50・巨星乙
免悟も最初はやっぱ無理かなとは思ってた。
そんな上手くいく訳ない、と。
ただ、どちらにせよ大蛇竜から気獣を引き離さなければならない。
とりあえず言う事を聞く待機組の気獣二匹を使って引き剥がしに掛かった。
めんどくせーが仕方ない。
何度かグリドラに呼び掛けてみたが、あれ以降ことごとく無視しやがるし!。
まったくムカつく奴だ。何の為に群れのリーダーを連れて来たと思ってるんだろうか?。
エダルの次に気獣をコントロール出来るお前が率先して制御不能になってどーすんだよ。
「あーーダルい……。
いいか、よく聞け待機組1号2号。こうなったらもうお前らに頼るしかない」
免悟はキリリと待機組二匹の目を見つめた。
『てゆーか1号2号ってなんだ?、相変わらずこの男オレらの名前を覚えねー奴だな!』(1号)
『こう言う所も好きになれない理由の一つだぜ…』(2号)
免悟の目の前で、人には分からない言葉を交わす二匹。
「グリドラはダメだ、アイツには帰ってからお説教を食らって貰う。
だが、仕事を忘れずにちゃんとやってるお前らは偉いぞ。エダルに誉めて貰えるよう俺から伝えておく。だからしっかり言う事を聞け」
二匹は「説教」と言う単語に表情を曇らせたが、エダルに誉めて貰えると聞いてもの凄い好反応を示した。
耳をピンッと立ててペカー!って感じの笑顔になった(なんとなく犬的に)。
二匹の尻尾の振りがシンクロしてるし……高速で。
わっかりやすい奴らだな…。
そんなに誉められたいかエダルに?。
まっ、チョロくていいけどさ。
そんな感じで、引き剥がし作業に取りかかった。
もし出来るならこのままトレインして、テラリスにぶつけてやろうとも思っていた。
それに気獣も勝算があって大蛇竜にケンカ売った訳ではない。
いずれ正気を取り戻せば気づく筈だ。気獣では大蛇竜を仕留めるのは難しいと言う事に。
よほど的確に急所をクリティカルせねば大蛇竜に致命傷は与えられないだろう。
そんな訳で状況は意外と免悟の思惑通りとなった。
すでに気獣たちはかなりの時間大蛇竜とやり合っている。結構神経をすり減らしていたのだった。
なので免悟が退路を示してやると、疲れた気獣たちはズルズルと雪崩れを打つように後退して行った。
そんな仲間の弱気に、グリドラだけは気勢を上げて食い止めようとするが、大勢を覆すのは不可能。
そして一旦流れが出来てしまえば後は簡単だった。
悔しさを滲ませるグリドラを嘲笑うかのように大蛇竜も調子に乗って追いかけて来るし。
あー、グリドラいい演技するわ〜♪。
「ウ、ウオオォォン……」(なんかグリドラ涙目)
最後はみんな調子に乗っちゃって、全速力で迷宮内を駆け抜け、ついにはテラリス部隊の上空を飛び越えた!。
ついでに行きがけの駄賃とばかりにテラリスの斥候数人を殺っておく。
テラリスは、大蛇竜の出現に驚いてみんなフリーズしてしまっていた。
なので余裕で殺れると思ったのだがこの斥候…。こいつら斥候のクセに意外と手強い?。
一撃では仕留め切れずに、追撃を加えてやっと倒せた。一瞬焦った。
免悟は混乱に乗じてさらに引っ掻き回してやろうと思っていたのだが、テラリスの斥候たちは崩れたフォーメーションを瞬時に建て直し、素早く連携を取り戻しやがった。
おお…、これがプロってやつか?。
驚くべき練度だが、忌々しい事この上ない。
でもまあ別にここはそんな無理しなくていい所だ。何しろ今回の主役は免悟でなくこの大蛇竜なのだから!。
さあ行け、我が進撃の大怪獣よ!。立ち塞がる全ての敵を討ち滅ぼすのだ!。
なんってね♪。
大蛇竜は一瞬気獣の姿を見失って動きを止めた。だが目の前の新たな敵集団を見つけると吠えた。
魔法の発動を打ち消す竜の咆哮だ!。
気獣は魔法を使わないので全く死にスキルとなっていた力だ。
だが人族は間違いなく魔法を使う。大蛇竜は反射的に威嚇した。やる気満々だね。
こんな状況に関わらず大蛇竜は罠に嵌められたとかそんな雰囲気は全く無かった。
むしろお前ら邪魔する気か?って感じ!。
こいつマジバカで助かるわ〜。
出された物は全て残さずいただきます的な?、勿体ない精神溢れる男気モンスター?!。
ま、頭悪いだけなんだけどねーー!。
