41・シントーヤ×エルドウィン(模擬戦)
「みっ、見たかぁぁぁーーー!!」
免悟の雄叫びが空き地に轟いた。
グワッハハハハハ!。
殲滅団恐るるに足らずっ!
(注:ここはエルドウィンを刺激したくないので、心中でのみの叫びとなります)
「おい!、さっきのはなんだ?!」
いつの間にか近寄って来たエルドウィン。振り向くやいなや免悟は肩をガシッと掴まれた。
『我が主に気安く触れる事は許さん』
免悟を掴み揺さぶるそんなエルドウィンに、例の【雷導火】がまた着弾した。
「バチッ!」、あイテッ…。
長らく単なるペンダントと化していた「魔王雛の漆黒」が久々の登場となった。
おおっ、お久しブリーフ!、ベッチーじゃん。
と言っても、一応ずっと免悟の首にぶら下がってはいたのだが。ようやくここに再登場の機会が回って来た。反則魔法の所有者として…。
てな訳で、なおも雷導火の電撃ショックをバチバチ食らいながら、免悟をガクガク揺さぶるエルドウィン。(軽減魔法も切れて素だとけっこう痛い筈だが…)
面倒くさいが、免悟はざっくり雷導火の説明をしてやった。
なんか文句を言われるかと思ったが、エルドウィンは特に大した反応も無く、ふーーん、と言って黙り込んでしまった…。
ちなみ内緒だが、模擬戦での雷導火は免悟が発動したのではない。魔王雛の持つコミュニケーション魔法【伝話】で連携した免悟が、単に雷導火の発動タイミングを指示して撃たせただけだ。
要するに外注だ。
完全にズルだ。
つーか後のエルドウィンの感想によると、雷導火は意外とヒドい。
魔法としてはちょっと痛くて痺れるくらいで、一発の魔法効果とするにははっきり言ってショボい。しかし、魔力消費が殆んど無いと言う点で評価は一転する。(免悟の場合自分で魔力消費すらしてないし)
実際は、その効果に見合った何パーセントかの魔力消費があるのだが、完全にこの世界の魔法の枠組みから外れている。使い勝手が良すぎるのだ。
これを単なる牽制や挑発で気軽に使われたら鬱陶しくて仕方がない。
ただ、大規模な集団戦闘の大局にはさほど影響が無さそうなのが救いではある。
とは言うものの、本来なら雷導火は下方修正が加えられかなりの弱体化が施されている筈なのだが、この魔王雛の持つ雷導火は修正前の無傷なバージョンのままだった。(何らかの方法で修正を逃れている)
なので、エルドウィンは止めの雷導火が2連発だと気付いていないが、実はノータイムの連撃がいくらでも可能なのだった。
ちなみにぶっちゃけた事言うと、免悟はこの模擬戦において、わざわざ戦いが拮抗するまで我慢する必要は無かったのだ。
効果範囲の2m以内に入った時点でいきなり顔に直撃させてしまえば、後は畳み掛けるだけで勝敗は決しただろう(初回しか通用しないけど)。ただ、それをしなかったのは単なる免悟の見栄だ。
雷導火だけであっさり押し切ると、本来の実力での勝利を諦めたとも取られてしまう。でもそれじゃあ単に魔法が強いだけだ。免悟の実力を誇示する事は出来ない。
だから本来なら届く事のない最後の一押しだけに使用したのだ。これならまだ試合を壊してはいない、許される範囲だ。
主人公は辛い。
と、ここで模擬戦終了と見た子供たちが、免悟とエルドウィンに駆け寄って来た。
わ〜〜〜〜〜!!!!。
「ちょっ、ぐほっっ!」
三人の子供がエルドウィンに飛んで行った。つーか殆んどタックルだ。しかも身長差からしてエルドウィンの腹にダイレクト。
良くお前らそんなコワいお兄さんの所に気安く行けるな…。キレイなお姉さんと勘違いしてないか?。俺なんかヒヤヒヤするわ。
ちなみに免悟は全力で避けた。
空振りして転がってジト目で睨むエダルとマール。
「「免…悟〜〜〜〜〜!」」
いや…お前ら一瞬拳を振りかぶったよな?。(ギク…)。
