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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
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16・誰得ヤンキー編5

 突然だが、つい最近になって免悟は【浮遊術】に開眼した。

 当初は、ただ浮いてるだけのネタ魔法に思えた。しかも街にある魔法を取り扱うショップで調べると、意外と【浮遊術】は希少価値の高い上級魔法だったのだ。

 それなのにこのショボい効果は…、ハズレ感が高かった。

(上級、中級、下級と言う呼び方は各魔法のレアリティー=希少価値の高さ(ぶっちゃけ流通量)を表すカテゴリーで、(大)魔法、(中)魔法、(小)魔法と言う呼び方は使用する魔力量の大小を区別している)


 ただ【浮遊術】の使用コストは低く、使い勝手は悪くない。何より浮くのは気分いいのでちょくちょく使っていたら、ある時新しい使い方を発見した。

 浮いたままで移動しようと思うと大した動きにならないが、普通に動く時のアシスト、補助として使うと結構な加速力を得られるのだ。使い方としては間違っているかもしれないが。

 実際に、ただ走るだけでも100メートル10秒切る自信がある。いや、計ったことがないから正確ではないが、直感的には人の出せるスピードを越えてると思う。

何しろこれでも魔法だ、ドーピングどころじゃ無い筈。

 そして単なるスピードアップだけでなくこの【浮遊術】の凄い所は、重力コントロールにより物理法則を無視した動きが出来る点だ。一般的に見慣れない変則的な曲芸のような動きも可能なのだ。

 例えばジャンプ中の軌道を曲げたり、マイケル・ジャクソンみたいに地面に斜めに立つ事も出来る。

 そして更にもう一つの利点は効果時間の長さだ。

 一般的に良くある身体強化系の魔法は、筋力=パワー自体がパンプアップされて、結果スピードも上がるので効果だけ見たら【浮遊術】より完全上位だ。しかしその効果時間は一瞬でしかない。よく保って5秒。それでも戦闘中の5秒は意外と長い方だ。


 魔法によってはもう少し長持ちする物もあるが、そう言う魔法には必ずデフォルトが存在する。何十秒も使える強化魔法と言うのは効果が薄いか何らかのデメリットを内包しているものだ。


 どちらがより魔法として優れているか?、単純に比較するのは難しい。この世界には星の数ほど無数の呪文が存在するが、明らかに使えないカス魔法も少なくはない。

 それを思うとこの【浮遊術】は使える。と言うかむしろ使い方次第だ。

 なので免悟はこの魔法を使いこなそうと思った。何しろ使っていて楽しい。それに全く剣術を知らない免悟にとって、変則的な攻撃は自己流に向いている。


 と言う訳で、やっとヤンキーたちとの戦闘シーンに入るのだが、初めから免悟はほぼ一人で相手するつもりだった。

 唯一ホノだけには頑張って貰うが、他の子供らには手出し無用だ。

 そもそも子供たちは槍でカウンターしか出来ないし、魔法や弓矢に対する防御が無いので相性が悪い。もし奴らが子供たちを優先的に攻撃する様だったら、免悟はヤンキー共を手加減なく殺すつもりだ。


 だがそこまで奴らも馬鹿では無かった。無力な子供を狙った所で、その間に免悟に各個撃破されたら馬鹿丸出しだ。

 さすがに免悟と子供らのパーティーの最大火力は、免悟の魔法だと言う事くらいは理解出来てる様だ。

 免悟が前面に出て煽ると、ヤンキーたちはあからさまに免悟のみに殺気を集中させて来た。よしよし。


「じゃあ手伝ってやるぜ、お前らの解体をな!、死ねやっ!」


 リーダーのハーケルが叫ぶと、ヤンキーたちは同時に動いた。

 免悟の予想では、こんなハンター見習いレベルの相手だとかなりのアドバンテージ差があると感じていたので、奇襲を掛ける気は無かったし、まず先手も取らせるつもりだった。弁解の余地なくはっきり分かりやすく白黒付けるためだ。

