54・拠点攻略戦
すいません、
結構煮詰まってしまったので少し冷却期間を置いてみたのですが、そしたら危うくエタりそうになりました。
とりあえず完結目指します。
「中佐、占術局から通信が来たよ。
目標は変わらず覇王樹の下だってさ」
そう言って副官のクニオが本国からの定期連絡を持って来た。
その時セティカ・ビーソン中佐率いるテラリス部隊は、壁のように立ちはだかる覇王樹本体を見上げて停止していた。普通にデッカいし…。
そしてクニオの言葉につられた一同は覇王樹の足元。野太い根っこが大荒波の様にうねって絡まる地面(つーか根っこだ)を凝視した。
テラリスでは占い系の魔法やスキルを使った高度な予見システムが確立されていた。
他国にほんの半歩でも先んじる為に、莫大な予算と人員が投じられているのだ。そのコストは馬鹿にならないが、そうするだけの価値はある。
現に今ここで誰よりも早くターゲットを捕捉しているのが何よりの証拠。
ただ、そんな事より。
ここ?。
こん中に入んなきゃいけないの?。
もう一度兵士たちはターゲットのいると言われる覇王樹の根元を見つめた。
(コレ結構奥ありそうだし、かなりヤバそうだぜ…?)
さすがのテラリス兵士もこんな先の見えない狭い空間へと、気軽にホイホイ入っては行くのは気が引けた。ちょっと考えてしまうレベルだ。
とその時、突如部隊の頭上で轟音が鳴り響いた!。
まるで彼らの躊躇いを嘲笑うかのように。
そして直後、爆発と共に巨大な枝々が崩れ落ちて来た。
?!!!!!。
いきなり意味が分からない!。
一瞬思考は停止しかけたが体は即座に反応した。
「た、退避、退避だぁー!」
「なんだって言うんだよまったくっ!」
と言うか罠だろ!、これは!。
そうなんです。
テラリス部隊の上空、哨戒の届かない数百m離れた場所からネビエラが【獄滅龍破】を撃ち込んだのだ。
ただし【獄滅龍破】の射程距離は実はかなり短い。
そらこんなヤバい魔法を遠距離で使えるなら皆こぞって獄滅龍破を使うだろう。だからそこはバランスを崩さない様にちゃんと調整が成されていた。
のだが、さすがにこれほどの強力な魔法、使い方によっては甚大な被害を与える事が可能であった。
例えば今回の様に、上から下に向けてブッ放し、巨大な枝の破壊を誘発する、そんな事が。
てな訳で現在テラリス部隊の頭上には、大木が轟音を上げて降り注いでいるのであった。
ネビエラが、漢らしくも大嗤いしながら解き放った【獄滅龍破】。
それは巨大な木々を手当たり次第薙ぎ倒すと、崩れ落ちる大枝がさらに下の枝にぶつかって雪だるま式に崩壊を連鎖させたのだ。
とは言え、免悟たちとしてもこの攻撃が上手く行くかどうかはやってみなけりゃ分からなかった。とりあえずやっちまえ?的な軽いノリでの凶行だったのだ。
それ故に、一時部隊はバラバラに離散したがケガ人はともかく死人は一人もいなかった。
一見すると超無慈悲な光景だが、所詮は運頼みのランダム攻撃。落ち着いて対応する事が可能だった。
それに個人用の防御魔法なら瞬間発動出来るし、さらにテラリスの兵士は対迷宮用に浮遊系魔法を装備していた。落っこちても死ぬ事は殆んどない。
なので実はむしろ【獄滅龍破】を撃ったネビエラの方がヤバかったりする。
と言うのも覇王樹本体のすぐ横で、攻撃的な大魔法が詠唱されれば当然の事ながら覇王樹も危険を感じる。
迷宮主の防衛機能が発動し守護者が召喚されるのだ。
覇王樹の危機に反応して顔の無い、手足と胴体だけの緑色の化物が大量に沸き出て来る。