もちろんそうでなくとも最初から避けるつもりだったけどさ…。
免悟とこの二人の間に微妙な空気が流れる。うん、当然だな。
ただ、エルドウィンの方はどうだったのかは知らんが、三人に飛び掛かられても流石はエルドウィン、受け切りやがった!。すげえ、と思ったら、やっぱコケた。
「いった…、何だよこれ?」
「キャハハハハ!」
と言うかむしろ引き倒した子供らがすげえよ、お前ら無敵だな。
そんな騒ぎの元に、ハルベル姉弟や年長組たちが歩いて集まって来た。
シントーヤは少し不機嫌なネビエラを伴って免悟たちの元に集合した。
ネビエラは免悟がボコられるのを楽しみにしていたのでなんか目が腐ってる。この性格何とかならないだろうか…?。
でもやっぱり子供らはなんだかんだ言っても免悟が勝ったら喜んでいる。
そんな姿を見るとやはり心が癒される。もちろん新加入のエルドウィンも子供らに受け入れられたようだ。
うん、やっぱりチームの仲が良いって一番だね。
さあ帰ろっか、みんなの家に!。
「だァホ、次はお前の番だよっ!」
姉にシバかれた…。
イタい…、て言うか何なのこの戦闘奴隷の様な扱い…。シントーヤの頬を二筋の汁が流れ落ちた。(比喩です)
「はーい、そんじゃスタートね〜!」
展開早っ!。
掛け声も軽いし…。
つってもシントーヤなんて【狂化】唱えたら後はお任せオート機能付きなので、ある意味監視員的な簡単なお仕事だ。
エルドウィンも大して疲れてないので、ジャニスが軽減魔法を掛けたらすぐにスタート。
ちなみに免悟はまだハアハア荒い息をついてる…。
「グルォアアアアアアァァ!!」
相変わらず恐ろしい程の雄叫びをシントーヤが発する。
エルドウィンが振動剣を起動させながら人喰い狼の様な笑みを浮かべた(これも比喩です)。
シントーヤはもうすでに走り出している。サクサク進むなあ。
シントーヤは躊躇なくエルドウィンに殴り掛かった。得物は例の鉄棍だ。ちなみにお互いガッチリ盾を装備済みだ。
流石にエルドウィンもその圧力を真正面から受けるのは無謀なので、すでに片足一歩後退して半身で受ける。
しかしシントーヤはエルドウィンと顔を付き合わすほどにギリギリまで急接近すると、下から鉄棍を振り上げた。
盾で受け流そうとしたエルドウィンの体が浮く。
エルドウィンが完全な受けに回ると見たシントーヤは、それを見越して逃げようの無いゼロ距離の間合いに詰めてからの一撃だ。受けるしかない。避けようがない。
エルドウィンがカウンターしようにも、シントーヤの攻撃意思は強い。つまり何がなんでも攻撃しか考えてないのだ。
もしカウンターが入ってもシントーヤの攻撃は止まらないだろうし、結果、単にお互いが殴り合う状況になるだけだ。そうなると当然シントーヤの一撃の方が遥かにデカい。今のところエルドウィンに選択肢はなかった。
本能で動いているのだろうが、シントーヤの戦い方は攻撃特化の理に適っている。
そして、突き上げられ、腰の浮いたエルドウィンに、当然ながらシントーヤが猛攻を加える!。
シントーヤは単に鉄棍でブン殴るだけなのだが、その度にエルドウィンが軽々とふっ飛ぶ。なんか瞬間移動みたいだ。
それでも倒れないエルドウィンをシントーヤが次々に追い打ちを掛ける。
だが、恐ろしい事にエルドウィンもまた決定打を回避していた。完全に防御一辺倒だが、まだエルドウィンは戦いのコントロールを手放していないのだ。
この場合、ある意味エルドウィンがスゴい。
免悟は一度シントーヤと戦っているから分かるが、あんな圧倒的な攻撃を受けたら完全に体のコントロールを失ってしまう。
実際免悟はあの戦いで速攻に盾を弾き跳ばされていた。あっさり手放したから良かったものの、それでも一瞬にして毟り取られた感が凄かった。
