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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
55/64

55・拠点攻略説明会


 二回の戦闘でテラリスは15人の死傷者を出した。9人が死んで、6人が重傷だ。


 魔童連盟の方は5人が死んで4人が重傷。(死者5人の内訳:皮剥ぎ団3人、戦闘奴隷2人)



 テラリスの各部隊は強かったが、やはり奇襲を仕掛ける魔童連盟の方が優利だ。魔童連盟のメンバーは防御魔法をあらかじめ全員付与してから攻撃するし、未解除のトラップも目の前で発動出来る。


 一方テラリスは敵地を探索しながらの行軍だ。

 襲撃タイミングは魔童連盟が握っているのであらかじめ魔法を付与しておく事が出来ない。魔童連盟の奇襲に対しては防御に回らざるを得なかった。


 そして現在のところテラリス部隊の総数は約75人。


 魔童連盟は31人。

(皮剥ぎ団13人、戦闘奴隷7人、その他11人)


 死人以外は治療魔法である程度回復出来るが、見た目の傷は消せてもダメージは残る。数日は安静にしないと傷は開き易いし、骨折した所は再骨折しやすい。

 ただ直接戦闘は厳しいが魔法による後方支援は可能だ。




 二戦を終えてエルドウィンはメンバーを連れて洞窟の奥へと引き上げていた。

 二連戦は体力的にキツいものがあったが勝ち戦だ、メンバーたちもまだ戦いの高揚感を残している。


 ただエルドウィンの表情は冷めていた。


 確かに手応えはあった。だがこのまま小戦闘を繰り返し互いに数を減らし合っても、恐らく先に魔童連盟の方が力尽きるだろう。なにしろ元々の兵数差がありすぎるのだ、ちょっとどうしようもない。


 と、そこへ気獣とセットの免悟も合流して来た。


 主人を見つけた気獣はさっそく尻尾をふりふりエダルの元へと駆け寄って行く。



「おう免悟、これ以上ちまちまやっててもあんま意味ねえわ、「大広間」で一か八か行くぜ…」


「おっと!、もう「大広間」使いますか」


 とは言うもののそれは免悟も言おうと思っていた事だ。


 魔童連盟としてはせっかく地の利があるのだからエダルをエサにしてもっと洞内を引きずり回したかった。だがテラリスは多少の被害など気にもせず逆にキッチリ包囲網を拡げつつあった。


「はーーつまんねっ。

 これだけ兵力差があるのになんの面白味もない用兵しやがって。テラリスの指揮官は男気ってのが分かってねえよ!」(つーか指揮官女ですし)


 テラリスの戦い方は最大の武器、圧倒的な物量でじわじわ詰め寄る正攻法だった。

 多少時間が掛かっても取りこぼしの無い安全確実なセオリー通りの戦い方だ。そこに無駄な奇抜さや余裕を見せつけたりするような甘さは一切ない。

 ゆえに魔童連盟としても付け入る隙の見いだせないガッカリな展開なのだった。


「まあこんだけガチで攻めて来てるんだしょうがねーさ、それよりこうなりゃ早いとこケリつけてしまおうぜ」


「ん…、ああ」


 この根っこゾーン内は基本的に狭い。単体の小魔法による限定的な戦闘がメインになってしまう。魔法使いの派手な後方支援がしにくい環境だ。

 しかし魔童連盟の最後の砦である「大広間」だけは巨大な空間を内包していた。


 かつてここを支配していた魔法猿が使っていた場所だ。魔法猿が自分たちで広げたのかもっと昔からそうだったのかは分からないが、なんにせよ大魔法を連発させるダンジョンマスターの能力を最大発揮出来る所と言える。

 それ故に大規模な戦いとなるだろう事は間違いなかった。


 現在のところ部隊を分けたテラリスに対し、魔童連盟は各個撃破で局地的な勝利を収めはしたがその戦果は微妙だ。これ以上やってもある程度の兵力は削れるものの、その根本的な兵力差を覆せる程ではない。

