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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
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13・誰得ヤンキー編2

 免悟たちは、マールと言う少年を差し出してヤンキーたちと別れた。

 人選は免悟がした。表現は悪いが、マールは今いる5人の子供たちの中で最重要でもないがまだマシな子供だ。


 いろんな意味でスマン、だが君の名は忘れない。


 マールの名はさっき初めて知ったのだが、免悟は心の中で謝罪した。はっきり言ってこれから起こる事を考えると、取り替えられたマールは最も損な役回りなのだ。


 さすがに免悟も少し心が痛む。


 免悟とヤンキー1名を加えた一行は、しばらく無言で荒野を歩いた。

 そして完全にヤンキー本隊から離れた事を確認すると、免悟が歩みをストップさせた。


 子供たちとウォルンが怪訝な表情で免悟を見る。


「さてと…」


 免悟はウォルンの顔を凝視した。


 免悟は人の顔をパッと見ればすぐに分かる。そいつがどんな奴なのか、大物か小物か、利口か馬鹿か…。


 と言うのは冗談で、一度言って見たかっただけだ。


 だがこのウォルンと言うヤンキーは一目で分かる、もろ小物だ。普通にダメっぽな下っ端ヤンキーだね。おそらくヤンキーたちの中でもパシりが定位置だろう。


 まああまり見た目で判断するのも何だから、直接聞いて見る事にしよう。これ以上言うと、人物評価と言うより悪口にしかならないからな。


 免悟は、僅かに警戒しながらも困惑するウォルンに近付くと、無防備な腹に蹴りを入れた。

 声を上げて地面にうずくまるウォルンを更に蹴って転がし、鉈剣を突き付ける。


 その後、何か喚く度に蹴ったり刃の無い峰打ちでボコボコにして心を折る。

 最後に子供たちにロープで両手を後ろ手に縛らせてから話を聞いた。


 彼らヤンキーの目的は、やはり免悟たちの上前をはねる事だった。出来れば鎧狼の狩り方を知りたかった様だ。まあそれは聞かなくても分かってた。問題は彼らの立場と装備だ。


 ここに来るまでに子供らリーダーのカルにこっそり確認したところ、彼らヤンキーたちは市民権を取得していないとの事だった。

 彼らは、カルたち子供ら同様に家無し親無しの元浮浪児。つまり運良く成人出来た浮浪児の生き残りなのだ。

 カルたちが成長したらこうなるかも知れないと思うとちょっと鬱だ。


 やんちゃでもいい、ヤンキーにだけにはならないで欲しい。


 奴らの所属先の有無は実際にウォルンのステータスを表示させて確認した。この様子だと他の奴等も市民権は持ってないだろう。


 と言う事で、こいつらをブッ殺しても問題は無いと言う事が確認出来た。


 事情聴取の際に免悟がそこまで考えている事を知ると、ウォルンはさっきまでの子供以上に怯えて震え始めた。

 同じ様に子供たちにも動揺が走る。


 この世界にも日本程ではないが殺人のタブー感はある。特に子供たちには人殺しの経験が無いから尚更かも知れない。

 当然の事ながら免悟だって人殺しは未経験だ。しかし、状況によっては殺人もOKな世界に住んでいる以上、そのレギュレーションに沿った行動が取れる様にはしておかなければならない。


