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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
21/64

21・ハルベル姉弟

 女ハンターが放った大魔法【獄滅龍破】、はっきり言ってその威力は破格だった。

 最後の最後まで妨害を続けていた大殻蟻だが、発動が避けられないと知るや速攻で逃げ出した。


 気持ちは分かるが、こうなっては何をしても無駄だ。


 女が手を振り下ろすと、虚空の龍が地上の蟻目掛けて襲いかかった。黒龍が飛び出すと、絡まった毛糸がほどける様に虚空が小さくなって行く。

 そしてすぐさま大きく開かれた龍の口が荒野を引き裂いた。まさに小さな蟻にも等しい大殻蟻たちが必死で逃げる。だが黒龍は鞭の様にしなり、暴風さながらに暴れ狂った。


 その様子を免悟たちは唖然として眺めていた。


 黒龍は大人が一抱えする位の太く長い胴体をうねらせ、大地をのたうち回る。断続的な地響きと共に大量の土砂と土煙が巻き起こった。


 一瞬の内に目の前は砂嵐に包まれて何も見えなくなる。うねる黒龍の胴体が時折見える他は、ただ龍の咆哮と地響きが聞こえるだけだ。そしてそれはほんの一瞬の出来事だった。


 突如、一際大きな咆哮が聞こえたかと思うと、一帯を轟かせた大騒動は瞬時に収まった。龍の暴走に身の危険を感じ始めた免悟たちだったが、退避するまでもなかった。

 今や金属的な金切り声が尾を引くだけだ。舞い上がる土煙の中に、黒龍の鱗が散り逝く花びらのように飛び散る。


 びっくりするほど唐突に静寂が戻った。


 余りにも早く訪れた効果の終焉に、免悟たちは呆然と立ち尽くす。

 広く荒野に立ち籠めていた煙がゆっくりと晴れていった。


「え?…、終わり?」


 子供らも半信半疑でその消滅を眺める。


 なんか早ぇ…。

 いや、そんなもんなのか?。

 どうなんだろ…?、分からん!(笑)。


 霧が晴れるように視界が明らかになると、大地に刻まれた無数の溝が姿を現した。単に削られただけでなく何らかの作用で消失している部分があり、あちこちで妙な煙が上がっていた。

 そんな煙と埃の漂う中に何か蠢く気配がした。

 

 え?、まさか…。


 ついさっきまでのド派手な黒龍の暴走に比べ、全くみみっちいその気配の主は大殻蟻だった。なんと数匹の蟻がゴソゴソと煙の中から姿を現したのだ。


 マッジで?、良くもまああの爆心地から生還出来たものだな…。


 だが免悟にしてみればこれはめっけもんだ。元々漁夫の利を得ようと画策していたのに、途中で(大)魔法に全て持って行かれてしまったのだ!。


 いち早く自らの使命を思い出した免悟は、反射的に子供らを振り返った。この使命を果たすには免悟一人の力では無理だ。子供たちの協力が必要なのだ。

 そんな免悟の瞳に宿る強い意思に心打たれた子供らは、瞬時にその意図を察して大きく頷いた。


 うん!、行けるよ免悟!。


 おおっ、分かってくれたか?!。


 何だこいつら!?



「ぃよーーしヤロー供ォォ!、一匹たりとも逃がすんじゃねえぞォォ!!!!」


「オオオオォォ!!!!」



 さあここから免悟たちのショボい無双の始まりだ。が、あんまり大したこと無いので結果報告とさせて頂きます。(ええええっ!!=免悟&子供ら)


 驚いた事に、8匹いた蟻の内3匹は生きて動いていた。しかし五体満足だったのは2匹だけで、もう1匹はズタボロ状態。どうにか生きてはいるものの、明日には死んでるレベルだ。五体満足な2匹の方も、体力的に限界ヨロヨロだし。

