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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
26/64

26・バンナルク装備店にて

 大殻蟻の狩りは、一度嵌めパターンを作ってしまえば後は簡単だった。大殻蟻は大した知能もなく思った通りの反応を返してくれるからだ。

 ただし、あまり頻繁に蟻の巣ばっかり襲撃していると、もし何らかの対策を取られる可能性も無くはないので、基本的に狩りは週一くらいにしておく。

 流石にしょっちゅう大魔法を唱えていたら、いい加減大殻蟻もなんとかしようと思うかも知れないからだ。


 蟻にそんな対応力が有るかどうか分からない。だけど、分からない以上リターン重視ではなく、ほんの少しでもヤバいリスクは回避する方向で行きたい。なので獄滅龍破を空撃ちする場所も毎回変えた。


 子供らはそれこそ毎日大殻蟻を狩りたがったが、そこはシントーヤと共に説得した。こう言う時、分かってくれる味方がいると助かる。

 子供たちはまだリスクの取り方を知らない。目の前にあればあるだけ全部取ろうとしてしまうのだ。だがそう言う極端なやり方は、また極端なリスクを無駄に引き寄せる可能性もあった。


 と言う事を何とか子供らに聞き入れさせて納得させた。て言うか、結局子供らを納得させた物は金だった…。


 つまりその日の稼ぎを「免悟」:「ハルベル姉弟」:「子供ら」の1:1:1で 分配し、実質子供らの稼ぎを増やした。

 大殻蟻を毎日狩る事で得られただろう稼ぎを補填する形でやっと納得してくれたのだ。


 ほんと金にうるさい奴らだ…。


 もはや、この徹底的なまでのブレなさは称賛に値するよ。一体何がそこまで彼らを金儲けに駆り立てると言うのだろうか?。まあ生い立ちを考えれば分からなくもないが…。


 それはともかく、ハルベル姉弟が加入したので、どちらにしろ免悟は丁度パーティーとしての分配を考え直そうと思っていた所だった。

 免悟的には今の収入に不満はない、なんとか自力で食って行けるレベルには辿り着く事が出来た。それよりも、問題は休みの少なさだ!。

 はっきり言ってせっかく異世界に来て毎日毎日労働的な行為を強制されるなんてイヤすぎる!。もっと観光とか異世界の遊びとかしたかった。つーか働きたくないでごさる…って、それはもういいか?。


 とりあえず毎日狩りばっかりは勘弁して欲しいのだ。そのために多少の経済的な余裕を子供らの装備の充実に回し、早い内に自力で荒野を歩ける様にしてしまおうと考えたのだった。

 なので現状としては、子供らにそれなりの報酬を渡す事で、とりあえず稼ぎたい子供らと休みが欲しい免悟との妥協点を見出だした形だ。


 てな訳で、大殻蟻の狩りにある程度目処がついたある日、免悟は1日だけ休みを作った。

 だがこれには誰も文句は付けなかった。それはみんなそろそろ新しく装備を充実させようと考えていたからだ。そして明日はついにその装備が揃う日だったのだ。


 その日、免悟は目を覚ますとしばらく昨晩の出来事を思い返していた。いわゆる娼館での完全にR18な出来事だ。

 やはり次の日が休みだと絶対にこうなってしまうのは仕方がない、だってこの世界って他に大した娯楽が何も無いんだもん…。


 免悟は眠い目で辺りを見渡した。雰囲気的には何となく昼頃だ。時計が無いので正確には分からないが、おそらくもうそろそろいい時間なのではないでしょうか?(てきとーやな)。それに今日はホノもエダルも起こしに来てはくれない。


