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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
52/64

52・その前にゲリラ戦すか?


 さて、このチェカトリアの森迷宮に来て約1年、能力的に一番成長したメンバーはと言うと、それはフェイジだった。


「ふーーん、フェイジ…。

 このエピソード必要?」


 とか思われるかも知れないが、ちょっと我慢してお付き合い頂きたい。

(いやっ、もしかしたら期待してる人もいるかもしんないじゃん、掘り起こそうよ新たな需要をさ!)byフェイジ


 とにかくまあこの迷宮と言う環境がレンジャー向きってのが大きいが、それにしてもフェイジは予想以上に大化けしたのであった。そう、一流の暗殺者アサシンとして……。


 なんて言うか、特にエルドウィンが調子に乗ってアサシン向け知識&装備、そして訓練をバンバン叩き込んだのが原因だ。

 そこに元々の素養があったもんだからその成長は著しかった。


 もはやフェイジのストーキング能力は半端じゃない。はっきり言ってこの迷宮内で一旦姿を見失ったら最後、生半可な索敵能力じゃ大抵背後を取られてしまうだろう。


 何しろ完全に隠密に特化しているのだ。装備する魔法もそれほど特別なものではないが、魔力消費の少ない高効率な小魔法ばかり。

 そのどれもが一つ一つは大した事ない魔法でも、全体的な相乗シナジー効果を考えて装備されていた。


 まあ元々フェイジは盗賊みたいなものだし、隠密能力についてはすでに凄かった。なのでフェイジがここに来て爆発的に成長を遂げた部分、それは索敵能力だ。


 一般的に良く使われる(小)魔法【索敵】。これは何となく敵対行動を取る対象を魔法のシステムが自動で判断してくれるので楽チンなのだが、その分正確性には欠ける。

 結構サイズが小さかったり隠れるのが上手い相手だとスルーされる確率が高いのだ。


 それに比べて上級者が良く使用する【探査】。これはかなり詳しい各種データを拾い上げてくれる。

 ただこれは敵かどうかの判断は自前でしなければならない。そのデータ量は膨大かつ詳細だが、取捨選択は使い手任せ。要するにプロ仕様なのである。


 そんな高難度の魔法をフェイジはあっさり使いこなしやがったのだった。

 フェイジが言うには、別にそれほど難しくはないらしい…。ま、出来る奴の言うセリフだよね!。


 【索敵】なんかは誰が使ってもほとんど同じなのだが、【探査】みたいなクセの強い魔法は、使い方にかなりの個人差が表れる。

 同じ【探査】を使って接近し合っても真っ先に見つける奴もいれば、【索敵】を使うよりも敵を見つけるのに時間が掛かる奴、など…。


 そしてフェイジはまだ子供なので戦闘自体はイマイチだが、体が小さくて体重が軽いと言うのは隠密行動するにあたってむしろメリットでしかない。

 よって、背後に忍び寄ってしまえば後は何とでもなる。実際エルドウィンが買い与えた突き刺しの魔法剣(短槍?)は、大抵の防御を貫くクリティカル系の武器で、もはやフェイジは暗殺者街道まっしぐらだった。


 てな訳で、テラリスが魔童帝国の最終拠点に到達するまでの残された丸1日は、フェイジを中心にゲリラ戦を仕掛ける事に決まったのだった。

 まあ正確には敵の斥候を間引きするくらいだけど。


 そのメンバーがフェイジと、そして免悟&気獣エアハウンド×7の飛行部隊だ。


 なぜ全員でやらないかと言うと、流石に相手との兵数差がありすぎて半端ない反撃が予想されるからだ。


 奇襲を掛けたら速攻で逃げる訳なのだが、追いかけて来る敵が少数なら罠や反撃を警戒するだろうが、大勢の場合はあまりお構い無しに全力で追いかけて来る。

 地の利がこちらにあるとは言え、移動スピード自体はお互い同じだ。そこでもし逃走中にモンスターと出くわしたり、何らかの不運に出くわせばそこで戦死確定だ。


 敵一人を殺しても反撃食らって死んだら単なる一対一の交換に過ぎない。兵数的には倍くらい差があるので、一人で3人は殺せなきゃ割りに合わないのだ。

 逆に言えばテラリスは一人一殺で勝利確定なのだ。


 なのでフェイジ以外は言わば逃げ足の早いメンバーだけを厳選したのであった。これはみんなで議論し合って決めた事だ。


 免悟の土産話は正確に伝えられ、テラリス部隊と真正面からやりあったら普通に全滅するだろう事が納得されていた。


「えー、そんな訳で帰って来てそうそうで悪いんだけど、もう一度出撃して来てよ免悟」


 う、ぐぐぐ…、いや分かってるよ!。分かっちゃいるがこの扱い、まさに…!。


「あっそうそう、理不尽大火山はこっちで処理しておくから心配すんな?」


「不条理大魔王もね!」



 えっっっ!!!。



 処理されちまったの?大火山…。大魔王も?。

(このボケちょっとひねり過ぎてないか?、心配だ…)



「くそ…、先にボケを封じられてしまうとは…。(言いたかったのに!)

