12・異世界ヤンキー現る(誰得ヤンキー編)
免悟が保護者になった事で、これで子供たちに対するいざこざフラグは回避出来た。と思っていたのだが、そうはいかなかった。
この手の揉め事ってのはどんな世界にもあるし、人がいる限りなくなる事はない。改めて免悟は人の世の鬱陶しさを苦々しく噛みしめていた。
もうますます所帯染みてファンタジー要素が薄れて行くな…。
てな訳で免悟たちはヤンキーに絡まれちゃったのだった…。
そもそもそれはいつもの様にみんなで狩りに街を出てすぐの事だった。
その日は寒かった。埃みたいな雪がちらほらしていたくらいだ。
「いかんな、これじゃあダメだ。こんなに寒いと多分アレだ、なんかムリだよ…」
思いきって免悟は今日は休みにしよう!と提案してみたが、意味不明!と子供たちにバッサリ切り捨てられた。嗚呼無情…。
子供たちは狩りが大好きだ。いや、正確に言うとお金だが…。
いくら免悟が休日を作ろうとしても、なかなか数の暴力で押しきられてしまうのだ。なんか欲しいものが一杯あるらしいよ…。
仕方なく踏み固められた街道をちんたら歩いていると、前方に数人の人だかりが見えた。
普通はこんな所に立ち止まる要素なんか一つもないので明らかに妙。
子供たちは持ち前の好奇心で一瞬テンション上がったが、すぐにドン底まで落っこちた。
子供らの見知った顔だったのだ、しかも悪い意味で。
それは若い男たち、端的に言ってヤンキー四人組、が立ち上がって免悟らを出迎えた。
異世界にもヤンキーはいた!。
免悟の知ってる日本のヤンキーと少し違うが、何となく分かる。と言うかこいつらはパッと見で分かる仕様になっているのだろう。
「いようカル、久しぶりだな。
で、お前が鎧狼ハンターの魔法使いか?」
その中の一人が免悟と子供たちのリーダー役、カルに声を掛けてきた。
ちなみに免悟はやっと最近何人かの子供の名前を覚え出した。その一人が子供のリーダーであるカルだ。頭の回転も早くコミュニケーション能力も高い、良く見るとイケメン少年だ。
ヤンキーたちは子供らと顔見知りではあるようで、社交辞令的な挨拶を交わしていた。
近くに寄るとそのヤンキーたちは意外と若かった。年齢的には免悟と同じか、少し上くらいだろうか。体格もそれくらいだ。一応なんとなくハンターっぽい剣と盾を装備している。
ただ明らかに子供の方は嫌な雰囲気を感じて身構えていたし、その心構えは間違いじゃないと思う。
免悟がじっと男たちを眺め回しながら無言でいると、焦れたヤンキーが更に口を開いた。
「おい、テメー聞いてんのかよ?。
つーかお前ら最近結構稼いでるんだってな?。けどそんなガキばっかじゃ色々大変だろ。どうだ?、なんなら俺達が手伝ってやってもいいんだぜ!」
「いや、全然困ってないぞ、全くノーサンキューだ。もっと他に困ってる爺さん婆さんの力にでもなってやりなよ、そんじゃあな。
さ、行くぞ!」
「ぁあっ?!、ちょっと待てコラ!」
清々しい程のスルースキルで、風のように去ろうとした免悟の肩をヤンキー(1)が掴んで止める。
「何フザケた態度取ってんだ、舐めてんのかテメー?」
ヤンキー(1)が免悟の肩を掴んだままグッと睨みつける。他のヤンキー×3も雰囲気を一変させて免悟を見つめる。
おーう、さすが異世界ヤンキー。こんな歳でも結構修羅場くぐってるのだろうか?、意外と迫力あるわ…。やってる事は無茶苦茶だが。
「んん?、俺何か変な事言ったか?
