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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
46/64

46・迷宮戦争始めます。

 「チェカトリアの森迷宮」、それは大陸中央の聖地グベラリンドからは少し距離を置くものの、ハイレベルな生存競争を見せる激戦地の一つだ。


 迷宮としても最古の一つであり、数々のダンジョンマスターが泉の所有権を賭けて奪い合った古い歴史を持つ迷宮だ。

 現在は「覇王樹アヴァンダル」と言う天然のダンマスが支配する植物系の野良迷宮として知られている。



「ッかーーー、スッゲェーなオイ!」



 森迷宮の全貌が露になった時、誰が言うともなく一行は歩みを止めてその姿を茫然と眺めていた。


 皆がその壮大すぎる威容に思わず溜め息を吐く。


 チェカトリアの森迷宮はただ広いだけの森林地帯ではない。巨大な山脈のように縦にも高く聳え立っているのだ。

 緑のピラミッドの様に中央が突き出て盛り上がり、そこから裾野に向かってなだらかな傾斜を見せている。


 その突き抜けたド真ん中に位置するのが超弩級植物「覇王樹」の主幹だ。

 なんとその覇王樹の最大樹高は約1km!。

 チェカトリアの森迷宮は殆んどこの覇王樹一本の木で構成されていると言うのだ。


 はっきり言って地球で常識とされる物理法則をぶっちぎりで無視している。

 まー、魔法で何とかしてるんでしょう…!。つーか現実的に目の前に実在してるんだから小賢しい理論や理屈など単なる言葉遊びに過ぎない。


 ところで一行がこの森迷宮を目的地としたのは当然ながら理由がある。


 ダンジョンマスターが排他的ではなくおおらかである事、それでいて野良迷宮であると言う事。


 何しろ未発見で手付かずの魔力泉など見つかる筈もない。

 通常、ダンジョンマスターとはその優位性を実力で示さなければならないのだ。


 つまり乗っ取りだ。


 だが、名の知れた大戦団ならともかく、やっと一人前のハンターになったレベルの免悟たちにそんな大それた事は無理だ。

 そこで考えられたアイデアが、既存迷宮に寄生プレイすると言うものだ。


 しかし一つの迷宮内に二つの迷宮核が共存する事はほぼ不可能。

 迷宮に二つも核が存在すると取り込む魔力が半減するからすぐバレる。そうなると当然ケンカになる。


 そして例え迷宮核の無い野良迷宮でも、縄張り意識の強い迷宮主はダメだ。

 と言うか、敵の侵入に敏感でないダンジョンマスターはあんまりいない。

 なので、消去法で一番マシなのがチェカトリアの森迷宮だったのだ。


 まあ、新人のダンジョンマスターが野良迷宮に身を隠すと言うのはそんなに珍しい事ではないらしい。すぐ討ち取られる可能性が高いらしいけど…。


 そんなこんなで魔童連盟の面々はこれからこの森迷宮に潜ろうとする訳だが、当然皮剥ぎ団としては「なんで?!」ってなる。


 チ!、メンドくせえな…、ちゃんと説明しただろーがよ?。


「違うだろォ?!、単に説明すればいいって話じゃねえだろーがよ!」


 皮剥ぎ団リーダーのバルサンが代表して吠えた。


 側で聞いててなんだかデジャブー感あるやり取りに親近感を抱いたデヒムスがしみじみ頷く。うんうん分かるわその気持ち。


 だが、果てしなくメンド臭く字数を食うだけなので、彼らの不平はエルドウィンに封殺してもらう事にした。


「文句がある奴は前に出ろ、俺が直々に相手してやる!」(なっ、何の相手ッ!?)

「…無いなら黙って付いて来やがれ」(はぃ…、orz)


 うん、極めて独裁的なやり方だが、どうせ彼ら皮剥ぎ団に大して良さげな選択肢は存在しない。だからこれは時間の節約である。


 民主主義の欠点は時間が掛かりすぎる所だ。逆に独裁主義の長所は名君が迅速な政策を行える可能性が存在する所だ。と言うような事を銀河英雄伝説で読んだ覚えがある。


 ともあれ暴君主義ジャイアニズム的なやり方だが、今回の皮剥ぎ団に対する扱いは愚民を導く正道の行いなのだ。(もうちょっと言い方考えようぜ?)


 だいたい「俺そんなの嫌だよ!」とか言う奴がいやがったらまた殺さなきゃならない。(命軽〜い)

 一応それなりの(殺す)用意はしていたが、殺さないに越したことはない。


 皮剥ぎ団一同はこうして大人しくドナドナされたのでした…。



 さて、あっさり森迷宮までやって来たが、それまでの道中に何もなかった訳ではない。


 ここに至るまでの道のりは約2ヶ月。

 その間にモンスターの奇襲や組織的なハンターの待ち伏せ等、結構なショートストーリーが存在したのだがそれは省く。(それどころじゃねえのだ!)


