39・新装備で模擬戦前
ところで、今さらだが、エルドウィン・サーバル、年齢は21才。え!、21才?。いや…、オッサンって感じではないが、そんなに若いとは思わんかったわ。苦労してるんだろうか。(人殺し過ぎてるんでしょ?)
一応、免悟は別世界からトリップして体は15才だが、中身は20数年の経験値がある、とエルドウィンには年上アピールをしておいたのだが、子供ら同様に意味が分からないようだった。
超常的な謎現象で若返ったらしいって所まではギリギリ分かったみたいだが、別世界って意味が分からないらしい。単なる遠い異国ぐらいの認識で、ふーんってな感じなのだ。
バカの国のお偉いさん方にはその違いが分からんようです。
確かに、予想通りの反応を見せてくれたのはデヒムスやシントーヤくらいだったし…。
「ねえ免悟〜。エルドウィンとは模擬戦しないのォ〜?」
エルドウィンの入団歓迎会の途中。免悟とエルドウィンがメンバー同士の連携に関して軽く打ち合わせをしていると、おかわりを持って来たネビエラが二人の対面に腰を下ろしてそう言った。
「模擬戦…?」
免悟はなんかイヤな予感がしたので無視したが、エルドウィンが不思議そうに聞き返す。
「うん!、私たちが入った時はしたじゃない。エルドウィンとはバトルしないの?」
ネビエラは結構酒が入ってるぽかったが、それ以上に好奇心丸出しの笑顔で免悟の横顔をつついた。
免悟がうっとしそうにその手を払いのける。
「今、けっこう大事な話をしてるんだよ…」
「え?、バトルしないの?」
「…………」
「へえ、模擬戦やるのか?」
無視する免悟の代わりにエルドウィンが口を出す。
「うん、だって男が出会ったらまず拳で語り合うもんでしょ?!」(バカがいた…)
「ごめん、この人残念なんだ、すぐに保護者の方が回収に来る筈だから…。おーいシントーヤァ!?、なんか野放しになってんぞぉ!」
「え、また模擬戦すんの?」
シントーヤすぐ後ろにいた。
「見たい見たい!」
「免悟がボコられるとこ見たい!」
目敏く子供らが乗っかって来る。
やめろ!。つーかそれがヤなんだよ!。
いつの間にか免悟とエルドウィンの回りにはメンバーが集まっていて、意味不明な包囲網が築かれつつあった。
なんかヤバい。が、一瞬にして逃げ道が殆んどない事を免悟の直観が告げていた。
「でもやんないよ?、バトル……(小声)」
ボソッとなんか免悟がツマらん事を言い出した。(そんな事言うかぁ〜〜!?):免悟。
しかし、
「ええ〜〜!、マジで言ってるの免悟ォ?!」
「免悟おもんねえェェーーー!」
「くーーき読めよ、ツマんねーヤロウだな!」
うっ…、免悟涙目?。
「うっわ!、さっすがウチの子ら容赦ないわ。
でもさ、こんなにみんな期待してたらフツーやるよね?。どうすんの?免悟。
てかさ、何が嫌なの?、単なる模擬戦じゃん。ちゃんとダメージ軽減魔法もあるんだし別にいいじゃん!」
ねーー?、とネビエラと子供らが可愛く首を傾げ合う。
かっわいくねー!。
ぜんっぜんかわいくねー!。
つーか、勝てねーだろ普通はよ!。
だけど負けるからやりたくないとか言えねーだろ!?。
つーか、それはみんな分かってるよね?、分かって言ってんだもん恐ろしいよねお前らは!。よくもまあそんな気軽に人を追い込んでくれるよな?。
…分かったよ、やるよやってやるよ、殺りゃあいいんだろ!。こうなったらとことんあらゆる手を使って、なんとしてでも勝ってやる、覚えてやがれ!?。
と言う訳で次の日、免悟とエルドウィンは急遽模擬戦をする事になった。場所は例の第2空き地だ。
ちなみにエルドウィンは常在戦場の精神なので基本いつでも戦争ウェルカムだ。
さらに、ついでにエルドウィンVSシントーヤ戦も同時に行われる事になった。
「えっ、なんで?!」
んー…、ところで模擬戦…。なんか模擬戦の確率が高くないか?。バトル回と言いつつ実は模擬戦って大丈夫かな、構成的に…。苦情が来ても知らんぞ。
いやいや、別におかしくなんかないよ!、そんなもんだよ現実って。だいたいサスペンスでも毎週殺人事件が起きる方がおかしいんだよ。リアルを追及するならむしろ訓練ベースの模擬戦の方が多くて当たり前だろ。おかしくないおかしくない!。
お前誰だよ?、なんかソレらしい事言いやがってムカつくなあ…。
つーかそんなことより、この調子だとメンバー増える度に模擬戦やるハメになるよな。ヘンな風習作りやがって…。
そんな訳で前回と同様に、模擬戦を行う空き地へ向かう道中は。
「エドさん、手加減いらないよ、とりあえず死ななけりゃいいから!」
「うん、でも殺すつもりでやるのがウチのやり方だよ」(ウソつけ!)
