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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
35/64

35・上位種討伐篇6

 あーー、疲れた…。


 殲滅団が帰った後、ガルナリー兄弟姉妹団の皆はしばらくグッタリしていた。

 色々疲れたし、なぜだかやる気も失せてしまったのだ。なので、少し早いが昼飯にする事になった。


 ヘコんだ時は飯を食うに限る!。


 外注で雇った下働きの作った料理を、それぞれが陣内でチームごとに固まって飯を食った。もちろん免悟たちは猪熊の皮剥ぎ団と魔童連盟が一緒だ。


「アイツら(殲滅団)結局何しに来たんだよ、ったく!」


「よっぽどネビエラの獄滅龍破を使わせたくなかったんだろうな…」


「要するに、アレで巣を掘るなって事だよね?」


「あー、穴掘りに関してはどこの討伐隊も手こずってるみたいだからなぁ」


「確かにあの獄滅龍破は、何かしら仕出かす可能性は秘めてるもんね」


「でもよ、後から楽な所だけ参加するってのもズルいっちゃズルいが、力ずくで脅して言う事聞かすってのはヤリ過ぎじゃねーか?」


「まあ、アイツらは女王蟻を仕留めるのが主目的だからな。それにやっぱネビエラ姐さんの大魔法、アレ激ヤバだし」


「つーか、ヘタしたら跡形も残らないかもしんないしね…」


 免悟たち連合は、飯を食いながら雑談を交わしていた。


「ねえ、なんで免悟は名前ウソついたの?」


 横にいたホノが免悟に尋ねる。


「んー…、まあ何となくだが。でも、ちょっと強引な使い方したかもな。もっと効果的な場面に取っておくべきだったかも知れん…」


「…は?、効果的な場面て?…(この人またなんかおかしな事言ってる)」


 ホノの訝しげな表情の横で、免悟は難しい顔をしていた。

 確かにそこまでする事は無かったかも知れない。が、ほんの少しでも何かやり返したかったのも事実。


「…でも免悟大丈夫?、本当にバレたらヤバくない?」

 

「そうだぜ、むしろ名前を知られるリスクよりバレるリスクの方が高いじゃねーか?」


「も、問題無いよ。所詮奴らとて基本脳筋だ、別にバレたって言い訳のしようなんざいくらでも有るさ!」


「ま、それならいいんだけどさ…」



 そんなこんなで、昼食後はなんだかまったりとした雰囲気で討伐が開始された。

 一応、殲滅団に獄滅龍破の空撃ちは承諾済みである。発動さえしなけりゃいいのだ。ただ、そんな事より、大殻蟻の方も兵力に余裕が無いせいか、空撃ちするたびに釣り出される蟻の数も減って行き、さらに皆の緊張感が薄れて行くのだった。



「つっまんねぇーーー!。

 免悟、私もう空撃ちヤだよぉ、生で本番ぶっかけてぇーー!」


「ええい、誰かこのクソビッチ処分して来い!」


「駄目だ免悟、このビッチ腐ってやがる…」


 あたしゃ巨神兵か?。


 (ネビエラがプギィプギィ五月蝿い…。)


 私プギィなんか言ってないし!。



 しかし、今や大魔法の空撃ち効果も薄れて、あんまり蟻が出て来なくなっていた。

 当然、グライダーや上位種の破軍蟻はすっかり姿を現さない。もしかすると他の討伐隊の方に出張してるのかも知れない。


 なので、魔童連盟と皮剥ぎ団は本陣内で絶賛休憩中だ。一応、他のメンバーの希望で、定期的にネビエラが獄滅龍破を空撃ちするが、大した個体が出て来ないので仕方ない。


「なあ免悟〜、もっと金儲けしようよ!」


「つっても出て来ないんだからしょうがねえだろ…、それに一日の稼ぎとしたらまあまあ稼いだじゃん」


「ヌルい!、大甘だよ免悟は。利益はとことん追求しなきゃ、いつかその差に泣くよ?!」


 そ……、そうか?。


 魔童連盟の子供らが一斉に声を上げる。

 さすがに皮剥ぎ団も、その子供らしからぬシビアな姿勢に幾分引いていた。


 なにこの子らアグレッシブ過ぎてコワい…。


 とは言え、本当に一日の稼ぎとしては既に結構な稼ぎが生まれていたのだ。


 狙い通り、上位種型の蟻が計16体。多少値下がりしていたものの、希少な上位種と言う事と、ついでに狩っといたノーマル種数十匹と合わせて総額70万G。(ショコラ・ヒル周辺をうろちょろしてる出張バイヤーに即売却)


