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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
23/64

23・中2病バトル患者

 免悟たちは何とか橇を引っ張って街に帰りついた。そして大殻蟻を売り払ったら、近くの飯屋で新メンバーの歓迎会をした。


 まあ単に楽しく飲み食いするだけだ。大殻蟻が約4匹分で4万弱くらいで売れたので、それを元手にこの日はパーッとやる事にする。


 とりあえずこれで免悟たちのパーティーは計11人。

 とは言え、実質一人前とカウント出来るのは、免悟とホノとシントーヤの三人だけだ。そう言う意味では、その三人とその他運搬役8人のパーティーと言えるだろう。


 だが子供ばっかりで見た目は頼りないが、実態はそれほど悪くない。確かに子供らは戦闘時に少し足手まといだが、それを差し引いても大人のポーターと比べると圧倒的に人件費が安いのだ 。


 なので免悟としてはその子供たちも守れて、前衛でガッチリ敵を食い止めてくれる壁役がぜひとも欲しいと常々考えていた。

 と言うか、今まで誰子供が一人も死ななかったのは奇跡みたいなもんだし。


 そしてついに見つけたのがシントーヤだ。


 実は免悟は、ハルベル姉弟が大殻蟻と戦っているのを見た時からスカウト出来ないか考えていたのだった。まあネビエラがあそこまで使えない奴だったのは想定外だったが、その代わりシントーヤは期待通りだ。


 ところで免悟はシントーヤのような戦士タイプのメンバーが加わったらやってみたい事があった。


 それは摸擬戦だ。

 しかも実戦に近いマジな奴。


 と言うのも実際の所、免悟自身自分がこの世界でどれくらいのレベルなのかはいまいち良く分かってないのだ。あれこれ考えて分析とかするより、直接誰かと対戦してみるのが一番手っ取り早い。

 でも、かと言って誰彼構わず喧嘩を吹っ掛ける訳にはいかない。ヘタして死んだり大怪我するのは嫌だ。


 一応例のヤンキー、ハーケル達との戦いはあったが、結果的にはあんな魔法も不揃いな見習いハンターには勝って当然で、あまり大した戦力分析の比較対象にはならなかった。

 実戦経験としてはいい糧にはなったが。


 なのだが、まあそんな事よりぶっちゃけそろそろマジバトルをやってみたいってのが本音だった。

 

 と言う訳で待ちきれなかった免悟は、歓迎パーティーの席でシントーヤに模擬戦の相手になってくれるように頼んでみた。ところがシントーヤは何故そんな事をする必要があるのか分からないようで、真っ向から「?」マークを浮かべて来た。


