61・幻想皇帝と異世界創造
ちょっとここで閑話です。
それとどうやらあと数話で最終回っぽいです。
「幻想皇帝」、それは魔法世界エグゼリンドにおける唯一にして絶対の創造神である。
神である幻想皇帝はある日こう考えたと言う。
「自分好みの世界を一から作ろう!、それって楽しくない?」と。
「ついでに魔法も付けとこう!、超わくわくしねぇ?」と。
これがとてつもなく軽い天地創造の始まりであったと言う。
そんな訳で幻想皇帝はサクっと新たな次元を切り開くと惑星を一つ形成し、生物が生活出来る環境を作り上げた。
幻想皇帝はまず最初に自らの手足となって動く下僕、のちに天使と呼ばれる種族を作った。
そして惑星全土にバラ撒かれた魔法因子が定着して魔法インフラが整った頃、義務教育を終了した天使に向かって皇帝は号令を発した。
「さあ魔法世界を構築せよ!」と。
いきなりの丸投げである。
だが天使たちは嬉々としてそれに従った。
彼、彼女らにとって幻想皇帝とは生きる意味そのもの。幻想皇帝の為に生き、幻想皇帝の求めに応じて死ぬ。それが唯一最高の喜びであるのだから。
ただ幻想皇帝自身としては、そのあまりの忠犬っぷりにちょっと引いちゃったのは内緒である。
かくして地上には生物が溢れ魔法が飛び交った。
魔法世界エグゼリンドの始まりだ。
様々な種族が生み出され、様々な魔法が開発され、様々なスキルが考え出された。
そしてエグゼリンドはモンスターと魔法のパラダイスとなった。
当初は幻想皇帝もノリノリだったと言う。事件や試練を世界各地にバラ撒き、魔法ファンタジーの世界を演出しまくっていたのだ。
一例を出すと、どこかの国主が幻想皇帝の出した超難問を解決した際、褒美に亡き愛娘を死から生き返らせたと言う話があるくらいだ。
しかし幻想皇帝の思惑とは異なり、エグゼリンドのパラダイス感は無残にも打ち砕かれてしまう。
魔法と言う便利で強力なギミックはDQNに無料で銃を配るのと同義であった。だんだん筋肉中心のマッドマックス的な光景が多々見掛けられるようになって行ったのだ。
こうして世界に世紀末な風潮や外道行為が溢れ返るようになったのであった。ああ無情…。
だがさすがは神、それくらいで頭を抱えて嘆いたりはしなかった。確かに「このクズが…(イラッ)」とは思った。が、そこはクールに受け止めたと言う。
事実幻想皇帝も、まあそんな事もあるだろうと冷静だった。物事が自分の思い通りにならないのはこの世の常である。
ただし…、
幻想皇帝のヤル気は失せました。
現実を受け入れる事は可能だが、厳しい現実を目の当たりにして、尚且つポジティブな気持ちでいられるか?と言えばそれは無理無理無理!だ。(なに?そのテンション…)
実際にエグゼリンドの魔法環境は、幻想皇帝が思い描いたのと予想外の方向に突き進みつつあった。
それに幻想皇帝は「神」と名乗るものの元はただの人間だ(!)。あくまで人と比べて全能に近いと言うだけで、絶対的な真の「神」ってタイプではなかった。結構ペラい感じの神だ。
なので無理なものは無理、嫌いなものは食べ残すし、雨が降ったらお休みするのだ!。(どこの大王だよ…)
そんな訳で天地開闢からおよそ半世紀。その間精力的に活動して来た幻想皇帝の姿は、ある時期からパタリと消えた。
心ある人間は、神が人類の無法な振る舞いに呆れ、関わる事を止めたのだと嘆いた。
とは言え幻想皇帝はそれまでにも無法者には呪いを、賢明で勇気ある者には祝福を与えたりしていた。だがそれはあくまで世界の住人の自助努力を促すレベルのそれとない導きだった。
いくらなんでも自ら手を突っ込んで直接介入すると言うのはあまりにもカッコ悪すぎる。それでは神じゃなく為政者だ。(皇帝と名乗ってはいるけど)
神ともあろう者が単なる君主のごとき振る舞いをするのは明らかに存在価値を低下させる行為。神には神にふさわしい振る舞いと言うのが存在する!。そう神は嘯いたと言う。
だが結果的にそんなつまらないプライドのせいで幻想皇帝は自縄自縛に陥り行き詰まった。
まあ過大な期待と自信満々で始めてはみたものの大した結果も付いて来ないとなれば、続ける意義も見失ってエタってしまう気持ちは凄く良く分かる。(な、なんの話ですか?!)
