15・誰得ヤンキー編4
誰も居ない空き地に帰って来た免悟はすぐさま罠を警戒した。だが展開した【索敵】には見た目通りなんの反応もないし、子供に周囲を見回りさせても誰も居なかった。
ちなみに子供たちの中の何人かは、馬鹿みたいに凄い視力を持っていた。どこぞのサバンナの部族並みの視力を持っているのでそれこそ荒野では索敵要らずだ…。索敵さん?。
そんな訳で、とにかくこの場にはヤンキー共が居ない事が判明した。おそらく一旦街に帰ったんじゃないかと思われる。
くそ、ビックリさせるつもりがビックリさせられちまったじゃん。つーか面倒くせーからウロチョロするなよこんな時に!。
しょうがないから待つしかない。
しかしいつ戻って来るか分からないので、ウォルンには再度簀巻きなって転がって貰う。
ええい、メソメソするな男のくせに!。辛気くさいわ、士気が下がるだろ。
マジでウザいので静かにさせるよう子供に指示する。別に暴力を助長しているのではなく、あくまでも暴力を上手く使いこなすための経験の一貫だ。
確かに本気でウザいからってのもある。
さて、それじゃあその間どうするか、気持ちを途切れさせないために免悟が子供を集めてミーティングでもしようかと思っていると、ヤンキーらが帰って来た。
「免悟、あいつら帰って来たよ…」
ん…、よくよくタイミングの悪い奴らだな。
(ハーケル視点)
ハーケルたちが空き地に入ると、免悟と子供たちが物々しい雰囲気で待ち構えていた。ガキ共は槍先をこちらに向け、完全に戦闘モードに入っている。
免悟の方は剣を抜いているだけじゃなく、すでに何らかの魔法すら纏っていた。全身が効果エフェクトで淡く光っている。おそらく自身単体の補助系魔法だとは思うが何かは分からない。
「おいっ!、何だそれは、どう言う事だテメエッ!」
仲間の大柄な戦士系ヤンキー・ボルフが、簀巻きにされたウォルンを見て怒鳴る。
ハーケルは適当な距離を見計らって足を止めた。とりあえずここまで近付けたら充分だ。これならいつでも飛び掛かれる距離だ。あまり近づき過ぎると、せっかく前に出ている免悟が後方へ下がってしまうかも知れない 。魔法使いに距離を取られるのはマズい。
それに最悪逃げる時の事も考えておかなければならない。あまり近付き過ぎるのもいい事ばかりじゃない。
ハーケルはマールの襟首を掴んで盾代わりに前方へ突き出した。
「おい、ちょっと早過ぎるんじゃねえか?。どうした、もう狼を捕まえちまったのか?」
ぶっちゃけウォルンの事はどうでもいいのだが、仲間であると言う一点においてのみムカッと来るハーケル。しかし冷静に相手の出方を探るべく言葉を選ぶ。
「ふ、間抜けな小猿が真っ先に引っ掛かってな。
ところで俺達解体の仕方って知らないからさ、ちょっと手伝ってくれるよな?。何なら丸ごとくれてやってもいいぜ、この獲物」
だが免悟はあっけらかんと丸出しの悪意を晒して地面に転がるウォルンを指差した。
ふざけた物言いに、即座にヤンキーたちの怒号が飛ぶ。しかし免悟どころか子供らでさえ怯む様子はない。と言うか、もうすでにそう言うレベルではないのだ。
生き死にの掛かった戦場に身を置く雰囲気。完全にヤル気だ、退く気配など全くない。
糞ッ、調子に乗りやがって!。もう知らねえぞ!。
ハーケルたちもヤンキーだ。ここまで言われたら後には退けない。それに相手が相手だけに手加減なんかしてる余裕もない。
免悟が事前に魔法を先掛けしているのなら効果が切れるまで時間を引き延ばしてやろうかと思ったがもういい。何故か免悟にそんな焦りも見えないし。
ケッ、構わねえ、それなら先手を取る!。
「じゃあ手伝ってやるぜ、お前らの解体をな!、死ねやっ!」
ハーケルが剣を掲げて吠えると、仲間たちが雄叫びを上げて応えた。
打ち合わせ通りハーケルが呪文を唱え、弓使いが矢をつがえる。そしてオーソドックスな戦士系ヤンキー・ボルフが剣と盾を構えて免悟に突撃した。
先制で免悟のみに攻撃を一点集中だ。
幸い免悟は子供を庇うつもりか一団の先頭に立ったままだ。
魔法使いが前線に出っ張るってどうなんだ?、だが死ね!。いや、出来れば半殺しにして魔法は全部頂こう。
(と言うのも魔法は基本的に強奪が不可能だが、譲渡は出来るのだ)
ハーケルの持つ【爆波】の詠唱時間は【光弾】と同じく三秒。【光弾】が発射されてから着弾するタイプなのに対して、【爆波】はその名の通り小爆発が目標に直接発生する。射程距離は光弾より短いが、同時に詠唱開始したとしても爆波の方が少しだけ先に攻撃出来るのだ。
なのでこの時点で先制攻撃確定だ。
よしイケる、チョロいぜ!。
だがハーケルや弓使いが準備を整えるより先に、仲間の戦士ボルフと免悟が接触してしまう。いきなり免悟が凄い速さで飛び出したのだ。
何か思うヒマもない。
瞬時に二人が激突した。
打ち合わせでは、ボルフがとりあえず免悟に張り付く。あとはハーケルと弓使いで隙を見て狙い撃つ。ハーケルは剣と魔法で遊撃だ。マールを盾にしたのは流れっぽいが、これは個人的な保険だ。
だが、免悟があり得ないスピードで動き、あっと言う間にボルフと接近戦を始めてしまったのだ。
すぐに両者は互角に弾けて距離を取るが、すばやく立ち直った免悟が再度ボルフに襲い掛かる。あまりの免悟の速さに、弓使いは射つタイミングが無かった。
再び免悟とボルフの体が一瞬にして重なる。激しい衝撃が両者を揺らす、が、二人ともに動きを止めて静止した。
なんだ?、どうなった?。
暫し両者の激突に見入った他の皆は、なかなか結果を知らせない結末に焦れた。
だがふいにボルフの膝が崩れると立ったままの免悟の頭が現れた。
免悟の鋭い視線がすでに弓使いを捉えていた。