 な、なに…!、模擬戦の必要性だと?。

 あのな、必要性自体は全くあるさ!。


 例えば駆け引き等の経験の蓄積だとか、自分の力量を測り分析するだとか、欠点を浮き彫りにするだとか、実際に命のやり取りをしない模擬戦のメリットは数多い。


「あぁ、なるほど…」


 だが!。


「いーや!、トーヤお前は全然分かっちゃいない!。違うゾ!、理屈なんかで納得するんじゃない。いわばこれは男の子の本能なのだ!。

 いつまでもたっても強さに憧れ、常に強くありたいと思う気持ちがバトルを生むのだ!。

 しかぁーし、言っとくがこれは戦争とは違うぞ?。戦争なんてのは熱い心を失なって業と欲に塗れた大人の所業だ。

 だがバトルは違う!。バトルは負けを怖れずただ勝つことのみを夢見る者同士が、全身全霊を賭けてぶつかり合う純粋な試合なのだ!」


 わかるかっ!?。


 そう言って免悟は卓をドンと叩いた。


 卓ドンである。


 まあ卓ドンに深い意味は無い。

 だがいつの間にか熱く語り出した免悟の周りで子供らが強い視線を注いでいた。


「なにそれカッコいい…」

「分かる、分かるよ免悟!」

「憧れます!」

「痺れますわ…」


 とか言って子供らは、一様にここではない何処か遠い所を見つめ始めた。


 なんすかコイツら…、食事になんか変な毒でも?。いやいや違うか、これが中2病って奴ですね?分かります。中2病は全世界共通ですから…。

 でもやだなあ…、なんだか変な所に仲間入りしちゃったな。


 至ってノーマルなシントーヤには頭の痛い世界観だった。



 このパーティーに入ったのは早まったのだろうか…?。



 だが、いまだに翻訳不可能な中2言語を連発する免悟教祖の肩を、ガシッと掴む者がいた。


「免悟!、あんたなかなかいい事言うじゃん!。

 私、さっきまでこのパーティーに所属するのは納得いってなかったんだけどさ、今の話しを聞いて私ここで上手くやって行けそうな気がするわ、よろしくね!」(ネビ)


 って姉さんお前もですか?!。


「ネビエラ…。

 ふっ、流石はあんな極振り魔法を振り回すだけの事はあるな!。

 ああ、もちろん男気の分かるメンバーは大歓迎だ、ようこそ我らがパーティーへ!」


 姉さん、俺は今このパーティーで上手くやって行く自信を失いつつある所です。ちなみにアンタ女ですから、余計なものに理解を示さないで下さい。


「ってオイ、聞いてるのかトーヤ、だいだいバトルに意味を求めるとは何事だ?!。男がバトルを求められたら即受けるのがマナーだろ?!」


「そうよ、考えてるようじゃダメ、感じるのよ?!。

 つーか、なんで分かんないのよ?、あんたホントに頭でっかち過ぎるのよ昔から!」

 

 う…、嫌な奴らがまさかのタッグを組みやがった。


 シントーヤは別にバトルがしたくない訳じゃない。バトルをしろと言うのならそれは構わないのだ。ただいきなりだったので、何か理由があるのかと思って聞いてしまっただけだ。それ自体はそんなにおかしな事ではない筈。


 つーか普通は聞くよね。なんで?って…。何その地雷…、気軽に転がり杉だろ…。


「あ〜もう分かったよ、分かったから!。バトルすりゃいいんだろ?、するからもういいだろ!」

 

