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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
58/64

58・拠点攻略戦4


 免悟にエルド!、お前ら二人とも後で覚えてろよ!。


 雑な指示で丸投げされたカルはバカ二人を呪った。確かに巧遅より拙速を優先する状況ではあるのだが、とは言えこいつらは常日頃こんな感じなのだ。アバウトにもほどがある。


 しかし現実は待ってくれない。


「エダル!、こっちにゴーレムをくれっ!」


「こっちも!」


「早く早くっ!」


 本陣の子供らがあちこちで【泥人形】の発動を求める声が飛び交った。

 本陣前方には移動を阻害する中魔法【縛鎖草】が敷かれており、そこにエダルが【泥人形】のゴーレムを必死で生やしていた。


 正直あまり悩んでる余地はなかった……。


 エダルとホノを除く五人の子供らは槍を突き出し、時々ゴーレムを掻い潜って姿を見せるテラリス兵を牽制していた。

 それをエダルが(小)攻撃魔法(連発)で、ホノがクロスボウで援護する。


 ちなみにネビエラは二つのクロスボウの矢をセットし、それを交互にホノに手渡すと言う地味な裏方仕事に専念していた。(意外とマジメにやってるし!)(片目のタトゥー入ったネエちゃんがな)(るっさいわよっ!)


 とりあえず交戦する予定の無かった子供らによる最終防衛ラインだが、なんとか死守出来てる状況だ。


 とは言えそれは【加重舞陣】を魔童連盟側が自ら解除したせいもある。

 テラリスが舞陣を解除するには直接術者(エダル)をどうにかする必要があったが、自分から解除してくれたおかげでテラリスは【聖浄波】の効果切れまでに何とかする必要がなくなった。

 なのでテラリス兵は無理に本陣強襲するよりもむしろ簡単な【泥人形】の破壊を優先したのだ。


 やたら馬鹿みたいにズンドコ生えて来るゴーレムだが、基本設置系なので数には限りがある、はずだ…。

 テラリスとしては丁重にダンマスを確保する為に、まず周りの邪魔な物から排除しておこうと言う考えだ。


 【縛鎖草】に足を取られながらもテラリス兵が壁ゴーレムを破壊する音が不気味に鳴り響く。


 と、そんな時エダルの横に一つの影が立ち止まった。シントーヤだ。


 完全武装を整えたシントーヤは重甲冑のバイザーを上げてエダルを見た。


「エダル、【増撃】を掛けられるだけ掛けてくれ。【狂化】して俺が出る」


 シントーヤが使えば破格のチート魔法【狂化】だが、効果後に発生する身体ダメージと言う無視できない問題が存在した。

 【狂化】はたった一回の使用後ダメージでも結構キツいものがある。なのでメンテナンス無しの連続使用は二回が限界だった。そう言う理由もあってシントーヤの出番は限定されていた。そんなシントーヤだから、実の所その存在をすっかり忘れられていた…。


 しかーし!、さすがにシントーヤもここが出番だって事くらいは言われなくても分かる。ここで出なきゃ確実に戦いは終わるしね。


 そんな訳でシントーヤ出撃準備の為、エダルが援護の片手間に積み上げた【増撃】の実弾数は約15発。実際シントーヤに掛けた回数自体は20回を越えていただろう。最後の方は魔法を掛けても弾数が増えなく感じたのでシントーヤが止めた。どうやらここら辺が増撃の限界値の様だ。


 こうしてシントーヤは万全の状態で出撃した。


「シン!、いっぱいブッ殺して来るのよ!」


 ネビエラが物騒な声掛けをして送り出す。




「ゥウルォオアアアアァァァアアアアアアッッ!!!」



 大広間全体に狂兵シントーヤのリアル「咆哮」が轟いた。


 その時免悟は、大広間の端っこに追い詰めた最後の亡霊を討ち取った所だった。

 同じ召喚系として単純に比較するのは難しいが、それでも中魔法のインスタント召喚と大魔法による自立した永続召喚の気獣では地力に差があった。(なにしろ【精霊召喚】の永続召喚verのクールタイムは10日ほどある。なかなか増やせない貴重生物だ、掛かるコストが違うのだよ!)