 しかも徐々にテラリスが魔童連盟の地理的優位を乗り越え、兵力的な質と量の強味を発揮し始めていた。なのでこれ以上局地戦を重ねる意味は無いと言ってもいいだろう。


 と言う事で免悟たちは決戦場「大広間」に場所を移す事にした。

 幸いにしてわざわざ誘導しなくてもテラリスは勝手に自動追尾して来る。無駄な寄り道なんか一切しない。


 さすがは精鋭部隊、嫌な意味で予想通りの動きをしてくれる。


 そんなテラリスは焦る事なくじっくり時間を掛けて敵地を自らの管理下に置いて行った。

 トラップを解除しながら立体的な洞内をマッピングし、同時に魔童連盟からデータも取る。


 事前情報によるとターゲットであるダンジョンマスター率いるメンバーは総勢約20人。レベルは中ランクのごく平均的な団体だった。そしてそのダンジョンマスターは小さな子供である事が知られていた。


 実際に交戦してみて犬系の召喚獣と戦闘奴隷が多数確認されている。飛行能力のある召喚獣には驚かされたが、これがこのダンマスの特色なのだろう。

 この召喚獣は厄介ではあるがそれほどの嫌らしさはなかった。召喚獣の機動力は奇襲性が高いものの想像を超えるような運用はされないと思われたのだ。


 と言うのも、ダンマスにとって大した制限ともならない大魔法の中には、時として見た事もない訳の分からん効果をもたらすものが存在したりするからだ。

 それでも大抵は事前に知っていればいくらでも対処のしようがあるのだが、初見殺しのように知らなきゃ対処出来ない攻撃ほど恐ろしいものはない。


 それから戦闘奴隷がいるのは想定の範囲内だ。100名もの部隊が押し寄せるのだからそれに対してメンバーを増やそうとするのは当然だろう。

 特にダンマスと言う希少価値の高い存在を有しているので、傭兵やハンターではなく裏切る事のない戦闘奴隷が使われるのは想像に難くない。


 こうして少しずつ明らかになっていく敵情報に、テラリスの指揮官セティカは作戦の成功確率をさらに高めていた。


 ダンジョンマスターは経験を積み、時を重ねるごとに独自の進化を遂げやすい。

 存在自体が特殊で先例が少ない為、ダンマスとしての生存戦略に最適解テンプレが無いせいだ。


 そしてそんなダンマスに成長を許してしまうと簡単に化け物みたいに強くなる。だからやるのならまだ経験浅く戦力の整っていない今の内だ。


 と言う訳で、つまりこのダンジョンマスター率いる一団の実力は今の所大した事ないと言う事だ。どちらかと言えば覇王樹と言う森迷宮の方が厄介なくらいだし。


 ぶっちゃけ魔童連盟よりヤバい奴等はいくらでもいる。セティカ自身探索者や士官として最前線に身を置いて来たので、そこで見知った一流戦団と比べると今回の敵は普通に見劣りした。


 ダンジョンマスターと言う比較の難しい存在を考慮しても充分攻略可能な相手だった。


 これは希望的観測ではない。経験から予測出来る常識的な客観評価だ。恐らくこの作戦は成功する、そんな実感さえあった。ゆえにテラリスの兵士たちもその空気を感じ取り余裕を持って侵攻を進めて行けた。


 そしてついにテラリス部隊が敵に追い付いた。


 分隊である右翼と左翼部隊が前方に巨大な空洞を感知したのだ。そこにダンジョンマスター率いる一団が揃って待ち構えていた。


 一応周辺を調査し、安全確認が出来たら複数ある入口から別々に突入だ。これも罠を警戒し全滅だけは避ける為だ。


 今回の作戦は成功させる事が最重要なので被害を気にするの必要は殆んど無い。むしろどれだけ被害を少なく抑えたとしてもダンマスに逃げられたら全く意味が無かったのだ。

 逆に部隊がほぼ全滅しようとダンマスさえ確保出来れば作戦は成功だ。圧倒的な物量的アドバンテージは絶対に失敗しない為の対価である。

 そして人命と言う名の対価は、必要とあらば躊躇なく支払われる用意があった。ま、軍隊なんだからそれはしょうがない。


 さて、そんなこんなでセティカのいる本隊が大洞窟に入った時、当然ながらすでに戦闘は始まっていた。


 「大広間」の中央で両軍の戦士が入り乱れ、早くも剣撃と怒号が飛び交う。


 「大広間」は最大幅が100メートルほどの平べったいドームだった。床はデコボコだったがこれまでと違って隙間が土で埋められていた。さらにダンジョンマスターのいる陣地が僅かに高く傾斜が付いている。


