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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
38/64

38・エルドウィンと言う男

 上位種討伐が終わってから約1週間。流石にその間は色々あって、免悟たちも狩りに出かける事は無かった。


 報酬の分配や打ち上げ、祝賀パーティーに二次会、三次会…。

 違うんだ、ご、娯楽が少ないんだ…。こんな時ぐらいしかはっちゃける機会が無いんだよ!。


 ただ…、こうやってバカ騒ぎしてる中でも、賞金の着服がバレないか気にならないではなかった。

 ちょっとした出来心と言うか、遊び心でやってしまったものの、本当に誰も気が付かないのだからビックリだ。(すぐに誰か突っ込んでくれると思ってたのに…)


 このまま永遠に気が付かないならそれでいいが、もし後でバレたら超ウザい事になりそうだ。いや、そらバレたらウザい事になるに決まってる!。


 なので、そんな修羅場を乗り切るためにも実力でかかる火の粉を払える様にしておこうと思う。


 その為にはまずは子供らだ。


 まあ、どうせアイツら今のところ金の使い道は装備しかないしな。


「てな訳でお前ら、今回稼いだ金で中級ハンターくらいの装備を身に付けろ。仮想敵は皮剥ぎ団な?」


「ええっ!、皮剥ぎ団とやり合うの?!」


「もちろん今回の着服がバレたらそう言う事もあり得るぜ!(威張るな…)」


「いや…、それ俺たち関係無くない?」

「だよね…」


「バカ言え、お前らも着服した一部を手にしてるんだ、関係無いと思ってくれるかどうかは相手次第だろ。

 それに安心しろ、装備と戦術さえしっかりしてれば体格的な差は補える。そしてそれについては俺も手助けしてやる。

 お前らだって強くなりたいんだろ?、普通の事やってたって普通の力しか身に付かないぜ。みんなそれぞれが努力してるんだからな。そこで飛び抜けるには当然飛び抜けた何かが必要だ。それは別に運でもペテンでも、それこそ半端ない努力だって構わない。

 ただチャンスってのは誰にも等しく訪れる、かどうかは分からないが、そのチャンスをモノに出来るかどうかは本人次第だ。今回このチャンスが気にくわないならスルーすればいい。ネビエラに金返して知らんフリを決め込めばいいだろ?、次のチャンスがいつになるかは知らんがね。

 ただどちらにしても、皮剥ぎ団くらいのパーティーはいくらでもいる。いずれアレくらいは何とか出来るようにならなきゃな」



「「「……うん」」」



 子供らは多少複雑な表情で頷いた。なんか上手く言いくるめられてそうな気がしたからだ。


 とは言え免悟は保護者だから一蓮托生。それに、元々少年たちも装備は充実させる積もりだし、やはりどんな手を使ってでも強くなって一杯金を稼ぎたいと言う気持ちは変わらない。


「子供だからって手を抜いてくれる程世の中は甘くないぜ、特に子供らしからぬ物を手に入れようとするならな」


「分かってる!」


「よし、とりあえずはプランを立てろ、守りには入るな、なるべく攻めの姿勢でな。出来たら見せろ」



「「「おう!!!」」」



 子供らは弾ける様に一斉に走って行った。別にそこまで急ぐ事はないのだが、大人たちが酒を飲んで盛り上がっていても子供はそんなに楽しくない。まだ酒が美味く感じる歳でもないし。

 なので、結構ヒマをもて余していたのだった。

 ちょうどいいヒマつぶしになるだろう。

 さあ、一応手は打った。これでやっと気兼ね無く飲んだくれるぜ♪。 



 クズ!、お前クズ!。



 ただ、あまりこう言うテキトーな対処の仕方ばっかりしてると、後でとんでもないしっぺ返しを食らいそうで怖い…。なんかヘンなフラグがいつの間にか立ってそうだ…。

 な、無いよね?。



 そんな免悟のゴールデンウィークが終わろうとする頃、一人の男がやって来た。



 ちょうどその時免悟は、活動の再開時期を巡って激しい突き上げを食らっていた。


「つーか、いつになったら仕事するんだよ!、明日こそは狩りに行くぜ!?」


 子供ら年長組が免悟を囲んで糾弾する。

 要するに免悟に怠け癖がついて出勤拒否ひきこもりしているのだ。


「うーーん…、じゃ明日ね…」


「明日明日って昨日も聞いたけど?!、今度こそ絶対だぞ!」


 場所は免悟たちの定宿、ランター亭1階の食堂兼カウンターだ。


 と、そこへ少年の一人ジャニスが現れた。


「免悟、お客さんだよ」


 そう言って何故かエルドウィンを連れて来た。?。




「ウ〜ス。

 え?、お前が免悟?、コナ…ソとか言うんじゃなかったっけ?」


 ジャニスが指差した免悟を見てエルドウィンが首を傾げた。


 うっ!。

 免悟は頭を抱えた。


「お、俺のフルネームは、メータンテイ・コナソ@メンゴ.jpなんだよ…!」



 しーーーーーーん……、



 となるのヤメてって。

 なんかしーーーんとなる率高過ぎないか?!。


(つーかそれが対脳筋用に考えられた言い訳なのか?、酷過ぎる!)