だけど気持ちは有り難いんだがな、じゃあ具体的に一体どんな手伝いをしてくれるんだ?」
免悟はあくまで何も気がつかない風を装って話を進めた。
「はあ?!、つまんねー事聞くんじゃねえよ!、オメーらは黙ってハイ、ワカリマシタって言ってりゃいいだろ?」
オ〜〜イ、展開速すぎだよそれ。せめてもうちょっとそれらしいセリフ並べ立てる努力しろよ、間はしょり過ぎだろそれは…。
だが問題はその暴力的な急展開のせいか、子供たちが完全に怯えて萎縮してしまっていると言う事だった。
これはダメだ、完全に使えねえ。
くそ、異世界でヤンキーに絡まれるってなんの罰ゲームだ?。つーかこんなエピソード、ファンタジー世界で起きる必要ねえだろ!。そんなありふれた出来事は学園モノでやりやがれ…。
あ〜クッソ面倒くせぇー。
相変わらずあっさり面倒臭くなった免悟はヤンキーの掴む手を雑に弾き落とした。
「はん、分かったよ。それで具体的にお前たちは何がしたくて、俺達にどうしろって言うんだ?」
ヤンキー(1)は手を弾かれ一瞬反応しかけたが、そこはグッと感情を抑えたのが分かった。
「だから狼の狩りを手伝ってやるよ、他に何かあるか?」
めんどくせぇーな〜もう…。免悟は深いため息をつく。
「ほんと気持ちは有り難いんだが、こんなに大勢で行ったら鎧狼は出て来ねえよ…」
最近になって免悟たちの狩りの方法をそれとなく探る者が僅かだが現れ出した。
後を付けたり、遠くから観察したりする者が時々いるのだ。だがそう言う時は大抵鎧狼は現れない。
罠に見えるのかどうかは分からないが、人間の感覚では距離を取ってるつもりでも鎧狼的には一つの戦力となる可能性を感じ警戒するのだろう。
しかも最近ではあまり子供の人数が多いとそれだけでも寄って来ない事もある。なので今日は子供を5人しか連れて来ていない。
別にモンスターは鎧狼以外にもいるが、はっきり言って鎧狼は金になる。現在免悟たちが狩れるモンスターの中では一番いい値段で売れてくれる。コストパフォーマンスの事も考えると、鎧狼の方から来させる方が最も手っ取り早い。
つまり免悟たちは意図的に自らを餌に鎧狼を釣っているのだ。
そしてその免悟たちのやり方を探ろうとする者の中には、男らしく直接その方法を尋ねる者もいるので、その場合は正直に事実を伝えている。
はっきり言って、わざと戦力ダウンさせてモンスターを誘うなどと言うやり方は、まともな人間ならしない。だから教えたって何て事はない。実際それを聞いた者は皆一様にがっかりして帰って行くし、真似するパーティーがいると言う話も聞かない。
そして免悟の説明を聞いたヤンキーも、その使えない情報に唖然とした。
他のヤンキーたちもお互いの顔を見合せ困惑する。おそらく鎧狼狩りの秘訣とか、コツみたいなものを期待していたのだろう、話が違うぜ的な雰囲気に包まれている。
一瞬、子供たちもようやくこれで解放されると感じたのか安穏の表情が漏れた。が、ヤンキーたちはそれくらいでは納得しなかった。
「嘘じゃないだろうな…?」
「世の中そんなにウマい話は転がっちゃいないよ、そんなもんだろ?」
どうする?、とヤンキーたちは仲間同士でこそこそやりだす。
「チッ、よし、それじゃあウォルン、お前これからこいつらと一緒に狩りに行って来い」(ヤンキー1)
「えっ、ウソ?」(ヤンキー2)
いきなり配役されたヤン2を無視して、ヤン1は免悟を向いた。
「お前らこれから狩りに行くんだろ?、こいつを連れて行きな、その代わりガキを一人預かってやる」
ふむ、免悟は口に手を当てて考えた。鬱陶しい、まだ諦めてねーのかよ!、と。
おかげで未だに子供たちは萎縮したままだ。おそらくヤンキーたちから一端離れて気持ちを切り替えなければ使いものにならないだろう。
最悪、免悟一人でヤンキー全員を相手してもいいのだが、この状態だと子供たちの被害が大きく予想される。
こいつらの要求を呑むのはシャクだが、まあこれくらいならまだ許容範囲内だ。今はまだ慎重に行く方が無難だしな。
「ま、いいだろ」