だがコレは免悟たちもすでに経験済みだ。初めての時はマジでビビったが、気獣が居れば何とかなる。
【縮尺】で詠唱短縮して【獄滅龍破】を撃ったら即退散だ。
まあ覇王樹も基本的には植物だ。動物たちに傷付けられる植物の悲哀は宿命とも言えよう。本体に直接の被害が無ければそれほどしつこくはない。
とは言うものの…。
そんな自ら危険な目に合ってまでして戦果の乏しい嫌がらせをする必要があるのか?。と思われるかも知れないがそれは有るのだ!。
何しろ命懸けの戦争だ。例えほんの僅かでも、積み重ねたアドバンテージがどんな所で現れるかは分からない。
少なくともそうする手段や時間もあるのにやらない理由はない。常に罠の存在を警戒させ、神経を磨り減らせておくべきだ。
こうして一種の空爆攻撃は、テラリス部隊の一時的撤退と言う結果をもたらした。
免悟たちは敵の混乱に乗じ、さらに隙を突く気満々でいたのだが、テラリスは脱兎のごとく見事な逃げっぷりを見せた。そして充分に距離を取ると、しっかり時間を掛けて体勢を整え直したのだった。
テラリスとしてもなるべく速やかにエダルを確保したいはず。なのにそこを無理せず一旦退ける冷静さがイヤんなっちゃう。
逆に来るなら早く来いよ!と思ってしまう魔導連盟の方が焦らされた格好だ。(自分でやっときながらなんだが)
こうして魔導連盟の最後の小細工が終わった。
さて、あらためてテラリスは覇王樹の側まで進軍を開始した。仕切り直しだ!。
覇王樹の根っこゾーンへの進入にちょこっと抵抗あったテラリス兵たち。だがそこは所詮殺し殺されてなんぼの兵隊稼業。行けと言われれば黙って命晒しますよ!。
どうも良くわからないノリだが、そんな事よりテラリスは部隊を三つに分けた。
入口はそこかしこに口を空けているし、内部だって根っこが入り組んでいるだけで通路になっている訳ではない。結構横道だらけだ。わざわざ部隊がひと固まりになって行動する必要もない。
どちらかと言えば、むしろたった一つの罠で全滅を避ける為に三部隊にリスクを分散したのだ。
兵数的には完全に圧倒していると考えられるので、最悪一部隊くらい失っても残りで勝てる、と言う判断だ。
一応指揮官セティカのいる本隊を最大勢力として中心に置き、左右両翼が先鋒となって展開。
かくして各部隊は根っこゾーンに突入した。
通常の迷宮ゾーンより少し薄暗いが、迷宮産の発光植物が仄かに内部を照らし出す。その中を斥候が時間を掛けて探査しつつ進んだ。
そして分かったのは、そこはまさしく罠だらけだと言う事だ。
根っこゾーン内部には「爆雷」と呼ぶ地雷型魔導具と、設置型陣魔法【泥人形】が各要所に配置されていた。
さらに【関知陣】と言う遠隔の索敵魔法陣が敵の侵入をモニターしていた。
テラリスの斥候はそんな罠の大半を【探査】で丁寧に潰して行った。
【探査】は索敵にも使われるが、本来は各種センサーを取り揃えた調査用魔法だ。なのでじっくり時間を掛けていいのならば、隠された地雷や魔法陣も見つける事が出来る。
ただ移動しながらとか、いち早く危険を察知するには難易度が高いだけだ。
そんな感じでテラリス部隊がじわりじわりと包囲の手を伸ばし始めた。そしてそんなテラリスのやり口を確認すると、ついに魔童連盟も動き出した。
テラリスには敵の動きが一切分からないが、魔童連盟からはテラリスの動きが【関知陣】でだいたい分かる。(関知陣も発見され次第潰されるが、テラリスが前進する以上その現在地を推測する事は容易だ)
「ハッ、やーーっと俺達の出番が来たか!、いくぜヤロー共ッ!」
「「「「おおぉおーー!!!
