48・免悟初めての偵察に行く
「うえ〜〜い、それじゃあちょっくらパシっと偵察に行ってくらぁ…」
免悟が一同の前で無気力に口を動かした。
それもその筈、
だいたいリーダーが、しかも主人公の俺がなんで偵察なんて下っぱ仕事パシらされなきゃならんの!。
まさに理不尽大火山勃発!!!。(意味不明…)
不条理大魔王降臨!!!
(良く分からんがとりあえず黙ろうね…)
いったい何事かと言うと、単なるテラリス部隊への偵察だ。
前にも言ったが、自由に飛び回れる気獣はこの立体型迷宮においてそれだけでかなり有利だ。
そしてそう、それは【浮遊術】を持つ免悟にも当てはまるのであった。
来た!?
ついに俺の時代が?
主人公無双が?
俺TUEEEEEタグが?!
来たぁぁぁーーーーー!。
とか思ったら、
「んじゃあ免悟、ちょっくら気獣連れて偵察行って来て?」(カル)
てなったのだ。
うん、わかってる。情報収集は重要だ。その大局的な重要性は理解出来る!。が、主人公としての扱われ方、つまり主人公の存在理由、レゾンデートルがぁ(はいカットー)
「免悟、危ないから気をつけて『早く』行って来て?」(ホノちゃんGJ)
「ういす……」
免悟は気獣につつかれるようにして旅立った…。
デヒムス情報によるとテラリス部隊は今ちょうど森迷宮に入った所だ。そこから免悟たちのいる迷宮中心までは、だいたい人の足で3日くらい掛かる。
免悟と気獣は飛んで移動するので早いが、それでも両者が途中で接触するまで丸1日は掛かるだろう。
現在エダルは15匹の気獣を使役していて、今回免悟はその内の8匹を連れて偵察に出た。
それだけで結構な戦力だが、その高機動をフル活用しての偵察行だ。高速で木々の間を飛び抜けて行く時に、他のモンスターや探索者の奇襲を食らう可能性もある。
偵察隊と言えど安全を考えるとある程度の戦力は必要だ。
ちなみに免悟は浮遊術で浮いて気獣に乗っかるだけだ。後は定期的に休憩を取り【休息】で魔力回復しながら免悟たちは進んだ。
免悟も森の中を高速で通り抜けるのは若干不安だったが、エアハウンドはモンスターとしてはかなり頭も良く強い種族だ。
攻撃は【風刃】っぽい感じで威力には欠けるが、防御力と機動力が圧倒的なのでなかなか倒せない厄介な相手と言える。
なので途中、隠鎌切の群れが飛び出して来たが、気獣のスピードにタイミングが会わずその奇襲は空振りになった。
あっさりスルーして終わった。
隠鎌切は見た目1mくらいのデカいカマキリだ。体の表面の色を周囲の色に溶け込ませる迷彩能力を持っていて、一応滑空能力もある厄介なモンスターだ。
単体ではあまり強くないが、バカなくせに攻撃的で大抵群れて行動しているから結構ヤバい。
しかもカマキリの鎌の切れ味が物凄くてやたら殺傷能力だけはあるのだ。
それでいてモンスターの素材としては大した価値が無いから、危険度だけが高い嫌われモンスターだった。
その後、丸一日移動し続けた免悟たちはついにその動きを止めた。
ここで免悟は気獣6匹をテラリス部隊の捜索に向けて周辺に解き放った。
一応自身の護衛に2匹だけは残しておく。
およその勘でテラリスとの遭遇地点を想定して足を止めたのだが、ここら辺の判断は何となくだいたいだ。
大まかな現在地の予想は付くが何しろ迷宮だからいまいち方向感覚が怪しい。さらにテラリス部隊がどれだけのスピードで、どんなルートを辿るかはぶっちゃけ謎だし。
ただコストを考えると、あれだけの大部隊がさらに特殊な移動手段を利用するとは思えない。
さらに今のテラリスがわざわざ魔力泉に向かう最短ルート以外を取る可能性もまた低いだろう。
ほんの僅かな可能性としてすれ違う事もあり得たが、それでもテラリスがいつ迷宮の中心に辿り着くかは最低限知っておきたかったのだ。
そして免悟はテラリス部隊を捕捉する事に成功した。
あ〜〜良かった…、失敗したら何言われるか分かったもんじゃないからな!。
発見位置は予想より大分ズレてたものの、テラリスの進軍速度はごく一般的なものだった。
免悟は魔王雛の漆黒が持つ【伝話】を使って、あらかじめ子機設定していたカルに情報を伝える。