 つまり殺人も躊躇わずに選択出来る心積もりが必要なのだ。


 だが今のところ免悟はそこまでは考えていなかった。大方の情報を引き出した小物ヤンキーをロープで簀巻きにしたら、声の届かない所へ放置して子供たちにそう伝える。

 子供たちもいきなり聳え立ったハードルが、少し下がって安堵したようだ。


 今回に関しては子供たちは心構えだけしてればいい。後は鎧狼相手するのと同様に自分の身だけ守っていれば問題無い。

 ただし唯一ホノと言う子だけには活躍の場が存在する。と言うか彼女には目一杯働いて貰わなければ困る。


 ん?、彼女?。


 そう、なぜか子供たちの中に一人だけ女の子が混ざっていたのだ。


 まあ背格好が皆同じで、身なりもボロボロだから分からなかったが、実際今でも良く分からない。名前でさえまだ全員覚えきれていないし…。


 とにかく免悟たちは鎧狼と戦い経験を重ねる内に戦術も変化させて行った。

 その中で免悟は剣と魔法に専念し、狩りの時はクロスボウを子供に貸す事にした。

 免悟が持っていても最初の一発しか使わないが、子供に持たせれば使い回せる。


 ところがコレ、みんな使いたがったので一応試しに全員に射たせてみた。すると一人だけ断トツの腕前を見せた子がいたのだ。


 それがホノ、しかも女の子だ。


 とは言えとにかく彼女の射撃の腕は抜群だった。初めて扱うと言うのに、明らかに免悟より上手く命中させるのだ。スキルでも持ってるのだろうか。

 まあ免悟もそこそこ器用に扱う素人レベルでしかないのだが、あまりにも腕に違いがありすぎてその子以外にクロスボウを使わせる理由がなかった。


 そんな訳で彼女だけは子供たちの中でも別格だ。普通に一人前の働きが期待出来るのだ。

 人を射つのは初めてだろうから上手くいかないかも知れないが、いずれ積まねばならない経験だ、早く済ましておくに越した事はない。


 特に大した考えもなく手に入れたクロスボウだったが、詠唱とか予備動作もなくノータイムで撃てる飛び道具は魔法対策にぴったりだった。

 いくら魔法の発動が簡単とは言え、自動詠唱中にダメージを受けて集中力を途切らせると詠唱破棄となり発動は失敗する。

 魔法発動の強制キャンセルや魔法の使い手自体を無力化するにしても、常に先手を取れる飛び道具系は魔法使いの天敵なのだ。ホノの存在は大きい。


 ウォルンから得た情報によると、唯一ヤンキー1が攻撃系の(小)魔法【爆波】を一つ装備していると言う。

 初心者が最初に手に入れる呪文の一つとも言われる、コストパフォーマンスに優れたポピュラーな魔法だな。


 そしてもう一人、弓を持ってるヤンキーがいた。こいつはヤンキーの中ではわりと上手く弓を使うらしい。まあホノ程の腕前ではないだろう。実際持っていた弓も安っぽかったし。

 もしかすると魔法は他にも何個か所有しているかも知れないが、基本的には免悟の予想の範囲内、大したレベルではなさそうだ。


 後は落とし所だ。別に無所属の不法滞在者など殺してしまっても罪にならないのだが、奴らも複数の合法パーティーの下働きなどをして生活している。

 代わりなどいくらでもいる、と思われているなら結構だが、もしも可愛がられていたら面倒だ。

 直接的な報復行動はないだろうが、間接的に嫌がらせくらいはあってもおかしくない。

 なのでそう言う面倒事にあえて自分から飛び込む必要はない。無難に事を収められるならそれに越した事はないのだから。


 ただ、そこらへんのこの世界の一般常識的な感覚は免悟には分からない。子供らに聞いても知らないらしいし。


 なので基本は相手次第だ。


 だけど手心を加えてこちらが怪我でもしたら馬鹿らしいので、もちろん本気で行く。もし素直に降伏し悔い改めるなら見逃してやってもいいとも考えてはいるが。


 とは言えこの手の輩は、付け込める相手にはとことん容赦なく付け込んで来やがる。どんな世界でもそう言うクズはいるし、対処法もいつだって自力で撥ね退けるしかないのだ。


 ヤンキーに喧嘩を売る事に及び腰な子供らに対し、中途半端な対応は無駄に損害を拡大させるだけであり、権利は自ら戦って勝ち取らねばならない事、戦いは避けられないのだと言う事を免悟は理路整然と説明した。


 予定よりかなり短時間で戻る事になったが、意表を突けたらラッキーなので気にせず免悟たちは待ち合わせの場所へ向かった。街外れにある例の空き地だ。

 別に無視してこのまま街に帰ってしまっても面白いのだが、どうせ後でまた絡んで来やがるだろうから早い内に白黒つけておこう。


 あ、そういやマールが捕まってるんだった。早く助けてやらなきゃ。


 子供たちの士気を高め、心の準備をさせて空き地にやって来ると、何故かヤンキーたちは居なかった。


 え?。

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