 最終的にその3体と、バラバラに飛び散ったその他の蟻の破片を集めた結果、ほぼ4体分の大殻蟻を回収出来た。


「ははっ、やったな、大漁だぜ!」


 ボロい橇が見えないくらいに重ねられた大殻蟻の山。それを前に免悟と子供たちが満足げに見上げる。


「ちょっと待ていっ!」


「おっとぉ〜?、ここでちょっと待っただぁ~!?」


 そう言って免悟が振り向くと、男女ハンター二人が立っていた。


 うん、なんか力なくヨロヨロ歩いて来る人影には気が付いていたよ。子供らは普通に彼らがやって来る様子をぼんやり見てたし。


「あんたら何勝手に人の獲物を横取りしてんのよ?!」


 女ハンターの方がヨロヨロしながらも必死に背筋を伸ばして気勢を上げた。だが、はっきり言ってこいつらもう見ただけで限界越えてるのが丸分かりだ…。


「ふむ…、もしもそんなヨボヨボしたなりでこの獲物を持って帰るって言うんなら返してやっても構わないが…。

 でも、ただ単に目の前で獲物を掠め盗られるのが許せないってだけなら諦めなよ?」


 ぐ…、と言葉に詰まる女の袖を、男がチョイチョイ引っ張って諦めるよう促す。しかし女は手を払い、怒気を強めて免悟を睨んだ。


「さっきの大魔法を見たでしょ?、子供が調子に乗るのも程々にしなさい、でないとただじゃ済まないわよ!」


 例の(大)魔法を思い出して子供らに緊張が走る。


「ニャハハハハ、馬鹿も休み休み言え!。あんな詠唱の長い魔法が対人で通用すると思ってるのか?、子供騙しにも程があるぜ!。

 それよりこんな所をウロチョロしてるんだ、俺たちをただのガキだとは思わん事だな。

 だが、もし街まで護衛が欲しいってんなら交渉は可能だぞ?」


「フザケないでっ!。

 シン!、ちょっとこいつら蹴散らしなさい!」


 女が男に指図する。だが男は全くその気は無さそうで、困った表情を浮かべるのみだ。


「ホノ!、こいつの足の間に矢を通してやれ」


 免悟が言い終える前にクロスボウの乾いた発射音が鳴り響き、女の両足の間を通った矢が後方に突き立った。


 常日頃からホノは免悟に戦闘時の心構え(ゲーム仕込みの)を教え込まれていたせいもあり、男女二人はホノにきっちり警戒されていた。

 なのでもちろんクロスボウに矢をセットして構えていたのだ。


 突然足の間に矢を通された女は成す術もなくフラつく。


「おい!」


 驚いた男がすぐさま女を庇った。さっきまでとは逆に女は顔色を失い、男は厳しい目付きで免悟を睨んだ。


「まあ、落ち着け。そこのねーちゃんは何か勘違いしているみたいだから教えてやるけどあんま俺たちをナメんなよ?!。ただのガキがこんな所をウロチョロする筈ないだろ?。

 むしろ逆にお前らこそどうするつもりだ?、そんななりで街までちゃんと辿り着けるのか?、別にお前たちさえ良ければ相談に乗ってやってもいいんだぜ?」


 いつになく優しげな免悟に子供たちは嫌な予感を抱くが、とりあえず事の推移を見守る。


 だが男ハンターは物分かりの良い方らしく多少迷いはしたものの、実際免悟の無防備な態度も相まってその申し出を受け入れた。

 当然ながら女は文句を言おうとしたが何とか男が黙らせる。


 何しろ二人とも体力的にはすでに限界なのだ。

 しかも彼らは、免悟が考える以上にこの後危険に対処する方法が無かった。用意してきた装備は全て無くしてしまったし、もしこんな所でモンスターや悪質なハンターと遭遇でもすれば最悪の事態しか想像出来ない。

 それに、そんな感じではないが、言ってみればこの目の前に子供たちに襲われたっておかしくはないくらいなのだ。見栄を張ってる場合じゃない。


「…もし帰り道を同行させてくれるのなら助かるよ」


 うむ、素直でよろしい。


 免悟もそこまで外道じゃない。困った時はお互い様だ。

 子供たちはもしかするとまたいきなりこの二人を殺すのではないか、とうっすら危惧していたのだが…。


 って俺そんな簡単に人を殺すタイプじゃないよっ。俺そんな風に見られてるの!?。


 ま、てな訳で、まず免悟たちは大まかに約束事を決める事にした。


 ひとぉーつ、大殻蟻は全部免悟たちの物ぉ。

 ふたぁーつ、その運搬を男も手伝う事ぉ。


 と言うのも大殻蟻4匹分ともなればかなりの重量になる。さすがに免悟たちだけでは重すぎた。

 獲物を山積みしたものの、さてコレ街まで持って帰れるか?、と冷や汗流れたのは免悟の内緒だ…。


 つまり、そんな時にちょうど良い人手として現れてしまったのは、むしろ男女ハンター二人の方だったのだ(笑)。


「やっぱ免悟は人使い荒いや…」

「タダで免悟が親切にするはずないと思ったよ」


 そんな所が子供らの感想だった。

 だが同時に免悟と子供だけでこの獲物を運ぶ事に不安を抱いていたのもまた事実。


(流石は免悟、頼もし過ぎて相手に同情しちゃうよ)


 とは言うものの男も体力的には限界を極めている。もし体力回復用のスタミナポーションを持っているなら免悟の力など借りる必要はなかっただろう。


 なのでそこは免悟が体力回復を支援してやった。もちろん免悟はスタミナ回復薬を所持していたが、勿体ないからそれは使わない。


 使うのはスタミナ回復用の充填器。


 これは要するにスタミナポーションの充電池版だ。見た目は拳大の半透明な珠で、スタミナをバッテリーみたいに補充出来る魔法アイテムだ。

 性能はスタミナポーションよりは一段劣るが、これ一つあれば半永久的に使い回せる。魔法の使用回数が限られて少ないこの世界では、この充填器は最もポピュラーで経済的な補助アイテムの一つだ。