『ほんとコイツは逃げも隠れもしない真っ直ぐなクズだな』(1号)
『ネイティブのクズ…』(2号)
…さあ!、テラリスのお手並み拝見と行こうか?。
斥候は素早く立ち直ったが、本隊と大蛇竜は不意の邂逅にまず相手の動きを見てしまってる状態だ。
だがテラリスの指揮官がすかさず号令を飛ばした。
「クニオ班は「耳栓(魔導具)」をして【呪縛陣】を重ね掛けしろ!。
他は盾となって近寄らせるな!」
大蛇竜より先にテラリス兵が動き出す。
「隊長!、「天」方面の哨戒が二つ消えた!」
とその時、全方位に放った索敵情報を取りまとめる班長が声を上げた。
えっ、敵?!、
罠なのか?。(セティカ)
「他に敵がいるのか?!」
「そのようだが正体不明!」
「状況は?!」
「一瞬で2チームがやられた、現在他の斥候がフォロー中!」
「………………」
とりあえず今さらここで退く事は出来ない。
大蛇竜と近接したこの状況で背中を向けたりなんかしたらいいカモだ。しかし他に敵がいるのならこれは完全に罠…。
それにしてもあまりにも情報不足だ。下手に動けば大蛇竜が隙につけ込んで来るが、このままじっとしてたら罠に掛かる可能性も高い。
指揮官の腕の見せどころだ。
「敵襲に備える!、6班はクニオ班と共に待機!」
指揮官セティカは大蛇竜と罠、両方同時に対処すると言う最も困難な作戦を選択した。だがその決断は早い。
状況を知ってる免悟からすると、大蛇竜相手に戦力を温存するのは勿体なく思うが、敵の出方が分からないテラリスとしては仕方ない行動だ。
その代わり、当然の事ながら大蛇竜の攻撃を捌くのはさらに厳しくなる。
そしてもちろん大蛇竜は部隊の懐に飛び込んで行った!。
大蛇竜に複雑な戦術など必要ない。一番ヤバそうな長詠唱の魔法さえ封じてしまえば後はだいたい何とかなる、って感じだ。
この戦闘の要点はいかにテラリスが【呪縛陣】を成功させるか。
または大蛇竜が【呪縛陣】を潰せるか、に掛かっている。
巨大な樹の枝が複雑に入り組んだ立体空間を、大蛇竜はその長大な体を生かして枝を渡り直線距離で突撃する。
前衛戦士も魔法班だけは死守する為に全力で応戦した。さすがに大蛇竜の圧力には抵抗しきれないが、魔法班を退避させるくらいは出来る。
だが、大蛇竜もそれならばとばかりにあっさり目標を変える。魔法班がダメならそれを護る前衛戦士たちだ。
その足並みを乱すように大蛇竜は巨体に似合わないスピードで暴れ回った。
群がる兵士に陣形を整えさせないよう圧倒的な暴力で混乱を誘い、さらにフェイントを掛けて決して主導権を手放さない。
脳ミソ筋肉とは思えない大蛇竜の柔軟さにテラリス兵が振り回される。
大蛇竜に胴体丸ごと噛みつかれ、振り回され踏みにじられる兵士たち。
大蛇竜が津波の様に暴れ回り、兵たちが波に飲み込まれるかの様に翻弄される。
幾人もの兵士が吹き飛び、【呪縛陣】がキャンセルされた 。
しかし、次第に大蛇竜の動きから勢いが失われて行く。さすがに戦士の群れの中で動き回れば少しずつスピードは落ちる。
魔法使いの何人かはすでに呪縛陣を諦め、回復や支援系にシフトしていた。
前衛戦士が粘り強く繰り出す攻撃が、じわりじわりと蛇竜の動きを蝕む。
そして身体強化した戦士がタイミングを合わせて突撃し、一斉に剣を突き立てた。
大蛇竜も激しく暴れるが、全てを振り払う事は出来ない。
少しづつだが着実に、ドロ沼に嵌まるように大蛇竜が動きを鈍らせて行く。
そこへついに【呪縛陣】が完成した!。
黒い霧の円陣が蛇竜の足元に浮かび上がりその体を捕らえる。
近くの戦士も一緒に巻き込まれてしまうが、この魔法は単に動きを阻害するだけだ。しかも【解呪】で消せる。
そしてさらに複数の呪縛陣が大蛇竜に絡み付いて行く。
大蛇竜は悲鳴の様な「咆哮」を上げるが、最初ほどの力強さはもうすでに無い。
ここぞとばかりに戦士たちが追い討ちを掛ける。
大蛇竜はもはや逃げる事すら叶わなかった。完全に絡め取られメッタ刺しにされる。蟻の群れに捕らわれた虫みたいな感じだ。
動きを止めた大蛇竜は次々と攻撃を食らい続け、ついに崩れ落ちた。
「…………」
最初こそ大蛇竜の無双スタートだったが、終わってみればテラリス部隊の圧勝だった。