 それにしても、また出動か……」


 しかし、主人公に出番があるのはおかしくない。おかしくはないのだ、そう二度呟いて免悟は立ち上がった。


「ま、しゃーねえそれじゃあ行くぞ1号2号」


 気獣の待機組1号2号はいつの間にか免悟のお気に入りになっていた。なんだか流れ的に言うことを聞いてくれるようになったので、免悟としても指名しやすいのだ。


『コイツ完全に俺たちの名前を覚える気ないな、つーかむしろ名前を1号2号に改名させるつもりなんじゃねえか?』(1)


『でもご主人様にちゃんと呼んで貰えればそれでいいじゃん、コイツになんて呼ばれようとさ。それに誉めて貰えるって話だし♪』(2)


 そう、免悟たちが帰って来てすぐに偵察の情報は手渡された。そして大蛇竜が呆気なく殺られた事と、そもそもなーんで大蛇竜がそこにいるの?って話になった。


 つー訳で気獣のリーダー、グリドラの監督責任が問われたのだった!。


 いつもと違って中々エダルの元に来ないグリドラを、無理矢理エダルの前に引きずり出す。

 可哀想なくらい震えて這いつくばるグリドラ、そしてその尻を蹴る免悟(←こいつ鬼!)。


 そうは言ってもエダルは声を張り上げて怒ったりはしない。エダルはあまり他人を怒ったりは出来ないのだ。

 だって基本的にエダルはいつも怒られる方だからね。(基本ドジっ子なのです)


 だけど気獣たちの主人はエダルだ。叱るべき所はエダルが叱らなければならない。


 エダルはその憂い湛える瞳を一瞬ギュッと閉じると静かに口を開いた。


「ダメでしょグリドラ、ちゃんと免悟の言う事を聞かなきゃ。

 途中で仕事放り出して遊びにいっちゃ、ダメじゃん…」



 アウゥゥッ…!。



 何でも無いようなセリフだが、いつも優しいエダルが掛ける言葉としては最大級のお叱りだった。

 一応、神にも等しい存在が自分の行動を否定したのだ。甘やかされて育てられた気獣にとってはこれはキツい、らしい。


 ま、待って下さい、違うんです。そんなつもりじゃないんです、イヤだ、こんなのウソだ!。


 グリドラが悲鳴のような掠れ声を上げて、プルプル震えながらエダルの足下に這い寄る。

 気獣リーダーとしての威厳とか外聞はもう関係ない。ガン泣きしてエダル裾のにすがりつく。

 グリドラの、自らの罪を悔いるかの様なもの悲しい鳴き声が辺りに響き渡った。


「グリドラ……、」


 するとエダルもそのあられもない姿に感極まり、目に涙を浮かべてグリドラを抱き寄せた。それを横で見てた一同も貰い泣きだ。

 ネビエラなんか目を真っ赤にして上向いて必死に堪えているし。(わ、私泣いてないもんっ…!)



 ん…?。

 ナニこの茶盆…。(免)



