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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
51/64

51・無題

 大蛇竜が倒れたのを確認すると、テラリスの指揮官セティカ・ビーソンは減った斥候を補充して、周囲の警戒を厳重にさせた。


 もうおそらく罠は無いだろうが、引き続き第6班に【対抗魔法カウンターマジック】の備えだけはさせておく。

 他の兵士たちは自主的にそれぞれの後始末に動き出して行った。


 ところでこの「テラリス・森迷宮探索部隊」は、基本あらゆる状況に対応出来る装備を揃えていた。

 器用貧乏な感じもするが、なんと言ってもそれを可能にするのが迷宮核を模して作られた「人工核」である。


 スキル『魔力吸収』を持ち、迷宮核ほどではないがそれでも単体で蓄えられる魔道具としては破格の魔力貯蔵量を誇る貴石。

 それが迷宮王国テラリスが独自に作り出したプチ迷宮核、「人工核」だ。


 錬金術師に言わせれば、現時点では手間もコストも高過ぎて割に合わない代物らいしいが、こんな便利なアイテムがあれば戦争ははかどる。しかも使用場所が迷宮であれば尚更だ。

 使った分の魔力補充も自動だから使わなきゃ損なくらいだった。


 当然ながら回復ポーション同様に、連続使用時の効果劣化現象(クールタイム)が存在するが使い勝手は悪くない。

 開錠文キーワードを唱えてタッチすれば誰でも使える。


 ただしこの人工核、テストや国内での限定使用はあったものの、国外での実戦配備は初めてだった。

 当たり前だが超貴重アイテムなので管理は厳重になる。なのでこの人工核の管理責任者と言うのが存在した。


 管理官デルク・ジモンズ少佐(30)。

 この探索部隊の副官でもある人物だ。


 セティカには正式な副官が既にいるのだがこれほどの重大任務だ、指揮官をしっかりサポートさせたい。と言うか、もちろんセティカを疑う訳ではないが、万が一のために監視監督する憲兵がもう一人の副官として配属されていたのであった。


