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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
40/64

40・免悟×エルドウィン模擬戦



 免悟とエルドウィン。


 今、ようやく二人は空き地で向かい合い、模擬戦を始めようかと言う所なのだが…。


 なんかエルドウィンの機嫌が悪い。


 やはり前回の免悟の脳内議論が長すぎたせいだ…。現実的に費やされた時間はほぼ一瞬の筈だが、文字媒体キャラとしてはしょうがな…、あ、すいません、今すぐやめまーす。


 そんな事より、今のエルドウィンの前に立つの怖いんですけど…。


 なんか目付き怖すぎ。

 人斬りのオーラが…、熱さと冷たさ両方備えた様な殺気が…。

 てかコイツ魔王なんじゃねえの?。ラスボスが姿を変えて初期形態でこの地に舞い降りたんじゃねえでしょうか?。

 なんかそれくらいヤバい空気が…。


「ハーイ、それじゃあ始めー!」


「えっ……!」

 ちょまてよ!。

 てか待って?。まだ心の準備が…!。


「いいぜ免悟、そっちの好きなタイミングで始めろよ。

 だが、あんまり長くは待てないがな…」


 微妙に優しくプレッシャーをかけるエルドウィン。流石は魔王様、プレッシャーの掛け方が洗練されてらっしゃる。


 ホントにコイツ俺より年下か?。


 でも、これからカタにハメようとする者としては、その優しさちょっと心苦しいな。フフ…。



 ちなみに、ダメージ軽減魔法【魔力盾】は、現在ジャニス(エダルとペアのミソっかす)が装備しており、今回彼が免悟とエルドウィンに軽減効果を付与した。

 と言うのも、魔力盾は実戦で使う事はほぼ無いし、使うにしても免悟が直接使う可能性は更に低い。なので、最近はほぼエダルとジャニスに貸与されたままになっているのだった。



「じゃあエルドウィン、申し訳ないけど早速気張ってくれや!」(心苦しさ0%〜)


 そう言うと、免悟が掌を突き出し、オレンジ色のエフェクトを発生させた。


 なんと、いきなり魔法を唱え始めたのだ。


 免悟とエルドウィンとの間合いは約5mほど。どちらかと言えば機動力を生かせる免悟の間合いだ。しかし、かと言って悠長に魔法を唱えていられる距離ではない。

 数秒で撃てる小魔法ならエルドウィンが距離を詰める前に発動出来るだろう。だがこの状況で小魔法など大した効果は得られない。


 この世界の戦闘で、盾は欠かす事が出来ない。ヘルメットがどうとか言ってた免悟でも、極小ながらも盾は普通に装備している。

 それは、この世界の戦士は全員魔法使いでもあるからだ。どのタイミングで飛び道具的な魔法が使われるかは分からない。しかし大抵の小魔法なら盾で防げるのだ。


 だが、今免悟が唱える魔法は小魔法ではなかった。脊髄反射で飛び出したエルドウィンが途中でそれに気付く。(この世界では、魔法を掛けられそうになったら速攻で潰すのが常識)


 蠢く様なオレンジのもやがモクモクと免悟の前で広がり始める。

 エルドウィンはこのエフェクト、その後に来るであろう魔法を知っている。だがそれは中魔法で、発動前に潰せる筈だ…。

 でも何かおかしい、だからと言って目の前の中魔法を放置する訳にもいかないのだが。


 エルドウィンがエフェクトごと斬ろうとしたその直前、免悟は「いよっ」と飛び上がった。瞬間に免悟の体が淡い光に包まれる。

 浮遊術が発動した?。


 ヤバい!。


 地上3mの空中でクルリと静止した免悟は、置き去りにされたエフェクトの集合を待つとすぐさま魔法を発動させた。


 大抵の中魔法以上の魔法は、詠唱中に移動すると発動までの秒読みカウントが停止する。

 エフェクトは決まったアクションを辿る必要があるので、途中で形を崩すと一旦カウントが中断される。そして自動的にカウント停止前の形に戻ると発動アクションが再開されるのだ。


 だが、一瞬で危険を察知したエルドウィンは、攻撃をスカされた瞬間足を止めずに走り抜けた。

 その一瞬の見極めは流石だが、免悟の意図が読めずに警戒したエルドウィンは、それほど早く免悟に詰め寄っていなかった。故にそれがアダとなり、逆にその場から逃げる時間が減ったのだった。