 よって、大商都ビブリットとか迷宮町ニヨルドとかも残念ながら名前だけでスルーだ。

 一応、それらの中継地点で万全の補給を終えた一行は、今まさに森迷宮へと足を踏み入れるのであった。

 目指すは覇王樹のど真ん中。その大幹の真下に魔力泉があるはずだ。


 ところで今さらだが、魔力泉がどんなものかと言うと、別に分かりやすく綺麗な泉があったりする訳ではない。

 ぶっちゃけ一般人には何も見えない、なんも無い無空間だ。

 ただスキル『魔力吸収』を持つ者や、迷宮核の所有者はその溢れる魔力の奔流を感じ取れると言う。ある意味別次元の存在だ。


 そして迷宮核はその(概念的)泉との距離に比例してその魔力を多く吸収する。

 近ければ近い程沢山の魔力を手に入れる事が出来るのだ。まあ当然だね。


 ただ、流石にいきなり迷宮の最深部に突入するのは危険なので、少しずつ拠点を刻みながら近寄っていく予定だ。

 迷宮内に居ればある程度は迷宮核に魔力を補充できる。

 しばらくは目立たず騒がずこっそりと力を貯める日々が続くだろう。



 この日、子供を連れた奇妙な一団が迷宮に潜って行ったが、戻って帰って来た姿を見たものはいなかったと言う。


 まあ、大して気に掛ける者もいないのだが…。




ーーーーーーーーーーー




 それから約1年後。



白都市国家シルシティーの首都フェイリンクスにて〉



 シルシティーにおける最強の12守護戦団の一つ「鬼爵隊」のリーダー、アバム・グルゾニクは苛立っていた。

 部下の報告を待ちきれずにオフィスを飛び出し、宿舎の門前で数名の配下を従えて屯していた。


 その様子はまさに夜のコンビニに集うウザきヤンキーの如し。

 道行く人も目を合わさないようにして早足に通り過ぎていく。


 シルシティーの守護者、聖騎士の一員である「鬼爵隊」だが、彼らはリーダーのせいか素行不良で有名だった。


 そこへようやくお目当ての馬車が到着して部下のエイデンが現れた。

 エイデンは、目付きの悪いアバムの睨みを力強い表情で受け止めた。


「おせーぞエイデン!、いつまで掛かってやがる?、テラリスに先越されちまうだろーが!」


「無茶言うなよ、これでもかなり手続きスッ飛ばしたんだぜ!?」


 アバムは馬車から降りたエイデンの肩に手を回すと、部下を連れて宿舎内に取って返した。


「それで例のアレは使えるんだな?」


「もちろんだ、どうにか許可が下りた。明日こちらから取りに行く、出発には間に合うぞ」


「でかした!、ならこれでもう怖いもんなしだな!。

 まったく聞いたか?、テラリスの部隊はもう迷宮町ニヨルドに到着したらしいぜ!」



 最近チェカトリアの森迷宮についてある噂が出回っていた。


 曰く、森迷宮に新たなダンジョンマスターが存在する。

 曰く、森迷宮に迷宮核が持ち込まれた?。


 実際に現地では未だに膨張し続けていた森迷宮の成長が止まっていると言う。場所によっては衰退している所もあるらしい。


 そしてその謎を解くために結構な数の探索者が森迷宮の最深部へと足を踏み入れていた。

 少なくとも迷宮主の覇王樹に何らかの変化があった可能性があるのだ。もしかすると新たな発見で大儲け出来るかも知れない。


 当初、森迷宮の変化に過大な期待を抱いた冒険者たちは様々な理由をつけて迷宮に潜って行ったが、結果的に何の成果も見出せずに引き揚げて帰って来た。


 ただ、相対的に増えた探索者の数は僅かではあるが不思議な情報ももたらしていた。

 それは森迷宮の中心部で妙な一団の姿を見かけると言うものだ。


 とは言っても金儲けしか興味のない人間にはそんな事はどうでも良かったのだが、一部の冷静な人間、もしくもっと金の匂いに敏感な奴等はそれが何かに繋がっている可能性もあると判断した。

 とりあえずその謎の集団を探って見る事になったのだ。


 何しろ迷宮の最深部をうろつく集団であるのに、見たことも聞いた事も無い奴らだ。あまりにも怪し過ぎる。

 そして一旦不審に思われてしまったら後は早い。


 情報が集まるにつれて分かった事は、どうやら彼ら謎の集団は探索者ではなかった。

 と言うか、逆にねぐらを持ちテリトリーを有しているかのような行動パターン。


 だが、そんな人間がいるのか?。


 人類種が迷宮内に留まり続けるメリットなど殆んど存在しない。単に文明を知らず原始的な生活を送っているのならともかく、そうでないならそこから導き出される答えは一つしか知らない。


 ダンジョンマスター?。


 いや、ダンジョンマスターがいるに決まってる!。

 これでダンジョンマスターじゃなかったら俺ら怒るぜ!?。


 そんな発想の元、ここでまた短絡的な金儲け主義者が戻って来て迷宮探索を活発化させた。

 しかも推測に願望を重ねて紡ぎ出された噂話は何故か真実に限りなく近かったと言う。


「ウソぉぉ〜!?」(免悟:机バァーーン!)


