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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
18/64

18・高坂免悟の日常

 ハーケル殺害事件の翌日。


 と言っても事件の犯人は主人公の免悟で確定なのだが。昨日と同じようにホノが免悟の部屋のドアをノックした。


「免悟起きて…。時間だよ?」


 免悟が停泊するガルナリーの宿屋は、ランター亭と言う小さな安宿だった。

 免悟が借りてる部屋は、ベッドと小タンスがあるだけの狭いワンルームだ。窓もガラスではなく板窓で、網戸もないので開けてると普通に虫が出入りする。

 当然トイレ、食堂、手洗い場は共用で、浴場(シャワー室)は別料金だ。免悟的には寝れたらそれでいいらしい。

 なので一泊600Gだ、お値段は非常にリーズナブルとなっている。


 ところでホノは、もう一人の小さな子と、二人で一緒に部屋を借りて寝起きしている。他の子供らは今も街外のスラムに住んでいるのだが、シルシティーの市民となった事もあり、何かと物騒なスラムからこの二人だけ特別に引っ越してきたのだった。

 と言うのも金回りが良くなり身綺麗になったホノは、食生活もマシになったせいか明らかに女の子らしくなったからだ。


 聞くところによると、市民権を持たない女の浮浪者はすぐに襲われたり浚われたりするらしくあまりいない。ホノはわざと女に見えないように偽装していたのだ。

 だが他の子供たちは多少危険でも、節約のためにスラムに居続けている。なにしろスラムだと寝場所はタダだ。

 せっかく金を稼ぐようになったのだから街の宿に住むよう免悟は薦めたのだが、勿体ないらしい。なので、免悟は子供らが何を食べてどんな所で寝起きしているかは全く知らない。子供たちの生態は未だに謎のままだ。

 興味も無いし。


 そんな訳で、なかなか起きない免悟を起こすのは、ホノともう一人の少年、エダルの役割だ。


 免悟の寝起きは結構酷い。

 昨日の夜は近くの酒場で、この宿屋、ランター亭の主人ミックさんと飲んだので更に酷かった。

 ミックさんはドワーフみたいだが、普通の小さいおっさんだ。一応この宿屋のマスターだが、奥さんの母親がこの宿屋のオーナーなので、すなわち婿養子の雇われ店長だ。肩身が狭い。

 つくづく夢の無い話だが、免悟もこの世界に転位する前世界ではしがないフリーター生活を送っていた身、気持ちは凄い分かる。


 飲みに出掛けようとした免悟が、たまたま顔を合わせたミックさんに安酒を奢ろうと持ち掛けるとホイホイついて来たのだった。ミックさんの少ない小遣いではあまり酒も飲めないらしい。