あんなの一撃でも受けたら衝撃に振り回され、体勢を立て直すヒマもないまま次々と連打の奔流に飲み込まれるだろう。
普通の強化とあまり変わらない効果が、止まる事なく繰り出されるのだ。
と言うか【狂化】の使い手なんてのは普通なら人外モンスターの一種だ。たった一人で対応するもんじゃない。
今こうやってシントーヤの連撃を捌けているのが奇跡に近い。
そして押し寄せる濁流の様な攻撃に、エルドウィンは方向感覚を失っていた。もう殆んど勘で受けているようなもんだ。
クッソ、またナメてた!。
反撃するタイミングが無い。
これ手応え有りすぎるぜ!。
シントーヤの攻撃は神速の勢いでありながら、エルドウィンの体内時間で悪夢のように引き伸ばされ、無限の現在が永遠に続くかにも思えた。
しかし、今はそんな悠長な内観に浸っているヒマはない。
模擬戦と言いながら、実戦でもなかなかお目にかかれないシビアな攻撃。
観客には悪いが、勝つにしても負けるにしてもこの戦い、早く終わるぜ!。
エルドウィンはたまらず魔法を唱えた。
【剛力】!!!。
エルドウィンからエフェクトが迸る。
実際に、二人が剣を交えてまだ10秒位しか経っていない。免悟たち外野からしたらまだ始まったばかりだ。
エルドウィンは被弾を無視して強引に前へ出た。
一方的に被爆するだけだったエルドウィンがシントーヤの攻撃を真正面から受け止める。だがシントーヤも黙ってはいない。両者足を止めての打ち合いとなった。
お互いが主導権を巡って激烈な打ち合いを展開する。
しかし所詮【狂化】はあくまでも持続力に重きを置いた強化。鉄板魔法【剛力】のそれも瞬間的な最大瞬発力には敵わない。しかもそれを操るのはエルドウィンなのだ。
エルドウィンはこれまでの劣勢を一気に跳ね除けた。
と、ここで剛力の効果が切れる。が、エルドウィンは再度剛力を発動。
振動剣発動と剛力2発。全力で動く戦士にとっては限界の発動回数だ。
しかし小魔法を3発撃っても動きに影響を見せないのが一流の戦士の証だと言う。エルドウィンは新たなエフェクトを発生させた。
だが実は、エルドウィンもこれは一か八かの賭だなのだ。これで決まらなければスタミナ切れで確実に負ける。後は無い。
この時エルドウィンの集中力はMAXに到達していた。
僅かに上回る手数と精度の高い剣技がシントーヤを凌駕する。
シントーヤが怒りの声を上げて狂気の力を振り絞るが、それすらもエルドウィンが捻じ伏せる。
たまらずシントーヤが何らかの魔法を発動した。
だがエルドウィンの的確な攻撃が次々とシントーヤの体にヒットし始める。シントーヤが獣の咆哮を上げて藻掻くが、エルドウィンは止まらない。
そしてシントーヤのエフェクトが臨界に達する前にエルドウィンのクリーンヒットが直撃した。
体勢を崩し、振り乱されたシントーヤの剣と盾。その隙間にエルドウィンの振動剣が滑り込む。
シントーヤの首に一撃、続いて腹に突きが入りシントーヤが吹っ飛んだ。
その瞬間シントーヤの詠唱途中だったエフェクトが掻き消える。シントーヤの意識が飛んでキャンセルされたのだ。
だがエルドウィンは吹っ飛ぶシントーヤを追ってさらに間合いを詰める。
シントーヤの盾を蹴飛ばし鉄棍を捻じ伏せ、そして転がるシントーヤに剣を突き立てようとして、止まった。
「エルドウィィンッ!!!」
少し遅れて免悟の声が追い付いた。そう、シントーヤの軽減魔法の証、エフェクトはすでに消えていたのだった。
エルドウィンががっくり膝を付き、そして両者は停止した。
戦いが始まってまだ30秒も経っていない。まさにあっと言う間の出来事だった。
その短い時間のわりに、放たれた剣撃の数はあり得ないほどに多く激しい戦いだった。
なのだが、ぶっちゃけ殆んどの子供らは単に「なんかスゲー」としか見てないのが誠に申し訳ない…。
現実っていうそう言うもんだ。