 こうして僅か一年で免悟たちの迷宮寄生プレイはバレでしまったのだった。


 とは言えまだ単なる噂の範囲、確たる証拠など何も無い。

 確証を掴むにも迷宮の最深部は居るだけでも危険な場所だ。しかも森迷宮は天然の立体型ダンジョンときている。探すより隠れる方が何倍も簡単なのだ。


 だがしかし、そんな免悟たちのヌルい考えはあっさりと打ち砕かれた。

 隠密行動に特化したレンジャー隊がエダルのレアスキルを『看破』したのだ。


 エダルだって人間だ。いくら危ないからと言ってずっと閉じ込めて置くわけにもいかない。

 と言うかむしろ不自由させないために万全な護衛を付けていたつもりなのだが、撃退する事しか頭になかったのが問題だった。

 まさかこっそり覗き見されるとは思いもしなかったのだ。


 実際に免悟たちには、一体いつ何処で盗み見られたかすら定かではない。結果から推測出来るだけだ。ぐぬぬぬ…。


 そんな訳で、その大スクープを手に入れた探索者はまずシルシティーに駆け込んだ。

 シルシティーにはあらゆる真実を見抜くスキル『真理眼』を持った「真理官」がいる。

 当人の記憶でしかない眉唾まゆつばな情報もかなりの精度で証拠化できる。


 結果その情報は高く売れた。一応、情報拡散を防ぐために一定期間の軟禁生活代も含めて。


 そして当然の事ながらシルシティーはその情報に揺れた。


 迷宮核だけでなくレアスキル『魔核連繋』を所有するダンジョンマスター。

 これをまとめて手に入れたら国力アップは間違いない。しかし逆にこれを敵対する勢力に奪われたらその脅威は半端じゃない。


 国家をもってしても尋常じゃない大きなチャンスでありピンチ。静観する事すら許さない大爆弾に、流石のシルシティーも揺れて揺れ過ぎたのかも知れない。

 その余りの激震っぷりにちょっとチビってしまったのだ。


 つまり…、そのマル秘情報が漏れちゃったのだった。


 まあ元々シルシティーは、図体がデカくてユルい気風のあるお国柄だったので情報漏洩は毎度の事だったのだが、それにしても酷い、漏れるの速すぎ。テヘッ、じゃ許されないよっ!。


 てな訳で、漏れた出所を見つけ出して穴は塞いだものの、すでに周辺各国で情報拡散が始まっていた。

 さしずめシルシティーが情報の真偽判定してGOサイン出した様なものだ…。


 そして一番最初に動きを見せたのは迷宮王国テラリスだ。

 テラリスの動きは早かった。まるで事前にその情報を知って準備していたかの様に部隊を編成すると、すぐさま国を出発させたのだ。


 そのスピードと部隊の質、規模に各国はビビった。


 フル装備の上位戦士100名の大部隊。

 国家級戦団レギオン並の陣容だぜ!。

 ぶっちゃけこのまま迷宮に行かず、多国領を襲撃してもおかしくないレベルだ。

 つーか迷宮みたいな狭いフィールドにそんな大量の兵士を投入して何するつもりだよ?!って話だ。



 ヤバいわテラリス…、奴らマジだわ。(各国?)



 てな訳で、テラリスが速攻で主導権をニギニギするもんだから、各国もそれに応対せざるを得ない。

 普通に探索パーティー出すだけじゃ相手にもならないのだ。かと言って大掛かりな部隊を編成してる暇もあまり無い。


「やってくれるぜテラリス!。

 だが、そのおかげで俺たちに出番が回って来た訳だがな!」


 いつの間にか話の途中で脇に追いやられていた鬼爵隊のアバム・グルゾニクが再び吠えた!。


 出遅れてしまったシルシティーとしては今さらもう主役は張れない。それどころか正攻法じゃ万全のテラリスに丸ごと持っていかれる可能性大だ。


 ならどうするか?。


「フッ!、やってやるぜ、ブッ壊してやるよ俺たちが!。

 その汚れ役、引き受けてくれるぜ、見せてやろーじゃねえか俺たちの悪役っぷりってやつをなっ!」


 え…、俺たち悪役確定なの?。


 ギャハハハ!、と下品に嗤うアバムを他所に、隊員たちの目が微妙に死んで逝く。


 だがこれはしょうがない。

 シルシティーが森迷宮の新たなダンジョンマスターを確保できる確率はもはやかなり低い。

 なので、諦めてダンジョンマスターの殺害と迷宮核の破壊、つまりテラリスの妨害に回らざるを得ないのだ。


 そこでこの「壊し屋」アバム・グルゾニクが指名されたのであった。


 しかし、かと言って投げやりになって放り出した訳ではない。

 国家間の勢力図に大幅な書き換えが起こり得る一大事なのだ。手抜きは出来ない。


 もちろん鬼爵隊としても分の悪い戦に駆り出されるのはまっぴら御免だ。

 あらゆるツテやコネを駆使して最高の決戦装備を用意させたのだった。



 まったく腕が鳴るぜ!。

 チェカトリアに血の雨を降らせてやる!。





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