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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
31/64

31・上位種討伐篇2


 さて、ひとまず討伐令は発せられた。まずは討伐に参加した3戦団の動きを追ってみよう。


 一番最初に動いたのは縛鎖義士団タングルチェインズだった。彼らはガルナリーを中心に活動するハンターで、20人位のメンバーで構成されている。さらに今回は、知り合いのハンター達と共にレイドを組んで討伐に臨んでいた。


 やはり流石はハンター、自分の専門分野ゆえに、当初から関係情報を一番詳しく入手していた。なので、討伐令が発せられる前からすでに絶好の位置に、簡易の砦を築き始めていたのだった。


 そして発令後すぐにやって来たのがネルグラッド殲滅団だ。

 彼らも又、縛鎖義士団同様に、拠点となる移動用の小塔を用意していた。そして殲滅団は、気にする事なく義士団の砦すぐ横に陣を構える。

 一応申し訳程度に距離を空けてはいるが、普通なら気を使ってもう少し距離を取ってもいいところだ。だが彼らはあえて空気を読まずにそこへ陣取った。


 と言うのもそこは街道から一番近い場所だからだ。


 ショコラ・ヒル自体はほぼ円形の丘なので、何処から攻めても大した違いは無い。しかし、街道を離れると最短ルートで辿り着ける場所がそこら辺なのだ。

 まあ、ぶっちゃけそれだけの話だ。だが、それでもわざわざ裏に回るのは正直面倒臭いのだろう。やっぱり近くが一番だし。


 免悟も、なんでコイツらわざわざ同じ所に固まるの?、と不思議に思ったくらいだが。まあ見物するにはその方が見やすい。

 でも流石に周りの迷惑を気にしない大物っぷりは、縛鎖義士団もちょっとイラっと来てる思う。


 確かに殲滅団、大物だけどさ…。


 そして最後に現れるのがレグナシオン。どうやら彼らは殲滅団の動きを見てから動くつもりだったようだ。

 なにやらレグナシオンは殲滅団に対抗意識があるらしくて、これまた殲滅団のすぐ横に陣を置いてしまう。

 つまり、3チームは殲滅団を挟み、一例に並んで陣を置いたのだ。360度ある丘の周囲を90度くらいしか使ってない。


 こんな所から張り合うんだね…。


 ところで免悟は、大殻蟻のあの特攻的物量攻撃を知っている。恐らく討伐隊の3チームも知っているだろうし、知らなくても何とかするんだろう、とは思っていた。だから、これは絶対に見逃せなかった。

 どちらが勝つにしろスゲェもんが見れるはずなのだ。そう、見逃せない戦いがそこにあった!。


 てな訳で、免悟たちは殲滅団が来る前から、縛鎖義士団の後方で観戦していたのだ。

 と言うか、免悟たちだけでなく、実はかなりの数の見物人が、すでに荒野のあちこちで討伐隊の到着を待ち構えていた。


 当然、みんなある程度の武装はしてるし、一定以上の集団で行動してはいる。が、もうここまで大っぴらに大勢が荒野を占拠していたら、危険なんか寄って来そうにもない。そんな状況だった。


 もはや雰囲気は完全にお祭り気分。だって、長時間の観戦とかなると絶対に弁当とかピクニック装備が必要になってしまうし、そうなるとやはり心も浮き立っちゃう。


 まあ見る方がこんな感じだから、見られる方も分かっている。殲滅団がショコラ・ヒルにやって来たら、あちこちで歓声が沸き起こったし、殲滅団のメンバーもそれに応えて手を振っていた。


 パレードかよ…。


 つーか分かる、みんな娯楽に飢えているのだ。分かるよ、分かるんだけどなんかちがう感がモヤモヤ漂う。免悟的に…。

 とは言えこの違和感は免悟だけのマイノリティ感覚みたいだ。あ、でもこれはこれでちょっと主人公らしいかな。

 (それはそれでなんかちがう…)


 ま、そんな事はどーでもいいか。そう、討伐だ。


 そんな訳で、一番最後にレグナシオンがやって来たは来たのだが、じつはその時にはすでにネルグラッド殲滅団は攻撃を開始していたのだった。


 ホントにそこらへんも全く空気読まねえな、この人ら…。


 一方、縛鎖義士団の方はすでに準備万端なはずだが、まだ本格的に手出しはしていなかった。


「始まりそう!」


 魔法の掛かった望遠鏡を持った子供の一人が、突然声を上げた(オートフォーカス機能付き)。

 いつ始まるか分からない戦闘を監視するために、一つの望遠鏡を順番に持たせていたのだ。


 免悟はこの討伐戦の為だけに望遠鏡を買おうかと思っていたが、なんとデヒムスが高価な魔法の望遠鏡を貸してくれたのだった。

 そしてつまり、デヒムスの野郎は今、エダルの隣に座っていた。


 あーーキショ。


 しかし、望遠鏡を買うか悩んでいた免悟より先に、子供らがデヒムスと話を付けて望遠鏡を借りて来たのだ。しかもエダルも「別に大丈夫だよ♪」とか気軽に受けるもんだから是非もない。