 しばらくして、免悟は馬鹿の一つ覚えみたいに一張羅の魔法使いローブを着ると街に出た。

 途中の屋台で買い食いしながらメインストリートを歩いてバンナルク装備店に向かう。

 立派な店構え同様に大きい扉を開けると、相変わらず気持ち悪い呼び鈴にイラッとする。


「「「免悟、おせーよ!」」」


 狭い店内には、既に子供ら全員とシントーヤが待っていた。ネビエラはいなかった。

 実は今日、みんなで注文していた装備がまとめて届く日だったのだ。基本的にどれもマイナーな品揃えらしく、本店からの取り寄せになった。


「俺の剣は?、俺の剣!」


 遅れて来たくせに人の話など全く無視して喚く。デヒムスが持つ剣を、目敏く見つけるとソッコーで掠め取った。イヤッホーー!。


 免悟の暴走が走り出す!。


「じゃら〜〜〜ん♪」


 早速免悟は剣を鞘から抜き放ち刀身を晒した。うっすら緑掛かった刃身で、反りのある片刃剣だ。


「オイッ、こんな所で振り回すんじゃねえよ!」


 デヒムスが素早く免悟の側にいたエダルたちを引き離す。と言うのも免悟が注文したこの剣は、魔法毒の付与効果を持つ魔法剣だ。

 別に触れたくらいじゃどうって事は無いが、ただでさえ毒剣と言う呼び名が危なっかしいのに、あまりにもお気軽に扱いすぎる。


 しかし。


 くっくっくっく…、磨き上げられた刀身を覗き込み、そこに写る自分の姿をうっとり見つめる免悟…。


「ふふ、今宵の虎徹は良く柿食う客だ…」


 あれ?、違うな…、こう言う時はなんて言うんだっけな?。


「今宵の虎徹は………?」


 ん?。つーかそもそもそんな台詞あったっけ?、いかん、考えれば考える程訳が分からなくなっていく…。


「…免悟!、何やってるの?、早くおいでよ、行くよ!」


 魔剣の魅力に取り憑かれ一人浮かれる免悟。その免悟に対し、ホノが奥の扉口から呼び掛ける。


 は…?。


 気が付けば店内には免悟しかいなかった。

 いや、若い店員が一人、カウンターに立ってデヒムスの代わりに店番をしている。のだが、免悟の奇行をどのように受け止めて良いのか分からずにビミョーな表情を浮かべていた。うん、間違いなく彼は空気の読めるいい人だわ。


 取り残された事に気付いた免悟は慌ててホノの後を追った。その後ろ姿には他人に奇行を見られた照れや羞恥心は微塵も無かった。それはある意味漢らしいと言えなくもないが、人として何かしら欠けた物が有ると感じさせるには充分なものがあったと言う。

 残念ながら、差し引きマイナスです。


 だいたい毒剣使いって、さらに外道っぷりに拍車が掛かるだろうが…。そんな主人公、基本イヤだよ。もうちょっと形振り構って欲しい。


 だが毒魔剣と言うのは、手持ちの予算と現在の免悟のプレイスタイルを考慮した結果導き出された妥当な結論だった。出来ることなら一撃必殺の攻撃力が欲しかったが、さすがにそう簡単には(予算的に)無理だった。それにシントーヤと言う圧倒的なダメージディーラーが既にいるので、パーティー的なバランスを考えて別方向にシフトしてみたのだった。


 ちなみに毒と言っても魔法毒なので本当の毒ほど悪質性はない。一定時間で自然に毒効果は消えるし、どちらかと言うとスタミナを削る事で魔法使用の配分を狂わせるのが主目的だったりする。


 まあ、あまりイメージの良くない毒剣だが、一応これでも魔法剣の一種。結構な値段はするし武器としてのランクもそこそこある。しかもやはり新しい強力な武器と言うのは単純に心が沸き立つ。

 ルンルンな免悟は名残惜しそうに剣を鞘に仕舞うと、ホノの消えた出入口を追ったのだった。


 て言うか外道とは言え主人公をほったらかしにして先に進むとか酷すぎるだろ?。


 暗く狭い通路を進み、光のある出口を抜けると店の中庭に出た。

 そこは武具や魔法の試し斬り用に設けられた空間で、すでに子供たちが剣や槍を振り回していた。しかも子供らは、試し斬り用の案山子に対して子供らしくない結構な攻撃を加えていた。


 ふと周りを見渡すと、エダルがしんどそうに汗を流して立っている。


「エダルが【増撃】を持っているのか?」


 【増撃】は攻撃力を増幅させる付与魔法だ。

 カルたちは貯まったお金で何の魔法を買うべきか、かなりマジな情報収集を行っていた。それこそ免悟やデヒムスだけでなく、あらゆる知り合いやあまり知らないハンターにまで話を聞きまくった。そして絶対に失敗のない選択をすべく議論を重ねたのだった。


