34・上位種討伐篇5
ブッハ、見たか?!、開始たったの数分で既に4、50万!。
グライダー種と破軍蟻が合わせて10匹。一匹4、5万だから、約4、50万Gだよ!。
クッ、笑ってまうやろ?!。
免悟が一人黒い微笑みを浮かべる。
まあ、皮剥ぎ団と半々だからアレだが、それでもチョロい。
しかし、免悟は込み上げる感情を押し殺した。皮剥ぎ団と魔童連盟だけで狩りをしてるんじゃないのだ。他の上手くいってないチームが見たら嫌味だしな。
とは言え、ついつい隣に座るネビエラと視線を交わしてはニヤついてしまう。ネビエラも、学校の成績は壊滅的だったと言うわりに、金の計算だけはちゃっかりしていた。
ところで、免悟もネビエラもかなり魔力が底を突いているので、現在、 簡易テントの下で大人しく膝を抱えて回復待ちだ。
ネビエラは、同じく魔力切れのエダルと肩を寄せ合い、一緒に回復効果のある薬草茶をちびちび飲んでる。
一方免悟は体力回復魔法、【休息】でほんの少しだけ早目の充電だ。
【休息】は(小)魔法を使って魔力を回復する魔法だ。安静な状態でじっとしてたら通常の倍以上のスピードで回復し、最終的には初期使用量を回復量が上回って通常より早く回復する。
まあ、あったら便利な魔法だ。
ところで、現在の状況は獄滅龍破の後始末中だった。
約15m四方の歪な大穴からは、大量の煙と砂埃が立ち込めていた。そしてその周辺でピクピクと転がる大殻蟻目掛けて、沢山のハンターたちが殺到している。当然、皮剥ぎ団や魔童連盟の皆も同様だ。
もはや、最大の武器、物量攻撃を失った以上、蟻たちに出来るのは敗北までの道のりを長引かせる事だけだ。
悪いけど、稼がせて貰うぜ!。
とか思ってたら…。なんか変なのが現れた。
なんかカッコいい騎獣に乗った戦士数名が、砂埃を上げてやって来たのだ。
護衛の制止も聞かずに、ズカズカと陣内に入って来た奴等。そんな異常を感じて集まって来たガルナリー兄弟姉妹団の一人が、免悟とネビエラにそっと耳打ちした。
「あ、アイツら、殲滅団の奴等だ…」
えっ、マジ?!。
5人の戦士の一人が、陣のド真ん中に突っ立って声を張り上げた。
「おい!、ここの頭は誰だ?!」
なんかヤバそうなので、とりあえず丁重に対応させて頂こうと立ち上がった時、隣のネビエラが手を上げた。
「あっ、私だ!」
し〜ん、とした雰囲気の中でネビエラの声だけが響いた。殲滅団の視線が一人ネビエラに注がれる。
「はあ?、お前がここのリーダーか?!」
「う、うん。私がリーダーだよ…」
「テメエら、いい加減な事言うなよ?、あんまりふざけてるとブッ潰すぞ?!」
流石のネビエラも殲滅団相手には強気も失せる。そんな彼女の横で免悟が言った。
「いや、間違いなく彼女はこのガルナリー兄弟姉妹団のリーダーだよ。そして、さっきの大魔法の使い手でもあるし…」
それを聞いた殲滅団のメンバーの殺気が増した。うーん、やっぱ【獄滅龍破】関連の苦情か?。
そして、殲滅団のリーダーらしき男が無言で免悟を睨んで来た。ウホッ、熱い視線!。
いやいや、冗談抜きで睨みながら沈黙するのは怖いのでやめて欲しい。耐えられません…。
「あ、俺はこの討伐隊のサブリーダーの一人です。
ところであんたら殲滅団の人ですよね、わざわざこんな所まで一体何の用すか?、今、他に対応出来る者がいないので、もし良かったら俺がお話を伺いますが?」
こう言う時は、展開を先読みして話を進めるに限る!。話してる間は同じ人間て感じがするからな。
殲滅団のリーダーらしき男は、なんか苦〜い表情で額に皺を寄せた。
(なんだここは?、女子供しかいねえのか?。まあ、来てみれば、明らかに寄せ集めの半端集団ぽいから仕方ないが…。だが、その割りには(大)魔法なんざ持ってやがるし。
しょうがねえ、目の前の小僧も見た目はともかく、女リーダーよりは話が通じそうか?)
