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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
57/64

57・拠点攻略戦3

 中魔法【魔餓魂まがたま】。



 【魔餓魂】が召喚する亡霊は完全に非物質の精神体だ。

 それはあらゆる物理装備を素通りして直接ダメージを与える仕様となっていた。この攻撃を防ぐには非物理的な手段を用意するしかない。

 そして亡霊の引き起こす精神ダメージは恐怖効果の付与だ。体力の消耗や恐慌を引き起こし、気の弱い者なら気絶する事もある。


 魔餓魂の亡霊が気獣を無視して次々と魔童連盟のメンバーに襲い掛かった。

 気獣たちも亡霊の攻撃を防ごうとすぐさま反応する。気獣もまたほぼ精神体なので亡霊に対抗する事が出来るのだ。


 すり抜けた亡霊が魔童連盟の戦士の体を掠めると、皆次々と動きを止めてうずくまる。そんな亡霊を気獣たちが文字通り体当たりで阻止する。

 だが気獣自体も非物理系とは言え恐怖ダメージは食らってしまう。普通の人間よりはまだマシだが、その慣れないダメージにおっかなびっくり少し手こずる。



「よしよし!」(セティカ)



 【魔餓魂】で厄介な気獣を封じたテラリスは、さっそく本隊の位置を最前線にまで押し上げた。そして右翼左翼両分隊のすぐ後ろに陣取ると、魔法班が分隊の背後から支援魔法をぶっかける。



 【聖浄破】×4!!!



 両分隊全員を対象にするため、各2発づつが大雑把に振り分けられた。

 左右両隊にもれなく掛けられた中魔法が黄金色の派手なエフェクトを発生させる。


 【聖浄破】は約1、2分の短い間ではあるが、ありとあらゆる状態異常を無効化し続ける。


 普通【加重舞陣】のような常在型の効果は浄化する事が出来ない。と言うか一瞬だけなら解除出来ているのだろうが、当然ながら効果範囲内に留まるかぎりすぐに加重舞陣の常在効果に埋没してしまうのだ。


 だがこの【聖浄破】は問答無用の浄化力を持っていた。


 残念ながらダメージとかは普通に食らうが、あらゆるステータスの修正効果を解除し、まっさらでノーマルなステータスライフを提供してくれる。それは長年頭を悩ませる肩こり、腰痛等の持病だけでなく自ら増強を計って掛けたプラス修正でさえ無効にしてしまうくらいだった。


 こうしてどちらかと言えば劣勢にあったテラリスの前衛部隊が【加重舞陣】の影響力から解き放たれた。


 兵力で上回るもののテラリスは【加重舞陣】によって結構な劣勢を強いられていた。それにも関わらずテラリスは損害を気にもせず愚直に攻め続けていた。

 そして右左両翼の分隊は決して足並みを乱す事なく敵の足止めに付き合って真正面から剣を交えた。それはひとえに本隊からの支援を待っていたからだ。


 指揮官セティカ率いるテラリス本隊がこの大広間に入ってからまだほんの数分しか経っていないが、戦局はいきなり終局へと動き始めた。

 

 本来の動きを取り戻したテラリスは魔童連盟の前衛戦士を数で圧倒した。そして溢れる余剰戦力がエダルのいる本陣へとすり抜けて行く。

 エルドウィンたちや皮剥ぎ団が引き留め切れなかった兵士が、淡々とエダル本陣目掛けて走り寄って行ったのだ。


 ヤバい!。


 魔童連盟のメンバーは焦った。


 なんとなく「これイケるんじゃねえか?」と思っていた矢先にこのテラリスのマジ攻撃。ぶっちゃけ魔童連盟のメンバーたちはその展開に付いて行けなかった。


 とりあえず必死で本陣前に【泥人形】を並べ立てるものの、こんなあっさり本陣に食いつかれる展開は予想を越えていた。

 テラリスが醸し出す「さあさっさと終わらせちまおうぜ♪」的な雰囲気が半端なく焦りを誘う。


 頼みの気獣も今だ魔餓魂の亡霊に掛かりっきりで身動きが取れない。非物理攻撃を防げるのは気獣だけだ。今ここで亡霊に好き勝手されるのはそれはそれでマズい。


 ちなみに免悟はとことん気獣と共に行動していた。

 どう言う訳か免悟の愛剣「飛剣ランサン」には除霊能力がオマケで付いていたのだ。なので現在免悟は気獣と共にゴーストバスターの真っ最中だった。

 ま、あんまりどーでもいい情報だな…。(ヒドーーーイ:免)