 基本適当な免悟は脱帽ものである。面倒臭い事に、ホノやエダルには購入の候補リストを突き付けられ、強引に一つ一つ比較評価をさせられたりもした。

 そして最終的に絞り込まれた魔法の一つが付与魔法【増撃】だ。

 この魔法は単なる強化魔法ではなく、付与された対象の与えるダメージが増幅される強化魔法だ。つまり、ダメージを与える必要があるちょっと遠回りな魔法だ。

 その代わり、大抵の単体強化は基本的に所有者にしか効果が及ばないが、付与魔法は効果が微妙な分、対象を自由に選ぶ事が出来た。


 そしてカルたちは、戦闘に不向きな子を抱えるこのパーティーの欠点を、ただ魔力を放出するだけの砲台として運用する事で解決させた。


 つまりエダル、ジャニスと言う二人のミソっかす…、いわゆる非戦闘要員が魔力消費を気にせずに後ろからバンバン付与魔法を掛けまくるのだ。


 でも、さすがにこの役回りはちょっと可哀想なんじゃないだろうか?と思ったりもする。だっていくら戦闘に向いて無いとは言え完全に魔力タンク扱いじゃん…。

 まあ本人たちが納得しているのならそれでいいんだけどさ…。


 しかしカルたち子供らの謀略はこれだけに止まらなかった。

 この魔法【増撃】はどんな対象にも掛ける事が出来る。もちろん免悟の剣も同様だ。なので子供らは免悟とシントーヤにも恩恵があると言う触れ込みで、【増撃】の購入価格の三分の一づつをそれぞれ負担するよう求めて来たのだった。


 なんと言う押し売り、まさに守銭奴ここに極まれりって感じだ。だがこれで子供らはさらにもう一つ魔法を買う事が出来るのだった。


 まあ別に構わないんだけどさ…。


 つーか、そこまでするんだ?、とシントーヤと二人で呆れて顔を見合わせてしまったくらいだ。

 ここまで来ると、いっその事清々しいと言えなくも…、いや、清々しさは全く無いか。むしろ金に対するどろどろとした妄執めいたものを感じるのみだ…。


 と言う事で、早速【増撃】を打ちまくってスタミナ不足に陥っているのだろうエダルを見つけた免悟は、取り出した魔力充填器でエダルのスタミナを回復してやろうとした。と思ったら、突然横から現れたデヒムスが自分の充填器でエダルの魔力を回復させてしまったのだ。おぇ?。

 エダルはニッコリ笑ってデヒムスに礼を言うと、みんながワイワイやってる所へ戻って行った。

 そして何故かデヒムスは微妙に表情を崩し、エダルの後ろ姿を見つめ続けていた。


 何コレキショい……。


 なんかコイツの方がよっぽど奇行だわ、つーかそこはかと無く犯罪チックな匂いが漂って来るし…。


 この件についてあまり深く考えたくない免悟は、デヒムスの行動に目を瞑った。そして、そんな事より子供らが浮いた金で購入したもう一つの魔法は何だろうかと思案した。まあ単なる現実逃避だ。


 意外と見たくない現実って身近にあるものなんですね…。


 気持ちを切り替えて子供らの方を見ると、カルが丁度攻撃魔法らしき一撃を放つ所だった。


 カルが右手にエフェクトを纏った微風を発生させると、中庭の壁際に置かれた案山子目掛けて半透明の旋風を射ち出した。


 【風刃】だ。


 だいたい免悟は、子供らから最終的な候補リストを吟味させられていたので、何となく知っているのだ。


 この【風刃】は爆波や光弾と同じ単体攻撃の(小)魔法だが、射出するのが空気なので攻撃力はいまいちだ。その代わりに防御にも使えて汎用性は高い。ただ所詮は小魔法、それほど大した事が出来る訳ではないのであまり人気がある魔法ではない。だがそこが子供らの目の付け処だ。

 人気が薄いと言う事はその分価格にも反映される、すなわち安い。もちろん人気のある鉄板魔法は高価なだけあって安定して使えるが、他の魔法も使えない訳じゃない、むしろ使い方次第だ。

 特に子供らはメイン武器が槍なので、防御を魔法で補うと言うのは悪くない。初めてのお買い物にしては、かなり考えたと言えるだろう。逆に免悟からすると、波乱が無さすぎてつまらないくらいだ。