「俺はネルグラッド殲滅団のグラッドニー、今回の討伐隊のリーダーだ。
ところで今言った大魔法、アレは何だ?!」
何だと言われても困るんだけど…。
「えー、何か問題ありました?」
「問題大ありだ!、今さら後からノコノコやって来て引っ掻き回すんじゃねえ、目ざわりだ!」
「なんか被害でもあったスか?」
一応、免悟も他の討伐隊には被害が及ばないようにかなり注意していた。あるとすれば音や震動がデカいくらいだが。
「……被害もクソもない、あの大魔法はやめろ、もう二度と使うな、分かったか?」
「え、なんで?、何か被害があったならそれなりの対応はさせて貰いますけど?」
「被害ある無しは関係ない。大魔法は使うな、ただそれだけだ!」
「いくら殲滅団の皆さんが凄かろうと、理由も無くやめろって言われてもね。
たとえ俺たちが取るに足らない集団でもあんたらの手下じゃないんだ、ある程度スジの通った納得出来る説明が欲しいですね」
「いいか、俺たち相手に駆け引きが通用すると思うなよ、言っとくが後悔しかしないぞ?!」
「駆け引きもクソも俺たち一方的に脅されてるだけだぜ?」
ここで皮剥ぎ団やその他のメンバーが、本陣の異変に気付いて戻って来た。だが戻って来て、殲滅団がいると知り、微妙な空気に包まれる。殲滅団と言うだけで腰が引けてしまっているのだ。
しかし、人数だけならこちらの方が圧倒的だ。この人数差でビビってたら戦士としての存在意義を疑われる。なので一応彼らも適度な威圧感を漂わせてはいる。
一方、殲滅団の方は誰一人として動じてもいない。特に気負った様子もなく、むしろ淡々とした雰囲気でそれでいてとことん最後までやってやる的な剣呑な殺気が尋常じゃない。
やっぱりコイツらヤバいわ。別に格好付ける訳じゃないが、奴らから死の匂いを凄く近くに感じるのだ。マジで。
もちろん免悟は殲滅団と事を構えようなんて、一切考えていない。なにしろここにいるのはたったの五人だ。本隊のメンバーはまだ他に何十人といる。この五人を殺った所で、間違いなく残りのメンバーにそれこそ一瞬で殲滅されてしまうだろう。
しかも、下手したら最悪この五人に好きなように蹂躙されてしまう可能性すらあった。
と言うのも、噂からして間違いなくコイツらの腕前は一流。装備だって半端なく金を掛けてるだろう。
そして、一番怖いのがコイツらの纏う雰囲気だ。なんて言うか、仕草一つ取っても気負いが無い。威嚇とか虚勢なんか一切しないし、逆に威嚇や虚勢には何の反応もしないのだ。
ただ殺る事を殺るだけ。
そんな命のやり取りに特化した物騒な気配だけが漂っていた。
おそらく、戦いにおいて命を捨てる事を全く恐れてもいないのだろう。逆に己の命をも天秤に掛け、最も効率的な殺戮のみを考えている目付きだ。
コイツらもう人間じゃねーよ!殺戮専用のモンスターかマシーンだ。同じDNAなんか1%も含まれてないんじゃねーの?。
無理!、無理無理無理!。なんか知らんが無理!。
とりあえず免悟は悟った。コイツらは気軽におちょくったりしてはいけない人たちなのだ。
免悟も当初は彼らのふざけた要求に対し一矢報いたいとは思った。だが、その結構な力の差に逆らう事の無意味さを感じていた。
実際目の前にしていざ殺せるかとなると、現実的に厳しいと言わざるをえない。
つまり敵の装備+技量的な差を、こちらは人数で覆さなければならない訳だが、それにはまず命を惜しまない捨て駒が必要だ。
奇しくも大殻蟻が見せたように、処理能力を超える物量攻撃でようやくそこに実力差を埋める隙を作る事が出来るのだ。
だがしかし、このガルナリー兄弟姉妹団に命掛けで殲滅団に特攻出来る様な根性入った奴は一人もいない。チームワークなんて有りゃしない。むしろ足を引っ張りかねない奴らばかりだ。
まずは兄弟姉妹団たちの恐慌を誘い統率を乱す。そして混乱に乗じてまともな動きをする者から各個撃破されて行く。いつしか唯一の数的優位も失って兄弟姉妹団全滅〜、とか普通にあり得る。
