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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
37/64

37・上位種討伐篇8


 あっり得ない!。


 主人公置き去りで勝手にバトルするとかあり得へんわ!。しかもボス戦!。

 それもいつの間にかポッと出の脇役がメインで活躍してるし!。

 主人公の存在理由、レゾンデートルが…。レゾンデートル舐めんな!、レゾンデートルやぞ!。


 くそっ、まあいい、レゾンデートルってちょうど言ってみたかった所だし!。


 女王蟻発見の報告を伝えに来たマール少年を置いてきぼりにして、免悟はいち早く現場に到着した。が、バトルの一番美味しい所はエルドウィンに全て持っていかれた後だったのだ。


 なんなのあの子!、キィィィ〜、許せないっ!。


 一応免悟は服の袖を噛むのはやめた。流石にそこまでやったら過剰演出だ。(いや、そんな気遣いいらねえし…)


 そんな事よりとりあえず思い出せ。そう、俺は名より実を取るタイプだったはず…。いやいやいや、それとこれとはまた別問題だろ!。主人公の存在理由、レゾンデートルが…(省略)。


 てな訳で、見せ場を取られた主人公は素早く現場の状況を把握した。

 戦闘は二ヵ所に別れており、片や皮剥ぎ団が最後の一匹の破軍蟻を壁際に追い詰めて止めを刺そうかと言う状況。

 一方、女王蟻の周辺は兄弟姉妹団員が着実に蹂躙されていくモブな光景が広がっていた。


 魔童連盟の子供らは崖の上から手当たり次第何か放り投げている。そして子供以外は殆どが崖を降りてしまっていて、無謀な戦いが展開されていた。


 皮剥ぎ団の支援は必要ない。問題は女王蟻の方だ。そちらはもうグダグダだった。


 って言うかホントに女王蟻出たんだな…。つかコレどーすんの?、いいのか、ホントに俺らが殺っちゃって。みんな殺る気満々だけどさ…。

 俺達がコイツを討伐しちゃったら殲滅団怒らねえか?。ここでわざと逃がすって選択肢もあるのだが…、今さら誰も納得してくれそうにないな…。

 って、え、何?!、この手の葛藤も既にエルドウィンがやった後だって?。

 畜っ生!。あーーもーいいやっ、殺っちまお。最悪夜逃げ覚悟だ!。


 免悟は【浮遊術】を発動して走り出した。そして崖の縁ギリギリを疾走すると、目標の手前で勢い良く跳躍する。そして腰から抜いた毒効果のある魔法剣を逆手に持ち、女王蟻の背に急降下した。


 突如横から現れた免悟の影に子供らが気付く。


 免悟の魔法使いローブがマントのように翻って、主人公に相応しい登場を演出した。雰囲気としてはナウシカ的な感じだ。


「えっ、ユパ様?!」


 ユパ様ちゃうわ!。俺あんなハゲてへんやろ、せめて姫姉様の方にしてくれ!。


「いいからそう言うのやめろ…」(カル)


 真上から女王の背に降り立った免悟は、着地の反動でしゃがむ勢いそのままに剣を突き刺した。狙いすました一撃が女王蟻の甲殻の隙間に深々と突き立つ。

 そしてさらにグリグリと毒剣を捩じ込む免悟。しかし、女王は弾かれたように咆哮を上げて免悟を振り落とすべく転がる。それに対して免悟は、剣を突き刺したままあっさり上空へ逃れた。


 フハハハハ!、慌てる敵の頭上で浮いて余裕カマすとか超シビレるわ〜。【浮遊術】って遠隔攻撃の無い相手にはマジ無敵~!。


 とか思ってたら、女王は顎を上空の免悟に振り向けると、突如体液をブッ放した。なんか黄ばんだ半透明な液体が、範囲攻撃的に大量飛散する。


「ウギャャャーー!」


 免悟が主人公らしからぬ、やられキャラ的な悲鳴を上げる。

 と言うか、瞬間的に汚ねっ!と思って顔を庇った免悟だったが、飛び散った汁が煙を上げてローブに穴を空けたのだ。


 うえ?!、嘘っ、俺のお気に入りのローブが!。ヒドっ!。


 主人公にツバ吐くとは正に天にツバ吐く行為、ゆるせん!。


 だが、免悟はムカつきながらも苛立たしげに毒効果が現れるまで待機した…。流石に上位種に進化したと思われるボスモンスター、普通の破軍蟻よりも二回り程大きいし完全に仕留めるのは容易ではない。怒りやノリでなく、効率重視な本気の攻撃をする必要がある。