 一方、シントーヤは庭の端っこでサクッと絶賛狂化中だった。

 話を聞いたデヒムスが是非とも制御された【狂化】を間近で見たいとの事で、わざわざ最上級防御力の案山子を用意してくれたのだ。


 実はデヒムスは、若い頃は戦士に憧れてハンターをやっていた。しかし戦闘の才能が無く、むしろ手に入れた素材の売り買いや、金の遣り繰りの方が上手だったのだ。

 そして戦闘で死にかけた事をきっかけに、足を洗って家業であるこの装備店を継いだらしい。


 とは言うものの、やはり未だに戦士への憧れは捨てがたく、その手の興味は尽きていない。などと言っていたが…、本当にそうなのだろうか?。

 今デヒムスはエダルの肩に手を置いて子供らと一緒にシントーヤの【狂化】を眺めている。


 一体どう言うつもりだデヒムス…、まさかマジでエダルを狙っているのかデヒムスよ?。もしそうなら戦士への憧れを返せ!。


 とりあえず果てしなく気持ち悪いので、ホノに言ってエダルをデヒムスから引き離す。ホノもなんだかさっきからエダルへのスキンシップが多くて気になっていたらしい。

 引き離された時のデヒムスの情けない表情は…、変質者確定だな。


 そうそう、すっかり忘れていたが、シントーヤは専用の無敵案山子相手に激烈な攻撃を加えていた。しかも空気が震える程の雄叫びは、みんな一旦動きを止めてシントーヤを返り見ずにはいられないくらいの存在感だ。


 それにしても模擬戦とは言え、よくぞこんなモンスターと接近戦を繰り広げたものだ。こんな攻撃をモロに食らったらどう考えても【魔力盾】で軽減しきれたとは到底思えない。免悟も今さらながらに冷や汗が流れるのを感じてしまう。


 シントーヤが今試している武器は硬鉄の棍棒×2だ。大抵の剣はシントーヤの連激に耐えきれず形を歪めてしまう。安物だとすぐに壊れてしまうのだ。

 と言うかシントーヤは剣術の心得などないのにも問題がある。シントーヤは剣の使い方を知らないので得物を剣として扱ってもいないのだ。

 実際、当たればそれでいいと言う感じだ。時には剣の腹で薙ぎ払ったりするのだからもはや剣で無くてもいいレベル。

 じゃあもう、いっその事超硬い鉄の棒でいいじゃん、て事になったのだ。


 超硬い鉄棒の、握り部分の端に紐で輪っかを取り付け、そこに手を通せば落下防止付きの武器、と言うか鈍器?が一丁上がり!、てな具合だ。


 この鉄棒はオーダーメイドだが、素材はそれほど高価ではない。加工も簡単だから中堅クラスの戦士が持つ武器としてはかなりお手頃価格だ。


 しかしたとえ安くても、もしこれが免悟だったら武器は剣じゃなきゃ嫌!、とか確実にゴネる所だ。だけど幸いにもシントーヤにはそんなこだわりは全くなく、むしろナイスアイデア、とあっさり採用されたのだった。


 そろそろ案山子の無敵性が心配になって来た頃、ようやくシントーヤの動きが止まった。【狂化】が終了したのだ。

 シントーヤが静止するのを待っていたかのように、子供たちはそれぞれの作業に戻って行った。


 シントーヤは両手の鉄棒を地に突き立て、荒い息を吐いていた。例え試し斬りとは言え【狂化】にほどほどと言う言葉は無い。

 そして狂化のバックラッシュで負ったダメージを【治癒】で回復した。



「トーヤ〜」


 その声にシントーヤが振り向くと免悟がやって来た。


 だが、何故か免悟は袖を捲った左腕から血を流していた。意味は分からない。


「ついでに俺の傷も治してくれいっ!」


 ああ…、なるほど、ね。

 シントーヤがゆっくり息を整える頃、ようやくその意味が理解できた。


 さっそく自分で傷を付けて毒の効果を試したんだな。


 シントーヤは少々呆れ顔で免悟の傷を【治癒】してやった。お返しに免悟が充填器でシントーヤの魔力を回復させる。

 一応シントーヤもつい最近充填器を購入していたのだが、これが礼儀と言うものだ。


 免悟自身が身をもって体験した所によると、毒剣の毒効果はじわじわと来る感じだった。特に苦しみとかは無いが、多少の脱力感と共にイヤ〜な感じがある。

 この毒効果はダメージに比例し、重複効果も狙えるので長期戦ならいいプレッシャーになりそうだ。


 一応魔法毒は【治癒】や【解呪】等で浄化出来るが、これくらいの事で戦闘中にわざわざ小魔法一回分を消費する馬鹿はいない。どうせまた攻撃を食らうかも知れないし、毒使いからすると別な事に魔力を消費してくれたら、それはそれで思惑通りなのだ。

 この毒剣のいい所は、自分は魔力を消費しない事だ。それでいて相手にはそれとなく魔力=スタミナ消費を強いる、色んな意味で嫌らしい武器だ。



 しばらくすると、子供らも魔力を使い切ったせいで何となく終了ムードが漂いかけて来た。

 気持ち的にはもっと魔法を使ってみたいのだろうが、スタミナには限りがある。免悟たちの充填器もすぐに空っぽになったし、もう何も出ないよ。


 と、そんな時に中庭の出入口にネビエラが現れた!。


 ネビエラは様子を見ている…。



 どうする?