「エドさん、アイツまじ働かねえんだよ、ちょっとヤキ入れてやって!。ホント休みのためならけっこうヒデェ事しやがるし、もう俺ら奴に振り回されてばっかで…(続く)」
う〜ん、コイツらホント成長したなぁ。ここでちゃんとお約束を放り込んで来るし。
ただカル…、煽り入れる所で本音を愚痴るのはやめなさい。最悪20文字以内くらいでお願いします。
もはや免悟も冷静に聞き流す事が出来た。ただ相変わらずホノが恥ずかしそうに免悟に応援の言葉を掛けてくれるのだが、何故恥ずかしいのかいまだに狙いが分からない。
えっと?、後はエダルか。
免悟が辺りを見回すと、エダルが人の陰に隠れてこちらを窺っている。使えねえなコイツ…。
まあいいや、そんな事より免悟はエルドウィンを分析する事にした。
一応、お互いにざっくりと情報の交換はしたのだが、模擬戦の取り締まり委員長が、バトルは何も知らないでやる方が面白い。とか言いだして、詳しく互いの手の内を明かすのはバトル後になったのだった。
しかも、シントーヤは相手の戦術なんか知ってても関係ないので、まず免悟×エルドウィン戦をやってからシントーヤ×エルドウィン戦になった。
免悟としては先にシントーヤとやらせて、エルドウィンの戦いを見ておきたかったのだが、それは認められなかったのだ。
つーか、ハンデ一切無し?。そこまでして俺が殺られるのを見たいか!。模擬戦と言うより単なる生け贄扱いじゃねえか。
が、しかーし!、見てやがれ!。この俺がしょっぱい子羊の様にただ黙って贄られると思うなよ!。
そして、いずれきっちりこの借りも返してやるから覚悟しやがれ!。
(嗚呼…、こうして憎しみの連鎖は拡大していくのであった…)
おっと、いかんいかん、今はエルドウィンの戦力分析だ。戦う以上、負ける訳にはいかない。
だが、やはりエルドウィンはかなり強いだろう。だいたいぱっと見て、まず体格が違いすぎる。
エルドウィンの身長は180cm以上ある。意外と若いので、まだそれほどガチムチな感じではないが、シントーヤと比べるとやはりぜんぜん違う、もはや一流アスリートだ。しかも手足が長いので、かなりリーチ的なアドバンテージが存在する。あの恵まれた体格はある意味才能だ。
そして、昨日少し聞いた所だと、戦闘スタイルは特に得手不得手の無いオールラウンダーなタイプらしくいまいち掴み所が無い。トータル的に優れた戦士なのかも知れない。
ただ幸いな事に、殲滅団で使っていた装備の一部は戦団からの貸与で、退団時に返却したため今は結構ノーマル装備らしい。
特に魔法は戦場のTPOによってごっそり入れ替わるので、その度に戦団が用意してくれていた。なので自前の魔法は殲滅団入団前の平凡なままであると言う。
でもまあ剣は自前で魔法剣だし、主要装備はさすがに上級戦士級だ。ぶっちゃけぜんぜん戦いたくない!。
「だがエルドウィン、あらかじめ言っておく!。俺は勝つためにあらゆる手を使うぜ!。それこそ模擬戦に相応しくない初見殺しの奥の手全てを晒すつもりだ!。
だからもしそんな闘いを望まないのなら自ら棄権してくれ、俺はそれを非難しない。ただ、それでもやると言うなら覚悟しろ!」
「ヘ、ハハハハハ!。
いーーぜ免悟ォ!、そう言う心意気オレ大好きだぜ!。いや、バトルってのは本来そうあるべきだよなっ!。あーーやろうぜ!、このオレを苦しめてくれ!、オレにギリギリの戦いを味あわせてくれよォォ!」
「ねえ、なんかアイツヤバくない…?」(ネビ)
「うーん、…………」(子供ら)
いやいや、あんなの顔見ただけで分かるだろ。アレ完全な人斬りの顔じゃん。子供が見たら即泣きするレベルだぞ!。
くそ〜、それより、ちょっと反則っぽい事仄めかせば退いてくれるかと思ったら逆に煽り入っちゃったか〜、しくったー。
エルドウィンとしては、最低でもハンデくらい要求されるかと思っていたが、まさか逆に全力でブッ潰すから手を引け(そこまで物騒な事言ってないよ!)と言われるとは、思ってもいない嬉しい誤算だった。
まさかこの体格差と、実戦で培った経験値を越える何かを免悟が持っているとは思えなかったが、かと言って全く単なるハッタリでも無いとエルドウィンは感じていた。
エルドウィンもある程度は免悟の情報を手にしている。
【浮遊術】による高速機動と、飛行と毒の魔法剣。殆んど子供ら情報だが、強烈な一撃こそ無いものの奇襲要素の多い軽戦士系らしい。
引っ掻き回されるとうっとしいタイプだ。
ところですっかり忘れていたが、免悟は上位種討伐で得た金で早速装備を新調していた。狩りに出掛けるのは面倒でも、武器を買うのは大好物なのだ。