」」」」
エルドウィンが皮剥ぎ団と、新たに編入した奴隷戦士10名を率いて進軍した。
その後ろからエダルが魔童連盟の子供らに守られながら、後方支援として付いて行く。
テラリスが部隊を分けたのなら、魔童連盟はそれを全員で各個撃破だ。
ちなみに免悟と気獣たちは機動力を生かしてテラリスの後方撹乱&サポートだ。
いつの間にか免悟と気獣たちは「飛行系」と言うくくりで完全にセット扱いされていた。まあ便利なんだから仕方ない。(…)
エルドウィンが先頭に立ち、魔童連盟のメンバーは意気揚々と洞窟内を行進した。勝手知ったる自分らのテリトリーだ。
時々迷う奴もいるが、特殊なフィールドであればあるほどホームの強みは増す。その心強さはいとしくてせつないくらいだ。(by篠原涼子)
一方テラリスも各部隊が互いにサポートし合える距離を保ちながら進んで来るが、時間が経つごとにだんだんと足並みに乱れが見え始める。熟練の部隊と言えど特殊地形を進むのは一苦労だ。
それに各進路によっては罠の数も違う。飛び出る部隊もあれば遅れる部隊も出て来る。
そしてそんな瞬間的に孤立した部隊が狙い目だ。
エダルから防御力UPの全体魔法を受けると、エルドウィン率いる前衛部隊は攻撃を開始した。
テラリスの斥候は、洞窟内では完全に部隊と共に行動していた。洞窟内は危険なので広範囲に散らばる訳には行かない。
そんな状況だから、かなり接近するまで察知するのは難しい。
しかも見通しが悪いので音による索敵だ。味方の出す音の方がうるさいが、そこはプロだからじっと我慢です。
「?、敵襲!、来るぞォッ!!!」
狙われたのは左翼部隊だ。
右翼が少し遅れ、逆にこの左翼が前に進み過ぎてしまったのだ。
解除をしていた解体役の目の前で【爆雷】が次々と発動。兵士数人を巻き込む。
斥候の警報にテラリスの戦士が迎撃体勢を取った。
そこへエルドウィン率いる戦士隊が曲がり角から現れて殺到した。
「ッラアアァーーー!」
「「「死ねゴラァァッ!!!」」」
各所で未解除の【泥人形】の魔法陣からゴーレムが現れる。
両者いきなりの総力戦に突入した。
エルドウィンたちが身体強化を纏って突っ込む。テラリスも同じく強化してそれに応じる。互いに魔法の光がチカチカと閃いた。
剣と盾、甲冑が激突に悲鳴を上げた。
洞内に戦場の異音がこだまする。
敵前に迫ったエルドウィンは、敵の突き出す剣を払い除ける。そして勢いそのまま前蹴りで敵の盾ごと蹴り飛ばした。目の前の敵がふっ飛び、その後ろの敵も巻き込んで転がった。
エルドウィンの左右でも同様に敵味方がぶつかり合い血を撒き散らす。
エルドウィンの前に空いた空間を新たな敵影がすぐさま埋めると、強化された突撃で強引にエルドウィンを襲った。
エルドウィンは必死にその場で防御に徹する。密集し過ぎて前に進むしか身動きが取れないのだ。
幸い押し込まれようにも後ろの味方につっかえてサンドイッチ状態だ。そしてすぐに強化が切れた敵は突っ込み過ぎたせいで味方の横槍で切り刻まれた。
すかさず今度はエルドウィンが空間の隙間に飛び込み、交戦中の敵に剣を叩き込んだ。
「ッギャーーハハハハッッ!」
狭い洞内で始まった戦闘はすぐに横道へ溢れた。
テラリス兵は個人の技能を生かそうと距離を取ろうとするが、魔童連盟は逆に間を詰めて単純な力勝負に持ち込もうとする。
兵数的には魔童連盟の方が少しだけ多いが、環境が邪魔をしてそれほど問題になる差ではなかった。
それよりは奇襲を仕掛けた魔童連盟に勢いがあり、テラリスの方が練度は高かった。テラリスが魔童連盟の勢いある強襲を上手く受け流していた。
状況は一進一退ほぼ互角。
そんな中エルドウィンはなるべく単騎でバラけないように集団で行動した。そして頭部だけを庇いながら暴れ回った。
気が付けば手足はあちこち傷だらけ。防具は所々千切れ、盾を持つ手は疲れて震えた。
(新敵、襲来、全員退却!)