 だが問題は一番頼りのダンマス・エダルが魔餓魂の亡霊に対抗出来る魔法を何一つ持ち合わせていないと言う事だ。

 まあ充実した装備を持つ上級者が多様な選択肢を持っているのは当然の事で、未熟なパーティーが汎用性の低い非物理系魔法を後回しにするのは良くある事だった。


 そんな事言ってる間にもテラリス兵が数の暴力と素の強さで簡単に魔童連盟を圧倒していく。

 落ち着けばまだその戦力差がひっくり返った訳ではない事も知れるのだが、時の勢いと言うものは実質以上の力量を生み出すものであった。


 それに魔童連盟は言うならば混成部隊だ、かなり一体感に欠けるものがある。それこそ逆境時のアドリブ連係など望むすべもない。

 エルドウィンの願い空しくメンバーたちは想像以上のオタつき加減を露呈してしまっていた。


 あ〜〜あ…。


 免悟は思った。もう終わった…、と。

 ぶっちゃけ「エダルすまん」と心の中で敬礼したくらいだ。(諦めるの早すぎ…)


「退却だ退却ーーッ!!!」


 エルドウィンが魔法での通信を忘れてしまう程に大声を上げていた。



 しくじったぁぁぁ〜〜!。



 免悟とエルドウィンはお互いそんな似た思いを脳裏で満たしていた。


 だいたいエルドウィンも大傭兵団に所属してはいたもののあまり大規模な戦闘の経験は無かった。

 戦闘の規模は大きくなればなるほど個人の力量は意味を無くす。自然と質の高い戦士を抱える戦団は兵力に埋もれるような戦を避けるせいだろう。

 しかもエルドウィンは大抵の事は自力でなんとか出来てしまうタイプだ。事前の戦術なんかをコマメに立てた事なんざ一度もねぇ、そんなのいつも人任せだよ!。(いばる所ではありませんよ…)


 そんな訳で免悟もエルドウィンも【加重舞陣】ほどの強力な結界があればまあなんとかなるだろ!、ならなけりゃ諦めるしかねーよ的なノリだったのだ。


 そしてその時は、これぞおとこ!と自分に酔ってもいたのだ。


 くそぅ、手ェ抜くんじゃなかった…。


 いや、どっちにしても大した策は打てなかったよ……。


 たぶんなぁ…………。


 今となってはお恥ずかしい限りの稚拙な戦術だが、実際にテラリスの戦術を見てから指摘するのは容易い。

 だが相手の装備や力量を事前に推測し、そこから対策を練ると言うのはなかなか出来るこっちゃない。


 大抵の上位戦団ですら自分の得意な戦法をいかにゴリ押しするか、そんな戦い方をする奴らの方が多いし簡単なのだ。さらに戦闘中に敵の出方によって対応を変えると言うのは言葉にするほど容易ではない。



 デュフフ…。私です、全ての戦術は私が考えました!。(byクニオ)


 イヤ、実際戦闘中に戦術変更出来る兵士の方が凄いよ?。(セティカ)



 さて、とは言えまだ全てが終わった訳ではない。足掻いてみる余地はまだあるっぽい。(っぽいの?)