 どんな組織でもそうだが派閥みたいなものは何処にでも存在する。

 自分にそんな気が無かってもどこかの派閥に属してると思われていたり、いつの間にか敵視されていたりする。

 こんな一大事の時にも、国益とは別の思惑で横槍を入れて来る者がいるのだ。


 そんな訳で大蛇竜戦の後始末をしてるセティカの元に、件の管理官デルク・ジモンズ少佐がやって来た。


「ビーソン中佐!。

 大蛇竜の解体を許可したと聞いたが本当か?!」


「ああ、申し出があったので許可した」


「何を考えている?、今は一刻を争う時だ、すぐに止めさせて出発の準備を手伝わせたまえ!」


 ジモンズ管理官は背後に直属の護衛2名を引き連れ、暑苦しくセティカに詰め寄った。


 そう。このジモンズと言う男は、人のやる事なす事全てに口出しして来る面倒くさい人間だった。

 一応階級的にはセティカの指揮下に入る為一つ下の彼が選ばれたのだが、家柄や属する派閥的にセティカより発言力は高かったりする。


 ちなみにジモンズは危険な前線で戦闘参加した経験は無いはずだった。


「剥ぎ取るのは主要な部分だけだ。それに彼らは負傷者の回復は手伝えない、ちょうど手が空いている者たちなのだよ」


 この探索部隊は軍だけでなく、探索者ギルドと言う組織からも人員を派遣されている混成部隊だった。

 この探索者ギルドとは、テラリスが独自に組織している団体で、テラリス所有の迷宮に潜ってモンスターや資源を狩猟採取する人間を管理していた。


 いわば国営の冒険者ギルドみたいなもんだ。


 今回この部隊の斥候は、主にその探索者集団がその役を担っていた。

 迷宮に特化した探索者は、この地では軍の斥候より間違いなく経験豊富であった。


 そしてその探索者にとって、大蛇竜をそのまま放置して立ち去るのは余りにも勿体ない、と言うのだ。

 しかも今この場に捨て去れば、間違いなく他のビブリットのハンター達にごっつぁんされてしまう。

 それはどうしても悔しいらいしい。


 なので時間厳守で、お荷物にならない主要部分だけ、と言う事で許可したのであった。


「わがテラリス部隊のアドバンテージは時間だ。各国に先駆けて先頭を走ってる事にこそ強みがあるのだ。それを貴女は無駄に浪費すると言うのか?!」


 この男、本当に箸の上げ下げにまで細かい注文を付けてくるのだが、何となく一理ありそうな事を言うから余計に困る。


「指揮官は与えられたあらゆる装備、人員、そして時間までも有効に利用し、戦を有利に進める権限が委ねられている」


「素材の剥ぎ取りなど個人の私欲ではないか!」


 ジモンズが大声を上げるせいで、隊員達が足を止めてこちらを見始める。

 本来の副官、クニオ(女)がコレに気付き急いでこちらにやって来る姿が見えた。


「だが、出発にはもう少し時間が掛かるし、それまで手の空いた者がいるのも事実だ。休息よりそちらを優先したいと言うのだからしょうがない。

 それに私は部隊の士気と言うのも重要だと考えている。これで士気が上がるのなら安いものだよ」


「士気!、そんな漠然とした感覚で兵を運用するとは少し軽率過ぎないかね?」


 別にセティカもなあなあで甘やかせている訳ではない。特にこの部隊のメンバーは熟練の精鋭だ。自らの役割くらい言われなくても分かってるし。

 それに兵士と言っても人間だ、感情はある。そんな人間の集まりである軍隊には士気、つまりモチベーションだって存在する。

 そしてそれが存在する以上低くては困るし、高いに越した事はないのだ。


 あらゆる全ての手段を用いて目標達成率を上げて任務にあたる。このセティカのやり方は今さらどうこう言われようと変えるつもりはない。


 そして、今この男と議論を深める気も一切無い。


「隊長……!」


 そこに本来の副官、クニオ(女だよ)がセティカの耳に何事か囁いた。

 セティカはそれに頷くとジモンズに手を振ってその場を立ち去る。


「少佐、私はこれで失礼する。

 あまりこんな事に時間を浪費する訳にはいかないからね」


 背後でジモンズが何か喚いていたが無視だ無視!。


 ちなみにクニオがこっそり何を囁いたかと言うと、何も大した事は言ってない。

 なんか用事が出来たよ的な素振りをしてみただけ。早くこの場を立ち去りたかっただけだ。



「あ〜〜うっざッ!。

 何なのあの男!、お前の口出しが一番時間の無駄だわ!」



 セティカとクニオは肩を並べて歩きながら、こっそり怒りを爆発させていた。


 いくら特別な役割を負っているとは言え、上官の方針にいっちいち文句を付けて来るとは貴様軍隊をナメとるのか!?と問いたくなる。


「任せといて、次の戦闘でこっそり殺して捨てとくから!」(冗談です)


「マジで!?。絶対バレないよう確実にやってね♪」(冗談…)


「大丈夫だよ、意外と良くあるんだからこう言う事って」(冗談ですよね?!)


「だいたい大蛇竜が出た時も腰抜かして地べた這ってた奴が、屁理屈だけは一人前抜かしやがるんだから!」


「ああ言う馬鹿は死ななきゃ直らないよねぇ〜。

 つーか、死んでくれ!」


 ちなみにセティカは元々探索者出身で、クニオとはそこからの付き合いであった。

 今でこそ立場は違えど、二人の時は親友同士の喋りで話している。


 こうしてやたらと物騒なガールズトークが延々と続いていくのであった。

 何となく空気を読んだ隊員たちは、誰一人として近付く者はいなかったと言う。




 なんか、こいつら想像してたのとキャラ違う…!。







ーーーーーーーーーーー






 一方、偵察に出ていた免悟は、ようやく皆のいる拠点に帰って来た。


 免悟は巨大な木の壁が聳える開けた空間に辿り着いた。

 ここが免悟たちが最後に築いた拠点の入口だ。


 この森迷宮において、中心に向かってずっと進み続けると最終的には壁にぶつかる。

 基本的にこの森迷宮に行き止まりなんかはないので、もしも突き当たりに出くわしたのならそこは迷宮の中心だ。


 つまりそれが「覇王樹アヴァンダル」の主幹だ。


 覇王樹の主幹は余りにも大きいので実際に壁としか認識出来ない。しかも複雑に入り組んだ枝々が視界を遮るので、全体像はさっぱり見えないし。

 ちょっと壁に沿って進んでみればその壁が曲線を描いているのが分かるくらいだ。


 ところでここら一帯は、元々魔法猿と言うイカれた化け猿の縄張りだった。


 このモンスターはその名の通り、一応何種類かの魔法が使えるのだが(その使用回数は極めて少ない)、むしろ馬鹿力に物を言わせるイケイケの武闘派モンキーだった。

 そしてやはり当然ながら鬱陶しいくらい群れるタイプだ。


 これまで免悟たちは拠点を移動するにあたり、常に何らかのモンスターの縄張りを力ずくで奪って来た。

 だがこの魔法猿の縄張りは、今まで拠点を移して来た中でも最も激しく派手な戦いとなった。


 当然の事ながら迷宮最深部のモンスターだ、弱い訳はない。


 まあ大抵のモンスターはスキル『魔力吸収』など持ってないので、中心だろうと端っこだろうと泉との距離に関係なく強いモンスターはいる。だが迷宮には迷宮関連の鉱物や植物が育ち易い。