 血も涙も無い主人公・免悟にとってはいまいち良く分からない状況だ。ただ空気は読めるので、仕方なく場が落ち着くのをひたすら待つ。

 理解は出来ないが状況把握は出来るのだ。どうにか常識の範囲内に片足だけは突っ込んでる感じだ。


 ちなみにみんなエダルとグリドラの側に集まって励ましの言葉を掛けている中、エルドウィンもぼんやり所在なげに突っ立っていた。


 一瞬視線の合った免悟とエルドウィンだが、「あーいるよな、一人だけ他と掛け離れた態度取る奴…」なんて他人事みたいに思い合ってたりする。

 残念な事に、二人とも自分が血も涙も無い奴だと言う事には気付いていなかった。


 その後、待機組1、2号につつかれて思い出した免悟は、エダルからお褒めの言葉が頂けるよう進言しておいた。

 その話を聞いたエダルはそれまでとは一転、自分が誉められたかのように破顔一笑した。


「えーっ!、ハウロンとベイダル活躍したんだっ?」


 エダルが超嬉しそうな顔して二匹の元に走って行く。抱きつかれて誉められた二匹は、もう嬉ションしそうなほど喜んでエダルを舐めまくるし…。

 そしたら何故か我慢しきれなくなった他の気獣も寄って来て一緒に大騒ぎし始めた。

 唯一グリドラだけがその輪に入りきれずにしょっぱい顔してやがる。ヤ〜イ!。


 ところでこの待機組1号2号の本名はハウロンとベイダルって言うらしい。

 もちろん免悟にはどっちがハウロンでベイダルかは分からない。たぶん永遠にどうでもいいんじゃないだろうか。


「と言うか、一号郎イチゴローとか二号郎ニゴローでいいんじゃねーの?」(免)


『『ふざけんなっ、お前三辺くらい死んで来い!』』(ハ、ベ)



「さあそろそろ茶盆?、はそれくらいにしてお仕事始めよ?」



「「「「は〜〜〜〜い!!!」」」」



 この数年ですっかり保母さん役が板に付いたホノちゃんから巻きが入る。はい仕事仕事!。




 そんな訳で、さっそくフェイジと言う名の悪魔が解き放たれた。「テラリスを阿鼻叫喚の嵐に陥れる地獄からの使者フェイジ!」(免)


「お願いだからそう言う煽りやめてくんない!?」


 まったくやりにくいわ!。これから殺し合い始めようってのにチャカされたら気分削がれるわ〜とか言いながらフェイジは森の奥に消えて行った。


 一応、すでにここはテラリス部隊がいると思われる地点のすぐ目の前だ。(巻きで来ました)

 テラリスの移動手段はごく普通の徒歩なので、随時偵察の気獣によりその現在地が捕捉されている。


 そこへ気獣がフェイジと免悟を交代で背負ってやって来たのだ。

 流石に大人は無理だがフェイジくらいの子供なら何とか運べる。

 見た目は巨体だが気獣の体重は実は軽い(30〜40?)。なので運搬能力もそれほど大した訳ではないのだ。


 さて、免悟の煽りにぶつくさ言うフェイジを見送ると、免悟はほっとため息ついた。


 フェイジ気合い入っててなんかこわ〜い…。


 なまじヤバい能力持ってるだけにバカに出来ないものがあった。

 免悟も少し前に一度だけフェイジと「かくれんぼ」をした事がある。その時は本気になるのは阿呆らしいので適当に相手したのだが、きっちり背後から王手チェックメイトを食らってしまった。

 その際エルドウィンから、プロの斥候に通常の索敵は通用しないとの注意を受けた。


 魔法を駆使するこの世界の隠密は、同じ専門の索敵使いでないと対処(発見)が難しいらしい。

 団体で行動するか、初撃を緩和する対策(軽減魔法とかアイテム等)をしておけって訳だ。


 まあ、免悟も遊びとは言えフェイジに遅れを取ったのは屈辱だったが、そこは感情を押し殺して大人の応対をしておいた。「フェイジやるじゃん!(髪の毛グシャグシャ)」みたいな…。

 ただ今の所その機会はないが、次があれば全力でもってぶっ潰す所存だ!。(全くもって大人げなし!)


 と、話は逸れたがとりあえず上級の斥候レベルが事前に知れたのはラッキーだ。

 まあ迷宮の探索者には色んなタイプのパーティーがいるので全てそんな斥候ばかりではない。ただ、テラリスの斥候はかなりの手練れだと思われる。


 当然ながら斥候がその能力に特化すればするほど戦闘的には紙装備になる。それでもその斥候が手強いと言うのなら、もちろんそれは素で強いって事だ。

 そしてテラリスの斥候はそれぞれの連係もばっちりだった。流石にそんな中へ神童とは言え、フェイジを一人で放り込む訳にはいかない。何らかのサポートが必要だ。


 そう、連係の網に穴を開ける撹乱役。

 つまり免悟と気獣×7だ。


 高速機動で引っ掻き回し、フェイジの仕事をやり易くする。そしてあわよくば直接殺っちまう。

 と言うか免悟はやる以上マジで殺るつもりだ。やって出来なくはない。前回も殺せてはいるのだし。


 それに多少厳しかったとしても、フェイジが活躍すればいずれタゲもそちらに移る。そしたら今度はフェイジを囮にして免悟たちがメインで狩ればいい。


 別に張り合う気はないんだけどフェイジには負けられない!。いえいえ、やるからには真面目に全力を尽くすのがモットーなだけです。嘘じゃないです本当です!。では免悟行きまーーす!。


 




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