 普通のポーションとの違いは、やはり初期投資が高くつくと言う事が言える。お馴染みのバンナルク装備店で買ったこの充填器も15万Gした。

 ハンターや傭兵のように、頻繁にスタミナ回復を行う必要性がなければ意味なく持つほど安い品ではない。


 ちなみにあらゆるスタミナ回復には、連続使用を難しくする「クールタイム」が存在する。

 回復薬を大量に所持して永遠に魔法を放ち続ける事は不可能なのだ。

 回復手段によって差はあるものの連続使用するごとに回復率は下がり続け、大抵3、4回使えば回復率0となってしまう。本来の回復率を発揮するには最低30分は間を空ける必要があると言われる。


 そんな訳で、その充填器を使って男の体力を回復させた。


 どんな回復手段であっても100%回復する事はないが、大抵マシな程度には回復する。これで男にも橇を引かせられるだろう。もちろん免悟も引く。


 デコボコの荒野は結構キツイが、まっ平らに舗装された街道に戻ればそう苦労はしない。

 なので橇を引きながら免悟は二人から詳しい話を聞き出した。幸い子供たちが大漁の余韻に浮かれたお陰で、雰囲気は良い。

 女はまだ不満げだったが、男の方はかなり素直な性格もあって簡単に聞く事が出来た。


 女の名はネビエラ・ハルベル(18)。男の名はシントーヤ・ハルベル(17)。


 彼らは姉弟だった。確かに言われて見れば何となく似てる。二人とも薄い金髪で、美男美女のカップルだ。

 つい先日このガルナリーの街にやって来て、今日始めてこの荒野に出て来たらしい。しかも他に仲間がいるわけでもなく二人だけで。


「え、初心者じゃん…」(子供)


 一応故郷の危険の少ない内地でハンターの真似事をやった事はあるらしいので、とりあえずやりながら覚えて行くつもりだと言う。

 もう何となくこの時点でコイツら駄目っぽい気がする。

 子供たちですらシ〜ンとなって顔を見合わせるくらいだ。


 免悟が残念そうに問い詰めていると、答え辛くなっていくシントーヤに代わって姉、ネビエラが受け答え始めた。


 何やら免悟の残念な表情が腹立たしかったようだが、自分たちの行動を正当化しようと口を開くほどに可哀想な事情が明らかになって行く。


 詳しい話はこうだ。


 二人はそれなり〜な装備で街を出て、なんとな〜くモンスターの居そうな方向へ歩いた。

 するとたまたま大殻蟻の巣に出くわした。

 そこで姉のネビエラが例の大魔法をブッ放そうとしたが、蟻が大量に現れたので詠唱放棄して二人は逃げた。


 だがそこで退く判断が遅れた為、かなりヤバい状況に陥る。その際、緊急用のアイテムの大半を消費する。シントーヤも剣や盾をここで失った。

 何とか蟻の群れからは脱したものの、あまりにしつこい8匹の蟻を(大)魔法でブッ殺してやった、と言う事らしい。(3匹残ってたけど)


 フッフッフ、どうよ?、みたいなドヤ顔でネビエラが言う。


 免悟は、どのツラ下げて言うとんねん!、とは思ったが、とは言え初対面の相手だ。

 とりあえず「模範的な駄目エピソードを聞かされてる感じがする…」とだけ述べるに留めておいた。


 だが、「なっ!、なにィィ?!」とネビエラが激昂しかけたが、素早くシントーヤが取り押さえてくれた。


 シントーヤ、あんたも大変そうだな…。(免悟)


 免悟お前も煽るな…。(子供)


 しかしまあ普通はシントーヤみたいに、お恥ずかしい…的な雰囲気を醸し出す話なのだが、このネビエラねーちゃんはどうやら残念美人って奴だ。全然分かっちゃいない。

 黙ってたら絵になるのに、口を開くごとにマイナスポイントを増産しやがる。

 それなのにまた口が軽い。話好きで意外とさっぱりした性格なのはいいのだが、話す内容が薄い…(頭良くなさそう)。


 ハア…、駄目だ。

 この二人、なんかツッコミどころが多すぎてこの回じゃ収まり切らない。


 免悟がついた溜め息に目敏く反応したネビエラは、「なによ…?」と不満げな表情を見せるが…。


 特にネビエラ、お前だ!。


「お前ら…、特にネビエラ。お前には言いたい事、聞きたい事が山ほどある。幸い街に着くまで時間はたっぷりある、覚悟しろ?。

 そんなユルい考えでハンターやってたらすぐ死ぬぞ?」


 免悟、意外と説教臭いんだよね…、とカルがシントーヤに囁く。


 おい、聞こえてますよ。んでホノもこっそり頷くな!。


「え、ええ〜、ヤダこの人怖い〜」


 とか言ってネビエラが大袈裟なリアクションしながらエダルにくっつく。

 エダルが顔を真っ赤にしてじたばたするのを「カッワイイ〜」とか言って更に抱きしめるし。


 人が真面目に話してるのに…。

 つーかコイツらあっさり馴染んでやがるな…。


 まあいい、次回は説教スタートだからな!。



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