 特に中心に行くほど貴重な迷宮特産物が多くなるし、結果的に競争も激しくなるものだ。


 そんな迷宮のど真ん中に生息するモンスター、やはり強敵だった。


 エダルがダンジョンマスターの能力全開で魔法を連発しまくり、完全に魔法猿をおびき寄せた所でネビエラの獄滅龍破をブチかました。

 たった数行でやられちゃいましたけどね…。


 馬鹿は行動パターンが単純だから対策が立てやすかったのもある。


 ただ問題はあまりにも派手にやり過ぎたせいで魔法猿は撃退したものの、近隣モンスターを激怒させる大騒ぎとなった事だ。


 と言うのも、覇王樹はスキル【魅了】ってのを所有していた。そしてそのスキルによって森の生き物に、住み処としての強い愛着心を植え付ける事が出来るのだ。

 知能が低い奴ほどその効果は高く、要するに森を壊すとバカが怒ってやって来るのだった。


 つってもみんなバカだから、キレたら自分だって勝手に森を壊してしまったりするんだけど、他人が壊すのは許せないらしい。

 ただ暴れてるのが大蛇竜だったりしたら皆すごすごと引き返すんだけどさ。


 一応、『魅了』は迷宮内のあらゆる生き物に対して有効だが、あくまで好意が増すだけで思考や性格を変質させる訳ではないので悪質性は無い。


 と、まあ色んな事があって駆除予定の魔法猿以外のモンスターまで引き寄せてしまったが、何とか魔法猿を追い払う事には成功した。

 そうして手に入れた最後の拠点、そこは最も魔力泉に近い中心地、つまり覇王樹の根っ子だ。


 覇王樹の根っ子ゾーン、そこはこれまでの一般的な迷宮空間とは違う環境を作り出していた。


 実際に元々ここは地中だったのだろう。何百年も掛けて土壌から養分を吸い上げたりなんかした結果、本来あった大地は遥か下方に地盤沈下してしまっていた。

 覇王樹が抱えていた土はすっかり抜け落ち、捻れた根っ子が複雑に絡み合って狭苦しい雰囲気を醸し出している。


 そう、まさにそこは洞窟そっくりのこれこそ迷宮って感じの空間であった。


 そしてそんな場所は籠城するのには極めて最適な所だったのだ。

 ここを塒にしていた魔法猿は挑発したら簡単に釣り出せたが、あれだけの大群が穴蔵で待ち構えていられたらちょっと手は出せなかっただろう。低能万歳である。


 いまだに魔法猿は定期的にリベンジして来るが、完全にこの地を魔改造した免悟たちにとってもはや何の脅威でもなかった。


 しかしいくら強いと言っても大した連携もなく力押ししか知らない猿モンスターと、国家が送り出す100名の精鋭部隊とは比較にならない。

 むしろダンジョンマスターの利点である魔法使用に対し直接攻撃以外の妨害がない魔法猿は、免悟たちにとって相性が良い。


 そしてハイレベルな装備と戦術、それを使いこなす精鋭部隊と言うのは非常にやりにくい相手だ。

 と言うかダンジョンマスター以外は完全に上位互換だし、兵数的にも圧倒的だ。普通に困る。


 あ、それから兵数と言えば、実は魔童連盟もさすがに人を増やしていた。


 出来ればバンバン増員したい所だが、懐に入れた途端にエダルを拉致られでもしたら話にならない。自然と慎重にならざるを得なかったが、一つだけアテがあった。


 皮剥ぎ団の故郷の若者が外で働きたいと言う話があったのだ。


 彼らの故郷はこの世界では珍しく危険の少ない長閑な所だった。その代わり耕作地は限られていてあまり仕事も少ない。常に人手が余るのだ。

 それでもって若い男は特に腕っぷし一つで一旗上げて、ってなる。

 元々この猪熊の皮剥ぎ団もそういう奴らが少しづつ集まって出来たパーティーだったし。


 しばらく村とは音信不通になっていた皮剥ぎ団が久しぶりに連絡を取った所、いきなり10人もの若造がやって来た。

 もちろんビブリットで待ち合わせして、そこからは何も知らせずに迷宮へドナドナしたんだけど。


 ただ、彼らが合流した頃はすでに皮剥ぎ団に対する扱いも外注の傭兵と言う立ち位置になっていたので待遇は悪くないと思う。


 ここに来た時点で足抜けだけは出来ないのだが、何しろダンジョンマスターがいるのだ、狩れるモンスターのランクが違う。つまり報酬の桁が半端じゃないのだ。

 その分忙しい時は寝る暇も無いほどだが。


 そんな訳で皮剥ぎ団の総数は新旧合わせて15名。今や魔童連盟の中核を成す前衛となっていた。




「さて、そろそろテラリスがやって来る、気は進まないが精一杯お出迎えするとしようぜ」


「でも本当に来るかな?、意外と道に迷って立ち往生してたりしてね…」


 ま、そう言う可能性も無くはない。


 ただ、エダルが迷宮スキルを所持している限りは高確率でそれ目掛けてやって来るだろう。どうやらテラリスには高いスキル捜索能力が間違いなくあるようなのだ。


 とにかくすでにフラグは立てられた、後は誰がどう回収するか、ただそれだけだ。




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