 いい加減うっとしくなってプチキレてしまうシントーヤ。しかしその一言で一瞬にして変化した空気に、シントーヤは自ら犯した間違いを悟った。


 免悟とネビエラが半目でシントーヤを睨む。無言だ…。

 だが二人の背後で漂う「ゴゴゴゴ…」と言う攻撃直前の効果音が何故だか聞こえて来る。


 あ…れ、俺やっちゃった?。


「トォーヤァァ〜、お前はバトルの真の必要性ってものを分かっていないようだな?」


「シィィ〜ン!、アンタにはお姉ちゃんガッカリだわー。でも安心なさい、私は可愛い弟を見捨てたりはしない、その代わり今夜は覚悟しておくのね!」


 揃って立ち上がった免悟とネビエラは、席を移動してシントーヤの両隣にドッカと腰を下ろした。


 終わった…。


 何の変哲もないシントーヤの平穏な日常は終わりを告げた。そしてこれから朝まで生テレビのように終わりのないグダグダ地獄が待っているのだろう。


 諦めて周りを見渡せば、卓の端で申し訳なさそうに目を伏せるホノがいた。

 まあ今は一人でも味方がいる事を知れただけでいい。


 最期に一言、人名は統一する方向でお願いします。






 翌日、結局免悟とシントーヤは当然のようにバトルする事になった。そしてメンバー全員がその模擬戦を見るために集合した。


 場所は街郊外のいつもの空き地ではなく、少し遠い別の空き地だ。と言うのも、いつもの空き地とは例のヤンキー、ハーケルの死んだ場所だ。


 あれから何度かその空き地に寄ってみた免悟たちだったが、ちょうどハーケルの倒れた場所の近くに土を盛った小山があったのだ。

 人間一人分の土がそのまま地面にこんもりと盛り上がっている。


「これってさ、もしかしてアレかな?」

「う〜ん、どうなのかな、アレなのかなぁ…」

「いや…、アレ以外他に考えられ無いだろ…」


 ざわざわ囁き合う子供ら。


 かと言って掘り返して確認するのもアレだ。つーか、みんなほぼ間違いなくここに例のアレが埋まっているだろう事を確信していた。

 なのでその盛り土を発見して以来、免悟たちはこの空き地を使わなくなったのだった。


 と言う訳で、例の空き地より少し遠くて不便だが、別の空き地に到着した一行。

 だが、来る道中で更なる問題が勃発していた。


「シントーヤさん、応援してますよ!。是非あのカスをボコってやってください!」

「容赦なくブチのめしてやってよ!、オレたち楽しみにしてるから!」

「シントーヤさん、お願いします!。オレたちの分までやっちゃってください!」

「最悪半殺しまでオッケーッス!」


 え?、単なる模擬戦だよね、なんで代理戦争みたいになってるの?。て言うか免悟って嫌われてるの?。


「フフ、シン?、手加減無用よ、殺す気でやっちゃいなさい!。あのクソ生意気なクソ餓鬼に一泡吹かせてやるのよ!」


 姉さん物騒過ぎるよ、クソも多いし…。


 シントーヤはこの複雑怪奇な人間関係が紐解けずに頭を混乱させていた。

 最初は単なる激励だったのがいつの間にかだんだんエスカレートして、ついには過激極まりないセリフが飛び出して来たのだ。

 特に子供らの中でも年長者たちの煽りは度を越えていた。一体彼らの間に何があったと言うのだろうか。


 本気とも冗談とも判断が付かない。


 いや、免悟の苛立たしげな様子を見るに、もはや冗談とは呼べないレベルだ。時々免悟と眼が合うと、超コエ〜目付きで睨んで来るし。


 これ何の罰ゲーム?、オレにメリットの一欠片も無いじゃん。それより大丈夫かこのチーム?。これが原因で崩壊したりしないのかな?。つーかこんな険悪なムード、修復可能とは思えないんだけど…。


 昨日の気味が悪い一体感の方がまだましに思えるくらいだ。


 一方免悟は結構なショックを受けていた。最初は冗談だったのに、途中からマジな悪口に様変わりしたのだ。


 クッ、クソ…。ま、まあ、相手はガッガキだからね、すぐに調子に乗っちゃうんだよな…。

 ふっふ〜ん、オ、オレは全然気にしてないんだからねっ…。ただシントーヤだけはブッ殺す!。なんか知らんがとりあえず半殺そう。コイツさえいなければ何とかなるんじゃねえか?。(注:なりません)


 まあ仕方ない、主人公は孤独なもんだ。つーか、サクッとバトルに移行したかったのに何故こんなに能書きばかりグダグダ垂れてるんだろ?。


 とこのように主人公自体がグダグダ頭を悩ませていると、ふいにホノが免悟の隣に寄って来た。?。


「め、免悟…、頑張って!」


 こっそりそう言うと、ホノは恥ずかしそうに元の場所に戻って行った。


 コレ恥ずかしそうに言う事なのか?、意味がわからない…。それともまさか俺を混乱させる謀略か何かだろうか?。


 そんな事を思っていると、今度はエダルがやって来た。


「免悟も頑張ってねー」


 エダルが天使のような無邪気な笑顔で手を振った。


 免悟「も」ってなんだよ…。


 微妙な表情を浮かべた免悟は、柔らかそうな髪に覆われたエダルの頭をグワシッと掴んだ。そしてワシャワシャと髪の毛を引っ掻き回す。


「やっ、や〜め〜て〜よ〜」


 髪の毛をグシャグシャにされたエダルは抵抗むなしくなすがままにされた後、涙浮かべて逃げて行った。


 フッ、エダルよ、お前がシントーヤにも同じ事を言ってたのは聞こえていたのだ。


 あー、キリがないわ、さっさとバトル始めよっと…。



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