 とは言え【浮遊術】と飛剣を使いまくったので、免悟はポーション片手に暫し一服状態だった。だがそこで免悟が見たものはシントーヤの「咆哮」で動きを止めるテラリス戦士たちの姿だった。マジか?!。


 しかも壁ゴーレムごとテラリス兵一人を爆殺して現れたシントーヤだが、それを見てなんとテラリスは陣形を変えて攻勢を弛めたのだった。

 シントーヤの出現にテラリスが戦術の変換を迫られるとは。さすがに免悟もそんな状況は想像してなかった。嬉しい誤算と言えよう。



「「うぉう♪、シントーヤ!」」



 シントーヤの事をすっかり忘れていた免悟とエルドウィンだが、柄にもなく意外とテンパってたりしたのだろう。しかしこの時ばかりはそれすらも忘れてシントーヤの出撃を歓迎した。

 と言うか魔童連盟のメンバー全員がその戦局を一変する登場に気勢を上げた。


 一方テラリス側もその狂戦士の出現に素早く対応した。話には聞いていたが超弩級の単体戦力保持者だ。あらゆる戦況に対応出来るこのテラリス部隊ではあるが、あえて苦手があると言えばまさにこんな感じの一点突破タイプと言える。

 特にこのテラリス部隊は組織的な連係が長所なので特出した個は存在しない。それゆえにシントーヤの様なチートで限界突破した個に一方的にやられてしまう可能性がわりかしあった。


 ただ大蛇竜戦を見れば分かる様にやりようはいくらでもある。苦手ってだけで弱点ではないのだ。たった一人に大げさと思われるかも知れないが、ここまで来れば無駄な損害は出したくないってのもあった。


 だが、セティカが狂戦士対策を指示したその時、突然狂戦士が光に包まれた。


 半透明の触手を靡かせる【縛鎖草】。その真っ只中で一人咆哮の余韻を響かせる狂戦士に【光弾】などの攻撃魔法が集中したのだった。


 咆哮に抵抗レジスト出来たテラリス兵が反射的に放ったものなのだが、その行動が露わにした新事実にテラリスは驚愕した。



 魔法攻撃が狂戦士に届いていない?!。



 普通真打ち登場で現れたキャラに集団で即レス攻撃するとかバトルものには有らざる行為だと思うが、残念ながらそれは前振りとなって終わった様だ。


 事実、テラリス戦士の放った攻撃魔法は狙い違わず狂戦士を直撃した。にも関わらずその狂戦士を防護する障壁に阻まれて効果を発揮できないでいた。どうやらその異変の源は狂戦士が掲げる大盾である様だった。


「クニオ、あの盾…」


「やられたっ!、あの盾、あれ対魔の盾アンチマジックシールドだ!。しかもヘタしたらかなりの上級装備だよ!、まさかそこまでするなんて…!」


 そう、シントーヤは今、両手に大斧×2ではなく大斧と大盾と言う良くあるスタイルだった。


 前回の洞窟内の時は狭く乱戦状態になりやすいため、大規模魔法が使いにくいので攻撃特化の両手斧だった。

 だがこの大広間の様な大空間では魔法で狙い打ちされる可能性が高い。そのために環境に合わせたオーソドックスなスタイルで現れたのだ。


 【狂化】と【増撃】コンボを使えば人類種ではほぼ敵う相手は居なさそうなシントーヤだ(実際これにはエルドウィンもボロ負けする)。しかもこれに加え、さらに対魔法の完全な防御を加えればまさに向かう所敵なしと言えるだろう。


