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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
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32・上位種討伐篇3

「これまでのあらすじ。一流戦団ネルグラッド殲滅団と大殻蟻は、いきなり全戦力を投入し、真正面から激突した。その戦いは熾烈を極めたが、一糸乱れぬ連係と戦術で上回った殲滅団が見事にその戦いを制したのであった。

 大魔法【神羅炎招】で余剰戦力を失なった大殻蟻は、当然ながら巣穴に引き籠もり、中で迎え討つ形になるだろう。さあ、ここからが正に真の討伐戦となるのである」(デヒムス)



 チ…、免悟は無意識に舌打ちしていた。


「良く考えてみたら解説デヒムスなんて要らなかったな!」


「ちょっ、マジか!」



 さて、【神羅炎招】が大殻蟻を蹂躙した後。縛鎖義士団とレグナシオンは素早く次の行動に移った。

 この討伐戦の最終目標はあくまで女王蟻だ。彼らは、とっ散らかる蟻たちに止めを刺しながら、ショコラ・ヒルへの傾斜を登り始めた。


 一方、ネルグラッド殲滅団は、流石にこれ以上戦う余力は無かったので活動を停止した。一先ず体力回復を優先する事にしたのだった。

 とは言え、そうなると当然縛鎖義士団とレグナシオンには先に進まれる形になる。戦端を切りながら一旦休憩を入れてる間に、他チームに先を越されるのは何とも歯痒い事ではある。だがこれは仕方がない事だった。


 本来なら、適度な量の蟻を小出しに引きずり出して、ちまちま削っていっても良いのだが、討伐期間が設定されている以上、短期決戦を挑まざるを得ない。誰かがこうやって貧乏クジを引かねばならないのだ。となると、それはネルグラッド殲滅団しかいない。


 縛鎖義士団やレグナシオンならともかく、かの有名なネルグラッド殲滅団が討伐に参加しておきながら討伐に失敗した、などと言う事は許されないからだ。

 しかも、他チームが利するのを嫌い、全戦力の投入を躊躇った末にタイムアップで討伐失敗ともなれば、世間だけでなく身内からも非難を受ける事は間違いないだろう。

 そうなるくらいなら、損な役回り覚悟で先にブチかましてしまう方がいっそ潔い。


 それにこの様なイベント事で、先陣を切って派手にやるのは武人の誉れでもある。これだけ見せ場を作っておけば、例え討伐に失敗しても言い訳が立たなくもない。

 もちろん殲滅団としては、参加した以上は絶対に自らが討伐を成功させるつもりだった。


 そして縛鎖義士団は、そんな大戦団のあらゆる弱みを突いてでも自分らが女王蟻の首を取るつもりだった。なので、むしろここで一気にアドバンテージを稼ぐ勢いで進軍を開始した。


 一方、レグナシオンは殲滅団と対等に張り合う気だったので、ショコラ・ヒルの麓に拠点を確保すると、蟻の素材を回収するだけでその日は終わりにした。


 ちなみに、殲滅団もガルナリーで直接雇用したサポーターを使い、大殻蟻の回収を始めていた。

 あれだけの戦力を注ぎ込んだのだ、取れる物はできる限り取っておかなければ割りに合わないからな。


 ところで、作法的には、止めを刺した者が獲物の所有権を得る、と言うのが一般的な考え方だ。

 ところが【神羅炎招】は広範囲で可変自在な大魔法だったが、大殻蟻を即死させる事は出来なかった。殆どの蟻は正にほぼ虫の息状態で、いずれ死ぬのは予想出来たが、まだ死んではいない。