一応、魔導連盟のメンバーは全員同じように新装備を買い込んでいたが、今はまず免悟の装備を紹介しよう。
免悟の新装備の目玉はなんと言っても二代目の魔法使いローブだ。初代のローブは残念ながら女王蟻の唾で穴だらけになって使えなくなってしまったのだ。だが、この二代目のローブは同じローブでもちょっとグレードが違う。
と言うのも流石にこの世界で命掛けて戦っていると、防具の必要性が身に沁みて分かって来る。
そして最近になって免悟が気が付いた事は、初代のローブはあくまで後衛の魔法使い用のもので、前衛で敵と直接剣を交える者の装備では無いと言う事だ!。
ま、そらそーだよね。
なんか一撃食らったら即重傷な攻撃が多いな…、って思ってたんだよ!。
だいたい普通に実戦やってみれば、ビビってもっとガチガチに防御を堅めようとするのが通常だ。少なくとも前線に出るならもう少し「ちゃんとした」装備が必要だ。たとえば、全身甲冑ずくめの前衛装備とか。
だが、それは免悟の美意識的にはNGなのだった。
まあ、バカの病は死ななきゃ治らないらしいのだが、とは言え浮遊術は軽減させる重量に比例して魔力消費が増える仕様だ。
たとえば発動していても、ほぼ重量を軽減せずにただ立っているだけなら殆んど魔力を消費しない。つまり、浮遊術を効率的に使用するには自重を軽くしておくのも重要なのである。
幸いな事に、ガキのようなバカげた免悟のこだわりも、こと浮遊術に関しては仕様に合致するのであった。
そして、そこで免悟が取った選択は「もっとさらに防御力の高いローブ」だ。(お前、言ってる事はネビエラとそう変わらないぞ!)
はっきり言って最速で頭シバかれそうなおバカ回答だが、この魔法世界はバカをも救うイカれた守備範囲の広さを持っていた。
つまり、鉄鎧並の防御力を誇る装甲服が存在したのだ!。
モンスターや植物の生物素材か鉱物素材なのか、もはやどうでもいいのだが、魔法世界特有のご都合主義素材。謎の鋼糸で編まれた最強の繊維素材が存在したのだ。
もちろん、その布一枚だけだと断ち切れる事はなくてもダメージは素通りしてしまう。なので、裏地に衝撃吸収材を張り合わせて作られた最高級の装甲服を免悟は発注したのだった。
これは基本オーダーメイドなのでついでに他機能を追加して、結局は総額100万ちょいのお買い物となった。
同じ様なバカやってながらも、なんとなく理に適っている所が免悟とネビエラの違いか…。
とにかくソレは、初代よりは少しごわごわして重く感じるが、それは初代が単なる紙装甲だっただけだ。だがこの二代目ローブは戦士向け装備としたら破格の軽さと言えるだろう。免悟も大喜びの一品であった。
そしてもう一つ忘れてはならないのが頭部装甲。いわゆるヘルメットだ。
ぶっちゃけ免悟もヘルメットってダセー、と思っていた。そして、今でもそう思ってる。
だが!、実際の戦闘で頭部をガードしないのはパッパラパーか自殺志願者だけだ。(酷い言われようだが、つい最近まで免悟もパッパラパーの一員だった)
それではどうするのか?。
免悟の出した答えは「ヘルメットは抵抗あるが、ヘッドガードならなんとかイケる」だった。
単なる言い方?。
やっぱコイツバカなんだな…、そう思って頂いて差し支えないようです。どうやら。
「ち、違うよ、それだけじゃねーよ!。だいたい兜系ってさ、ビジュアル化した時に見分け付かないだろ?。皆が頭になんか被ってたらそれこそ絵面が平坦になっちまう、それが嫌なんだよ」
って、お前は百パー文字媒体キャラだからソレ関係ねーだろ!。
何お前、書籍化→イラスト化→アニメ化の事まで考えてるのか?。残念ながらまったくいらねー心配だが…。
「バカ野郎、ファンタジー界全体の事を考えてるんだよ!(デケェな…)。何故かリアリティー追求したら主人公がモブキャラ化してしまうって、そんなのショックだろ?。
だからそこは皆それぞれがちょっとづつ地道に解決していかねばならんのだ」
ふ、む……。
で、免悟が採用したのがヘッドガードだ。単なるカップ型のメットとは違い、いわゆるヘッドギア的な奴だ。
わかり易く言うと、ドラクエ2に出てくるサマルトリアのパンク王子が使ってる奴な!。(ラグビーで使ってる奴と言えばもっと簡単かもよ…)(………)
だが、コレならまだビジュアル的な差別化が可能だ。鳥山明は天才だな!。
タンク役ならともかく、免悟みたいに遊撃タイプならむしろあれくらいがちょうどいい。
「えー……、な、なので今回それを使います………」
あ?、あー…、うん、それを使うんだね…?。分かった、それで行こ?………。
散々修正を加えてはみたんですが、どうしようもないので諦めてこのまま投稿します。
次回から真面目に模擬戦やります。