とまあ神の心境に一体どんな葛藤があったのか詳しくは定かで無い。だが結果的に幻想皇帝はエグゼリンド(下界)での活動を停止してしまったのであった。
そしてそれに変わって活動を活発化させたのが神に仕える天使たちだ。
彼らは管理者と呼ばれ、エグゼリンドの民から最も畏れ敬われていた。それは彼らが無慈悲で容赦ない裁定者であるからだ。
彼ら天使は幻想皇帝と比べるとエグゼリンドの生物に対する慈悲心が物凄く薄かった。少なくともエグゼリンドの人族が思うに、幻想皇帝が気遣ってくれたような配慮、と言うか躊躇い的なものは一切感じられなかったと言う。
ところでそんな天使が管理する魔法システムだが、動き始めてから100年くらいの初期の魔法環境は「混沌期」と言い表される様にバランスに欠けるカオス状態であった。
そして中にはそんなシステムの混乱を利用して好き勝手する輩が存在した。
システムのバグや抜け道を使えるだけ使ってさらに混乱を助長するような無法者たちだ。
それでもシステムの不備は管理者自身のミスなので、幻想皇帝は「………(カスが)」と思いつつも不備の修正だけに留まっていた。
しかし天使たちは違った。
バグや抜け道をさらに魔改造して荒らしまくった世紀末覇者たちは無警告で処分された。それはもう有無も言わせず問答無用だ。
まあ処分される奴は誰がどう見てもやり過ぎたアナーキー共なのだが、それにしても天使たちは冤罪を恐れる素振りすらなく即断罪だったと言う。
さすがにそれには無法万歳なヒャッハー野郎もマジで震え上がった。
(う、運営超コエー…)
今でこそ魔法環境は整備され、高度にバランスが取れているおかげで管理者の介入は殆んど無くなったが、かつてはかなり大掛かりな天使による直接介入がいくつも存在したと言う。
そしてそんな天使たちが最も力を入れて取り締まったのが幻想皇帝に対する批判や中傷だ。
天使は幻想皇帝に対する無礼を一切許さなかった!。
と言っても天使たちはエグゼリンドの大地ではなく「天界」と呼ばれる特殊空間で管理を行っているので、ちょっとした悪口や愚痴情報まで拾う事はさすがに出来ない。だが監視システムが拾える一定以上の情報は、漏らさず精査して厳格な処罰が為された。
つまり街規模以上の公式発言や、ある程度広まってしまった噂の発信者は確実に処罰されたのだ。
天使に知られたら即、死だ。もう迷う事無く即殺!。
ある日突然罪人のいた半径数メートルは轟音と共に無惨なクレーターに早変わりしたと言う。そしてその中心には元罪人であろう炭化した燃えカスが燻っていた。クズのカスが…、いや南無南無…。
つーかヤベーよ!、天使ヤベー!。
そして、それは幻想皇帝も思ったらしい。
ちょ、ちょっと待ってよ!、さすがに悪口くらいで即殺すのはやり過ぎなんじゃない?。
そんなやり取りが天使と幻想皇帝の間にあったとかなかったとか…。(どっちだよ?)
いや、あったから即殺パターンはとりあえず無くなった。
そしてこれを知った人々は幻想皇帝の慈悲深さを声高に讃えたと言う。
ふむ……、天使の思惑通りですね、キリッ!。(←嘘つけ!)
そんな訳で、一言では言い表せない紆余曲折が色々ありました。色々な試行錯誤があって今のエグゼリンドが存在しているのです。決して幻想皇帝一人が全てを作り上げた訳ではありません。
そこには天使たちの苦労と苛烈な実行力。
さらにあらゆる生物の絶え間ないサバイバル。
そして無法者たちの無惨な死屍累々w。そんな生々しい過去の積み重ねで魔法世界エグゼリンドは成り立っているのだ。
そう、リアルとは綺麗事だけでは収まらない。魔法世界創造と言うファンタジックな響きの裏には汗臭いヒューマンドラマ(?)が隠されていたのであった。
だが!。
でもそれじゃあただの現実世界だ。夢や幻想などありゃしない単なる素のリアルワールドだ。
そんなものの為に幻想皇帝はわざわざ一から世界を構築した訳じゃない!。幻想皇帝はパラダイスを作りたかったのだ。テーマパークのような夢の楽園を。
もちろんそんな夢の理想世界が簡単に作れるとは思ってもみないが、動き出さなきゃ何も始まらない。勇気を持って一歩踏み出さなきゃ物語はスタートしないのだ!。ま、道半ばにしてあっさり行き詰まったんだけどねw。
そこで皇帝は考えた。うーーむ…。
この道キツすぎるんじゃねえか?、と。
そう、神がヘタレなんじゃなくて行く道を間違ったのではなかろうか?、と。
神である幻想皇帝の手を離れてしまった魔法世界エグゼリンドに、これ以上固執する必要があるだろうか?。
ぶっちゃけ行き詰まったから諦めて別の新たな世界を作り直した方が良くないだろうか?。
うん、絶対その方がいい、絶対そうすべきだ!。
そして神は新たな可能性の模索を開始した。