14・誰得ヤンキー編3
ヤンキー団のリーダー・ハーケルは、免悟たちを狩りに送り出すとメンバーを連れて街に戻った。狩り自体が1、2時間掛かると言うので、一旦街に帰って食糧を買い込もうと考えたのだ。
街の中で待ち合わせすると、もし免悟たちが警邏隊に泣きついたら面倒なので、街郊外の空き地で合流する事にした。
ただ、それまで何もせずにぼんやり待っているのも暇なので、ついでに昼飯を取る事にしたのだ。
「おい、そんなにカタくなるなって、ちょっと街に戻ってメシ買ってくるだけだからよ。」
ハーケルは、ビクつきながらも警戒する少年マールの肩を親しげに引き寄せた。
「メシも奢ってやるからさ」
どうせガキ共が代わりに稼いで来てくれるのだから、少し豪華な昼食にしてもいい。
そう考えていたのだが、道中マールから免悟の情報を引き出してみると、いつの間にか皆不穏な雰囲気に呑み込まれていた。
マールも情報管理の重要さを認識してはいたが所詮は子供。脅し、宥めすかして誘導すればある程度の情報を引き出す事が出来た。
だが出て来た情報はハーケルたちが思っていた以上に厄介な問題を孕んでいた。
それは免悟の装備する魔法の数だ。
免悟はどうやら二桁以上の呪文を装備していると言うのだ。それが本当ならそれは魔導書レベルだ。
魔法は高価だ。最も安い下級魔法でも5万Gはする。上級魔法なら数百万以上するものもあるのだ。それを一人で何個も所有するのは経済的に容易ではない。
なので魔法使いにとって二桁もの呪文を所有するのは一つの大きな壁であり、故にステータスでもあるのだ。
そしてそれほどの装備を一般的に魔導書と呼ぶ。
とは言え、実際は単に持っているだけじゃあ無意味どころか金の無駄使いでしかないが、ハーケルのような見習いハンターにとってはそんな装備だけで脅威となりうる。単純に魔法は危険極まりない凶器なのだ。
ハーケルは、免悟が小さな子供たちと組んで狩りをしているから、てっきり同じくらいのレベル同士でパーティーを組んでいると思っていた。
だが魔導書クラスの装備を持っているなら、普通に良くある中堅パーティーの一員としてスカウトされたって不思議じゃない。まさかそんな奴から金を巻き上げようとしていたとは迂闊だった。
マールから引き出した情報の並々ならぬ事態の深刻さに皆静まり返る。
「どうする?、ヤバくないか?」
仲間の弓使いが不安げにハーケルに呟いた。
「一応言う事は聞いているんだ、それほどヤバい奴ではないだろ…。
それに魔法を持っているからって使いこなせるとは限らないしな。どっちにしろ今更どうにもならねえよ、別にやる事やるだけだぜ」
ハーケルは良くない雰囲気を食い止めるべく、強気の姿勢を貫いて見せた。
今になって手を引こうとしたら逆に相手が強く出て来る可能性がある。そうなると結局はやり合う事になるのだ。
今更謝って許してくれるようなヌルい相手ならそのまま言う事を聞かせられるだろうし、そうでないなら許しを乞うだけ無駄だ。一か八かとことんまでやるしかない。
それにガキが何人いようと問題じゃあない、結局相手は免悟一人なのだ。対してこちらは四人いる。
魔法と言えど万能ではない。
免悟は広範囲の攻撃的中魔法(【業炎破】)を持っているらしいが、マールを人質に取っていれば撃てないだろう。撃つ気があったならさっき別れる時に後ろから撃てたからだ。
もしもダメージを与えずに無力化できる妨害魔法を掛けて来るとしても、詠唱の長い中魔法なら速攻で距離を詰めればいいし、おそらく弓で何とか出来る。
逆に詠唱の短い単体用の小魔法なら、誰かが食らってる間に残りの奴でボコればいい。
向こうには装備的な優位が存在するが、こちらには数的な優位があるのだ。
ハーケルたちもここ数年ハンターのパーティーに下働きとして付いて回った経験がある。同じ年頃の人間相手には滅多に負けない自信もあった。
手数の優位性は簡単に発揮出来るが、数ある魔法を初見の相手に合わせて効率良く使いこなすと言うのはかなり難しい。
それにもし免悟が結構使える奴だとしても、最悪子供を盾にすれば何とか出来そうだ。子供を気にしない奴ならそもそも最初から言いなりにはならないだろうからだ。
まあそんな無茶な奴は滅多にいないだろうし。
とりあえずハーケルたちは一旦街で食糧を買い込み、食べ歩きながら街道を引き返した。
途中マールそっちのけで語り合い、もしもの時の対応を固める。
ちなみにウォルンについては「自分で何とかするだろ」と言う事になった。
そろそろ待ち合わせの空き地が見える所まで戻って来た時、弓使いが声を上げた。
「ん?、空き地に誰かいるぞ!」
「ほんとだ…、奴らもう戻って来てるんじゃねえの?」
「なに…?」