 皮剥ぎ団と折半なので35万ずつ。さらに魔童連盟内で三等分して11万ずつ。(半端は経費として留保)


 中堅ハンターで、メンバー10名を抱える皮剥ぎ団でさえ、半日で35万はそこそこの稼ぎと考えているくらいだ。しかも大した準備もリスクも無いし。


「ええ〜、でも何かいいアイデア無いの?免悟〜」


「お前らなぁ、ヤル気あるならアイデアも自力で何とかしろよな〜」


「う〜〜ん、うちにも【地雷牙】みたいな魔法あったらなぁ。皮剥ぎさんら地雷牙買う予定ないの?」


 こらこら、なんちゅうムチャ振りを…。押し売り詐欺に近いやんけ。


「い、いや、中魔法はちょっと俺たち手が出なくてよ…」


 いや、まともに受け答えなくていいんだよ?。中魔法なんか買ったら今日の儲け全部消えるだろうが。

 だいたいあんな微妙な魔法、今回みたいな状況じゃなかったらあんま見掛ける魔法でもないし。


 それを考えたら地雷牙を複数持っている殲滅団は良くやるよなぁ、間違いなく今回の為だけに買ったんだろうし。



 あっ…。



「なんかいいアイデア思いついたかも!」



「マジすか?!、さすが免悟!」

「待ってました!、アイデア一つ頂きました〜♪」


 あのね…。





「つー訳で、こんちわー、メータンテイ・コナソで〜す!」


 激しくビビるネビエラを連れ、多少ビビってる免悟はネルグラッド殲滅団の本陣にやって来ていた。当然ながらシントーヤがネビエラの護衛で自動的に付いて来る。


 殲滅団とは関わりたく無いとか言って偽名使ったが、やはりやり過ぎたようだ。

 なんかバカみたいだが、もうどーでもいいや。開き直ってコナソでまかり通るぜ!。


「で、何の用だ?。つまらねえ話だったらボコって捨てるぞ?」


 もう〜、グラッドニーさんたらヤンデレなんだから〜。

 このセリフも挨拶なのか素なのか、どっちか分かんないや。


「いえいえ、どこも穴掘りに苦労されてると聞いて、うちの大魔法をお貸ししようかな、と思いまして?」


「あ!?、あの大魔法をか…?。

 あぁ…、んー、アレな…」


「安心して下さい、コイツ(ネビエラ)ね、【縮尺】持ってるんですよ。だからあの大魔法、もう少し規模を小さくする事が出来ます」


「マジか?!」


 【縮尺】、この魔法は、対象の魔法を縮小出来る魔法だ。


 この世界、増幅型の魔法が多種存在するのに対し、縮小型の魔法ってのはかなり珍しい。

 それもその筈、普通威力を上げようとする事はあっても、下げようとする必要性はまずない。

 そして、増幅系とこの縮尺。一見すると対称的に思えるが、普通の増幅魔法が効果だけを大きくするのに対し、【縮尺】は対象魔法の効果やデメリット、消費MP、詠唱時間等、全てにおいて比例的に規模を縮小するのだ。