 と言っても、団員を退避させると、着かず離れず距離をキープした状態で免悟が【業炎破】を放つ。そうしてさらに弱らせた後は【増撃】を付与したホノの矢で狙い撃つ簡単なお仕事だった。

 時間は掛かるが安全第一な戦法だ。


 最後はボロボロになった女王を、待ちきれなかった団員がフライング気味に突撃してついに女王蟻討伐となった。



「やったぜええええーー!」

「うおおおおおお〜!」

「800万〜〜〜〜!」


 

 兄弟姉妹団のメンバー全員が女王の死体に集まって歓声を上げた。大はしゃぎだ。

 実はそこら辺に女王蟻に殺られたメンバーの死体も結構転がってはいるのだが、そんなのお構いなしだ。

 いつの間にか、崖の上には異変を聞き付けた見物人たちが集まり、同様に声を上げて騒いでいた。


 なんかもう、まるでお祭り騒ぎだ 。


「なあ、おい!、褒賞金は一人いくらなんだ?!」


 団員らしき男が、側にいた免悟を掴まえて幸せそうに問いかけて来た。

 と言うのもこの世界の教育水準は低い。識字率も底辺だし、当然単純な計算でさえ出来る人間は少数派なのだ。肉体労働系のハンターなんかは特にそうだ。


「あー、800万を一応40人として、20万づつだな…」


 それを聞いていた周辺の団員がドッと沸く。


 一人20万G!。と伝言ゲームの様に拡散して、あちこちで20万コールが巻き起こる。


 結局、放っといたら永遠にこのままぽかったので、仕方なく免悟が事態の収拾に動き出す。損な役回りだ。でもみんな底抜けの楽天家キャラばっかりだから、誰かがやらなきゃ話が進まない。


 一先ず、傭兵ギルドに報告をして、討伐の証明を受ける必要がある。それまでは、女王の遺体を奪われたりしない様に護衛だ。

 殲滅団やその他討伐隊の様な正規の戦団はそんなあからさまに無法な事はしないが、犯罪者崩れな非合法集団は何を仕出かすか分からない。少なくとも討伐証明を得るまでは気を抜けないのだ。