 しかし胸を貸すのもここまでだ。攻撃を食らうつもりはサラサラない。


 免悟に向かって突っ込んで来る大柄な戦士系ヤンキー・ボルフに対し、掛けっぱなしの浮遊術のアシストを受けて免悟も飛び出した。

 浮いて体重が軽くなるので、異常なスピードに乗る免悟。


 免悟自身はこのスピードを折り込み済みだが、相手はそうじゃない。

 ボルフは、突撃しながらも反射的に攻撃ではなく防御的な姿勢に移行してしまう。予想外の免悟のスピードに、自分を上回る物理的な脅威を感じてしまったのだ。


 譲った先手をあっさり巻き返した免悟は、突き出された盾に足から突っ込んだ。

 インパクトの瞬間わずかに角度をズラし、足裏で盾を思いっきり蹴っ飛ばす。

 体格的にボルフの方がデカいが、スピードに体重を乗せた免悟とのぶつかり合いはほぼ互角だった。しかも衝撃をコントロールしたのは完全に免悟だ。

 ヤンキー戦士はインパクトの瞬間、目も瞑って体を縮こまらせてもいた。ダメじゃん。


 結果、きっちり万全に着地した免悟に対し、ボルフは掴んだ盾に振り回され、剣を持ったまま地面に手を付いてしまった。勢いに押され、剣ではなく防御的な盾を構える事を優先しようとしたのだ。

 衝撃の震源地である盾をコントロールするのは容易でなかった。完全にバランスを崩している。だがボルフの目には、すでに自分に向かって来る免悟の姿が写っていた。何とか剣と盾を前に突き出すものの体勢はほぼ棒立ちだ。


 そんな状況なので、免悟は簡単に鉈剣でボルフの剣を弾くと肩から強引に突っ込んだ。そして器用に盾を押し除けるとあっさりボルフの懐へ入り込む。そして流れるような動きでボルフの脇腹に免悟の拳が吸い込まれた。


 ボルフの安っぽい革鎧の上から、スピードに体重を乗せた免悟の左フックが突き刺さる。重なる二人に大きな衝撃が走った。

 ボルフがみっともない無様な声と共に大量の吐息を吐き出す。


 よし、徹った!。


 腕の振り的にはフックだが、体重の乗った拳をインパクトの瞬間だけ動かしただけのむしろ突きだ。完全にダメージが体を突き抜けた感じがした。


 発勁に近い。

 んじゃないかと思う…。


 まあ別に発勁だろうと何だろうと構わないのだが…。完全にオーバーキルだし。


 重なり合う二人。身体を痙攣させながらゆっくり免悟にもたれ掛かって来るヤンキー戦士。


 くっそ重いよ。


 ボルフが完全に気を失って免悟の方に倒れて来た。免悟的にはこのまま横にポイしたい所だがコイツにはまだ役割がある。


 免悟はヤンキー戦士が倒れない様にゆっくりと体重移動させた。ボルフがガクッと膝を付くと、その先に弓をつがえた弓使いが見えた。


 次はコイツだ。


 その瞬間男の悲鳴が響いた。

 弓使いが驚いて横を振り向く。気持ちは分かるが余所見はいけませんねえ。


 だけど免悟にはすぐ分かった。ホノがハーケルを射ったのだ。いいタイミングだ。


「ぐっあぁ!!」


 ハーケルが声を上げて転がる。奴の魔法、【爆波】があさっての方向で暴発した。


「くそおっ!」


 弓使いが焦ってホノに弓を向ける。だがそれはマズい。免悟も【光弾】の準備はしているが間に合わない。なので免悟は剣を投げつけた。

 当たりはしないが、足下で跳ねた剣に驚き、弓使いは再度免悟に弓を向け直す。だが免悟はヤンキー戦士ボルフの体を盾にしている。

 それでも弓使いは迷った挙げ句やはり免悟を狙う事に決めた。


 そうそう、忘れるなよ?。どう考えても俺の方が脅威度高いだろうが。


 だが何にせよもうすでに詰んでる、もはや悪あがきでしかない。やはり仲間に当たる事を気にしたのだろう、矢は免悟の横を掠りもせずに通り過ぎて行った。


 ハイ残念、お返しに【光弾】をどうぞ!。


 弓使いだから盾も構えてないので狙い放題だ。


 こうして異世界ヤンキー団との戦闘は終わった。



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