 つかコイツ、事の重要性、って言うか、変質性を理解してない気がする。なんか不安だ…。


 とりあえず、時機を見計らってデヒムスにはヤキを入れておこう。なんか気持ち悪いから。

 それと、さっきから全然戦闘が始まりそうで始まらないのはなんでだろう。おかしい…。

 でも大丈夫、もう始まるから!。と言うかもうすでに始まってるからね!。


 と言う事で、殲滅団の戦いぶりを一から詳細に解説しようと思う。このキッショいデヒムスと共に!。

 免悟も不本意ではあるものの、このゴツ苦しいオヤジは解説にだけはうってつけな知識を豊富に持っているのだ。ゆえにこれは致し方なかった。免悟も感情的な好き嫌いは一旦横に置いて我慢するのであった。



 まずネルグラッド殲滅団は、用意した小塔を大殻蟻の縄張りギリギリの所に設置した。そしてすぐに小塔から魔法の詠唱を始めた。

 塔上空に赤く鮮やかな火柱のエフェクトが立ち昇る。


 すると、当然近くにいた大殻蟻たちが一斉に反応した。

 明らかな敵対行動を前に、防衛本能を刺激されたのだろう。蟻たちは小塔目掛けて慌ただしく動き始める。そしてあちこちの巣穴から大量の蟻が姿を現す。


 おぉ…。

 これは免悟たちも良く知る動きだ。そう、獄滅龍破の詠唱を始めた時と同じ反応だ。


 ふと、丘の頂上付近を見やると、戦闘種であるグライダー種が蟻穴から頭を出したところだった。


「め、免悟、で、出たよ…」

「お、おう…」


 隣にいた子供の一人が思わず声を出す。わ、分かってるって、そんなオバケが出たみたいに言うな…。


 グライダー種は、あっと言う間に次々と丘から飛び立って行く。その数は約数十匹くらいだろうか。

 すると、そこでさらに殲滅団の塔に新たなエフェクトが発生した。赤い火柱の前面に、ダイヤモンドダストのように輝くかすみが立ち昇る。


 それに対してグライダーたちは、不気味な羽音を鳴り響かせながらもさらに速度を上げた。その目標を、今や完全に殲滅団へと定めている。そしてグライダーたちは塔手前で機首を下げると、一丸となって急降下したのだった。

 だが、殲滅団はそれを輝くエフェクトで迎え討った。瞬く光の霞が、生き物のように蠢いてグライダーの突撃を遮ったのだ。


 瞬く光とグライダー種が接触し、一斉に閃光が弾けた。ストロボのような無数の光爆がグライダー種の突撃を包み込む。

 免悟たちの目の前で、大気を揺るがす爆音が鳴り響いた。はいデヒムスさん?!。


「ちゅ、中魔法【白雷掌】だ!。

 これは大量の小爆発を撒き散らして迎え撃つタイプの障壁魔法だ」

 

 連鎖反応する光の弾幕が薄れると、その中からグライダー種が飛び出して来た。しかし皆、翼にダメージを食らいコントロールを失っている。

 だが、体勢を崩しながらも、羽蟻たちはとことん突撃姿勢を貫いていた。羽蟻の群れは構わず次々と何もない地面に激突して行く。

 はっきり言ってグライダーは攻撃する事しか考えていない。恐らく殆どのグライダー種は助からないだろう。

 その、命を捨てた数打ちゃあ当たる的な範囲攻撃は、完全に蟻の動きを先読みして放たれた中魔法を掻い潜り、わずかだが数匹のグライダーが殲滅団の小塔に直撃していた。


 城壁の様な塔の装甲壁にはそれほどダメージは無かったが、当たり所が悪ければ結構な綻びを晒しただろう。さらにそこから地を這う蟻に付け込まれて傷口が広げられる事を思うと全く楽観視は出来なかった。


