17・誰得ヤンキー編6
結局ヤンキーリーダー・ハーケルはクロスボウの矢を二発も食らっていた。ホノがマールを無事に逃がす為、念入りにやったらしい。
肩と太股に一発づつ、さすがに体に二本も矢を生やしている姿は痛々しかった。後でホノに聞いて見ると、ちゃんと狙った所に命中させたようだ。
思った以上に上手くやったな。
弓使いも【光弾】を一発受けているがコイツらもハンターの端くれ、治療用の魔法薬を常備していると言うので治療を許可した。もちろんその前に武装は取り上げた。
何もかも終わった、みたいな投げやりな格好で地面に座り込んだヤンキーたち。その真ん前に立って免悟は思う。
さて、どうするかな?。
落とし所ね…。
ばっさり斬り捨てるのは簡単だ。だが出来ればどこかで着地点を見出だして手を打ちたい。
その為あえてロープで拘束はしていないが、子供らは万全の体勢でヤンキー達を包囲している。特にホノには少しヤンキーから距離を取り、左右に二人の子供を護衛に付けてヤンキーの背後からクロスボウで狙わせている。
ちなみにホノは完全にノーマークだったようだ。
無知って可哀想だな。
それより、とりあえず迷惑料の徴収をしよう。コイツらもタダで帰らせて貰えるなんて思っちゃいないだろうし。
「つー訳で有り金全部出しな」
ヤンキー全員を見渡しながら免悟は言った。
なんかどう見てもカツアゲの現場だ…。
いや、これまでの経緯を知って貰えば分かっていただけるとは思うんだが。
うん?、主人公の取る行動ではない?、知らんがな。
いやいや、正義は我にあり。これも生きて行くため仕方ないのだ。
だいたいこのまま何もせずにただで帰らせたら絶対にまたタカりに来るに決まってる。
しかもさらに対策を練って。
やはりここはケジメとしてきっちり落とし前を付けねばならん。免悟たちを狙うにはリスクがデカいと思えるように。そして出来ればもう二度と手を出したくないと考える程に。
だがヤンキーたちの反応はいまいちだった。さすがに小物ヤンキー・ウォルンはキョドってるので無視するとして、ボルフと弓使いは意気消沈しながらも リーダー・ハーケルをチラ見して様子見決め込んでいる。
そして当のハーケルはあらぬ方角をジッと見つめて無表情だ。
「おいおい、出せる金額と態度によってはこのまますぐに帰らせてやってもいいんだぜ?。
それとも何か?、身ぐるみ全て剥がれて街まで素っ裸で帰りたいか?」
そう言うとヤンキーたちはマジで?って顔で免悟を見上げた。
いや、こちとらマジですけど?。
だがハーケルの表情は芳しくない。こんな状況になってもかろうじて免悟の目を見るだけだ。
ふてぶてしく開き直る訳ではないが、かと言って敗者の自覚を見せる訳でもない。正面切って反発せずに、のらりくらり回避する感じだ。
これは非常にダルい。
限りなくメンドくせー。
ハーケル側としたらこんなセコい手使うくらいしか出来ないのだろうけど、免悟には関係無い。
「とりあえず金出しな?」
免悟はなるべく優しく言った。
するとハーケルはノロノロと懐を探ると、革袋風の財布をチャリッと放り出した。
「ワリーが大して金は無ぇーよ」
「そっか…、じゃあ【爆波】でいいや、あれ寄越せ?」
そう言うと、ついにハーケルが表情を変えた。強い拒否の目だ。
「【爆波】は無理だ…」
「無理もクソも無い、何か差し出すしか無事に帰る事はあり得ねえ」
「お前の勝ちだ、煮るなり焼くなり好きにすればいい。
だが【爆波】を渡す気はない」
「ふうん、仲間が殺されてもいいんだ?」
免悟のあるまじき言葉に他のヤンキーたちが体を強張らせる。
「勝者はお前だ、お前がどうしようとそれは自由だ」
「だけど【爆波】を差し出せば見逃して貰えるんだぜ?」
「…それが嘘じゃなければな…」
「おいおい、それを言ったら駆け引きにもならんぜ。
お前らまさかタダで帰らせて貰えるなんて思ってないだろうな?」
「【爆波】は俺たちがやっとの思いで手に入れた魔法だ、これだけは他人に渡す気は無い」
このボケっ、それくらいしかお前らが差し出せる物は無いだろーが!。それに俺たちだって一生懸命生きてるんだ。その上前はねようとした奴が何言いやがる。
