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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
59/64

59・拠点攻略戦5


 シントーヤが本陣に帰投すると、ここぞとばかりにテラリスが押し寄せて来た。うわぁぁぁ、ちょっと待て!。


 気獣と子供らを指揮して必死に防戦する免悟。しばらくしてようやくエルドウィンが皮剥ぎ団を連れて帰って来た。やはり皮剥ぎ団も結構数を減らしている。


 よし、さっそくシントーヤ再投入!。と思ったら…?。



「よおっっしゃあああ、獄滅龍破通ったあ〜!。みんな退けえぇい、ブチかましてやるぅっ!」



 何故かネビエラが腕をブンブン振り回して奇声を上げていた。


 おお、獄滅龍破がカウンターされなかったのか。


 さっそくテラリスではクニオによるカウンター失敗の報告を受けて大魔法攻撃の注意報が発令された。

 カウンターに頼り過ぎると失敗した時どうしようもない。ぶっちゃけ自力でなんとかせよ!、て感じだ(クニオ土下座えもんorz)。大して時間も無いし。


 大魔法来たるって言っても前回カウンターしてしまったので、一体どんな効果なのかは詳しく分かっちゃいない。

 とりあえず右翼左翼の前衛はなるべく散らばって全滅回避だ。そして機動力の無い本隊はなんとか防壁を用意した。


 そんなクソ忙しい中でただ一人、この現実を受け入れられずに頭を抱える者が…。


 それはもちろん魔法班のリーダーにしてカウンター使いのクニオその人だ。


 あああああ!、あたしが学校卒業してから4年間続いた連続カウンター成功記録が…!。ま、まさかこんな相手にしてやられるとは…。


 一度カウンター出来れば解体コードは判明してる、タイミングさえ合わせれば一人でもカウンターは可能だ。それを一応二人でカウンター体勢を整えていたと言うのに…。


 だが、どう言う訳か敵は予想以上の詠唱スピードで大魔法を完成させてしまったのであった。


 クニオも実はすっかり他の事に気を取られていて、すでに完封済みのカウンター作業よりも味方のサポートの方を重視していたのだ。


 今思えば、確かにエフェクトのサイズも前回と比べると少し小さめで、なんだかおかしな雰囲気はあった。正直ちょっと舐めてたって気が無くもないし。はぁ、やっちゃった…。

 とは言え規模的には準大魔法級の気配がするわりに詠唱は速すぎるし。なんだかこいつらイレギュラー過ぎて訳が分からない。もうやだ……。


 クニオにとっては【獄滅龍破】自体初めて見る魔法だったし、【縮尺】なんてのが実戦で使われる所に出くわすのも初めてだったのだ。まあ言い訳だが。


 一方やらせた免悟も獄滅龍破の成功確率は低いと考えていた。成功するにしても相手のミスありきだし。

 それにあまり役に立たないネビエラを遊ばせておくより少しでも敵が迷惑がってくれたらめっけもの、そんな考えだったのだ。



「うっるぁあああぁぁ!、死ねやテラリスぅッ!!!」



 少し小さめの球形魔法陣から例の黒龍が鎌首をもたげて狙いを定める。


 凶々しい金切り声を響かせて黒い雷撃が迸った。


 黒龍は一瞬にしてテラリス本隊を薙ぎ払うと、次の瞬間には大広間の天井にぶち当たっていた。


 ?。


 爆音と衝撃波を撒き散らしながら天井を突き破った黒龍は、不気味な破壊音だけ残して消え失せた。


 あ?、どうなった?。


 黒龍にぶっ飛ばされてあちこちに転がったテラリス兵共が呆然と見上げる。


 相変わらずコストと規模の割りにはあっさり終わる大魔法だ…。


 なんだかあっと言う間に脅威は過ぎ去った。かに思えたが、なーんとも言えない無言の静寂が横たわる大広間。そのでこぼこの地面に緑色のシミ(×∞)が拡がりつつあった。


 しまった、覇王樹アヴァンダルの守護者が現れる!。


 今しがたの大魔法が、どちらかと言えばテラリスへの攻撃ではなく覇王樹の守護者を呼ぶ為だった事にテラリスは気づいた。


 そもそも獄滅龍破は、対象が小さくてバラけた相手には効果が薄い。と言っても人からしたら大惨事なのだが、魔法効果的には人間なぞ軽すぎてすぐふっ飛んでしまうので肝心のダメージが伝わりにくいのだ。(獄滅龍破の想定している仮想敵のサイズは大蛇龍クラスだろうと思われる。ムチャだよそれ…)

 なので事前に獄滅龍破で覇王樹を攻撃し、守護者の呼び水に使う事を決めていたのだった。


 つー訳で現在大広間には無数の守護者、緑色の生物クリーチャーが湧き始めていた。しかもランダム発生なので部隊の間からも平気でポコポコ現れる。


 黒龍に防壁ごと弾き飛ばされたセティカ本隊は慌てて部隊を集合させた。だが魔童連盟のメンバーはいつの間にかその大半が姿を消していた。今いるのは免悟と気獣のいわゆる飛行系部隊のみ。


