44・迷宮にまつわる諸々の話
面倒が嫌いな免悟は単刀直入に切り出した。
「デヒムス、どうやらこの珠「迷宮核」らしいんだけど売ったらいくらになんの?」
もちろんデヒムスは驚愕した!。
「へ…、ええ?!、迷宮核ぅ??!」
「いや、そんなオッサンのリアクションいらないんだ。
さっさと売値だけ教えてくんないかな?」
だが、進行が遅いのはこのオッサンのせいではねえ。
「ふっ、ふざけんな(色んな意味で!)、もし本当に迷宮核なら値段なんぞ付く訳ねーだろ!。
迷宮核なんか金出して買えるもんじゃねーんだよ!」
免悟たちの思惑とは異なり、迷宮核とは国家レベルが軍隊で無理矢理奪い合う程の物らしかった。
と言うのも迷宮核を手に入れる事より、敵国に利用される事こそが最も恐れる事態と考えられているのだ。よって値段も付けられないらしい。
なんかオークションとかで高額落札される感じかと思っていた一同としては、おもわぬ誤算だ。困ったぜ…。
さて、それでは少し長くなるが迷宮の説明から始めよう。
まずこの世界の迷宮はあまり迷宮らしくない。
いわゆる迷路的な通路で構成された迷宮は殆んど無く、むしろ迷宮とは名ばかりの様々な形態が存在している。
何故そんなものを「迷宮」と呼んでいるのかと言うと、「幻想皇帝」ら管理者がそう呼称しているからに他ならない。
まあ唯一神がそう言うんだからそうなんでしょうねって感じだ。
だけどこの世界における迷宮の定義はある。それは膨大な魔力を放出する特異点「魔力泉」の存在、それに尽きる。
何故かこの世界には長期に渡って大魔力を放出し続ける特殊フィールド、「魔力泉」と言うものがランダム発生するのだ。
そしてそのエネルギーを利用して構築されたモノを迷宮と呼んでいた。
魔力泉はその膨大な魔力で辺り一帯に恩恵をもたらし、あらゆる者がそれを巡って争いを引き起こす。
そしてそんな泉を支配下に置く者を迷宮主と呼んだ。
もちろんダンジョンマスターになるにはかなりの資質が必要とされる。
と言うのも、溢れる大魔力を貯めるか使い切れる能力、それがなければ魔力泉を支配し続ける事は難しいからだ。
現在のところ、魔力を使って無限増殖するモンスター植物?か、大量に眷族を産みまくるモンスター数種が、天然の迷宮主として有名だ。
後はそう、迷宮核を所有する事がダンジョンマスターになる最も近道であると言えるだろう。
迷宮核とは、魔力泉から溢れる魔力を使いこなすために作られた専用ツールなのだ。
ちなみに核の無い迷宮は野良迷宮と呼んで区別されていた。
そんな迷宮核には大きく二つの能力が備わっている。
まず一つは、大量の魔力を保存出来る貯蔵能力。
もう一つは外部魔力を直接利用出来るスキル『魔力吸収』だ。
この世界の生物はたとえ周囲に魔力が漂っていても、それを体内に取り込んで利用する事が出来ない。(そう言う仕様なのです)
だが、その例外を可能にするのがスキル『魔力吸収』だ。これがあれば外部の魔力を回復ポーションのように利用する事が出来る。(ただし、クールタイムは存在する)
つまり素で迷宮主になれるモンスターはこの『魔力吸収』を持っているし、回復系アイテムはこのスキルを利用している。
要するに『魔力吸収』は外部魔力にアクセスするためのチートスキルなのだ。
よって、ダンジョンマスターの資格とは、迷宮核か『魔力吸収』どちらかを持っている必要があると言っても過言ではない。
「とまあ、こんな感じだ。
とりあえず魔力泉って言うのは半端じゃない量の魔力を放出する。なので、これを上手く使いこなす事が出来れば、国一つ建ち上げる事だって不可能ではないのだ!」デヒ(←このデヒってのやめてくんない?)