 おし直撃?!。

「【業炎破】ッ!!!!」


 宣言と共に右手を振り払う免悟。


 クソッ、【剛力】!。


 タイミングを測ってエルドウィンが身体強化【剛力】で加速する。エルドウィンの姿がすっぽり爆煙に包まれて消える、と共に恐ろしい程の轟音が鳴り響く。


 辺り一面を赤黒い爆煙が覆い尽くした。


 免悟は浮いたままポケットから充填器を取り出すと、すばやく魔力を回復させる。

 中魔法を多重発動したのでかなりの魔力消費、戦闘に支障が出るレベルだ。


 これで終わってくれれば楽なんだけどなぁ。


 ちょっと離れた所で魔童連盟のみんなが見ているのだが、なんかワメいている。ズルいとか、卑怯とか…。


 立ち込める煙から凄い勢いで上昇気流が発生した。風に煽られて少しづつ人影が姿を現わす。エルドウィンは何も無い空き地の中、あえて煙に紛れていた。


 エルドウィンに付与されている軽減効果のエフェクト、天使の輪は、元のサイズの半分以下に縮んでいた。恐らく60%くらい減っているだろう。

 免悟的にはドンピシャのタイミングだったので、もう少し削れていても良かったのだが…。

 しかしエルドウィンが上手く【剛力】で直撃を回避していたのだ。なので致死ダメージは免れた感じだ。それに免悟は知らなかったが、剛力は攻撃力だけでなく多少の防御力も上がる。


 とは言え、魔力盾の軽減効果はダメージを全て打ち消してくれるほど完璧ではなく、当然熱や痛み、衝撃も結構すり抜けて来る。なのでエルドウィンはかなりの熱波にその身を焼かれていた。


 あ、あっつーー…!。


 だが、

「悪いけど、徹底的に行くぜ!」


 いつの間にか免悟は、再びオレンジ色のエフェクトを発生させていた。別にエルドウィンが立ち直るのを待ってたのではない。単に正確な位置確認をしただけだ。


 かーー、やってくれるなっ!。


 しかし、エルドウィンも煙の中から免悟が次の業炎破の用意する姿を捕らえていたので、間髪入れずに対業炎破用の魔法を唱える。


 ところで、この圧倒的に自分優位で一方的な免悟の攻撃。正直言ってエルドウィンは免悟を舐めていた。

 いや、そんなつもりは無かった筈だが、ほんの僅かではあるが相手を侮る気持ちが存在したのだろう。

 普通なら気付かずに終わるような小さなスキを、免悟の厳しすぎる攻撃が浮き彫りにさせたと言える。


 別に戦争に卑怯も糞もない。エルドウィンとしてはむしろ完全に想定外だった自分のヌルさを呪いたいくらいだ。

 もしこれが実戦だったら、ここで終わってた可能性もあっただろう。


 しかし!、現実は結果が全て。今は模擬戦で、エルドウィンはまだ戦える。

 こう言う戦術派タイプの弄する策を、全てブチ壊して勝ちをもぎ取るのもまた面白い!。血が滾るってもんだぜ!


 そして二人の魔法がほぼ同時に発動した。


「んッ……!」【業炎破】!!!!


「ハハハッ、【獄冷破】ァ!!!!」


 赤黒い爆煙と白い風霧が二人の間で衝突する。

 【獄冷破】はその名の通り、業炎破と真逆の凍結効果を持つ強力な中魔法だ。この二つは恐らく対極を成す双子の魔法として作られており、威力的にはほぼ同じ。

 範囲魔法としてはとても優秀で知られるこの魔法を、エルドウィンが持っているのは別に不思議ではなかった。


 お互いダメージを与える事より防御を優先して放った2つの魔法は、真正面からぶつかって相殺した。

 二人ともその強烈な余波を警戒して距離を取る。


 ここで二人は示し合わせたかのように魔力を回復させた。

 エルドウィンは充填器を使い、免悟は純度の高い高級ポーションで二度目の魔力回復を行った。

 免悟はそれほど限界まで体力を削った訳でもないので、純度の高いポーションならそれでも結構回復する。


 ここで免悟は地上に降りる事にした。

 もうこれ以上空中に留まるメリットは何も無い。業炎破を空から撃っても、獄冷破で相殺されたら魔力消費的には免悟が損をする(浮遊術との多重デフォルトで)。


 免悟が地面に足を着くと浮遊術の薄光エフェクトが消失した。だがエルドウィンは動こうとはしない。

 エルドウィンが気になったのは、その浮遊術のエフェクトだ。


 試しにエルドウィンが一歩強く踏み出してみると、免悟は微動だにしないが、浮遊術のエフェクトだけが即座に浮かび上がる。


 これは再発動じゃあない。エフェクトが消えても発動を終えた訳ではなく、効果が継続されている。

 まあ恐らくそう言う事だ。何かカラクリがあるのだろう。だが分かっていれば大した事ではない。


 実は、この地味な機能、免悟の新装備の一つで「薄絹の魔法石」(指輪装備)の効果だ。デヒムスの店に流れて来たアイテムで、(小)魔法未満の(極小)魔法のエフェクトを消す効果がある。