これからしばらく免悟と8匹の気獣はテラリスに張り付いて監視だ。
免悟はテラリス部隊を数百メートル遥か樹上から見下ろしていた。そこに総勢100名と言う大部隊が薄暗い木々の隙間から小さく動いているのが見える。
ああ、言いたい。
ここで例のセリフを言ってみたい!。
まるで〇〇のようだ、フハハハ!、とか言いたい!。
(つーかもう言ってる様なもんだが…)
眼下のテラリス部隊はまさに蟻の様に細長く、かなり地味〜に進んでいた。
まあ移動の光景とかはどんな部隊もそんなもんなのだろう。
ちょっとがっかりだがファンタジーだからって四六時中ファンタジックって訳にはいかないか。
ただし、テラリス部隊100名の内かなりの人員が本隊の周辺に斥候として割かれていた。
そりゃあ当然と言えば当然だが免悟は戦争なんかに参加した事など無かったので、先に気獣が気づかなければテラリスの斥候に見つかっていた可能性もあった。
斥候たちは等間隔で広がり、きっちり哨戒を行いながら進んでいたのだ。
だがそこはさすが「気獣」。犬から進化した精霊種族だけあって臭いには敏感だ。しかも風を操るので索敵能力に関しては抜群のスペックを見せつけてくれる。
まあ大抵の敵は先に見つけてしまうのだ。
てな訳で、気獣たちはさらにテラリス部隊を取り巻く別口の探索者も発見していた。
一応免悟も【索敵】を持ってはいるが、索敵は遮蔽物があると一気にその有効範囲が狭くなるのだ。こんな樹木が入り組んだ迷宮ではそれなりにしか先は見通せなかった。
なので索敵に使う魔力が勿体ないので、警戒はもっぱら気獣任せだ。相変わらず索敵微妙!。
まあ、逆に敵の索敵も微妙なのが救いとも言えるが。
ところでその探索者だが、こいつらは森迷宮に良くいる普通の探索者だった。
どうやらテラリスの監視が目的の様でおそらくビブリットの傭兵だ。
デヒムスからもそんな話があった。
と言うのも、テラリスが迷宮核とダンジョンマスターを確保すれば、そのまま森迷宮を支配する可能性も出て来る。
迷宮の資源的恩恵を間近で受けるビブリットとしては、せっかくの天然迷宮が他国の管理下に置かれてしまうのはかなり許せない。
許せないのだが、ビブリットはこんな戦国乱世な世の中にあって、珍しく商業メインで成り立つ商業都市。中立外交が基本だ。
テラリスとも同盟的な各協定を結んでもいるし、いくらムカついても面と向かって対立する訳にはいかない事情があった。
ただし、迷宮の中なら話は別だ。
完全に未開領域の迷宮の中なら大抵の事はうやむやで済まされる。
て言うか、テラリスだってビブリットが何もせずに黙って指咥えて見ているとは思ってもいないだろう。
なので殆んど軍を持たないビブリットは、今回有力な上級戦団にテラリスの妨害工作をこっそり依頼していた。
当然ながら森迷宮やビブリットには腐るほど探索者が存在する。テラリスの電撃侵攻に唯一即応出来た勢力と言えた。
そこら辺の細かい事情を免悟は知らないが、さっそくテラリスがどこかの相手と小競り合いを始めている気配を感じていた。
うん?、なんかやってる。
まあテラリスが何処と揉めようが免悟たちに損は無い、むしろ大歓迎だ。
何処の誰かは知らないが、少しでも戦力を削ってくれればそっくり丸儲け♪。
免悟は望遠鏡でテラリス部隊を遥か上から覗き見た。
しかし今のところは戦闘と言えるほどのものではなかった。斥候同士がニアミスしてちょっと慌ただしくなったくらいの感じだ。
だから免悟もジュース片手にのんびり監視だ。
免悟の側には高い機動力と索敵を持った気獣がいるのでそれほど必死になる事はない。
なる事はない、はずなのだが…。
免悟は時折不安に駆られては周囲を見回していた。
と言うのも、そのエアハウンドな気獣たちは、一様に免悟の周りでダラ〜っと昼寝しているからであった。
たぶん………、
何か危険があればすぐに起きて警戒を発してくれるのだとは思う。
まさかマジで熟睡しててモロ奇襲を食らったりはしないと思う…。たぶん。
一体何故こんな状況なのかと言うと、実はこの気獣たち、あまり免悟の命令を聞いてくれないのだ。