その時、魔童連盟のメンバー全員にエダルからの通信が行き渡った。
単語形式の簡素な信号が退却時期を告げる。恐らく別のテラリス部隊が援軍に駆けつけたのだろう。潮時だ。
そこへ今まで待機していたシントーヤが【狂化】してやって来た。
多少味方を突き飛ばしながらもテラリス兵士の中に突撃する。マジで兵士が吹っ飛ぶ。
するとシントーヤだけを残して魔童連盟が退却を始めた。
背中を見せる連盟メンバーを逃がすまいと追いすがるテラリス兵。だが仲間との連係を越えて飛び出したテラリス兵に、突如現れた気獣がカウンターをお見舞いした。
気獣が高速で動き回って敵を撹乱する。
その間に連盟メンバーは自力で立てない仲間を抱えて引き揚げる。
一人残ったシントーヤが魔人のように暴れまくった。
【狂化】の使用者。それは本来モンスターに等しい存在だ。
周囲で動く全てを敵とする、そんな欠陥を得る代わりに、多人数でようやく仕留められるようなモンスターの力を授かるのだ。
ところで…、突然ながらここで魔法の重ね掛け=コンボの話になるのだが。
基本的に重ね掛けは、身体強化に関わらず限界値が定められている。つまり、いくら身体強化を重ねても大抵は種族的な常識の範囲内でしかパンプアップされないのだ。
なので同系の魔法を重ねるよりは、関係ない別の魔法で相乗効果を狙う方がむしろ効率が良い。
ところが、だ。
どう言う訳か、狂化したシントーヤにはそんな通常あるはずの制限がなかったのだ。
正確に言うと、第三者がシントーヤに付与する場合、制限無く普通に加算されるのだ。(シントーヤが自分で掛けると制限は掛かるが)
恐らくそれは【狂化】使用者なんかに強化魔法を掛けたって敵に塩を贈るようなものだからだ。そんな想定外のコンボ規制など考える必要もなかったのだろう。
つー訳で、要するに【狂化】中のシントーヤに【増撃】を付与するとそのままさらに強くなるのだった!。
こんなのいいのだろうか…。
だって、シントーヤは敵味方の区別がつくのだよ…?。
重量軽減効果の付与された重甲冑を纏い、大斧二本を両手にぶら下げたシントーヤはマジ無敵。まさにチート君、と言うか普通にヤバいボスモンスターだった。
つーかコイツはどこまで人間離れするつもりなんだろうか?。ネビエラの代わりに心配してしまう。
そんな狂戦士シントーヤが疑惑の最大一撃を解き放った。
それをモロに食らった兵士は、盾も鎧も関係なく瞬時に断ち切られた。体が真っ二つに千切れ、血肉を撒き散らしてふっ飛ぶ。さらに勢い余って振り抜かれた大斧は洞窟の壁(根っこ)をも破壊した。
洞内に厳かな震動が走る。
一瞬戦いを忘れるほどのあり得ない衝撃音だ。
そのあまりに非常識な破壊力にテラリス部隊はあっさり退却した。
まあ冷静な判断だが普通にビビったのだろう。
だいたいこんな狭い所じゃあ強力な魔法は殆んど使えない。あんな破壊神みたいなの相手に地力だけで何とかするなんてのは不可能だし。
とは言え、現実的に【増撃】の効果時間は約2分。そして任意の攻撃五発を強化出来るだけだ。
もしテラリス兵士がもう少し無謀だったりモタついたりしていたら、さすがに増撃五発くらいはすぐに使い切っていたはずだ。
そしたらシントーヤのマジ無敵モードは意外と短い事に気付けただろう。そうでなければ最初からシントーヤを投入してるはずだ。
でも初見でそこまで敵の底を見極めろと言うのは無理な話だ。何にせよ兵士が生きて帰って来る方がよりベターだし。
そんな訳でヒット・アンド・アウェイをする上で最も難しい退却時の対応を、破壊神シントーヤにお願いする作戦は上手くいった。
この後、免悟たちはもう一度この戦法でテラリス部隊と交戦した。そしてその後テラリスを最終決戦場に誘い入れるのであった。