 一方、免悟たちはグライダー種の攻撃範囲内に留まるとどうなるのか?、初めて見知ったその事実に愕然としていた。

 いつもなら早々に範囲外へと待避するので知らない光景だ。


「「「…怖っえ…」」」


 免悟たちが思わず素の感想を漏らしている内にも戦況は刻々と変化する。

 ノーマル種の大群が殲滅団の小塔に続々と詰め寄って行く。大殻蟻のその動きに命を捨てる躊躇いは一切無い。


 とその時、突如、塔上空の火柱エフェクトが変化した。


 火柱は、爆発するかの勢いで燃え上がると巨大化した。そして、さらに頭頂からあちこちの方角に枝を伸ばし始めたのだ。

 エフェクトは赤く揺らめく巨大樹へと成長していた。デカい。


 一瞬、ほとんどの見物人たちはそれに魅入っていた。ただその巨大さにのみ目を奪われて。

 だが、この壮大過ぎるエフェクトはどう考えても…。


「これって…」


「ああ、間違いなく(大)魔法だぞ…」


 気が付けば、グライダー種の第二陣が早くも姿を現していた。

 羽蟻たちは流れ作業的に次々と巣穴を飛び立って行くのだが、その出動に途切れがない。続々とグライダー種が吐き出されていくのだ。

 一体どれだけの羽蟻が存在するのか、瞬く間に周囲の景色が一変した。青かった大空と赤茶けた大地は、蟻の黒鉄色で斑に染められてしまった。


 そして、大殻蟻の大進攻が本格化した。


 地上からは津波のようにノーマル種が押し寄せ、空からはグライダー種が襲い掛かった。

 殲滅団は塔の上からノーマルを突き落とし、グライダーを白雷掌で薙ぎ払う。しかし、蟻たちは味方の死体をも乗り越え、正に決死の特攻を仕掛ける。圧倒的な物量攻撃で、息も付かせずに攻撃し続けるのだ。

 だが殲滅団も、強力な魔法剣と強化魔法で次々と死体の山を築いていく。そして空の敵に対しては、白雷掌を惜しみ無く連発させた。


 殲滅団はこの日のために白雷掌を五人分用意していた。体力スタミナ回復アイテムも併用し、限界まで撃ちまくったら交代要員に魔法図を手渡す。

 そうやって魔法剣でさえ融通し合い、冷静なローテーションで消耗を回避した。ここで落ち着いて行動できるかどうかが一流かそうでないかの差なのだ。


 ところで、この激戦は他の所にも飛び火していた。もちろんすぐ隣の縛鎖義士団は言うに及ばず、もっと近くで観戦していた少なくない見物人も巻き込まれていた。


(((あ~~あ…))


 大殻蟻の恐ろしさを多少は知っている免悟たちは思った。可哀想に…と。

 まあ、思っただけだ。助ける気は無いし出来る事もない。

 本来なら、蟻たちは大魔法をコントロールする術者へと向かうのだが、これだけの大群が動けばそう言う事もあり得る。

 ちなみに、傭兵団レグナシオンはこのタイミングで現れてしまう。詳細は省くが、彼らは彼らで大変そうだった。


 戦闘は佳境に入っていた。大魔法の巨大樹エフェクトがスクスクと育ちつつあるのだ。

 足下では主人と蟻が、泥沼の激戦を繰り広げていると言うのにいい気なもんである。(これはあくまで免悟の主観による感想です)


 次第に大殻蟻の攻勢は狂乱の様相に近付いていた。大魔法の詠唱終了が刻々と迫りつつあるのだ。

 それまでは、ただ淡々と自らの命を投げ出して敵との距離を詰めていたのだが、ここに来てようやく怒りと言うか、焦りとも言うべきか、生き物らしい感情を露にした。

 そしてその強烈な感情表現は瞬時に沸点を超え、もはや世界終焉の淵に立たされているかのような狂おしい絶叫を吐き出していた。



 そして、ついに時は満ちた。



 黒い大蟻の群れに飲み込まれながらも、殲滅団はついに蒔いた種が実を結んだ事を確信した。彼らは、この非常識な物量攻撃を凌ぎ切る事が出来たのだ。

 はっきり言ってギリギリの状況だった。死者こそ無いものの、あと十数秒ですら持ち堪える事は不可能であろう。もはや心身共に活動の限界に到達していた。


 彼ら殲滅団が死守した時間はただの1分。それこそほんの僅かな時間に過ぎなかったが、この1分に今回の戦いの全てが凝縮されていたと言っていい。

 彼らはその怒涛の様な大群を、真正面から弾き返す事に成功したのだった。


 ついにエフェクトが最後の動作に入った。

 巨大樹の幹が細くなり、それに反比例して大枝の輝きが増す。そして完全に幹部分が消滅しても、燃え盛る樹冠は宙に浮いたままで…。

 いや、物理法則に従いゆっくりと落下し始めた。枝々を大きく広げて、蟻たちの上に。


 大木が倒れる時の様な破壊音を轟かせ、大魔法は発動した。



 大魔法【神羅炎招】!!!!



 超広範囲の炎魔法が、殲滅団の小塔を中心にして扇状に広がった。

 その炎は、両隣の縛鎖義士団とレグナシオンのわずか鼻先を掠めると、ショコラ・ヒルを覆い尽くした。


 獄滅龍破とは違い、余すこと無く均一に広がった業火は、均一なダメージをもたらした。

 フィールド上にいる全ての蟻が生命の糸を断ち切る炎熱に悶える。

 熱波が轟音を響かせて蟻を踊らせた。


 残すは至近距離で直接剣を交えていた最前列の蟻だけだ。もう後続の支援は存在しない。


 こうして、今回の討伐戦において、お互いに最大戦力を投じて行なわれた、最初にして最後の地上戦が終結した。これより後は、討伐隊による掃討戦となるのであった。




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