 そりゃ、普通に効果だけを縮小させるって百パー意味不明だからね。


 つまり縮尺ってのは、サイズの変更魔法(下方修正オンリー)なのだ。

 なので、こんなの何に使うの?とお考え通り、普通に使い道の見当たらない一応存在するだけの不遇魔法だった。


 ちなみに、例えば【地雷牙】に増幅魔法で威力UPさせる事はもちろん可能だ。

 ただし、あらゆる魔法にはそれぞれ最大増幅率等が設定されており、単純に威力が倍化したりはしない。

 中魔法の地雷牙に、小魔法の増幅系魔法を掛けた場合、その増幅率は良くて1.5倍。

 MP消費30%の中魔法にMP消費15%で増幅して1.5倍の威力の地雷牙を二回撃つのと、素で地雷牙を三回撃つのはダメージ的にもコスト的には同じだ。

 つまり、今回の発掘作業の様に、継続的なダメージの蓄積には、あまり地雷牙の威力増幅自体は意味が無かったのだ。

 さらに、増幅率によっては全体のコストパフォーマンス自体は悪くなる場合も少なくない。


 と言う訳で、このエグゼリンドと言う魔法世界の魔法は、幼稚なバグ技で簡単チートが出来ない様にバランス調整されていた。




 さて、話を戻してネビエラがこの【縮尺】と言う魔法を手に入れた理由、それはネビエラがバカだからだ。


 いや、決してこれは言い過ぎではない。


 そう、金の無いネビエラが、地道な貯金で装備を整えて行く子供たちに危機感を抱いた結果(お前も見習えって話だが)、シントーヤを強請って手に入れたのがこの(小)魔法だったのだ(どう考えても努力する方向性を間違ってるよって話だが)。


 とは言え、とことん姉には甘いシントーヤだが、それ以外は良く出来た常識人だ。ちゃんとストッパー機能を搭載していた。

 なので、現実的な予算(縮尺は安い)が設定された末にネビエラが選択したのは、性懲りも無く【獄滅龍破】を使いこなすと言う茨の道であった。バカに通じる一本道だ。


 ここで思い返して欲しい。


 まあ、別に思い出せなくてもいいのだが、かつてネビエラが夜明けの荒野で高笑いしていた意味不明シーン。アレは獄滅龍破の低威力化された試し撃ちの現場だったのだ。

(ようやく明かされるどーでもいい事実。危うく意味不明のまま、永遠に放置され忘れ去られる所だった…)