 こういう場合の扱いはまた難しい。


 大まかに言うと殲滅団にかなりの権利が存在するが、かと言って盗られたと主張する程の権利も薄い。つまりこれは上手くやった者の勝ちな状況なのだ。


 と言う訳で、このショコラ・ヒル周辺には物見に来た一般人だけでなく、そのおこぼれに預かろうと待ち構えるちゃっかり者達がその隙を窺っていた。


 神羅炎招の効果が粗方落ち着くと、何処からともなく現れた人影が、蟻に止めを刺して攫って行くのであった。

 一応、各討伐隊は、取られまいと警戒しながらも確保に努めてはいるが、なにぶん広範囲で大量に散らばっているので流石に全ては回収しきれない。


 免悟は、今日の所は完全に観戦モードだったので、高見の見物だったが、やはりこうなると子供らが浮き足立った。

 彼らも大殻蟻を狩りたいのだ。


 そうは言っても、免悟たちは直前まで散々蟻を狩っていたのだ。まだ狩る?。

 しかも、こんなに大量の蟻素材が発生すれば当然ながら値崩れが予想されるし買い叩かれる。何とか子供らを説得して思い止まらせた。


 もういいじゃん、今日くらいはゆっくりしようぜ…。


 こうして、討伐初日は幕を閉じたのであった。



 翌日、免悟たちがショコラ・ヒルを訪れると、ネルグラッド殲滅団が丁度動き始める所だった。

 レグナシオンはすでに動き出していて、縛鎖義士団はどうやら昨日からずっと休み無しで働いているらしかった。


 蟻の方も、完全な籠城パターンに切り替わった様で、大した抵抗は見られなくなった。なので、討伐隊はすぐに女王蟻の発掘作業へと移行した。

 討伐隊は、3チーム共に【地雷牙】と言う爆裂魔法で穴を掘った。


 3チーム共に同じ魔法を使っている事から、間違いない選択なのだろう。細かい突っ込みは入れないが、この魔法が穴を掘るには一番適していると判断されたのだ。間違いなく、本来の使用法とは異なる使い方だろうとは思われるが。


 そして、ここからは超地味な戦いが始まる。


 基本的に、完全に巣穴に引き籠もった蟻は、穴を掘る討伐隊相手にしか姿を現さなくなった。

 そんな訳で、討伐隊は完全武装の戦士で陣を組み、その中から使い手が【地雷牙】を放つ。そして地味〜に丘を削って行くのだ。するとその周囲から蟻が涌き出て来て邪魔をする。


 他の討伐隊もだいたいそんな感じだ。正直、見ていて非常につまらない…。序盤にあれだけ派手な戦いが繰り広げられた後では、大抵ショボく見えてしまう。

 違いがあるとすれば、殲滅団が【地雷牙】を複数所有しているっぽい事ぐらい、か。

 穴を掘るスピードに少し違いがある、そんなどうでも良さそうなレベルだ。なので、


 ヤベェ、面白くも何ともねえ…。


 実際に他の見物人も、ちらほら帰り始める者が現れ始めていた。


「なあ、免悟。もしかしてこのまま最後までこんな感じ?」


「……おそらく」


「マジかよ、それなら俺たちもなんか狩ろうぜ!」


「う〜〜ん…」


 なんか狩ろうって言ってもなぁ。


 とは言うものの、もうすでにショコラ・ヒル周辺に、狩れそうな大殻蟻は全く存在していない。夜の内にほとんど回収が済んでしまっていたのだ。


 解体、回収に武力は要らない、誰でも出来るので人海戦術であっと言う間だ。しかも蟻素材が大量に溢れ出ると言う事で、多くの業者が、直接現地にやって来て買い付けを行っていた。


 まあ蟻素材も、結局は討伐隊や大殻蟻自身が回収してしまったし、しかも蟻一匹の単価もいつもより2、3割引で取り引きされていた。なので、ほんのちょっと確保したくらいじゃ大した儲けになりそうにもない。


 それに、今や大殻蟻は巣穴から殆ど現れないので、これからは討伐隊しか狩る事はないだろう。もちろん無理やり巣穴の中に入るのは普通に危険だ。


「つー訳でさ、後は女王蟻を誰が仕留めるか?、見所はそれくらいだなぁ…。

 ほれ、デヒムス、なんかある? 」


「おいいぃ!、もう今さら言う事なんか大してねーよ。冗談キツいぜ!」


 お前は鬼かと、デヒムスが悔しげに地面を叩く。ウホッ!。


 と、その時、 


「フハハハ、免悟ともあろう者が、もう手詰まりかい?。だったら私にいいアイデアがある!」


「おっ、お前は…?!」


「免悟、それただのネビエラさんだし…」


「うん、飲んだくれてへべれけのね…」


 そう、ネビエラは今回、知り合いのハンター仲間とずっと酒を飲んで騒いでいたのだった。普通にお祭りしてました。まあ、そこらへんはネビエラの通常運転だ。もはや見慣れたデフォルト状態である。


 ちなみに、ネビエラは見た目だけなら美人だし、性格も明るくて話し好きなので普通に男共が寄って来る。なので、いつの間にかネビエラは、このガルナリーで友人知人を結構沢山作っていたのだ。


「今からでも遅くはない、私たちも討伐隊として名乗りを上げるのよ!」


 まー、そんなこっちゃろうとは思ったよ。


 確かに、初戦の大激戦には入り込む余地などなかったが、今ならそう難しくない。と言うか、今からなら中級のハンターとかが討伐に参加しててもおかしくはないくらいなのだが。途中参加は禁止とかあるのだろうか?。