マジだよ!。
このでっかい虎くらいある半透明の狼たちは、どうやら魔童連盟のメンバーを勝手に順位付けしているみたいなのだ。
当然ながらトップは断トツでエダルだ。
エアハウンドにとってエダルはもはやアイドルにも等しい。みんなエダルに構って欲しくていつも必死だった。
免悟からすればそんな姿は今さら見え透いてあざといだけだが、何しろこいつら凄い頭がいい。
おそらく今時の小学生くらいは賢いと思われる。つまりけっこう侮れないくらいリアルに賢いのだ。
言葉だって喋る事は出来ないが教えれば普通に理解してしまう。
そんな訳で、エダルに対し着実に日々進化して行く「構ってちゃんアピール」を見ていると、知能の無駄遣いと言う言葉さえ浮かんで来るのであった。
ええっと?、何が言いたいかと言うと。
要するに免悟は気獣たちの親密度ランキングにおいて何故か下位ランカーだったのだ。
理不尽大火山…(もうそれやめれ)。
だがそんな訳で、気獣も今回の戦いがエダルを巡っての争いである事はきっちり理解していた。
だからチームの存続に関わる根本的な命令には従うのだが、それ以外の個人的な命令は人を見て判断しやがるのだ!。
ま、ぶっちゃけるとエダルをバカにしたり、ちょっかい出したりする度合いによってランキングが決定されている様な気はする…。何となく。
それ、自業自得だろ…。
つーか気獣は見た目かなりもふもふなのだが、免悟が触ろうとすると地獄の底から震える様な唸り声(重低音)を発するのであった。
いーじゃんケチ!、ちょっと触るくらい!。
せっかくもふもふタグ付くと思ったのに!。
もふもふはそんな重低音出さないし!。
俺の純真な萌え心を返して欲しい!。
そんなん知らんがな……(´・ω・`)?。
(腹出して転がる犬コロたち)
うう…、
まあいい。
別にどんな格好で待機するかはある意味自由だ。ホントは多少の分別をわきまえて欲しいのだが…。つーかあんまふざけんな?。
ただ問題は、ここで腹出して転がるイヌころが3匹だけって事だ。
そう、残りの5匹はさらにフリーダムだった。
なんと免悟を残して勝手に遊びに行きやがったのだ!。
確かに監視にそんな戦力はいらない。あくまで行き帰りの道中の安全の為に8匹連れて来ただけ。
監視中はテラリスに合わせてのちょい移動と警戒で3匹もいれば充分だ。
でもだからって散歩とか遊びに行っちゃダメ!。
流石に免悟も8匹待機してるのはウザいなぁ、とか一瞬思った。だが、気が付けばいつの間にか木陰に消えて行く後ろ姿が最期の光景だったのだ。
散歩に行ったと言うのも単なる免悟の予想で、実際今何やってるのかさっぱり分からない。
つーかそろそろ免悟は拠点に帰りたいと思ってるんだが、あいつらいつ戻って来るのかな?。
だいたいの情報は掴んだしもういいでしょ。携帯食は味気ないし。
とか思ってたら、ふいに3匹の気獣たちが耳をピンと立てて皆同じ方向を振り向いた!。
な、何?。
なんだか警戒してる?。
なんだよ、何かヤバイのか?、はっきり言えよ!。
一匹の気獣が目で「良く耳を澄まして聴いてみろ」って顔して来る…。(分かるんだ?、スゲェな)
んーーー…、
何も聴こえねーよ?。
とそこへ突然一匹の気獣が現れた。出掛けて居なくなった内の一匹だ。
突然現れた気獣に対し、寝転がっていた気獣たちが立ち上がって出迎える。
息を弾ませる一匹に対して、他の3匹が囁く様に擦り寄る。低い声でコミュニケーションを取ってる。
と、ふとそこで免悟は気付いた。
気獣の現れた方角から何か聴こえる。
GOOEEEEEEEEEEE……!!!
遥か遠くから聴こえる微かな…咆哮?。
なんか怪獣の様な叫びが風に乗って免悟の耳に届いた。
イヤーーーーな予感するな……。
帰って来た気獣が免悟と目を合わせた。
いつもの突き放す様な冷たさがない。なんかクゥ〜ンとか可愛い声を出しやがるし。
しかし免悟も今さらそんな見せかけには騙されない。免悟からシラけオーラが仄かに漂う。
そしたらその気獣、テヘッて感じでなんかはにかみやがった。犬が…。
「おめぇら…、一体なにやらかした?!」
(免悟、ゴメ〜〜ン♪)