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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
47/64

47・魔童帝国開演


 チェカトリアの森迷宮に潜った免悟たち一行。しかしその最初の一ヶ月は厳しかった。

 ただでさえヤバいモンスターが命がけでサバイバルする過酷な生態系だ。ある程度環境に適応するまではホームレスの様なキツい生活が続いた。


 案の定ネビエラが真っ先に駄々をこねるしマジで!。(子供らに目一杯よしよし宥められとった。ガキ以下だよコイツわ!)


 そして意外と…、と言う程ではないが、皮剥ぎ団の連中のサバイバル能力が高かったのには助けられた。彼ら皮剥ぎ団もまたネビエラの為に一生懸命インフラ的な物を整えて、文明的な生活水準を引き上げてくれたのだ。


 泣く子ネビエラを皆があやす、みたいなイラっと来る構図だ。


 でも何とか拠点が定まれば、迷宮核に魔力を補充出来てダンジョンマスターの真価が発揮する。


 用意した極大魔法【次元踏破】(魔王雛の漆黒が持ってたもの)で地上に戻り、必需品をピストン輸送して補給も可能になった。一旦迷宮内に定着出来てしまえばその後はスムーズに事は運んだ。


 ところで魔力泉が放出する魔力量は膨大だ。


 大抵のダンジョンマスターはその溢れる魔力を使い切る事なく発散してしまっている。よってダンジョンマスターの強さとはいかに魔力を効率的に消費し、エネルギー変換して「力」を蓄積出来るか、と言う事に尽きる。


 つまり魔力による現実的な戦力化だ。要するに、何でもいいから有り余る魔力を使って戦力強化を図ろうぜって話だ。


 そこでエダルに与えられた魔法は【精霊召喚】。

 これはバンナルク店にあった魔法図で精霊召喚用の(大)魔法だ。


 基本的に大魔法ってのは癖が強くて扱いが難しい。だが効果だけはもの凄いので使いこなせればかなりヤバい。

 この魔法も召喚主の特性に沿った精霊が出現すると言う不可解な魔法で、使ってみなければどんな召喚獣が現れるか分からない。しかしまあ腐っても大魔法、無いよりはまだマシだ。文句は言うまい。(うん、無理矢理パクって来た奴のセリフじゃないよね)


 てな訳で、エダルの召喚で出て来たのは「気獣エアハウンド」。風属性の狼系精霊だ。


 けっこう大物の精霊らしく、見た目は半透明のデカい狼で謎の毛皮に覆われている。と言うか、ごく一部の重要器官以外はほとんど気体と言うか霊体と言うか、どうやら固形の物質ではないらしい…。


 謎の毛皮…とか言うか、冷静にその存在を論じて行くとファンタジーを逸脱しそうで怖い。(だって霊体って…。とりあえずファンタジーの懐の深さに祈ろう…)


 たださすがに召喚主に合わせて現れるだけあって、主人のエダルには凄く懐いている。とにかくそこだけはオーケーだ。

 そしてこの「気獣」をダンジョンマスター特有の大魔力で複数契約して大量に眷族化するのが最終目標だ。

 常時召喚なので普通なら維持するだけでもかなりの魔力が必要なのだがダンジョンマスターには関係ない。


〔解説:【精霊召喚】は召喚条件(雇用形態?)の設定が可能。

 瞬間的召喚〜永続召喚まで自由に選べる。当然ながら召喚獣はそれに応じたサイズ、ステータスとなって現れる〕



 こうして使役する気獣の数が増えるごとに、魔力泉のある迷宮中心に向かって拠点を近づけて行った。


 気獣の数が増えれば狩りや採取が楽になり稼ぎも増える。そうしたら装備をレベルアップしてさらに迷宮の奥深くへと拠点を移す。

 しかもこいつら気獣って言う名から分かる通り、基本宙に浮く。しかもかなりの高速で飛び回る。なので森と言う立体空間にはうってつけの存在だった。存在そのものは怪しいが、その能力は頼もしい限りだ。



 そうして森迷宮に入って約半年、ようやく魔力泉のすぐ側、覇王樹の大幹に到達する事が出来た。



 ところで今さらではあるが忘れてたので言うと、森内部の様子はさながら立体型のダンジョンとなっていた。

 大小さまざまな覇王樹の幹や枝が上下左右に入り乱れて交錯し、まさに迷宮と呼ぶににふさわしい光景を映し出している。

 一説によると、覇王樹は幻想皇帝によってダンジョン生物としてデザインされていると言う話もある。階段こそ無いものの、木の上を歩き回るのにちょうど適した枝の張り具合になってるのだ。


 それから迷宮の内部は実は意外と明るい。

 魔力依存の強い植物、発光樹や蛍光蔦けいこうづたが光を発するおかげだ。そのため24時間365日年中無休で風景に変化が無い。(なにぶんファンタジーですので!)