 シントーヤとしてもせっかく金があっても使い途があまり無い。なのでなんとなく装備につぎ込んでしまったが、気がつけばかなり重課金してしまった感は否めない。


 まあ、金を掛けるに値するチートを持ち合わせていたと言うのもあるのだが。


 てな訳でシントーヤの持つ対魔の盾はかなり高位の個人装備だった。所有者から大抵の魔法効果を遠ざけてしまう結構な絶対魔法防御を持っていた。


 ところで少し話が変わるが、ステータス上昇用の魔法アイテムと言うのは少し特殊な金属で出来ている。


 魔法使いはそれをアクセサリーとして身につけ魔法効果のかさ上げを狙ったりする。しかもこれはゲームじゃないのでリングとかネックレス等はいくらでも好きなだけ装備する事が出来た。


 その魔法鉄グラフォゾームと呼ばれる特殊金属。これはこの世界で最も効率的に魔法を封じ込める事が出来る最高の専用素材なのであった。


 なのだが、


 この魔法鉄、何故かゴールド並に重かった。


 つまり魔法アイテムを沢山身に付け、目に見えて分かるくらいステータス向上を計ろうとすると、歩くアクセサリー陳列棚みたいになってしまうのだ。しかもその重量は冗談抜きの罰ゲームレベル。

 一個や二個なら大した重量ではないが、それだと効果は微妙。かと言ってあまりチャラチャラ付け過ぎたら今度は動きに支障を来たしてしまう。

 あまり動かない魔法専門職ならともかく、普通の戦士系に重量増加は全然嬉しくない。


 そんな訳で戦士職はそんな嵩張るアイテムをあまり付けたがらない。

 そして時々下品な成金スタイルの魔法使いを見かけるのはこう言う理由があるからだった(まあ上級者に良くいるので金持ってるのは間違いじゃない)。


 ちょっと話が逸れたが、要するになんでこんな話になったかと言うとシントーヤの対魔の盾は主にこの魔法鉄で出来ているからであった。


 そんな対魔の盾のお値段およそ200万G。これまたお求め易いとはとても言えない金額だ。さらに常人がこれを持って戦闘するには逆に命取りになるくらい重かったりする(約20kg!)。


 こうして見るとこんなことが出来るのもシントーヤと言う特異な存在ならではと言ったところだろう。


 ちなみに魔法鉄は重量軽減が全く効かない仕様になっている。



 さて、それでは完全に中断してしまった戦闘だが無理矢理再開しようと思う。



 狂戦士に魔法が効かない!、となってテラリスは迷いで動きを鈍らせてしまう。

 一方シントーヤは魔法攻撃が止むとすぐさま動いた。少しお怒りの様でもある。


 シントーヤは手近な敵兵に襲い掛かると一瞬でそれを挽き肉に変えた。

 その戦士も強化魔法で抵抗するのだがあっさり【増撃】がそれを上回る。結果血肉が散弾の様に撒き散らされた。

 しかしまだシントーヤは止まらない。咆哮を上げて、退くテラリス兵を追いかける。


「シントーヤこっちだっ!」


 本陣から離れてしまいそうになるシントーヤをエルドウィンが引き留めた。

 シントーヤは勘の鋭い野性動物さながらにビタッと反応すると、方向転換してエルドウィンの方へと走った。


 本当にこっちに来たエルドウィンたちが一瞬ビビるが、当然襲われる訳はない(多少は弾き飛ばされたが)。

 疾風の様にシントーヤがエルドウィン部隊とすれ違う。そしてエルドウィンたちを追撃するテラリス部隊を逆に襲った。たちまちテラリスの組織的な陣形が崩れて敗走が溢れる。だが為す術は無い。


「よっしゃ今だっ!」


 エルドウィンたちがその隙に本陣向かってマジ逃げした。(笑)


「とりあえず味方の支援と防壁魔法で時間を稼げ!、そんなに続く筈が無い!」


 苦々しい表情で指示を出すセティカだが、後手に回ってる感は否めない。テラリスは戦況が急速に入れ替わる節目を感じていた。実際に今まで分断出来ていた敵が一つに集合しつつある。非常にマズい流れだ。


