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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
25/64

25・模擬戦を終え新たな金策への道

 模擬戦バトルが終了して。


 免悟の剣をブチ折ったシントーヤだが【狂化】が消えた途端にバタッと地面に倒れてしまった。

 さもありなん、実は免悟も倒れそうなのだ。余りの疲労のせいで。


 しかし免悟は勝者だ!。そんな不様な姿を晒す訳にはいかん。とにかく必死でプルプルと踏ん張った。


 き、きつい…。


 はっきり言って全力で動きながら魔法を使うとムチャクチャ疲れるのだ。理論上は(小)魔法なら6発打てるとか言うけど、現実的に実戦に於いてそんな状況はほぼない。

 特にガンガン戦う前衛だと、打てる魔法は2発位が限界だ。それ以上は逆に動きに影響が出てしまう。


 免悟がその場から動けずにいるとシントーヤが免悟の名を呼んだ。なんだか爽やかに汗をかきながら片手を差し出す。


「免悟、引っ張ってくれ」


 はあ?、アホか!、無理に決まってんだろ!。


 免悟はこみ上げる怒りを抑え、冷めた目でシントーヤを見た。無視だ無視!。


 だがシントーヤは諦めなかった。


「冷たいなあ免悟、仮にも全力を出して戦い合った仲じゃないか、ちょっと起こしてくれよ?、立てないんだ」


 ざけんな!、俺だって立ってるのが奇跡みたいなもんなんだぞ!、何の嫌がらせだよ、ヤだね!。


「…自力で立て、男の子だろ?。人の手ばっかり借りてると癖になる、あんまり姉ちゃんに世話ばっか掛けてるとダメだぞ?」


 ム…、ほ〜う、そう来るか。くそっ、だがそんな安い挑発には乗らん!。


「…だけど、全身全霊を掛けてバトルし合った者同士が肩を貸すのはいいだろ?、それともコレは求められて無視してもマナーには反しないのかな?」


「…(ムムッ)」


「…(フフフ!)」


 ち…、ああ言やこう言う。シントーヤ、意外と口の回る奴だ…。

 だが分かったよ、引っ張ればいいんだろ?。別にいいよそれくらい、もうしんどいしどーでもいいもんね!。ま、これも勝者の余裕ってやつか?。


「ったく無茶言いやがって…」


 仕方なく免悟はシントーヤの手を掴んだ。そしたら免悟が引っ張られて二人まとめて転がった。


 そらそーなるよ。只でさえ体重差があるのにさ、立ってるのが精一杯な状況でさ、もうやだ…。


「アハハハハハハハ…」


 シントーヤが意味不明に笑い出す。何かムカつくのでシントーヤの腹に踵を落としてやった。「…ハハハ、グッハ!」

 そこに子供たちが何故か嬉しそうに駆け寄って来た。


「いやほーーーーーー!」

「免悟ォーーーう!」

「シントーヤァーーーい!」

「キターーーーーー!」


 免悟とシントーヤが重なり合う上に、子供らはお構い無しに飛び込んで行った。


「「ちょっ、ちょっと待て!」」


 人がじゃれ合ってるのを見たら混ざらずにはいられない、それは子供のお約束だ。


 ところでシントーヤが危惧していた免悟と子供らの仲だが、それは全くの杞憂で終わったようだ。

 結局免悟と子供たちはなんだか仲良くやっていたのだ。シントーヤはあの険悪な雰囲気を一体どうするのか気がかりだったのだが、無駄な心配に終わった。

 と言うか免悟は子供らの褒め言葉を聞いてすっかり上機嫌だった。子供らに「スゲー」やら「カッコ良かった」とか言われてドヤ顔が治らない。つーか免悟チョッロ!、お前ちょっとチョロ過ぎるぞ…。