 常に何処からともなく木漏れ日の様な柔らかい光が降り注ぎ、迷宮の奥深くである事を忘れさせてくれる仕様になっていた。(モンスターは相変わらずヤバいけど)


 さて、半年掛けてようやく魔力泉のすぐ側にやって来た訳だが、かと言ってエダルの存在が明るみに出るのはまだ早い。それに最後の拠点は単なる住み処ではなく、防衛の為の砦にしなければならない。


 そこからさらに数ヶ月は時間を忘れる様な激動の毎日が続いた。


 いつしか免悟たちは、森迷宮を狩猟場とするハンターたちと戦う事が増えていた。

 いつの間にかモンスターより探索者パーティーと戦う事の方が多くなっていたのだ。


 モンスターと言っても、ゲームみたいに湧くポップする訳じゃなく現実的な生態に沿って棲息しているので、そうやたら滅多らに遭遇する事はない。


 例えばこの森迷宮の食物連鎖の頂点にいる一種、大蛇竜ワームなんかは、何十メートルもの巨体で半径数キロもの縄張りを持っている。まあ森迷宮はそれ以上にもっと広大だし、縄張り意識は同族に対してだけで他種族には関係なかったりする。(まあ他種族に対しては逆にエサ的な感覚だったりするが)

 つまり安定した生態系とは色々なテリトリーがうまく絡み合っていて棲み分けが出来ているのだ。なので一定のパターンを知れば危険の回避が可能だった。


 だが人間の探索者は完全な異物、侵略者だ。


 大抵彼らはモンスターの生態を気にしないか、知っていてもそれを逆手に取るかどちらかだ。(まあハンターだしね)

 でも森迷宮での生活に適応出来てしまうと人間たちの行動はむしろウザい。(まあ完全に外の生物で略奪者だからね)


 魔童連盟の子供らなんかはあっさり森に馴染んじゃったので完全に人間を異物扱い。もはやもののけ姫状態だ。お化け狼もいるし…。


 なので当初はハンターと戦うのはそれほど違和感なかったのだが、なんか途中からちょっと雰囲気が変わったのに気が付いた。明らかに探索者の目標が免悟たちになっている。

 見つけ次第向こうから積極的に攻撃を仕掛けて来るのだ。


 ところで本来なら迷宮のこんな最下層に来る探索者はかなりの手練れなのだが、そこはホームとアウェイの差。何日も掛けて知らない土地に来る人間と、自分らの近所で迎え討つのとでは地の利にえらい差がある。


 例えば同じ道を走るにしても、見えない角の先を知ってる人間と知らない人間とでは走り方自体にかなりの違いが出る。

 そんな訳で、たとえ熟練戦士相手と言えど、奇襲したら即逃走=ヒットアンドウェイ戦法で余裕でした。


 出来る奴ほど下手に深追いはしてこないし、釣られるような馬鹿は簡単にカウンターが取れる。


 ただし、このやり方では撃退は可能でもパーティー全滅は難しい。相手が冷静に引き際を心得ていやがったら素直に帰すしかないのだ。

 なのである程度の人間が免悟たちの情報を持って帰ってしまった。免悟たちもこの時分は、いろいろな問題に対処するので精一杯だったのでこれが限界だったのだ。

 結果ここら辺から免悟たちの存在に疑惑を持たれたようだ。


 なんとなく気になってたので、地上にいるデヒムスに情報収集して貰ったらいつの間にかあちこちで俺たちの事が噂になってるみたいで驚いた。しかも結構当たってるし!!!。


 ところでデヒムスは完全に迷宮から離れ、商都ビブリット迷宮町ニヨルドで物資の出入りを担当していた。もはや裏切るメリットが薄れ、免悟たちと行動を共にする利益が上回ったので晴れて自由の身だ。

 ただデヒムスは未だにエルドウィンを見るとビビっている。完全にトラウマになってるようだ。ハッ!、ダセェ男だぜ…。(ついでに人をディスるのはやめてくれ…:デヒ)


