバカが…?!))))


 つーかバカやってる暇はあまり無いんですが。



「…そんな事よりどうするよリーダー、これから…」


「うん、せっかくこうして皆揃ったんだ、落ち着いてこれからの事を話し合おう」


 デヒムスとシントーヤがつい横道に逸れようとするストーリーの修正に入った。ネビエラも「そうだそうだ!」と分かりもしないでそれに乗っかって来るし…。


 ふーー、しょうがねえ。


 仕方なく促され、免悟が前に進み出た。いつになく神妙な面持ちだ。


 免悟がそこであえて無言の溜めを作り、次の発言へと注目させる。

 皆がイラッと来る、何様のつもりですか?。



「ヘイ諸君、ぶっちゃけて言おう手詰まりであると!。

 そんな訳で、誰か良いアイデアを我輩は待っている。我は現状を打開出来るナイスアイデアを待ち望んでいるのだ!」



 バァァァァァァァァアン!、みたいな効果音を(勝手に)想像して免悟が両手を広げる。



 だが、シーーーーーーン、だ。


 そらそーだろ……。



 ここに来て軽くキャラ崩壊しつつある免悟だが、実は結構焦っていた。しかしリーダーが弱音を吐く訳にはいかない。結果、ちょっとした余裕の気持ちを表してみたかっただけなのだが楽勝でスベってしまったようだ。


 なん…、だと?。


 だが免悟は諦めなかった。


 くっ、スベったのは仕方がない、だって過去は覆らないしね。ただ問題はそのフォローだ。だから免悟は貫き通した、その覚悟を見よ!。


 免悟は、のだ!、的な感じで振り下ろした拳を再度振り上げた!。



 のだ!!!。(ム、反応が無いだと?!)


 のだ…!。(ええい、まだまだァ!)


 の、のだ…?。(う、う〜ん無理?)



「しつこいっ!!!」

「意味分からんし!」

「もっと真面目にやれっ!」

「お前のそう言う所が俺は嫌いだ!」(←ついに皮剥ぎ団参入)


 結果、免悟蹴られて転がる。



「エルドウィンなんか無い?!」


 カルが馬鹿は無視してエルドウィンに話を振る。けっこうムチャ振りかも。


「お、俺か?!

 …いやまあ戦闘でどうにか出来る余地はほぼ無いな。大将の首取ったら一発逆転出来る様な状況でもないし。

 一番可能性があるのは他組織との共闘だが、この状況では交渉の場に付くだけでも必死だぜ」


「他の迷宮に行くのは?」


「ちょっと無理だ。追っ手をかわしながらの迷宮攻略はキツい。それに知らない迷宮で右往左往するくらいならここで粘る方がまだましだな」


 エダルのスキル「魔核連繋」さえ無ければ全部捨てて、一からやり直し〜と言う事も可能なのだがこればかりは今さら何ともならない。

 そして今の所はまだ冗談もやってられるが、いずれジリ貧に追い込まれるだろう事は想像に難くない。


 メンバーたちが力ない議論を交わす側で、免悟もまた蹴られたままぐったり横たわっていた。そしてそこからこっそり覗き見ると、エダルが責任感じて泣きそうな顔でメンバーの議論を眺めている。


 あーーダメだ。

 完全に手詰まりだ。


 結局はエダルを今見捨てるか、ボロボロになって戦い続けた末にエダルを奪われるか、と言う救われない未来しか思い浮かばない。


 免悟は本当にエダルを見捨てる、と言う事実に柄にもなく愕然とした。まさかそんなのが最善策だなんて…。


 マジか?。

 マジでエダルを大国のおもちゃとして差し出すのか?。


 だが、どのみちそうなるのなら早い内に見切りを付けるべきだろう。先送りしたって無駄に損失を拡大させるだけだし。リーダーとしては組織全体の損益を勘案しなきゃならん…。


 …って待て、そんな事誰だって考えるだろ。それこそモブキャラAだって思い付くわ!。

 でも俺は主人公だぜ?!、こんなのイケメン主人公の取る策じゃない!。もっとカックイイ男前なやり方がある筈だ、良く考えろ?!。

 それに時間はまだそれほど切迫してる訳じゃない、今ならまだ間に合う、考えるんだ!。



 行け!、ほとばしれ俺の脳細胞!!!。



 しばらくして議論を出し尽くしたメンバーたちは、大したアイデアなど見当たらないと言う結論に終着した。そして何となく端っこに転がる免悟を振り返る。

 近くにいた子供の一人が気を利かせて、うつ伏せに転がる免悟を裏返した。足でゴロリと。


「グゥ………」


「寝てんのかいっ!」


 子供マールの鋭い爪先が免悟の脇腹に突き刺さるw。ぐえっ!。


「冗談だよ!、起きてるって!」


「ほんと?、じゃあ何かいい策でも思いついた?」



「………………………………………………………………。

 うん、なんも思い付かねえわ…」



 いくら現実がいい加減とは言え、いざ動かそうとしてもそう簡単にびくともしないのがリアルの嫌らしい所だ。ましてや白を黒にひっくり返そうと言うのだ、人の理を超えてまず神にでもなれと言うに等しい。


 つまり免悟の脳細胞、役に立たず!。

 まあそれほどアテにはされてないんだけどねw。


 ただ皆ここで考える事を止めた。もうこれ以上考えたって無駄なのだ。


 狭い拠点の一室に、沈黙が重くのし掛かる。

 メンバーの無言がさらに静寂を濃くさせた。


 と、その時、



「それでは免悟様、ここでリタイアされると言う事でよろしいのですね?」



 その時、魔王雛イルフェンネスの漆黒の無感情な声が部屋中にこだました。







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