「す、凄いデヒー!」
「なんかヤバいデヒ〜」
「こんな長い説明聞いてらんないデヒ…」(こら…)
「ああっ、もおぉぉ……!」
(だからやめてって言ったのに!)デヒ…ムス
てな訳でこんな迷宮核、さっさと換金して豪遊!とはいかなかった。
いずれは国家級の組織が動くのは確定なので、リスクが大きすぎてマトモな奴なら誰も手を出さないだろうってのがデヒムスの評だ。当然デヒムスも嫌らしい。
もちろんマトモじゃない奴なら相手してくれるかも知れないが、当然それはかなり信用出来ない。
迷宮核の存在が世に知られたら最後、時間が経つにつれ出て来る相手は加速度的にデカくなる。
すぐに単なる個人じゃどうしようもなくなってしまうのだ。これは迷宮核にまつわる歴史がそう示唆していると言う。
となると後は…、
「ところでよ、この迷宮核何処で手に入れた?」(デヒ)
「ん?、フェイジがドコかの家からパクってきたんだよ〜〜ん♪」(免)
「くっ…、ちょっとはゴマかそうとかしろよな」
この期に及んで緊張感ゼロの免悟をデヒムスが睨む。
でもまあ、そりゃあマトモな方法で手に入る訳ないか…。
ところで極レアアイテム魔核石、「迷宮核」は、それ自体はたんなる宝石の一種だ。なので、落としたら普通にパシャコーーン割れる。
そんなワレモノ注意なアイテムが戦いの中心で奪い合いの対象になるのだ。結構な確率で破損する。要するに価値を失って、つまりパァだ。
故に現存する迷宮核の数は少ない。
魔力泉はいずれ枯れて消滅すると言われているが、迷宮核は自然消滅する事はない。なのに破損し易いせいで全然増えないのだ。
だからデヒムスはこの目の前にある迷宮核が、数年前グベラリンドの外周付近でドロップした魔核石であろう事を確信していた。
これは疑う余地が無い。ガルナリー近辺でこんなレアアイテムがドロップする可能性はゼロだ。ならば他から流れて来るしかない。そしてここ何十年で行方知れずになった迷宮核をデヒムスは一つしか知らなかった。
デヒムスは次々と子供らの手に渡って行く迷宮核をハラハラしながら眺めていた。
伝説級のアイテムを触ろうと、子供らが取り合いしているのだ。
なんか心臓に悪い…。
「デヒ!、デヒデヒ!」
(早くソレ寄越せよクソ野郎!)
「デッヒ、デヒー!」
(聞こえませんなクソ野郎!)
「デヒ〜デヒ〜」
(まあまあ落ち着けってクソ野郎共〜)
子供らは明らかに悪ノリしてデヒデヒ言ってはしゃいでいた。…。
なんか胸糞悪ィ…!。
つーかもうどうでもいいや、そんな事よりせめてもうちょっと丁重に扱えよな。ソレ伝説のアイテムだぞ。
免悟、お前もなんとか言え!。
まあ、俺には関係無いんだが。
ただ、そうだな…。
確かに、落っことして割れてフラグごと消失、とか言う平穏ルートも悪くないかもな。
ま、絶ッ対あり得ないけどな!、あらゆる意味で。
そんな色んな事を考えながらもデヒムスは結局エダルを眺めていた。
エダルは美しかった。
エダルの性別は男だが、見た目はまさに美少女だった。しかも女でも見た事無いくらい綺麗なのだ。
デヒムスはエダルを直接どうこうしたい訳じゃない。ただ見てるだけ、それだけで充分なのだ。そう、いわゆるYesロリータ、Noタッチの精神だ。
でも触れていいなら触りたい。そして出来ればキープしておきたかった(?)。
ぜんぜんノータッチちゃうやん!。
まさに心乱れる複雑な心境だ。
と、そんな時、迷宮核を持つエダルの体が神々しく光を放った。
ああ、まさしく天使だ!。
……………ん、なんで?。
一緒に騒いでいた子供らが驚いてエダルを凝視する。
「…エダル、今の何?!」
「さ、さあ…」
エダルも自分の身に起きた事ながら、どうリアクションしていいか分からずに呆然だ。
いや、いくらエダルが美しくても現実的に発光するはずがない。何かのエフェクトならともかく…。
エフェクト…?。
いつの間にか部屋にいる全員が押し黙り、動きを止めてエダルを見つめていた。
「………エダル?、ステータスを、開けてみてくれ」
重苦しい沈黙の扉を開いたのはシントーヤだった。
しかし未だ空気は重く、それでいて予感があった。シントーヤの指示が間違いなく何かに繋がっているだろうと言う嫌な予感が。
シントーヤはかつて見た記憶を思い出していた…。
「スキルがある…!。
『魔核連繋』?、だって…」(エダル)
…両親に連れられて見た、ユニークスキル『真理眼』を発現した者が光に包まれるその姿を。
(エダルジセル・エフリダス、非開示ステータス欄)
スキル:『魔核連繋』New!