「つーかさ、なんで他の皆は誰もやらねーの?」


「さーな、みんなビビってんじゃねーか?」


 ネビエラを無視した免悟の問いかけに答えたのはいかにもハンター、と言うか古い猟師的な格好をした男だった。


「と言うより一流戦団と上位種討伐なんて怖くて出来るかよ!」


「別にアレらと直接やり合う訳じゃねえだろ…」


「でも中魔法も無いしな」


「だからよ、ネビエラさんが大魔法持ってるじゃん、やろうぜみんなで!」


 と、ワイワイ騒ぎ出したのが、ネビエラと宴会してたハンター仲間「猪熊の皮剥ぎ団」だ。


 彼らは同郷、同年代の若者で構成されたハンター集団だ。

 そしてその名の通り、猪熊と言うモンスターが頻繁に出没する以外は、これと言って何もないド田舎からこのガルナリーにやって来たのだと言う。

 なので、見た目通り垢抜けしない田舎者たちだった。


 彼らとネビエラは、たまたま飲み屋で意気投合したらしく、今ではすっかりネビエラの飲み友達であった。

 免悟も何度か話しをした事はある。まあ、ある意味、情報過疎地から来ただけあって無知でガサツだが、素朴な人のいい奴らではあった。ちなみに、実力的にはまあまあな中堅どころだ。


「いいじゃん、免悟やろうよ!」


 猪熊の皮剥ぎ団の盛り上がりを見て、子供らも俄然やる気を見せ始めた。


「やりたいやりたい!」


「おうっ、ネビエラ姐さん貸してくれたら俺たちだけでもやるぜ!」


「ダメだよ!、基本タダじゃ貸せないね。それにいくらなんでもアンタらだけじゃあ人数足らな過ぎだろ?、もちろん俺たち(魔童連盟)だけでも足りない。だから合同でやろうよ、ね?、免悟!」


「…いや、それでも足らんだろ」


「それは任せろ、信用できるチームを何組か知ってる。姐さんの大魔法さえあればイケる!」


「いや、問題はだな、空気も読まず俺たちみたいなのがノコノコ割って入って大丈夫なのかって事だ。

 色々あるだろ?、社会生活における人間関係的な、しきたり的なお約束がさ…」




「「「「「「そんなのどーでもいいよ」」」」」」



 え゛、そうかなぁ?、意外と重要だと思うけどなぁ…。


 免悟が知る人間社会には、必ず法と言う明文化された規律以外に、当たり前的な弛いお約束事がある。

 いくらこの世界の社会構造が脳筋主導とは言え、間違いなくそれはある筈だった。

 もしかすると気にし過ぎかも知れないが、免悟と言えど腐っても元日本人。しきたりや道徳、「和」を尊ぶ精神が無きにしも有らず。いや、むしろその社会の輪から弾かれたからこそ、逆にそれを蔑ろにする危険性を強く認識していたのかも知れない。


 と言う訳で、そこら辺の一般常識ってやつを知りたかったのだが…、役に立ちそうなロクな奴がいない。

 子供らや皮剥ぎ団(皮剥ぎ団って、もっと他にいい名前を思い付かなかったのか?)の奴らはほぼ無学だし。しかも子供に至っては、つい最近まで存在自体が犯罪すれすれだったし。


 シントーヤも結構高等教育を受けてはいるが、ハンターや傭兵の事はまるで守備範囲外だ。ネビエラは論外!。


 あ、デヒムス!、デヒムスがいるじゃん!。

 どうなの?、そこんところ。返答次第では君の人物評価を大幅に見直してやっても良いのだぞ?。


「え?、別に問題無いんじゃねえか?」


 マッジか?!、な〜んか弱いなぁ。いまいちこの男使えねえオーラ出しやがるし。

「しっ失礼過ぎるだろ、ゴラァ!」(デヒ)


 つーか、免悟がグダグダやってる間に、ショコラ・ヒルを登るハンターらしき人影が幾つかちらほらと見受けられた。

 もちろんこれは、討伐隊からかなり離れた場所でやってる。


「免悟〜、早くしないと、先越されるよ〜」


「こんな奴ほっといて俺たちだけでやろうぜ!?」


「う〜〜ん…」(子供ら)


「そこ悩むな、分かったよ、やってやろうじゃん。

 ただし、何があっても自己責任な、恨むなよ?」(免悟)


「オッケー、そんな心配する事ないって」


 でも出る杭は打たれるもんだからな。ま、こんな事に悩むのは、日本人トリッパーの宿命なのかも知れない。


 とは言え、何事にもリスクを負わなきゃリターンだって存在しない。いくら考えたって分からないのならやってみるしかないのだ。


「だが!、やる以上はとことんやろうぜ!」



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