 だが、幸いにもそんなアクシデントは無く、ガルナリーから来た役人は上位種の討伐を確認した。そして、事務処理され次第褒賞金が支払われる手筈となった。

 もちろん役人が来るまでの間は、様々な人間が女王蟻を見ようと訪れて、本当のお祭りみたいになっていた。そして当然ながら他の討伐隊もやって来る。


 縛鎖義士団タングルチェインズはかなり悔しそうだったが、それでもお祝いの台詞を残して帰って行った。


 傭兵団レグナシオンは、わざわざ老団長自ら足を運んで来てくれて、ぶっちゃけ殲滅団の討伐を阻止する事が最大の目的であったと、大いに祝福してくれた。

 レグナシオンの参加はあくまで地元の戦団による討伐であったのだ。


 そして、やはりネルグラッド殲滅団もやって来た…。


 ネルグラッド殲滅団が、やって来た…。


 冗談言う余裕は無いのだが、いちお二回言っておく…。


 だがしかし、結局のところ殲滅団は意外にあっさり帰って行った。

 まあ、思ったよりは…だが。


 実際は結構愚痴っぽい事を八つ当たり的にグダグダ聞かされた。

 大恥かいた、とか、出世が〜とか、俺らそんなん知らんがな!。早よ帰れ。


 確かに免悟は女王蟻の討伐は興味ない的な事を言った気がするが、かと言ってあんな目の前に出て来られたら仕留めない訳にもいかない。

 完全に棚ボタであり、殲滅団が不運過ぎたとしか言い様がない。


 と言うのも、殲滅団はネビエラの獄滅龍破で、ショコラ・ヒルのドテッ腹にかなり巨大なクレーターを作り出していたのだ。

 しかし、逆にその圧倒的な侵攻力が女王蟻を慌てさせ、反対側の地表に出現させると言う不測の事態を引き起こしてしまったのだろう。


 まあ、運だけはどうしようもない、諦めろ。言うならば、これこそが主人公と脇キャラとの差だぜ!。


 グラッドニーは人目も気にせず愚痴った後、勝手に去って行った。そういや結局祝福の言葉は無かった気がする。もう二度と来るな殲滅団!。



 さあこれで後は楽しい報酬分配のターンを残すのみだ。


 褒賞金800万Gに加え、女王蟻の販売額が400万Gだった。

 基本、上位種討伐令は、上位種を倒す事が主目的なので、その死体は討伐者の物だ。なので討伐の確認後、女王の遺体はその場で解体され売却された。


 ただ、問題は分配率だ。

 と言うのも、我が栄えあるガルナリー兄弟姉妹団も女王蟻との戦いでかなりの死者が出た。とりあえず死者と生存者の確認をしたところ、10名の戦死者がいる事が分かった。つまり、兄弟姉妹団の全メンバーは現在30名と言う事だ。

 ぶっちゃけみんな内心は取り分が増えて喜んでいる。まあ、世の中そんなもんだ。

 しかも、死んだメンバーの殆どが「チャリンコス」と言う単一のパーティーなのだから後腐れない。


 一応なぜそんなに綺麗さっぱり全滅したのか聞いてみたら、どうやらそのチャリンコスは女王蟻を自分らで仕留めて賞金を独り占めしようとしたみたいだった。


 もちろん同じ連合内で賞金を独占なんかは出来ない。

 ちゃんと上位種討伐隊として登録する時の規約として、褒賞金の分配(40等分)が決められていたのだ。だが、それをチャリンコスは知らなかったらしい。


 チャリンコスは邪魔する破軍蟻を回避して崖を回り込んだら、女王目掛けて速攻で崖を飛び降りて行ったと言う。ド阿呆だな…。


 でも、褒賞金の分配については事前に説明したと思う…。

 確かに褒賞金の分配なんか免悟たちに関係ある訳無いと思っていたので軽く流してしまったかも知れないが、そこは確認しろ!。

 つーか、ルールの抜け道を掻い潜ってスタンドプレーに走るのなら、ちゃんと掻い潜れって話だ。もろ足取られてるじゃねーか、俺知らんわ!。


 ま、そんな訳で販売金額400万をきっちり30等分した。

 褒賞金は手続きの関係でそれから2日後に支払われた。その際、誰も何も言わなかったので、一人20万づつ褒賞金を手渡した。

 みんな褒賞金は20万、と言う前もって伝わった先入観と、既にもうそれだけで充分大金であると言う満足感で、なんの疑問も無かったようだ。


 つまり、20万×30人=600万。


 そう、褒賞金800万の差額200万が丸々手元に残ったのだ。わ〜〜〜い♪。

 なんかチョロまかせそうな気がしたんだよね!。


 実際何人かは、チャリンコスが死んだ分、分け前が増えるのではないか?、と尋ねる奴もいたが、そこは死んだ団員の遺族と証明されれば褒賞金が代わりに支払われる、とか適当にそれらしい事を言っておいた。


 流石にシントーヤには簡単にバレたが、そこはネビエラに何とか説得させた。

 ネビエラは、連合を代表して褒賞金を受け取ったし、直接金を手渡しする役だったので当然グルだ。

 そして困った事に、魔童連盟の子供らにもそのカラクリを気付かれたので、仕方なく50万Gで手を打つ事にした。どうやらネビエラがポロっとゲロったらしいのだ。だから、買収金はネビエラの持ち出しだ。


「えっ、ウソ、マジで?!」


 とーぜんだろ?、お前のミスだし!。


 だが賞金の着服については子供らにも賛否両論あった。とは言っても、それは、あまりやり過ぎるとバレた時ヤバいんじゃないか?、と言う慎重論と、金儲けにリスクは付き物だ的な、金第一主義の積極論なだけだ。

 どうやら金の入手方法自体にはさほど忌避感は無いようであった。


 流石はゼニの申し子、頭のネジが緩んでやがる。もっと非難されるかと思ったが…。(後悔は無いが、自覚はある)


 でもまあこれもチートの一種?。知能チートだと思えばいいんだよ!。それにもっと大規模で悪どい事やってる奴は一杯いるわけだしね、日本の官僚とかな!。


 と言う訳で、最終的に魔童連盟としては総額500万G程の収入となった。

 内訳は、免悟が200万弱、ハルベル姉弟が150万強、子供らが150万弱と言う感じだ。


 こうして長かった上位種討伐篇は終わった。



 ちなみにショコラ・ヒルの大殻蟻は、全滅すること無く新たな女王と共に巣を再建していくのであった。



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