免悟はこっそり覗き見出来る絶好の場所でバトルを観戦していたのだが。
ただ見た感じ意外とテラリスの被害は少なかった。
ええ〜?、最低でも10人くらいは減らしてくれると思っていたのに。大蛇竜ショボ〜い!。
結構派手にやられていたはずのテラリス兵だが、戦闘終了後なんだかんだでみんな続々と起き上がって来たのだ。
いいよいいよ立ち上がらなくて!、そのまま死んでろよ!。(非道い…)
さすがにボロボロで血まみれだったりはするのだが、あんまり死人はいないのだ。
マジかよーー…。
でも、確か身体丸ごと咬まれて振り回されてた奴もいたよな、あれはさすがに死んでるだろ!。
※一応テラリス確認で死者2名です。
クソ、アテが外れた…。
つーか俺らが殺った斥候の数の方が多いんじゃねーか?!、ったく。
※斥候は二人一組。計2チームで4人殺しました。
基本この世界は治療魔法のお陰で死ななければなんとかなる。
精鋭部隊ならかなり高価な魔法も持ってるし、実際見てるこっちが魔力消費心配するくらいバンバン回復しまくってるのだ。
あ〜〜〜あ…。
ぶっちゃけクズ発言でスマンが一言だけ言いたい。
「大蛇竜お前にはがっかりだ!」
『こいつ超クズ〜〜www』(1号)
『こいつテラ外道〜〜www』(2号)
……ホ、ホント嫌なもの見ちゃったぜ。まさかこんな簡単にあの大蛇竜を狩っちまうなんてコイツらバカじゃねーの?!。
あーーーヤだ、こんなの見たくなかった。
免悟が頭抱えて苦悩する内に、斥候に出ていた気獣たちが集まって来る。
少し緊張した面持ちだ。
どうやらテラリスの哨戒範囲が迫って来たらしい。
とりあえず偵察の仕事は果たした、ここら辺が潮時だな。
「よ〜し、家に帰るぞぉ」
その言葉で一斉に犬どもが嬉しそうに尻尾を振った。
テラリスが免悟たちの拠点に到着するには後2日は掛かる。まだ何らかの小細工を弄する時間は残されていた。
つーか、とてもじゃないが真正面からぶつかって勝てる気がしない。ま、良くても相討ちだ。
もちろんその場合は両軍死者多数のズタボロ状態だろう。
サークル的な軽いノリの集団である魔童連合には受け入れ難い結末だ。
免悟もガキの一匹や二匹死んでもしょうがねーとかムゴい事考えてるが、実際死んだらやっぱり結構ヘコむ。
特に最終兵器美少年エダルが役に立たなくなってしまうのだ。
そう、今さらだが森迷宮に来て一年、実は結構人も死んでたりする。
女子供はなるべく優先的に安全を確保させてはいたのだが、思わぬ隙は出来てしまうものだ。
なぜ集団から離れて一人で行動してしまったのかは分からないが、ちょっと目の届かない所に行った隙に子供の一人は死んだ。
皮剥ぎ団のメンバーも男気出して危険な役割を背負ってくれたせいで二人死んでる。
気獣も盾代わりとなって二匹死んだ。
そしてその度にエダルは泣いて当分使い物にならなくなるのだった。正直面倒くさい…。
こいつのポンコツ具合はスキル同様ユニーク級だな。何とかして欲しい。
だいたいマジで戦ってるんだから人が死ぬのは当たり前だ。
ただ今回の事でテラリスとまともに戦う気は失せた。
やはりテラリスもネルグラッド殲滅団級の部隊だったのだ。
ポンコツとは言えダンジョンマスターがいれば何とかなる、と思ってたのは考えが甘かった。さすがにこれはなんか小細工を考える必要がある。
と言うかこのラスボス強すぎだろ!。どこか設定間違ったんじゃないの?。
本当にいいのか?。主人公たち全滅エンドになっても知らないよ!。さすがにそれは斬新過ぎると思うのだが…。
うーーーむ…。
帰ろ。
免悟はオチも付けずにこっそり立ち去ったのだった。
えーー…、なんとなくお分かりだと思いますが、この最終章むちゃくちゃ長くなります。
これで最後!、とか盛り上がってた自分が恥ずかしい。
オチさえ決まってればいつでも終わらせられるぜ!、と言う考えは大甘だったようです…。
たぶん20話くらいは行くんじゃないでしょうか?わかりません。とりあえず長くなりそうだとしか…。
引き伸ばす気は無いんです。ただサクッと終わらせるのは無理みたいなので諦めました。
ただここまで来たら意地でも完結させたいですし、全身全霊で頑張るのでぜひお最後まで付き合い下さい。