 基本的に、日常生活用のエチケット的なマジックアイテムで、邪魔なエフェクトを取り除いてくれる。

 ただし、ある一定以上の魔力出力を越えると、エフェクトが漏れ出してしまう。あくまで低コスト用のお遊びアイテムである。


 浮遊術の場合、本格的な動きをするとエフェクトが漏れてしまうが、重量軽減が殆んど無い小出力状態だとエフェクトを隠せるのだ。

 微妙な効果だが、これは浮遊術にとっては意外と馬鹿に出来ない恩恵だ。人知れずこっそり発動する事が可能だからだ。


 実際この模擬戦で、免悟はスタート前から浮遊術をすでに発動していたのだった。と言うか、解説するヒマが無かったからスルーしていたが、実は大分前からこのアイテムを入手していたのだ。

 特に、殲滅団のグラッドニーと合う時は密かにコレで浮遊術を発動していたりしていた。(いつでも逃げられるように!)

 それが今回の模擬戦でエルドウィンの裏を掻くのに一役買った。


 魔法の多重発動とは、制御中の「効果」途中に新たな魔法の詠唱を始める事だ。そしてこの世界の魔法ルールとして、詠唱中は他の魔法の詠唱は出来ない事になっている。

 例えば、この模擬戦開幕に業炎破の詠唱を始めた免悟だが、詠唱を終える前に浮遊術を発動する事は不可能なのだ。(例外も存在するが)

 エルドウィンも一瞬、おかしいとは思ったのだ。だが結局は知らない以上、対応出来なかった。

 ちなみに免悟は、いずれ多重発動軽減のマジックアイテムを購入予定だ。浮遊術は多重発動に厳しすぎる。


 それにしても、免悟としては正直エルドウィンと剣を交えるのは気が重い。(アイツなんか威圧スキルでも持ってるのかな、「魔王の眼光」とか、知らんけど)


 模擬戦スタート時と同様に、約5m程の間合いを空けて対峙する二人。


 だが、ここに至ってはもう他に選択肢は無い。エルドウィンもわざわざ待ってくれてるようなので、早々に免悟は動いた。悩んでもしょうがない。


 しょうがない、やりますか!。


 免悟はいきなり全速力で飛び出した。

 すかさずエルドウィンが魔法剣を発動させる。振動剣だ。この一撃をモロに食らうとほぼ致死ダメージ、エルドウィンもマジだ。


 だが、ほんの一瞬でいい、ほんの一手エルドウィンを上回る事が出来れば免悟の勝ちだなのだ。


 免悟が飛剣を手にエルドウィンに躍りかかる。


 免悟は後先考えずに全力攻撃を仕掛けた。はっきり言って長期戦は分が悪い。免悟は体力に全く自信が無いし、戦いが長引くといずれ粗が目立って動きパターンを読まれる可能性がある。

 なので徹底的に先手を仕掛け続ける。


 さっそく飛剣をブン投げると、毒剣で牽制しつつスピードで攪乱しまくった。


 お互いが相手の間合いを牽制し合っては瞬間的に切り結ぶ。そこにシントーヤとの時ほどの激しさはない。

 当然ながらエルドウィンの剣撃はシントーヤより弱く遅いからだ。しかし、その的確な攻撃は確実に免悟の防御を削っていた。

 シントーヤより遅い剣を免悟は躱しきれないのだ。もはや免悟にはシントーヤよりも速く見えた。


 エルドウィンの戦闘スタイルは意外と普通にオーソドックスだ。恵まれた体格と戦闘センスの良さで、特に癖の無いトータルファイターとして成長して来たのだ。その性格や生き様に反し、戦い方は極めて基本に忠実なスタンダードなスタイルであった。


 故に、エルドウィンは免悟の派手な動きに惑わされずに冷静に対処した。剣が飛び回ると言うあまり出会う事のない状況。エルドウィンは、無理せずあえて装甲で受け流す代わりに必ず追撃を加えた。