 戦う

 逃げる

→こちらも様子を見る


 (オ~イ、私はモンスター扱いかよ?)


 と言う事で様子を見ていると、近くにいたフェイジと言う子がネビエラに気付いて声を掛けた。


「あっ、師匠お早うございます!」


「それやめて!」


 ネビエラはすかさず拳を振るうが、あっさりフェイジに避けられてしまう。なぜか違和感のない見慣れた風景だ…。

 ネビエラは少し息を荒らげてはいたが、何事もなかったような素振りで免悟とシントーヤの側にやって来た。


「なんか面白そうな事やってるのね…」


 ネビエラはちょっと不機嫌そうだった。師匠呼ばわりされたのもあるが、一番はみんなで装備をまとめ買いした中にネビエラのものは無かったからだろう。

 ちなみに子供らはまとめ買いする事で多少の値引きを要求していた。


 はは…、強く育って欲しいが、逞しすぎるのは末恐ろしい限りだ…。


 そんな事よりネビエラがまとめ買いに参加しなかったのは、もちろん金を持ってないからだ。

 この大馬鹿野郎は手持ちの金を、本当に全部(大)魔法【獄滅龍破】につぎ込んでしまっていたからね。

 じゃあ、生活費はどうしているのか?、と言うと、シントーヤが文句も言わずに100%ボランティアで面倒を見ていた。ああ、偉いよシントーヤ。そしてネビエラ、お前は最低だ!。



 ほっといて…。(ネビ) 



 無関係なネビエラが来た事で、新装備のお試し会はそろそろお開きと言う事になった。


 なんかその言い方トゲがあるわね…。


 メンバー全員が揃った一行は、まだ物足りなさそうに渋る子供数人を引っ張って屋内に戻った。

 店のカウンターまで来ると、子供らがデヒムスにバイバイと手を振って帰ろうとするが、なんとデヒムスは販促用の粗品まで取り出して引き留めようとする。


 そこまでするか、デヒムスよ?。


 だがそれは、タダなら条件反射的に飛び付いてしまう子供らのハートをガッチリ鷲掴みしてしまった。


 さ、さすがはやり手商人、掴み所を心得ている…。

 ってかネビエラお前もか?!。


 免悟はシントーヤと目を見合わせ、ガキ共のコントロールを諦めた。


 仕方ない、免悟とシントーヤは狭い店内を飾る商品を見回して時間を潰す事にした。

 と言ってもこの世界、と言うか免悟はガルナリーの街しか知らないが、ここでは客の入る店内に全ての商品を陳列する様な事はしない。むしろ逆だ。

 客は欲しい物を具体的に注文し、店側がだいたいその注文に沿った品を奥から取り出すのである。はっきり言って免悟も最初は戸惑った。だが万引き対策なのか文化なのかは分からないが、何処でもそうなんだからしょうがない。

 まあ慣れるとどうでもいいけどね。

 なので、こうして店内に置かれている品物は、上手く飾られていてもそう大した物は無い。


 そんな店内の片隅で、免悟は見つけてしまったのだ、ソレを。


 なっ、何これ?、ベ〇リットじゃん………。


 なんか良く分からない武具の間にひっそりと転がるもの。ソレは正に免悟の前世界に存在したバーサーカー漫画に出て来る「覇王の卵」的な奴だった!。

 真っ黒な卵風の表面に、目や鼻、口がバラバラにくっついている例のアレだ。


 マジかよ!。


 一瞬驚いた免悟だが、しかしすぐさま好奇心をくすぐられて伸ばした手を…、止めた。


 ベ〇リットの目が見開かれ、免悟を見たのだ。


「ようやく出会えましたね我が主、私は「魔王雛の漆黒」、あなた様のお力になるべく生まれ出でた忠実なる下僕で御座います、どうか以後お見知りおきを」



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