くそっ、話するだけ時間の無駄だ。のらりくらりかわして結局は何も差し出す気は無いのだ。
免悟に危害を加える気があまりない事を見透かされいるのだろうか?。
いやいやいや、俺むっちゃ殺る気あるっちゅうねん!。なんで分かんねえんだろ?、マジで殺るぞ!?。
くそ、駄目だ、もうすでになんか脅しは通用しない。結局落とし所なんて見当たらないじゃん。
どうする?、殺るか?、でも殺ったら子供ら引くだろうなあ…。
かと言って何もせずに帰す訳にもいかんし、素っ裸にひん剥いたら間違いなく恨みに思うだろう。
むやみに敵をつくるのは一番良くない。
でも中途半端に見逃したら舐められるし…。
あーーー、メンドくせっ。
ち、しゃあねーな。
「口で言ったってしょうがねえ。
ホノ!、コイツを射て」
ヤンキーたちの一番端で小さくなってるウォルンを指差すと、ウォルンは声も出せない風で固まった。
息止まってるんじゃないの?。
「え…?、免悟…」
いきなり指示を出されたホノもびっくりして免悟を見る。
まあそりゃそうだよな。
だが、「気にするな、射ち殺せ」
殺っておしまいなさい、ホノさん!。
ハーケルはともかく、さすがに他のヤンキーたちは落ち着いていられない。
「ハーケル…」
ボルフと弓使いがハーケルを心配そうな顔で見つめる。
とは言えこれも駆け引きだ、ハーケルも自分がかなり冒険しているのは分かっている。分が悪いのはどうにもならないが、だからと言って単なる脅しで言われるがままに従う訳にはいかない。
ハーケルは渋々仲間の方へ苦い表情を向けた。(分かってくれ、ここは我慢だ。【爆波】だけは絶対に奪われる訳にはいかないのだ)
だがハーケルが横を向いたその一瞬の隙に、大きく振りかぶった鉈剣を免悟が振り降ろした。
ハーケルの首へ。
鈍い打撃音と共にハーケルの体がブレる。結構な血飛沫が飛び散り、ヤンキーたちが悲鳴を上げて後退った。
ハーケルの体が大地に崩れる。
首を断ち切る事は出来なかったが、首の骨が折れる手応えがあった。
と言うか首プランってなってるし間違いない。
ハーケル死んだ。
あっけないな。
あ〜あ、やっちまった…。
まあいずれ人と戦う事もあるだろうから、遅いか早いかの違いでしかないか。
出来れば免悟もこんな事はしたくなかったが、まあしょうがない。
ハーケルは何とか上手くやってこの場を乗りきろうとしたが、その全てが免悟には将来的な脅威に映ったのだ。
しかも免悟の、危害を加えたくないと言う気持ちにつけ込んで来やがった。その知能と心意気は見逃せない。
この流れだとハーケルと免悟が敵対する可能性は高い。そしてもし成長して力を付けたらハーケルは厄介な存在になるだろう。
まさか、もしかしてこの戦いを通じて仲良くなるかも、なんてお花畑な思考回路は持ち合わせていない。少年マンガじゃあるまいし。
所詮は他人の命、自分の命ほどじゃない。殺せる時に殺しておく、この一言に尽きる。
さよならハーケル、君の事は忘れない、仲間のヤンキーたちが。たぶん…。
「さーて、みんな帰るぞ」
免悟はヤンキー同様に狼狽えるか呆然とする子供らに帰る準備を促す。
とりあえず目標は達せられた。極度に怯えるヤンキー達を見れば分かる。彼らの心を完全に折る事が出来たと言う事を。
それに【爆波】は手に入らなかったがハーケルの命と共に永遠に失われた、残されたヤンキーたちの戦力ダウンにはなる。
一罰百戒、禍根は断った。
さあ、もうこんな所に用はない、帰ろ帰ろ。こんな出来事があったのだ、今日は宿に帰ってゆっくりしよう。なんかドキドキも止まらないしな…。
最後に免悟はヤンキーたちに一声掛けた。
「お前らのリーダーだ、墓でも作って埋めてやるといい」
流石は免悟、気を使っているようでいて自分で殺った後始末を人に任せるとは。見上げた外道っぷりだ。
果てしなくびびっていたヤンキーたちを残し、免悟は子供らを連れて早々と街へと帰った。じっとしてると体の震えを見られてしまうかも知れないと思ったからだ。
ここでストック尽きました。
話自体はまだ続くので見てやって下さい。
多分一週間以内には投稿する予定です。