 そしてその洞内全体を大規模エフェクトが覆い尽くしていた。

 エフェクトが大広間全体の床を仄かな水色に染め、そこかしこで炭酸のような微細な泡が水中の様に立ち昇っていた。


「セティカ…、これは【加重舞陣】?、舞陣だ!」


 隣で副官のクニオが喚いた。


 「舞陣」系は効果時間無制限で魔力を注ぎ続けるだけ発動出来る陣魔法だ。その代わり常時詠唱状態となり他の魔法は一切使えない。ダンジョンマスターが使えばほぼ永続魔法ともなるだろう。


 ※【加重舞陣】の効果は、味方以外のあらゆる物質に重力が倍加されると言うものだ。

 ちなみに効果を敵と味方に別けて与えると言うのはかなりの便利機能なので、敵と味方を区別しない大雑把な魔法と比べると少し威力や魔力効率で劣るのが普通。

 問題は何をもって「味方」とするかだが、そこは術者の概念一つである。

 熟練度や勘違い等で「味方」から外れる事もあれば、敵が「味方」扱いされる様な事もあり得る。そこら辺は便利さゆえのデメリットの一つと考えられている。



 さてその舞陣系だが、普通の術者なら持て余す所だが、無尽蔵の魔力を有するダンマスの場合はまだ余力を残してしまう。なので舞陣一つに固定されてしまうのはそれほど効率的とは言えない。


「舞陣系…、それじゃあやはり?」


 セティカがクニオに問う。

 クニオは魔法系に特化した副官で魔法班の班長でもある。セティカは完全に魔法関係はクニオに丸投げしていた。

 そしてクニオは事前にダンジョンマスターが使って来るだろう魔法を数パターン想定していた。


 ダンジョンマスターとして最も効率的な成長戦略は特にコレと決まっていないが、ダンジョンマスターが絶対取るべき魔法と言うのが数種類存在する。


 その一つが【二枚舌】だ。


 この(中)魔法は、二つの魔法を同時に詠唱出来る、と言う魔法の基本ルールを無視したムチャな効果を持っていた。

 とは言え、中魔法なので30%の魔力消費がすでに必要だから、普通は【二枚舌】を使ってさらに複数の魔法を連発ってなかなか出来るこっちゃない。

 つまり一見するとなんだかスゴいんだけど、実際使おうとしたらあまり使えない魔法だ。

 わざわざ魔力回復しても増えるのは2、3発分。それくらいなら普通に連発してもいい様な気はする。よっぽど同時発動しなけりゃならないコンボ用くらいだろうか?。

 殆んどダンマスの為にある様な、と言うかダンマスくらいしか使わない魔法だ。


 そして予想通り敵のダンマスが舞陣を発動しながらさらに別魔法のエフェクトを連発しているのが確認出来た。はい【二枚舌】の所有確定です。

 まあこれはダンマス御用達の鉄板魔法。これくらいちょっと調べれば分かる事だ。むしろこうでなければ素人同然と言ってもいいだろう。


 とは言えセティカは慌てて遊撃隊を先行部隊のフォローに送り出した。兵数差は圧倒的なのだが【加重舞陣】のせいで味方の動きが悪い。しかも先に突入した部隊はあまりダンマスに接近出来ていないし。

 まあそこら辺は何事も予想通りとはいかない。結局は何が待ち受けているかは突入してみなければ分からないからね。

 ただこの前のような大掛かりな罠(ネビエラの獄滅龍破テロ?)みたいなのは無さそうだった。なんとなく雰囲気的に。


 なのでとりあえず今は出遅れた分を巻き返しに掛かる時だ。

 特に今の所気獣が高速で飛び回って超ウザい!。まずこいつらを何とかしたい。


 味方の魔法班が必死で支援魔法をバンバン掛けまくる。


 出来れば力押しで強引に捩じ伏せたいが、間違ってダンマスを殺すのだけはNGだ。ダンマスを死なせてしまったら共にスキルも永遠に失われてしまう。手は抜けないが攻撃は多少地味にならざるを得ない。


 セティカは後方で戦局を注視した。


 さあ、ようやくここからが本番だ。



 それにしても………。



 はぁ…、長かったな、ここまでが。


 なんだかエライ疲れちゃったよ…orz。


 だが!、私たちの戦いわまだまだ続…って、これは違うか…。


「そ、そうだクニオ、ボサッとしてないで気合い入れて行くわよっ!」


「ええっ!、私ちゃんとやってるでしょ?。ちょっ、まさかオチを私に押し付けるつもり?!」


 ヒドッ!!!。





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