 浮遊術で攪乱する免悟と、振動剣で少しづつ削るエルドウィン。

 決定打の無いまま、一進一退の続く消耗戦。


 だが全力攻撃ですでにエルドウィンの防御を崩せない免悟に焦りが現れる。

 エルドウィンとしても、免悟相手に余力を隠しておく余地はほぼ無い筈だ。だけど基本的に免悟の方がメンタルも弱いし早期決着を望んでいる。焦りが生まれる要素は免悟に多い。

 結果、免悟の攻めが少しづつグダグダになっていく。


 あーークソッ!。


 エルドウィンはその瞬間を待っていた。

 流石に免悟のような変則攻撃はお目に掛かった事が無いので、ある程度慣れるまではあまり強引な攻撃は出来ない。

 しかし焦ってリズムが狂い、免悟の体が流れて泳いだ隙をエルドウィンは逃さなかった。


 エルドウィンとてあまり勝負に時間は掛けてられない。

 この状況でスタミナ回復をしてるヒマは無かった。つまり、免悟より一回少ないスタミナ回復のアドバンテージはほぼ無いに等しいのだ。

 免悟の飛剣と浮遊術の魔力消費が不明なので、ある程度多めに考える必要もある。


 ただこの感じで負ける気はしないので、後はどう仕留めるかだ。勝ちを取るにはやはりリスクを負って前に踏み込む時がある。そして、それが今だった。


 【剛力】!。


 エルドウィンは迷わず神速の一撃を免悟に振り下ろした。シントーヤを越える剣速。

 辛うじて防御に出された盾が砕け散り、免悟が地面に叩き付けられる。しかし免悟が浮遊術で微妙に動いて回避行動を取ろうとする。


 相変わらずワケ分からん動きしやがる!。


 だが、エルドウィンもそれを見越して地面に叩き付けたのだ。変なバウンドする前にすかさず免悟を踏みつけて固定すると同時に止めの一撃を放った。


 完全に仰向けになった免悟からそれでも剣が突き出るが、受け止められる体勢には無い。構わずエルドウィンは毒剣ごと振り切った。

 【剛力】を上乗せした振動剣が、毒剣ごと免悟の肩口に斬り下ろされた。


 だがその瞬間、エルドウィンの足下で、免悟の体が不自然にズレた。

 重力操作で器用に体を捻る免悟。それを追って微妙に軌道修正した振動剣が、激しい手応えと共に激突した。


 エルドウィンの思惑とは少し異なり、剣先が地面に刺さったのだ。


 とは言え、それはほんのわずか、ほぼ直撃したはずだ。実際に免悟に掛けられた軽減エフェクトは最小サイズにまで小さくなっている。

 それより、問題は免悟がエルドウィンの振動剣をガッチリ抱えて掴んでいる事だ。


 免悟は途中で逃げる事を諦めた。一か八か軽減能力を盾にする。さらにダメージを受け止めつつ、振動剣の剣先を地面に誘導した。そして素早く装甲服を巻き込んで固定。


 これは模擬戦だから出来る事だ。実戦なら激痛でこんなにロスなく動ける訳がない。だが今はそう言うルールでやっているのだ。まだ終わってはいないのだ。


 チッ!。

 エルドウィンは苛立ちを噛み締めながら、即座に剣を引き抜いた。免悟の抵抗を見越して思いっきり力を入れる。


 だがしかし、一瞬抵抗を見せた免悟にスルリと手を離されてしまう。エルドウィンは、うっかりその単純な押し引きのフェイントに引っ掛かってしまったのだった。


 バランスを失い、棒立ちになって後ろにヨロけるエルドウィン。そんな一瞬のミスに素早く立ち上がった免悟が襲い掛かる。


 もらった!。


 浮遊術のアシストのある免悟が、一瞬でエルドウィンに詰め寄った。

 だが、それでもエルドウィンは慌てずに振動剣を引き寄せる。完全に腰が浮いてしまっているが、それも一瞬だけだ。落ち着いてこの一撃を捌けば…、


「雷、雷!!!」(【雷導火】×2)


 エルドウィンの顔前に火花が弾けた。小さな衝撃と白いフラッシュバックで頭がのけ反る。????、何が起こった?!。


 エルドウィンに理解出来たのは、免悟がこの絶好のタイミングを逃がす訳がない、と言う事だけだった。

 案の定、免悟の歪んだ毒剣がエルドウィンの脇腹に突き刺さった。


 エルドウィンの頭上のエフェクトが音もなく消え失せた。



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