うん、戦争反対。平和こそ繁栄の礎、争いは何も生まないのだ…。
って、そんな事よりどうする?。どうやってこの状況を回避しよう?。
殲滅団の要求は、大魔法【獄滅龍破】の使用禁止だ。だがこの要求は別に呑んでも構わなかった。むしろコンスタントに蟻を釣り出すには、やはり獄滅龍破は空撃ちする方が効率的だからだ。
ただし、そうなると当然女王蟻の捕獲は諦める事になるが、免悟的にはそれもどうだって良かった。
問題は、たった五人で陣内に踏み込まれ、理由も無くただ彼らの言い分をそのまま丸飲みさせられるって事だ。はっきり言って完全にナメられてるし、他人が知ったら笑われても仕方ないくらいの屈辱行為。
とそこで、気が付けばいつの間にかシントーヤがネビエラを庇って立ちはだかっていた。皮剥ぎ団同様に、大殻蟻の回収に出ていたシントーヤも戻って来ていたのだ。
しかも、シントーヤは恐れ多くも、殲滅団に真っ向からガンを飛ばしている。なんかやる気満々だ。
うおい、落ち着けって、勝手に先走るんじゃないよ!。
そんなシントーヤに釣られたのか、ネビエラと仲の良いメンバーたちが、何故か女の子(ネビエラが?)を守らねば!、みたいな謎な空気を出していた。
どうも、同じ殲滅団の前に立つにしても、女子を守ると言う考え方の方が少しでも精神的な負担が少ないとでも言うのだろうか?。シントーヤだけは真剣にマジで戦う気だが…。
とにかくなんか変な流れだ、どうも良くない!。少なくとも殲滅団の奴らは、違う意味でさらにイラっとしてるし。
とか思ってたら、殲滅団の皆さんあっさり剣を抜いたよ!、皮剥ぎ団も反応して密集体勢に入る。
「ちょっっと待ったぁーー!!!」
なんっかコレ、ヤッバいよね?!。
何だか事態は急展開の様子を見せ始めたので、反射的に免悟は割って入った。実際のところどうなるかは分からなかったが、一旦動き出してしまえば止めるのは難しい。決断するのなら事前にしか意味は無い。
免悟のちょっと待ったコールに両陣営が動きを止めた。
「すみませーんグラッドニーさん!、まさか殲滅団の皆さんがそこまで本気だとは思ってもみなかったので、つい俺らも勘違いしちゃったみたいです〜。
なので、さっき言われた大魔法、アレはもう二度と使いません!。そもそも俺たち、単に小遣い稼ぎでやってるだけで女王蟻の討伐は全く興味ないんで。
だからブッ殺されるのは勘弁して貰えませんか?!」
微妙な空気の漂う中、更に予想外なKY免悟が喋りまくった。
ハッ、プライドなんざどーでもいいですよ!。俺は名より実を取るタイプだ。今、こんな所で殲滅団と殺り合うなんて選択肢はあり得ない、全くバカげてる!。
普通ならここは完全に戦闘フラグ立ってる所だが、そのフラグ実は死亡フラグに等しいんだから折るしかないでしょ!。
戦ってもたぶん負けるんだって!。やるだけ無駄なんだからしょうがないよ。
すんませんすんません、と両者の間に入り、場を取り成す免悟。殲滅団の皆さんも何となく 分かって貰えたようで、剣を下ろしてくれた。
ぶっちゃけ殲滅団にとって、揉め事で意見を引っ込めるなどあってはならない事だ。意見とは押し通すもの。多少後で困った事になろうとも勝てば官軍、あらゆる問題は武力で排除!(解決する、とは限らない。時に更なる問題を誘発させる事はまま有る事だ)。それがネルグラッド殲滅団の正しい在り方だ。
しかし、そんな暴論も時と場合による。特に今は上位種討伐の最中だ。たとえショボい連合とは言え、一応同じ討伐隊を単にウザいってだけで殲滅って普通に犯罪です。しかも相手の陣に押し入ってるし。
まあ殲滅団にとって殺人は罪でなく誉れだが、一般的にはそうじゃないのだ。(なんかおかしいよこの文章…)
ともかく、もしここで殲滅しちゃったら、たとえ討伐に成功しても、報奨金や討伐の栄誉どころか当分の間は白都市国家内での活動が困難になってしまうだろう(だって犯罪者を抱えているんだからね)。
だが、それは困る。(でしょうね!)