「………いや、いいよ別に偽名使ってても、俺には関係ねーし…」(エル)


 モロバレしてる上に凄い理解を示された!?。「どゆこと?」


「俺、殲滅団辞めたから。それでここのチームに入れて貰おうかなと思ってな」



「「「フワッ?」」」



 どうやらエルドウィンは、マジでネルグラッド殲滅団を退団したのであった。


 討伐を終えてから帰る途中で、他の団員に厭味を言われたらしい。「グラッドニーか?!」(免)、「グラッドニー…ではない…」(エル)


 現実的にエルドウィンに出来る事は殆んど無かったのだが、本隊への連絡を怠ったとか、戦闘に手を貸す必要があったのかとか、もっとああすべきこうすべきと難癖付けられたらしい。

 しかも元々そう言う先輩団員たちとの確執がうっとしくていい加減ムカついたので、先輩をボコって辞めて来たと言う。


 かなり遺恨の残る辞め方ベスト3に入りそうだな…。

 つーかこう言う時こそしーーーん、だろ。うん、納得のしーーーんだ。



「でもいいのか?、て言うか殲滅団てそんな簡単に入団出来る所じゃないだろうに?」


「構わねーよ、取り合えず入るのが目標だっただけだし。それに入ってみたら中身は何処とも変わらない、口だけの奴等ばっかりだったしな」


「そ、そうか…?。

 でもなんでウチなの?。元殲滅団メンバーなら他に待遇的にもっといい所選べるだろ?。

 いや、ウチは構わないよ、そんな凄い人が入ってくれるのは。ただあんまりアンタにメリットあるとは思えなくてさ」


「あ〜、俺今まで戦争ばっかやって来たからあんまコネとか得意じゃねーんだよ。故郷でもちょっと問題起こして居場所無いし。

 ただ、なんかお前ら自由そうで面白そうだったからさ。だいたい俺派閥とか年功序列とか大っ嫌いだし。

 あ、だからって別にリーダーの言う事に口答えしたりはしないぜ?」


「ふむ…」


(ま、先輩ボコッて辞めた奴の言う事は全く信用ならんけどね…)


 まあそれはともかく、ぱっと見エルドウィンは傭兵に良くいる戦闘狂タイプだ。特に深い考えがあって行動する感じでも無さそうだし。

 まさか、わざわざ殲滅団員を使ってまで免悟たちを罠にハメようとする人間がいる訳もないので、本当に思うがままに行動しているのでしょう。


 ところで、実を言うとエルドウィンは、実家のある故郷では子供の頃からちょっとどころじゃない問題児だった。そして家を出てからは、傭兵としての強さだけを追い求めて来たので、かなり貧弱な人間関係しか培っていない。つまり、友達いないタイプだ。

 故郷で共に悪名を育んだ不良仲間も、そう言った過程で見捨てて来たので今さらエルドウィンを受け入れてくれるとも思えないし。

 そしていざ目標であった上級戦団、ネルグラッド殲滅団に入る夢が叶ったものの、そこに想像を越えるような何か特別なものがある訳も無く、むしろ普通に俗にまみれた人間社会の縮図が横たわっていただけだったのだ。


 いくら殲滅団と言えど所詮は人と人との集まり。何処の組織も内部には諍いや対立を抱えているものだ。ただひたすら強くなる事だけを追い求め、上級戦団に強い思い入れを抱いていたエルドウィンが失望してしまったとしても無理はない。


 そんな訳でエルドウィンは生まれて初めて自らの生き方に疑問を抱いたのだった。


 も、もしかして俺って、もしかすると中二病…?。ま、まさか?、そんな筈は…。


(なんか疑問を抱くのはそこではないとは思うのだが、中二病か中二病でないかどちらかと言うのなら中二病だ!)(ガーーーン…)


 そんな中二な病に対し自覚症状が出始めた頃に時に出会ったのが魔童連盟の子供らだ。

 彼らはエルドウィンと同様に強い上昇志向に突き動かされていたが、エルドウィンとは全く違って見えた。


 そりゃそうだ、青臭い夢想とは程遠い金の亡者リアリスト。エルドウィンのような正統派中二病とは対極的な存在だ。


 だがそれだけではない。


 ほんの一時ではあったが、魔童連盟の子供らと一緒に戦った時間には自由があった。

 そして、なんだかこの自由には惹かれるものがあったのだ。


 エルドウィンの持つ強さは鋭いが融通が利かない。一点にのみ研ぎ澄まされた強さ故に弱点もまた偏っているのだ。


 エルドウィンは自分が特化しすぎている事に最近気が付いた。

 