 シントーヤが免悟と子供たちのやり取りを生暖かく見守っていると、ネビエラが横にやって来た。


「もうシン、何やってるのよ。勝たなきゃダメじゃん、アイツがボッコボコにされるのを楽しみにしていたのにさ…」


 そう言うとネビエラはシントーヤの肩に腕を回した。


「また次頑張るよ」


 今回シントーヤは結局免悟の体に一発も攻撃を与える事が出来なかった。それは免悟の動きが変則的過ぎたからだ。けれど変則的だからと言って規則性が無いのではない。免悟の動きには免悟なりのリズムが存在する。そのパターンさえ読めれば捕らえる事は可能だ。

 今回は無理だったが次はなんとか出来るかも知れない。それにシントーヤ自身、色々と自分に足りない所を知る事が出来た。確かに模擬戦はやる価値が有った。


 ま、バトルがどうとか言うのは分かる人にしか分からない謎論理だが。


 一方、免悟にとっても今回の模擬戦は意義が深かった。どうやら今の免悟は回避特化のどっち付かずな魔法戦士だ。しかも戦士としては決定的に火力が足りない。

 シントーヤの防御力は攻撃力に比べ、前衛の戦士としては標準的なレベルだと思われるが、そんな防御を突破するのにあれだけ時間が掛かるのはショボ過ぎる。

 それに免悟から見てシントーヤにも改善の余地が少なからず有った。しかしそれはお互いに金さえあればすぐに装備的に補える問題だ。これは良く話し合って的確な対応を取ろうと思う。それにはまず金だな。


 ところでシントーヤだが、【狂化】中は凄かったが効果が切れたらどうなるのか?。

 本人が「ただの素人レベル」だと言うので、ちょっと見せて貰った所、マジでズブの素人だった。


 剣を振ると上半身と下半身はバラつくし剣筋もアマい。ホントについ最近初めて剣を持った兄ちゃんって感じだ。

 どうも狂化中のブチ切れた野性的なシントーヤの動き、あれは自身も知らない本能が成せる技のようだ。

 狂化中は基本的に勝手に体が動くらしく、シントーヤの自由に出来る部分はほんの少し指図するくらいだそうだ。

 だがなんにせよONとOFFの差がありすぎる。えらい大穴があったものだ、結構不安がジワジワ来る。これを何とかするのも課題の一つだろう。






 と言う訳で、いきなり突然ですが、やって来ました「ショコラ・ヒル」に。


 ガルナリーの街周辺に広がるガルナリー平原、その辺鄙な所にこっそり存在するチョコレート色をした丘。そこが大殻蟻の巣、ショコラ・ヒルだ。


 元々何も無かったこの場所に、一匹の女王蟻が巣を構えたのが事の始まりだ。

 この女王蟻の目の付け所は、何の重要性も無い空白地を選んだ、と言う事に尽きるかも知れない。

 元々平らだった場所に、増える働き蟻が地下で掘った土を地上に吐き出す内にいつの間にか丘になったのだ。


 ふ〜ん、そのうち山になるのかな?。


 それは知らんが、すでに丘と言うには結構なデカさだ。何も無い荒野の真っ只中にこんがり盛り上がった大地。東京ドーム約半個分の大きさだ。


 え、半個分かよ?。


 いざ東京ドーム、しかもその半分とか言われるとちょっと如何ともしがたい…、どう突っ込んでいいのかも分からないし。


 とりあえず、地下の巣は未だに成長し続けているのだろう。地中から排出される焦げ茶色の土が大殻蟻のテリトリーを表していた。


 さて、免悟たち一行がここに来たのはもちろん大殻蟻を狩る為だ。

 先日、ハルベル姉弟が蟻を釣り出して狩ったやり方。基本的にはたまたまそうなっただけだが、あれを真似しようと言う事になったのだ。


 大殻蟻は一匹一万G弱、まとめて狩れば不確定要素の多い鎧狼をアテにするよりよっぽど手堅い。

 よ〜し、それじゃあ早速やってみようぜ!、って事でやってみたが…。


 何故か上手くいかない。


 とりあえず蟻を攻撃して挑発してみるが、なかなか釣れてくれない。

 しかも蟻たちは基本ある程度の群れで行動し、さらに群れ同士が互いにカバーし合っているので付け入るスキが殆んど無い。逆に釣れたら釣れたで大軍で押し寄せて来やがるし。

 なんか上手い事出来てやがるぜ、蟻のくせに。


 そしてびっくりするのは、蟻たちは仲間が殺されてもそれほど怒りはしないと言う事だ。

 蟻個人としては殺そうとすると普通に死にたくないので抵抗するが、自分以外の蟻の死には結構な無関心さがあった。と言うか仲間の死体は、死んだ時点で即、再利用可能な資源の一つに切り替わるらしい。