 と言う訳でネビエラは、自分と獄滅龍破の存在意義を見いだすために、あえて威力を落としてでも詠唱時間を短縮すると言う、どーでもいい決断を下したのである。

 確かにあんなに威力は無くてもいいし、詠唱時間が短ければ悪くないように思えるが、実際は獄滅龍破を売って使える小魔法を数個買った方が普通にベストな選択だった。

 だが、それではネビエラさんのキラリと輝く個性が打ち消されてしまうらしい。難儀な人や。




 てな訳で、とりあえず獄滅龍破のサイズダウンした姿を殲滅団に見て貰う事になった。


 実はこの時点でグラッドニーは、ネビエラの大魔法にかなりの期待を寄せていた。

 帰り際に見た獄滅龍破の爆心地を見た印象は、あまりの破壊力ではあるが大雑把すぎる、と言うのが正直な感想だった。

 ヘタしたら、女王蟻の体ごと消し去る可能性がある。


 だが、その効果を抑えられるなら、その本質的な破壊力は、かなり発掘をはかどらせるだろうと思われた。

 それにグラッドニーも、そろそろこの発掘作業に嫌気が差していたのだ。はっきり言って、多少雑でも作業が進むならそれでいいとも思っていた。


 そして色々と調整がなされた結果、【縮尺】を2度掛けすると言う事で落ち着いた。

 さすがに一回だけではまだサイズも威力もデカ過ぎたのだ。


 ちなみに、消費魔力は獄滅龍破自体が半分のさらに半分になって+小魔法が2発分。

一応、素で獄滅龍破を撃つよりは少し少なくなる筈だが、これもあくまで一般的な理論上の計算である。

 普通は、それぞれの魔法によって長年調整されてきた適正値が存在している。

 実際、ネビエラの実感としては、縮尺を使っても最終的な総魔力はほぼ変わってない気がした。



「てな訳で、獄滅龍破ドーーーーーン!!!!」



 さっそく縮尺×2の獄滅龍破が放たれた。

 軽自動車並みの球形魔法陣から電柱くらいの黒龍が現れ、盛大に目標地点を抉りまくる。

 サイズが小さくなっても相変わらず爆音と地響きと砂埃が凄い。


 つーか、ホントにこの威力減ってるのか?、貫通力は変わってない様にも見えるが…。

 ここらへんも独自の仕様になってるので、勝手に判断出来ない。


 ま、とりあえずは殲滅団のご要望に応える事は出来たみたいでなによりだ。


「キャーーハハハハッ!!!!」


 相変わらずネビエラは気持ちがいいほど品が無かった。と言うか、それよりもっと自分のメイン魔法のスペックに興味を持て!。




「では、代わりに【地雷牙】貸して貰えますか?」


「ああ、いいだろう!」


 免悟とグラッドニーはガッチリ握手を交わした。取引成立だ。


 マジで女王蟻の発掘を目標にする殲滅団と、ほどほどの蟻を釣り出したい兄弟姉妹団。

 ついでに、獄滅龍破をブッ放したい下品ネビエラ…。


 あらゆる関係者がまさにWINWINな状況!、これぞ匠の采配?。

 免悟、キミってマジ天才だよ!(自賛)。



 さあ、これでとりあえず子供たちは納得してくれるだろう。


 免悟は本陣に戻るため、保護者のシントーヤに声を掛けた。(もし暴走したら帰ってくるな)(ヒデェ!)

 ところで、そのネビエラはと言うと、魔力回復中だったのだが、何故か持ち前のバカりょくでいつの間にか殲滅団のメンバーとも仲良さそうに談笑していた……。


 なんだろう、ネビエラのコミュ力が底知れない…。


 免悟が代わりに連れて帰る【地雷牙】使いの殲滅団メンバーさんの方は、むっちゃ不機嫌でコミュニケーションの糸口すら無いと言うのに。(気持ちは分かるが)


 結局免悟と地雷牙使いは、道中一言も言葉を交わさなかったと言う。

 まあ、別にこれはビジネスなので仲良くなる必要はないのだが…。

 運悪く出張させられた殲滅団メンバーさんには申し訳ないが、契約通りきっちり働いて貰う、子供らの為に。


 ところで、免悟自身はこの日はもう動く気は無かった。

 なので、ここからは連合としての枠組みを取っ払い、稼ぎたい奴だけが狩ればいい自由行動にしたのだ。

 もはや、リーダーを必要とする様な集団行動の出番は無いし、獲物の数にも限りがあったからだ。



 そして免悟は一人、陣内のテント下でショコラ・ヒルを眺めていた。



 結局、自由行動だと言うのにほぼ全員が張り切って狩りに出掛けて行ったのだった。

 まあ、せっかく地雷牙があるのだからそう言うもんなのかも知れないが、結果的に免悟だけがサボる理由を作るだけになった感じだ。


 何だろこの状況…、ちょっとプリミティブでジャーマンスープレックスな感じ?。(寂しさを紛らわす為に、適当な単語で着飾ってみました…)


 それはともかく、やはりニートを社会認知させた穀潰し世代と、モンスター溢れるサバイバルな異世界人との溝は深いのだろうか。


 世界間ギャップみたいなものを勝手に感じながら、免悟は夕暮れの斜陽タイムに浸っていた。(すんません、もういつの間にか日が暮れます)



 はあ、今日の晩飯何食おうかな?。



 まったり免悟が佇んでいると、急に周辺が騒がしくなってきた。

 主に、地雷牙を使ってる獄滅龍破の大穴辺りだ。


 む…、まったくなんて不粋な奴ら、情緒の欠片も無いな…。


「免悟免悟免悟ーーッ!!!!」


 あ〜うっさ!、何処のクソガキだよ、おい免悟呼んでるぞ?、早く応えてやれようっせーから…。

 俺?、俺はメータンテイ・コナソだよ!。



「それはもういいからッ!!!!」


 激しく蹴られた。





「女王蟻が出たんだよッ!!!!」


「は…?」


「つづくッ!!!!」



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