 そんな事より…、


 ダンジョンマスターの事はいずれ近い内に明るみに出るな。

 思ったより早く目を付けられちゃったみたいだ。世知辛いなあ。


 そんな訳で、免悟たちがそろそろ大きな戦にも備えとかなきゃダメだなーとか話し合っていると、デヒムスが転移魔法陣から血相変えて現れた。


「やべえぞ!、テラリスが大軍率いてやって来てる!」



 え!、もう来てるの?。

 来そうだよ?、とかじゃなくて?。



「バカ野郎、もうこっちに向かってるんだよ!」


 ガーーン…。なんとテラリス軍が転移ゲートを使っていきなりビブリットに現れたと言うのだ。


 この時点では免悟たちにシルシティーでの情報漏洩の事など知るよしもなかった。しかし、今テラリスが森迷宮に進軍する理由がエダルと迷宮核以外に存在するとは考えられない。

 もしも違う理由が他にあって勘違いだったのならそれに越した事はない。むしろ自意識過剰であって欲しいくらいだ。


 …展開早くねえか?。こんなサクサク進む物語ストーリーだったろうか?。


 いや、あんま進んでねえか…、どっちだ!。


 だいたい転移ワープの魔力コストはバカ高い。

 たった一回の起動の為に数人がかりで(大)魔法を重唱しなければならないのだ。さらにあらかじめ転移先設定も行う必要があるし、転移先の魔法陣には定期的に魔力を補充しなければいけなかったりする。かなり維持管理が大変な魔法なのである。

 なにしろ空間を超越するのだ。地球文明でも不可能なオーバーテクノロジー、効果に見合う対価はとてつもなく高いものであった。


 そんな金食い虫なワープをテラリスは単なる部隊の移動に使ったと言う。しかも100人からなる大人数。

 大型の転移魔法でも一回じゃ捌けないだろう。数回に分けて行われたであろうと思われるが、そのコストはよっぽどの大国でもかなりの負担となるはずだ。これだけでテラリスの本気度が伺い知れると言えるだろう。



「……………………」



「免悟…、大丈夫?」


 茫然とする免悟をホノがゆさゆさ揺さぶる。



 いや…、

 なんかコレ、ヤバいんじゃねーか?。

 まさか迷宮に100名もの部隊を投入して来るとは想定外だった。

 さすがは迷宮王国、三桁の人員はスゲーわ。けっこう本気で感心するがほんのり呆れるわ…。


「エルドウィン…、どう思う?」


 ぶっちゃけ今の免悟にはネガティブ発想しか出て来ない。とは言え免悟はリーダーだ、士気を下げるようなネガティブ意見をストレートに吐き出す訳にもいかない。

 なのでとりあえずエルドウィンに丸投げしてみた。が、コイツに聞いたのは間違いだった。


「クッ、面白ぇー、相手が強ければ強いほど血が滾るってもんだ!。

 いいじゃねえか!、この迷宮の最深部を奴等の墓場に変えてやろうぜ!」


 いや〜〜んこのバカ!。

 面白いかどうかを聞いてるんじゃないんだよ!。


 だがそれをすぐ側で聞いていたメンバーたちもその言葉に呼応して気勢を上げた!。


「おうよ!、相手にとって不足は無え、片っ端から返り討ちにしてくれるわ!」(バルサン)

「いーーね、覇王樹に捧げる肥やしにでもしてやろーよ!」(カル)

「キャハハハ!、皆っ殺しぃぃ〜〜!!!」(ネビエラ)


 何やら勝手に盛り上がる一部のメンバーたち…。


 まったく頼もしいんだかバカなんだか良く分かんないが、それに釣られて何となく残りのメンバーもしょーがねーなぁって感じになって行く。まあ攻めて来るってんだからどうしようも無いんだけどね…。


 それにしても、まさかいきなり初戦でこんな大物を引くとは思わなかった。ただ、こう言う時の為に拠点を要塞化したのだ。

 それにエルドウィンだって性格はムチャクチャだがバカじゃない。意味なくメンバーを煽った訳ではない。おそらく他に良い選択肢が見当たらなかったのだろう。それならむしろ意気揚々と迎え討つべき、と考えたのだ。(と思う)


 実際ダンジョンマスターが迷宮の外に逃げるなんてのは最大の愚策だ。他の迷宮に【空間転移】のゲート設定なんかしてないし、迷宮外に出ればすぐに魔力も尽きてただの人、どころか逆に足手まといになる。


 わが魔童帝国(今思いついた)の最大戦力でもって真正面からの全面戦争か!。



 いっちょやったりますか!。



 「「「「「おおぉ〜〜〜〜!!!」」」」」」





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