 つまり大殻蟻を殺して持ち帰ろうとすると仲間の蟻が追いかけて来るのは、仲間が殺された怒りではなく資源を奪われる事に対する怒りなのだった。


 これが全体主義ってやつか?。

 全にして個、個にして全、王蟲じゃん!。

 いや、なんか違うな、王蟲って言いたかっただけだ。


 どっちにしろ端から見たら怒ってるのは同じだから、あまりどうでもいい様に思えるかも知れないが、実際にこいつを狩るとなると、その仲間に対する価値観が大きな違いをもたらす。

 要するに、下っ端の働き蟻を殺したところで大した挑発にもならないのだ。それ故に蟻を釣り出す事が難しい。

 そして、蟻の死体を盗んで初めて彼らを釣り出す事が可能になるのだが、群れる蟻の中から死体を掻っ攫うのは至難の技だ。しかも結構重い死体を抱えて逃げるのは意外と足枷だった。


 実際にやってみたが、途中で追い付かれそうになり、やむ無く死体を手放したら蟻たちはすんなり死体を回収して帰って行った。うーーむ…。


 それよりはその群れごと範囲魔法とかで全滅させる方がまだ簡単か!。と考えて、いきなり【業炎破】ブッ放してみたら、なんと丘から大殻蟻の戦闘種、グライダー種が滑空して襲いかかって来た、ウッソ?!。


 まさにこれは恐怖体験だった。空と陸から蟻の大軍が襲いかかって来たのだ、免悟たちは考える間もなく速攻で逃げた。

 幸いグライダー種は自力で飛び上がる事は出来ないようで、ただ高い所から滑空するだけだ。しかもグライダー種はノーマル種より足が遅いので、滑空の範囲外であれば大した危険は無い。

 だがあまり派手にやるとこんな戦闘種がお出ましになるらしい。


 つーかそうだよね、んな簡単に大殻蟻を狩れるなら皆やってるもんな。あまり蟻を狙うハンターがいない理由が分かった様な気がする。

 大殻蟻は少数で狩るには難しいが、かと言って大がかりにすると費用対効果で割りに合わないのだ。ある意味、絶妙なショボさ具合が売りだ。


 で?、どーすんのこれ、詰んだの…?。


 いや、だがネビエラたちは結構遠くまで蟻を引き摺り出していた。

 その時はそう、えっと、巣ごと【獄滅龍破】で薙ぎ払おうとしたんだっけか…?。


 無っ茶苦茶だ…。


 そこに至るまでの思考経路が想像出来ない、お前こそ真のモンスターだよ。

 とりあえずそんな試みが失敗に終わって良かった。そんな悪魔のような所業は報われるべきではないのだ!。


「なんか知らない所で散々な事言われてるようなんだけど…?」(ネビ)


 まあそれはともかくとして、問題はその悪魔の所業だ。

 え、違う?。

 いや、でもその悪魔の所業が蟻の釣り出しに成功した訳だ。恐らく巣に大被害を与えかねない危機感が、全蟻にかなりの怒りを呼び覚ましたのだろう。

 うん、その気持ちはすっごく良く分かるわ。はっきり言ってそんな事する奴鬼だもんな。


 平和に暮らしてる所を突然の大破壊が襲い掛かる。そしてその張本人は大して何も考えてない。「コイツら殺して金にしよ」くらいなもんだ。コンビニで夜食を買い足しに行く感覚で多種族を壊滅に追い込もうとする女悪魔一匹。