 そして満を持しての再登場、狂兵シントーヤ様だ!。


 シントーヤは魔童連盟のメンバーが撤退するのと入れ替わりに【狂化】を発動して現れた。

 いつの間にかほとんどの壁ゴーレムが破壊され、代わりに【縛鎖草】が剥き出しで広がる草原地帯に一人仁王立ちだ。


 【縛鎖草】はシントーヤ自ら選んで買い求めた中魔法だった。半透明の触手(一応植物系)が近寄る全てに絡み付き、行動を阻害する。

 特筆すべきは縛鎖草がある程度の妨害能力しか持っていないと言う点だ。普通の人間にとっては結構機動力を削られるのだが、もっとパワーのある馬くらいの生き物なら簡単に引きちぎって力ずくで動けてしまうのだ。


 つまり狂化中のシントーヤにとって縛鎖草はなんのデメリットも存在しないただの草って訳なのだ。


 まあ多種多様な魔法が産み出される過程で、バリエーションを付ける為に使いにくい代償効果が魔法に付与される事は良くある事。

 そしてシントーヤの様な一般的な基準から逸脱した特殊個体が、そんな誰得魔法に親和性を見出だしてコラボしちゃうのもそう不自然な訳でもない。


 ちなみにそう言う癖のある魔法は需要も少ないので、意外と安く手に入ったりする。



 そんな訳でシントーヤが再びテラリスの前に立ちはだかった。


 子供らに【増撃】をありったけ掛けさせた結果、増撃約10発の使用回数を装填済みだ。【狂化】の使用後ダメージもあらかた【治癒】でケアしたし。


 そのシントーヤが【縛鎖草】のど真ん中で睨みを効かせ、その頭上では気獣たちがうるさいくらいにブンブン飛び回っていた。


 さらにそれとは別にあちこちで湧いて来る緑クリーチャーたち。


 相対的に数の多いテラリスが重点的にクリーチャーに集られる。だがそんな状況は脇に置いても、今すぐ縛鎖草棚引くシントーヤの懐に飛び込むと言うのはさすがに少し躊躇われた。ちょっと心の準備が必要だ。


 本隊の態勢を整えて現れたセティカもそんな心理状況は把握出来たのだが、それでも「突撃せよ!」と言わざるを得なかった。


 ここで敵が、恐らく最後のカード(狂戦士)を切ってまでして足止めする意味は一体何か?。ちょっと時間を稼いだ所で追跡側としては完全に捕捉出来ている。たとえ転移魔法を使われてもそれくらいの対策はテラリスにもあるし。


 しかし狂戦士の狂化時間は前回と同様なら約1分(2連発で)。だと言うのに、その1分で充分とばかりにテラリスの攻撃を待ち構えている。


 セティカには敵の意図がいまいち読め切れなかった。


 単に敵がショボい選択をしているだけなのか、それともいつの間にか戦術でテラリスが上回われているのか?。元々形に嵌まらない変な集団だけに見分けがつかない。

 しかしここに至って時間を稼がれての罠はあっても、最速で突破する事で生じる罠などあり得ない。

 分かっている事はただ一つ。迷っている暇など無いと言う事だ。迷って時間を浪費するのが一番の愚行。そして時間を稼ごうとするのが意図だと言うなら、その逆を突くのが常道と言うものだ。


 とは言えさすがに出来る事は全てやっておく。間違いなくここが最後の砦だ、もう出し惜しみはしなくていい。魔法班に前衛戦士へありったけの支援魔法を付与させる。


 そしてセティカは突撃を命じた。


 少し一拍遅れたが狂戦士の効果が切れる前にこの場を突破してみせる!。



「かかれっ!」



 シントーヤとそれをサポートする気獣VSテラリス。さらに覇王樹の守護者ガーディアンまでもが大量に入り乱れる激闘が開始した。


 守護者自体は大した戦闘能力を持たないが、次々と湧いて現れては無差別な物量戦を仕掛けて来る。


「ッラァァアアアアアアァァ!」


 そして相も変わらずシントーヤが安定の暴れっぷりを発揮した。すると気獣までもが触発されて沸点の低い野性を暴発させる。

 一方テラリスはそんな迫り来る数の暴力やブッ飛んだ魔獣たちに対し、戦士としての技と覚悟で挑んだ。


 あぁ、こんなケダモノだらけのクリーチャー戦に人として参戦するテラリス兵に敬意を表してあげたいと思います。



「恐れを知らない勇者たちに哀悼の意を込めて、敬礼!」


「敬礼!!!www」(子供らビシッ)


(哀悼は死者に送る言葉ですよ!)