特に、この討伐で手柄を挙げるつもりのグラッドニーは尚更だ。だから免悟の物分かり良い態度はかなりグッジョブだったのだ。
うーーむ…。
とは言え、グラッドニーたちも理屈的にはホッとしていたが、感情的には戦い無く終わる事にちょっぴり不満を感じてはいた。
一旦戦いのスイッチが入ったら、ガチな戦争主義者がチャンネルを元に戻すのは容易ではない。だから何となく理屈と感情の狭間でモヤモヤしたまま、彼らはなんとか剣を納める事にしたのだった。
「ち、そうそういつも説得出来ると思うなよ?、今日は運が良かったと思え。
それじゃあ俺らは帰るが、さっき言った約束を忘れるな?!」
グラッドニーは一方的にそう言い残すと、さっさと帰って行った。と思ったら、すぐに何かを思い出して振り返る。
「あー…、」
え…?!、まだなんかあんの?
「そう言えば小僧、お前の名前を聞いておこう」
「えっ!、俺の名前?」
「ああ、名を名乗れ、覚えておいてやる」
「はあ…、俺の名前ですか…?、(ここで免悟の頭脳は死に際の走馬灯のように高速回転した!。最後の最後で結構無視出来ない問題フラグが直立しやがったのだ。
こんなフラグ真っ正直に立たせちゃなんねえ!。かと言って目の前でKYに折り取る訳にもいかない。これは慎重な対応が求められる事案だ)
えーっと、俺の名はコナソ。メータンテイ・コナソです…」(…………)
一瞬、その答えを側で聞いていた兄弟姉妹団は固まった。
こ、コイツ今思いっきり偽名使いやがった!。
分かっちゃいるけど、何故かキョドってしまう。自分の事じゃないけど、全く関係ない訳でもないし。(メンバー一同)
つーか、お前らが挙動不審になってどーすんの?。バレたらどーすんだよ!。こう言うのはバレるのが一番マズいだろーが!。
偽名は別にいいんだよ、どーせこんな奴らとは接点ほぼ無いし。それよりちょっとでも余計な事は知られたくないんだよ!。
それに、こんな状況で適当なのが出て来なかったんだからしょうがないだろ?。見た目は小僧、中身はアダルト、そんな感じで勝手に沸いて来たんだ、かなりの迷探偵っぷりだよ!。
だが、グラッドニーは顔をしかめて唸った。
「め、めーたん亭…こ、こな?」
「メータンテイ・コナソ!。コナソでいいよ…」
つーか、めーたん亭って、落語家か俺は?。
「コ、コナソか…」
なーんかどっちもなんかヤだな…。(グラ)
「まあいい…、また何処かで会うだろう、首を洗って待ってな!」(この物騒なセリフは殲滅団の日常的な挨拶の一つであるらしい)
「は、はあ…、御苦労様した〜」(つか、その挨拶どう返したらいいんだよ?。お前こそな、とかでいいのか?。て言うか二度と会いたくねーよ)
はあ〜〜〜…、
あちこちで、盛大なため息が漏れた。色んな意味で。
こうして免悟によって差し迫った危機フラグは回避された。各人それぞれなーーんか言いたい事が山ほどあったが、とりあえず今は最悪のシナリオを回避したのだ、それは間違いない。
ただ、なんかソレ違う感ハンパなかっただけだ…。
一応これ討伐篇です…、まだ続きます…。