「う…、蟻さんごめんなさい、私間違ってたよ…。」(ネビ)


 さて、つまり要するに、蟻を挑発して引き摺り出すには生半可な挑発じゃダメだと言う事だ。

 巣をブッ壊すくらいの強烈な挑発、よしそれで行こう。


「はあ?」


「行け、ネビエラ28号僕らの為に!」


「なんで?、私のどこが28号なの?!」


「いやそこは気にしなくていいから、とにかく【獄滅龍破】発射!」


「いや、ほら蟻さんがさ…」


「大丈夫だ、安心しろ。結局【獄滅龍破】は発動しない、どうせ途中で詠唱破棄して逃げる事になるはず、だろ?」


「うん…、でもそれはそれでつまんないな…。やっぱ出来れば詠唱完成させて黒龍ブッ放したいんだけど?」


 結局お前は大魔法ブチかます事しか頭に無いのか…。


 この人ホント今までどうやって生きて来たんだろ?、絶対シントーヤが何とかして来たんだろうなあ…。

 大体ちょっと甘やかし過ぎたんじゃないのか?、それとも単にネビエラを躾ける事が不可能だったのか、多分そっちか。


 シントーヤさん、毎日お姉さんの付き添い介護ご苦労様です。


「とにかく、これが上手く行くなら、蟻の釣り餌として当分は空撃ちで頑張って貰うから。

 言っとくけど、これも生きて生活していく上での必要な事なんだからな!」


 チェッ、っとネビエラが目を逸らす。唾を吐くな!。



 と言う訳で。



「それではガルナリー最強の空撃ち師、ネビエラさんお願いしまっす!」


「その言い方やめてくんないかな…?」


「師匠!」「師匠〜」「空撃ち師匠〜!」


 キャハハハ、と子供らが「空撃ち師匠」を連呼し始めた。


 う〜〜ん、子供らはよっぽど空撃ち師匠が気に入ったのか、師匠イジりが止まらない、それどころかエスカレートする一方だ。つーかイジりと言うよりイジメだ…。

 ネビエラは顔を真っ赤にしてプルプル震えている。


「ちょい免悟!、なんだよコレ?、どうにかしてくれよ、あの人結構情弱でヘコみやすいタイプなんだから!」


 シントーヤがこの状況を何とかしようと免悟に詰め寄る。


「えっ、俺?。

 あー、いやコイツらまだ子供だしな…、一旦調子に乗ると歯止めが利かないって言うか…。

 それに多分悪意は無いんだよ?、ただコイツら根っからの親無し家無しで育って来たからさ、そのせいか人の痛みがあんまり分からないみたいなんだよな〜、ま、ちょっとくらい大目に見てやってくれよ」


 免悟よ、お前はそれでフォローしているつもりなのか?。


「なっ、なにソレッ?!、免悟アンタには言われたくねーよっ!」


「そーだ!、免悟に人の事をどうこう言う資格無えし!」


 免悟のデリカシー0%な発言を側で聞いていた子供が猛然と反発する。


「あーうるさいうるさい…」


 免悟が耳に蓋をして無視するが、子供たちの口撃は止まない。

 だけどこれで一応子供らのネビエラ師匠イジりは無くなった。うん、良くやった免悟。


 それにしてもなんだろうこいつら、なんか酷いコミュニケーションするなあ、惨コミュニケーションだ…。育ちが悪いせいなのかなあ。


 口には出さないが、どうもシントーヤまで毒されつつあった。


 そんな訳で、結局なんだかんだあったが【獄滅龍破】による蟻の釣り出しは成功した!。

 例によって陸、空からぞろぞろ蟻が湧いて来たが、分かってるのだから逃げるのは難しくない。とりあえず皆で全力を出して逃走した後、しつこく食い下がる蟻を反転攻勢して仕留めた。

 結果この日は5匹の大殻蟻を狩る事に成功した。相変わらず運搬は大変だったが、何とか日が暮れる前に街に辿り着けた。


 ちなみにネビエラは意外と最後までずっとヘコんだままだった。


 



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