 それに免悟だってどうせ負けるにしてもあっさり勝ちをくれてやる気は全くない。出来る限りの嫌がらせをくれてやるつもりだ。


 ところで、一応エダルの本陣の背後には逃げ道としての出入口が口を開けて横たわっている。だがそれはテラリス側からも見えてるはずのものだ。

 ただ本陣のエダルはともかく、前線のメンバーがそこへ逃げるのには距離が有りすぎた。


 まあなんにせよこうなったら今さらジタバタしても始まらない。エルドウィンはジタバタする仲間の姿を尻目に魔法通信でエダルに【加重舞陣】の解除を命じた。


 エルドウィンも【聖浄波】がおそらく瞬間的な効果であろう事は想像が付いていたが、かと言って正確には分からん効果切れを待ってる余裕も無かった。

 とりあえず加重舞陣を解除したら詠唱口が一つ空く。まずはそれで食いついて来るテラリス兵をなんとかするのが先だ。


 エルドウィンは何でもいいから空いたもう一枚の舌で魔法を放って、とにかくテラリスの攻撃を食い止めろと指示した。

 

 その通信を受けたカルは一瞬困った。何でもいいからって言われても困るんですけど?!。

 だがその迷いはすぐに振り切れた。少し遅れて免悟からも同じような通信が届いたからだ。


「っだーーもう!。エダル、舞陣解除してなんかてきとーに魔法打っとけ!」


「う…ん?、え!」


(ちなみにエダルが迂闊に動いてミスると取り返しがつかないので、カルがエダルの横で手取り足取り監督していた。

 さらにちなみに言うと、魔童連盟の指揮は何故か免悟とエルドウィンが共同で執り行っていた。

 ちょっと普通ではあり得ない状況だが、お互い特殊レアな人格をお持ちのせいかこの二人は戦いに関して妙に通じ合うものがあった。

 いったいどんな悪魔の悪戯か、それとも神の誤作動なのか?。彼ら二人は意味不明な阿吽の呼吸で普通なら混乱してもおかしくない作業を可能にしてしまっていたのだった)


 つーかこいつらなんかテキトーにやってるだけだよ!。(カル)



 そんなこんなで現実とは残酷で無慈悲なリアルタイムだった。



 とりあえずエダルの本陣は大量の【泥人形】でなんとか陥落を免れているが、エルドウィンたちや皮剥ぎ団は退却もままならない。いざ逃げろ!となってもそう簡単に退却出来るほど甘くはないのだ。

 これほど完全に食いつかれてしまったら逃げるどころか背中を見せるのもヤバい。


 エルドウィンは敗北と言う名の未来が徐々に現在と重なり合う現実を実感しつつあった。くっそ!、マジか…。



 一方セティカは敵の素早い見切り(加重舞陣の解除)にヘエ〜、と少し感心していた。

 【聖浄波】の効果は短いがここまで接近出来れば効果時間内に蹂躙しきれるはずだ。ダンジョンマスターを捕らえれば自動的に舞陣は解除出来るし、必死の抵抗も時間の問題だ。


 テラリスの本隊は今だ舞陣の影響下にあるが本隊は後方支援がメインだからあまり関係ない。すでに【加重舞陣】は意味を無くしていたのだ。

 セティカとしては、それに気付かず詠唱口一つを放置し続けるのは愚かしい話だとは思うが、敵対する者としてはちょっとでもやり易い方が良かったのだが。


 ま、今さらどちらにしろ結果は同じで変わらないがね♪。


 ここでようやくセティカは勝利を確信してしまった。しかしあまりにものし掛かるプレッシャーからか、つい気を弛めてしまったのが余計なフラグ立てに繋がってしまったのかも知れない。



 古来から圧倒的な戦況をひっくり返すのは個人の武勇スタンドプレイと決まっている。


 その逆もまた然りではあるのだが、この場合綿密に計算された技巧を台無しにしたのは想像を超えるほどの単純明快な馬鹿力だった!。



 まさに知性を打ち破るは蛮勇なり。



「ゥウルォオアアアアァァァアアアアアアッッ!!!」



 今、ついに狂兵シントーヤ・ハルベルが大詰めを迎えた戦場に降臨した。





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