 エルドウィンが願った強くなりたいと言う思いは確かにエルドウィンを強くした。が、その一途な思いはエルドウィンの視界を著しく狭くする。

 その結果エルドウィンには個人的な強さ以外何も残さなかったのだ。


 強さを追い求めるのもそれはそれでいい。でも、強くなったものの、いつの間にか自分の立つ場所が無いなんて。


 昔は強くなる事が目的だった。強くなって何かをするのではなく、ただ強くなりたかったのだ。


 今はどうだ?、俺はもうすでに強くなったのか?、それともここが限界なのだろうか。

 いや、強者への道のりは単一では無い、あらゆる多様な道筋が存在するのだ。


 かつてなら一顧だにせず見逃していた物に、今なら新たな価値を見いだせるような気がしていた。


 エルドウィンは、かつて地元で蛇蝎のごとく忌み嫌われた(一体何したの?)不良仲間とのバカ騒ぎを思い出した。おそらくあの頃は心から笑っていたように思う。(でも他人からすれば悪魔の哄笑だったんだろうね…)


 仲間同士で楽しくやるのも悪くない。最近そう思うようになった、と言うか子供らを見てそう思ったのだ。


 ま、俺もけっこう強くなったし、強さを追い求める事に関してはしばらく置いといてもいいだろう。


(ケッ、そうだね!。えーかげん世界最強なんか目指してる年頃でもないからねっ!:免)


 ん?、てかちょっと待て?。


 脇キャラの内面をそこまで深く掘り下げる必要性があんのか?!。ちゃんとストーリーに関連するんだろうな!。ってまさかコイツ主要キャラなのか?!。



「え?、元殲滅団が仲間になるの?」

「まじ?スゲー!」



 子供らがKYにも無理矢理話に割って入って来やがった。


 くそ、まずいぞ!。早く手を打たないと、無条件でコイツのパーティー入りを許してしまう!。


 別に免悟としては、パーティーにおけるリーダーシップや発言力などどうでも良かった。ぶっちゃけリーダーの座くらい譲っても構わないのだ。

 現にリーダーってだけで強制労働の刑を課せられてるし!。


 そんな事より重要なのは活躍の場だ!。主人公の出番、つまり存在意義、いわゆるレゾンデートルが…(以下略)。

 要するにそれこそが最も憂慮すべき点なのだ。

 なにしろこのエルドウィンには前科がある!。しかもポッと出のクセに何故か良い扱い。未だに名前すら出てない子供が何人いると思ってるんだ?!、数えた事もねーぞ!。(ちょっとは気にしろ)


「エルドウィンさん!、今度剣を教えてよ!」

「あ〜、オレもオレも!」

「つーか剣を使って戦ってる所が見たい!」


 や、やばい…。なにドンドコ余計なフラグ立ててやがんだこのガキら…。お前らは今まさにとんでもないモンスターを産み出そうとしているのかも知れないのだぞ?、分かっているのか!。


「あー、エルドウィン君、あらかじめ言っておく事が一つある。

 つまり、主人公オレより目立つ行動は絶対に差し控えて貰いたい!」



「はあ?、なにそれ?」

「免悟小っさ…」

「ダッサァ…」

「免悟………」



 う、うわあああああああ…。


(だよね?、言ってて自分でもそう思った。でも他にどう言やいいんだよ!)


 免悟は机に突っ伏してヘコんだ、重傷である。しかも自損。

 てな訳で、エルドウィンは無条件で魔童連盟に入団する事になりました…。


「…チ、しょうがねえ。じゃあ、取り合えず今日は新メンバーの歓迎会だな」



「「「「え゛………!!!!」」」」



「ちょ、ちょっと…、なんか遊んでばっかじゃない…?」

「うん、そろそろ仕事始めるからそう言うのはもう…」


「いや!、それとこれとはまた別だろ。そんなのエルドウィンには関係ないし。それにメンバーが増えたら歓迎するのが当然だろ?」


「そりゃあ…ね…」

「でっ、でも明日は狩りに行くよね?、絶対!」


「まあ行けたらな?。ただ、入って即次の日ってのもな…。まずは互いに出来る事出来ない事を把握して、後は連携の確認してからだな」



「「「ぐぐ、………」」」



 な、なんつー抜け目ない奴!。


 こんな逆境でも拾える物はなんでも利用してしまうとは、タフなメンタルしてるなオイ!。


(ハハハ、なんかコイツらホントに面白い奴らだなぁ)エルドウィン



 どこが?!!!。(免&子供ら)



 こうして免悟は、さっそく開かれた歓迎会で、あっさり子供の何人かを酒で酔い潰す事に成功していた。


 よし、これでコイツら明日は活動不能だぜイエイ♪。

 やったねカーチャン明日もホリデーだ!。


 ちなみにこの世界には、子供は酒飲んじゃダメって法律など存在しない。と言うか、酒が子供の健康を害するんじゃないかと言う気遣い自体が無い。そもそも酒も単なるドリンクの一種、そう言う考え方なのだ。


 さて、これでまた気兼ねなく飲んだくれるわ!。



 クズ!、やっぱお前クズ!。



「カ、カルぅ…、バルロとマールが完全に酔い潰れてるよぉ〜」

「ぐわぁぁ、免悟ォォ?!」


 こうしてガルナリーの夜は更けていった。上位種討伐で盛り上がった雰囲気が、当分の間街の景気を押し上げるのであった。



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