 ミックさん、ショボ過ぎっス。

 中年オヤジの悲哀は多世界共通なのか?。


 そんな訳で二人してむさ苦しく飲み明かした結果、今日の免悟は絶賛ブッ壊れ中だった。


 解錠されたドアが開き、免悟が顔を出す。


「あっ、免悟早く用意しよ?、行くよ」


 そう言ってホノが見上げた免悟の目は閉じていた。


 コイツ、寝てやがる?。


「ホノ…、今日は休みだ。みんなに言っとけ…」


 免悟は寝たまま返事した。


「………」


 突っ込むべき所はいろいろあったが、ホノも昨日の事があるからさすがに休みでも仕方ない、と言う思いはあった。

 それに免悟がハーケルを殺したのには驚いたが、そんなことで免悟が嫌いになったりはしない。しかし何となく免悟が遠い人間に思えてしまい、何故か言葉に詰まってしまう。


 よし、イケる。


 だがその時、いつもは意識の片隅で居眠りしてる筈のゲスい免悟の本能は、今日の狩りをズル休みすべくここぞとばかりに活動を開始させていたのだった。


 典型的なダメ人間タイプだ。


 そんなクズの思惑通りに事が進もうとしていた時、一人の少年が現れた。

 ホノと一緒に暮らす少年エダルだ。


「免悟起きた?」


 美しい鈴が鳴り響くかの様な少年の声も、この時の免悟には不吉に聞こえたと言う。


 エダルは美少年だった。しかも女の子でもそうはいない位の可愛いさだ。それ故に浮浪児の頃はその容姿を隠す為にかなりの苦労をしたと言う。

 はじめてエダルの素顔を見た時、免悟は二度見してしまった位だ。すでに男女の性別関係なく可愛いレベル。言わば天然の男の娘だ。

 ちなみにホノは少年っぽい女の子だった。落ち着きのあるクールな目つきをした、ある意味エダルとは対極的な少女だ。


 ホノがエダルに今日の狩りは休みになると説明している隙に、免悟がこっそり部屋の奥に引っ込もうとするとのをエダルが呼び止めた。


「ダメだよ免悟、ちゃんと皆に直接伝えなきゃ!」


「えっ…、な、なんで…?」


「だって…、昨日あんな事あったし…」


 エダルは昨日お休みだったので詳しくは知らないが、結構みんなショックを受けていたのは分かる。なので変にギクシャクしないように、と言うマジメな考えからであった。

 だがそれ故に免悟にとってエダルの気持ちが心苦しい。


 ぐ、そんな澄み切った目で見ないでくれ…。


 免悟の中の吸血鬼的な何かが、エダルの後光によって浄化されてしまいそうだった。

 問題は浄化されたら後には何も残らないと言う事だ。


「ね?…」


 違う、違うんだ。

 単にたまには休みが欲しかっただけなんだ…。

 別にコミュニケーションを疎かにするとかそう言うのじゃない。

 ただ働きたく無いだけなのでござる…。


 だ、駄目だ、言えねえ。まさかこんな時に火事場泥棒的に休みを掠め取ろうとしたなんて、とてもじゃないが言えない。


「わかった、直接言うよ…」


「うん!」


 だが、それでも今日は絶対休みにして見せるぜ!、出来れば明日も休みたい。連休が欲しいでござる!。


 なんか分からないが、いろいろ腑に落ちないホノは免悟をジト目で睨んだ。




「つー訳で、昨日はいろいろあったので今日は休みにします。

 明後日からの活動に向けてみんな英気を養って欲しい、以上解散!」


 待ち合わせ場所の正門前でそう免悟が宣言する。

 まだホノがジト目で見てやがる…。


 だが、


 えっ?、明後日?。

 いや、明日の間違いだよ。

 ああ、明日は狩り行くよね?。


 と、多少のざわざわ感があったものの、免悟がこっそり仕込んだ連休ワードはナチュラルに訂正されてしまう。


「免悟、明後日じゃない、明日だよ」


「うん、今日はいいけど明日は狩りに行くよ?」


 うおおおおお…。

 あっさり否定されたよ、つーかもうコイツらすでに平常運転じゃん!。ハーケル殺害効果薄っ!。

 すまん…、死者に過大な期待を寄せながら勝手に失望するこの俺を許してくれ。


 クソ、駄目だ。

 コイツら鬼だ。

 金の亡者だ。


 とんだブラック集団に捕まっちまった。もういい、とりあえず嫌な事は忘れて、せめて今日はこの休日をじっくり味わおう。


 吐き捨てるように踵を返した免悟は街の大通りを歩いていた。

 とは言え免悟がこの世界に来てまだ2、3週間ほど、知り合いも少なく、行く場所も限られている。


 さすがに今から飲み行くのは早すぎるし…。


 なのでとりあえず大通りに店を構えるバンナルク装備店、いわゆる武器屋に入った。

 ここは免悟行き付けの店だ。武器、防具だけでなく魔導具、回復薬、さらに魔法そのものである魔法図まで扱う専門店だ。

 この街に来てまだ日は浅いが、この店で免悟はすでに色々と買い物をしている。ローブやクロスボウもここで買った。


 古めかしい扉を開けると、不気味な呼び鈴が鳴り響いた。この音やめれ…。

 カウンターに座る店主、デヒムス・バンナルクが免悟を見た。


「おう、いらっしゃい」


「うーす…」


 軽く頷いて免悟が答える。


「珍しいなこんな時間に、今日は休みか?」


 デヒムスは厳ついゴリゴリのオヤジだった。


「ああ、今日は休みなんだけどさ、何か面白い事ない?」


「ここはただの装備屋だ、面白いネタ装備など無い」


「ち、シケてやがるな、だがお客が面白い物をご所望だ、何とかしろいっ」


「冷やかしなら帰れ…」


 免悟にとってデヒムスは、意外にも気安く話の出来る相手だった。

 それはある一つの事実がきっかけであった。


 当初デヒムスは免悟の事をかなりガキ扱いしていた。実際そりゃ仕方ないのだが、とは言えそれは免悟もムカつく。なので免悟は前世界での本当の年齢を教えてやったのだ。

 するとあろう事か、デヒムスは免悟と同い年だと言うのだ…。


 お互いそんな馬鹿な、と思った。

 あり得ねえ…、と。


 だが互いに途方もなく受け入れ難い現実を乗り越えた結果、二人は同志的な親近感を持つに至ったのだった。


 実際に二人が直面した現実の壁は、そんな一言で解決する様な生易しいものではない。

 だいたい、若返って異世界に転移ってファンタジーと言うより妄想だし、こんな厳ついおっさんが20代なワケがない。


 だがデヒムスは仕事柄情報には敏感だった。最近このガルナリーに外界人が来たと言う話を知っていた。デヒムス自身は見たこと無かったが、別世界からの来訪者はこの魔法世界エグゼリンドでは公然の事実。

 とは言え、他の世界からこの世界に渡って来る、なんて言うのは想像を遥かに超えた非常識だ。そんな想像の埒外で起きる大概の出来事、例えば多少若返るくらいの事は、単なる誤差の範囲でしかないように思われたのだ。

 なのでデヒムスは免悟の若返りを何となく信じる事が出来た。


 そして免悟の受けた衝撃も強烈だった。


 この年季の入った面構えのオヤジが俺と同い年の20代だと?!。


 絶、対、あり、得ん!。


 免悟にとってそれは、世界の境界を飛び越える以上に信じ難い話だった。結局のところ免悟は、実はその現実の壁とやらを乗り越えてはいなかった。ただデヒムスが必死に訴える姿が可哀想だったから理解を示しただけだ。感情的には未だにモヤモヤしている。


 て言うか一体何があった?。

 何食ったらそんなに老けるの?!。


「つーか、間違って魔界にでも足を踏み入れちまったか?。それとも腐海の瘴気を吸っちゃった?。

 成る程それで寿命が短く?。

 ふっ、どちらにしろデヒムス馬鹿な奴。ふふふっ…」


「おいっ、おかしな妄想はそれぐらいにしやがれこの害虫野郎!。

 そんな事より何か面白い事を探してるんだろ?、俺に一つだけ心当たりがあるんだが…」


「本当ですかデヒムスさん。

 事の次第によっては心を入れ替える用意が僕にはあります。さあ言ってみるのです」


 くっ、コイツこそ魔界で寿命を全部削って貰えばいいのに…。


「まあいい…。

 それはな、娼館だ。

 知ってるだろ?、売春宿って奴だ」


「おぅ、そっ、それは…」


「安心しろ、俺の馴染みの店がある。

 今から行くぞ、連れてってやる」


「デ、デヒムスさ〜〜ん!」


 この後、免悟たちは滅茶苦茶セックスした。



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