説明しよう!。魔核連繋とは、魔核石と魔力的に一体化出来るダンジョンマスター専用の最強スキルである!。
『魔力吸引』がダンジョンマスターとして最低限必要なスキルとするなら、『魔核連繋』は迷宮核の能力を最大限にまで引き出せる最上級の迷宮スキルだ。
例えば、『魔力吸引』や「迷宮核」だけしか無いなら、ダンジョンマスターは単に泉を高級ポーションの代わりとしてタダで使いまくれると言うだけに過ぎない。
まあそれでもある意味凄い。
だがしかし!、「迷宮核」と『魔核連繋』二つが揃ったのなら、そんな小細工は児戯にも等しい。
あらゆる生物的な限界魔力量を無視して、ほぼ無尽蔵な迷宮核の魔力タンクと直結するのだ。自分のMPゲージ=迷宮核なのだからもう殆んど無敵!。もはやクールタイムなんか関係無い。
要するに、魔核石と魔力的に一体化すると言う事は魔法撃ち放題。例えば、詠唱三秒の爆波や光弾を一分間に20発、ほぼ永遠に撃ち続ける事が可能なのだ!。
無双してくれと言わんばかりの神スキルだ!。
なのだが…、無双も結構だが、現実的に免悟たちにはそれ以前の問題が立ちはだかっていた。
まさかこんな所でエダルがユニークスキルを発現してしまうとは…。
確かにスキル『魔核連繋』の第一発現条件は魔核石に触れる事だと言われている。
だがいくら神スキルと言えど、魔力泉と接続してなきゃただの人と珠。今のところ単なるガキとガラス玉に過ぎないのだ。
迷宮核だけでもヤバいのに、その上セットで倍ヤバいダンマススキルまで揃っているのだ。大金持って外を出歩くのが怖いどころじゃないぜ。
だから正直みんな思った。あり得ない!、と。
はあ…、どうしよっか?。
とりあえずエダルがスキルを得た事で、迷宮核を手放すと言う選択肢は潰えた。
本当かどうかは知らないが、「迷宮」を国家運営の源とするテラリス迷宮王国は各種迷宮スキルの発見が可能な何らかの手段を持っていると言われている。
実際に迷宮王国は各種スキルの保有者をかなり高い確率で確保しているのだ。
ましてや魔力連繋なんて言う迷宮マニア垂涎のスキルなら、最優先順位に位置するはずだ。少しでも情報が漏れたらソッコーでやって来る可能性は高い。
もしエダルが捕まったら、命ごとスキルを奪われるか、一生飼い殺し同然で扱き使われるかのどちらかだ。
迷宮核をブッ壊して知らんぷりって言う外道シナリオも、エダルがこれでは意味が無い。
何しろ迷宮核はこれ一つだけではない。迷宮王国なんか二つも持ってるらしいし。
つー訳で、俺達「魔童連盟」は、迷宮探しの旅に出る事に相成った。