 ちなみに免悟は物影からこっそり飛剣ランサンをラジコン操作だ。え?、それ言わなくていいだろ…。


(お前のダメっぷりは軽蔑に値するぜ…)



 そんな事よりテラリスもここに至っては正面からの真っ向勝負だ。魔法を使った搦め手や、じっくり時間を掛けて攻めてる暇なんて無いのだ。


 シントーヤの方は掛かる敵を片っ端から薙ぎ払うのみ。そして時折強化魔法を振り絞って来るテラリス兵には増撃で撃ち落とす。(今やみんな体力的な限界に達しているので殆ど魔法を撃って来る者はいない)

 気獣は意外に冷静で、シントーヤの間合いには絶対近寄ろうとはしなかった。


 ところで、一応テラリスにもシントーヤの隙を突いて出入り口を通り抜ける者がわずかにいた。壁際ギリギリを通り、シントーヤをスルーする事に成功したのだ。しかしその先の通路で気獣に背後から襲われて始末されてしまう。なのでそれ以降再チャレンジする者はいなくなった。


 そんな訳でテラリスは人海戦術でシントーヤを仕留める方向に全力を注いだ。それはもうなり振り構わぬゴリ押しだ。

 一応魔法支援を受けてはいるが、暴風の様に振り回される大斧やシントーヤの四肢に文字通り体を投げ出してまとわり付き、ほんの少しでも狂戦士の動きを鈍らせようと言う試みだ。

 そんな気の遠くなるような微小アドバンテージをテラリスはド根性で積み重ねた。その徹底した集中攻撃にさすがの狂戦士もジリジリと後退を余儀なくされる。


 だが!。


「よしっ!、シントーヤもういいぞ!」


 その時、突然免悟が声を上げた。


 普通よりちょっと小型の移動式壁ゴーレムの後ろでコソコソしてた免悟が合図を送る。(だからその情報いる?!)


 いつの間にか縛鎖草地帯の端まで後退したシントーヤがその合図に吼えた。


(ったくもうギリギリだぜ!)


 シントーヤは縛鎖地帯を自ら飛び出ると迫るテラリスを引き剥がした。だが遅れてなお追い縋るテラリスに対し、その一瞬の時間差で生み出された大スイングが強烈な一撃で出迎えた。


 エフェクトが迸り、残った増撃を全てをつぎ込んだ連撃がテラリス兵を砕き弾く。


 弾き飛ばされたテラリス兵がその殺人的な攻撃にたじろぐ。


 一瞬シントーヤの周囲から兵の波頭が消えて空白地帯が生まれた。


 その空白を真っ先に埋めたのは気獣だった。すかさず数匹の気獣がシントーヤを取り囲むと、シントーヤを咥えて飛翔した。


「にっ、逃がすなッ!」


 ほんの一瞬の出来事だったがすでに直接攻撃は届かない。だが魔法なら!。


「気獣の方を狙えっ!」


 テラリスの魔法班を中心に速攻系の魔法エフェクトが光り、発動されようとしたその時、大広間をひび割る咆哮が轟いた。


 テラリスが魔力を振り絞って紡ぐ光のエフェクト。それに合わせて発せられた咆哮は、全ての予兆エフェクトを吹き消した。



「?!!!………」



 テラリス兵は呆然とその咆哮の源を振り返った。テラリスの背後に回った気獣数匹がキャンセル系の咆哮を放ったのだった。



 え、召喚獣だろこれ…?。



 テラリスの困惑は予想以上に深かった。もっと巨大なモンスターならともかく、こんな中型の魔物が咆哮を放つなんて聞いた事がない!。



 ふははっ…。


 免悟はシントーヤ共々気獣にしがみついて、徐々に小さくなるテラリスを足下に見下ろした。


 免悟たちもつい最近知ったのだが、気獣は複数(4体以上)の個体が咆哮を重ねる事で竜種並のキャンセル系「咆哮」を発動する事が可能だったのだ。


 ふっ、気獣オリジナルの種族スキルだ。その名も「合咆」!。(勝手に付けました)


 一定以上の知能と均一性の高い同一種族体のみが可能とするスキルらしい。結構難しいらしく失敗する事もある。

 もちろん今の場合キャンセルに失敗していたら余裕で撃ち落とされ、元いた所にお帰り状態だった。シントーヤの【狂化】もとっくに切れてるので集団リンチ確定だ。


 そそくさと免悟たちはすでに獄滅龍破で空けられた大穴の陰に消えて行った。

 ぶっちゃけかなり際どいやり取りだったので余裕は全くない。免悟的には挑発の一つでも残したい所だったが、疲れたのでそれどころではなかった…。


 いや、責任者として、指揮官として采配的に大変だったんだよ?。隠れてコソコソしてただけじゃ無いんだから!。(ふ〜〜ん…)


 それにしてもまーとにかく逃げきった…。

 下手したらシントーヤを見捨てなきゃならない所だったのだ。


 つーか結構色々死んでるんだけど…、しかも根本的な解決には至ってないし?。さらにここで決着つかねーの!?、って批判もあるかも知れねーが…。

 とは言えここで決着つくとしたらバッドエンド方向しか無いんだから見逃しておくれ…。



 ん…?。ところでさ、免悟アレ言わねーの?。(1)


 アレだよアレ!。(2)


 へ?、疲れたぁ?、あっそ。じゃあ俺たちが言うね!。(1)



『『ははははは、さらばだテラリスの諸君、また会おう!』』(←主人公免悟の代わりに気獣ハウロンとベイダルがお送りしました!)


 うん。言葉通じて無いけどな…。






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