 まさかボスモンスター級の敵が魔法的アンタッチャブルになって現れるとは…。

 しかもこの狂戦士あんまり狂って無いし!。ちゃんと味方の言う事聞いてるし!。


 確かにテラリスにとってこう言うタイプは苦手ではある。だがさすがにたった一人の存在にテラリス部隊全体がどうこうされるような事は絶対あり得ない。逆に人海戦術で上手く封じ込める事だって可能なのだ。時間があれば、だが。


 ここでそっくり攻守が入れ替わる。一転して魔童連盟は動き始めた。


「カル!、エダルを連れて転移門ゲートを開けて待ってろっ!」(エルド)


「ネビエラ出番だ!。今度は【縮尺】混ぜて一発カマしたれ!」(免悟)


 本陣に辿り着いたエルドウィンが背後の出入口にエダルとカルを追い立てる。

 この出入口は他の何処とも繋がっていない独立した部屋に続いている。そしてそこには【次元踏破】のゲートが設置されていた。


「テメーら、60カウント後にここを引き上げて転移陣で逃げるぞ!、休んでるヒマはねえっ!」


 エルドウィンが数の減った奴隷戦士を無理矢理立ち上がらせ、今度は今だ撤退しきれていない皮剥ぎ団を迎えに走って行った。

 免悟も気獣と共に本陣に戻ると、気獣の一部はそのままエルドウィンの支援に付いて行く。


 その間にエルドウィンの意図を読み取った免悟がシントーヤを呼び戻す。【狂化】の効果が切れる前に一旦帰還させるのだ。

 散々暴れたシントーヤが引き上げると、すぐさまテラリスが強引に猛攻を仕掛けて来る。


 しかしまだテラリス側は魔童連盟の意図を理解していない。

 まあ免悟たちにとっては当初からテラリスとまともにやって勝てる訳が無いのは分かっていた事だ。


 だから、やれる所までやったから後は逃げるのみ!。


 当然ながら免悟たちだって黙ってやられるつもりはない。やる以上マジで勝つつもりだ。

 しかしたった一戦でひっくり返せる神憑り的な奇策が存在しない以上、地道に相手の兵力を削って行くしか道はない。

 数少ない長所であるダンマスと地の利を使ってテラリスを引き摺り回して消耗戦に持ち込む。勝ち筋、と言うよりは一番ましな戦術がこれくらいしか存在しないのだ。しかもかなり我慢比べ的な泥臭い戦術だし。


 そして今回に関して言うと、本当はもっと適当な所で退却する予定だった。ただエルドウィン部隊と皮剥ぎ団が突出したまま食いつかれてしまい、逃げるタイミングを失ったのだ。

 そんな状態でエダルら本陣メンバーだけが逃げても、後方支援や逃げ場を失った残りの前衛は確実に全滅だ。そうなれば子供ら後衛だけが生き残った所で出来る事は何もない。


 免悟やエルドウィンらが失策を覚悟した所以だ。


 だがシントーヤの活躍で天秤は大きく傾いた。


 実を言うと免悟もエルドウィンもシントーヤのやり過ぎ装備にはあまり関心がなかった。

 上級者気取りの二人からすると、単純な一点豪華主義は素人臭く見えてしまうのだ。増撃とのコンボまではいいがそれ以上はしょせん蛇足と言う訳だ。


 しかし免悟たちの考えもただのカッコつけで言ってるのではない。

 戦力を一ヵ所に集中すると言う事は、敵に弱点として狙われ易くもなる。ゆえに戦力をなるべく均等に分散させ、より質の高い組織力を駆使する方が柔軟性は増す。

 要するにどこを切っても金太郎飴的な組織が理想なのだ。さらにその質が高ければ言う事はない。


 だが現実とは理屈通りの結果をもたらさない。実際シントーヤ個人の武勇が戦局を大きく左右した様に。



「た、たまたまだよな?」


「あぁ、たまたまだ……」


 何たまたま言い合ってんねん!。(カル)





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