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A・w・T  作者: 遠藤れいじ
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11・保護者設定と真理眼

 さて、それから何回か免悟と子供たちは狩りに出掛けたが、怪我はしまくるものの死者は出なかったし、それくらいで子供たちが尻込みする事もなかった。

 そして相変わらず鎧狼との遭遇率は高かったが、それでも最初の頃よりは減りつつあった。

 恐らく免悟たちは街のハンターの中でも最も弱いパーティーなのだろう、他のモンスターと出会う前に先に鎧狼に見つかってしまうのだ。

 しかしコンスタントに鎧狼を返り討ちにしているせいで、希少な鎧狼ハンターとして認知されつつあった。


 そんな苛酷な環境ゆえに、子供たちは短期間の内に急速に成長していった。元々誰でも出来る戦術を採用したと言うのもあるが、いつの間にか鎧狼に対する恐怖感を克服していたのが大きい。

 実際の所、ビビりさえしなければ鎧狼を倒す事は不可能でも、攻撃を防ぐ事は無理ではない。


 てな訳で、免悟と子供たちはかなり順調にハンターとしての稼ぎを叩き出していた。特に子供たちはつい先日までほぼ稼ぎゼロの文無しだったので、今やこの世の春を迎えたかのような好景気に沸いている。


 そこで突然だが免悟は子供たちの保護者になった。


 と言うのも、極論するとこの国では市民権も保護者もない人間をたとえ殺したところで何の問題もないのだ。


 要するに、子供たちを襲って金を奪ったとしても、道徳的には非難されるだろうが、それでも罪に問われる事は一切ないのだ。


 なんちゅう世紀末的な社会、全然笑えない…。


 だがこれはこの世界では特に変な事ではないらしい。むしろ白都市国家群・シルシティーはかなりマシな部類に入るのだ。

 なにしろこの世界の殆どはモンスターが蔓延る未開の地。人類種の共同社会にとってまず一番重視しなければならないのが人権などではなく、安全を確保出来る武力だ。


 主義主張以前に生き残るための力が必要なのだ。


 溢れる魔法的資源と無限の可能性を秘めた未知のフロンティアも、裏を返せば力が支配する無法地帯。18禁どころかゲロ吐きそうなくらいのアダルト仕様なのだ。


 と言う事なので、子供たちが免悟の役に立つと分かった以上、免悟は速やかに子供たちの保護者になった。

 15才未満の未成年、12才以上の子供にはわずかだが納税の義務が生じるが、12才未満の子供は簡単な届け出だけで事は終わる。

 幸いに、と言うか子供たちはだいたい10才前後で、12才以上の子はいなかった。

 もしも子供たちが何か問題を起こしたら免悟が責任を取らなければならないのだが、彼らが起こすかもしれない問題より、免悟が受ける利益の方が恐らく大きいだろう。


 そんな残酷な世界で、一市民としてシルシティーと言う国家に属する事が一体どういう意味を持つかと言うと、まずはこの世界の人類国家の中におけるシルシティーの立ち位置から説明しておく必要があるでしょう。


 通称シルシティー、「白都市国家」は人類国家最大の人口と領土を持つ大国だ。ただし国としての領土や生産力は大きいが、この世界で最も重要な要素、軍事力はそれほど大した事がない。

 それはシルシティーが、多数の弱者同士が身を寄せ合って暮らす社会だからだ。


 シルシティーとは、力ある者がついヒャッハーしてしまう無法社会に対抗して出来た人権国家なのだ。


 欲望に流されず、みんなで力を合わせて豊かな社会を築こうぜ、と考えて発足されたシルシティーの理念は尊い。なにしろこの世界の大抵の国家は無法社会に近いのだ。中には単なる軍隊でしかない集団さえいるのだが、軍事力だけは国家規模だったりする。

 ある意味こんな奴等はモンスターの一種と言ってもいいくらいだ。


 そんなこんなで、ようやくここからはシルシティーに所属する権利、メリットについて説明しよう。


 ズバリそれは、『真理眼』制度と呼ばれる審判制度にある。


 この世界には、魔法の他にスキルと言う特殊能力がある。これは基本的に譲渡も強奪も不可能で、極まれに生まれ持って出現する祝福の一種だ。

 その一つに『看破』と言う スキルが存在する。他者の思惑を見抜くスキルで、サイコメトリーみたいな感じだ。

 と言うか実際ぶっちゃけサイコメトリーで、そのままなら確実性に欠ける感覚スキルなのだが、ここはやはり魔法世界。各種ブースト技術で能力の底上げを計り、信頼に足りる精度にまでレベルアップされたものを『真理眼』と呼ぶ。


 国家レベルで研究され、開発された人工スキル『真理眼』。


 あらゆる嘘や隠蔽工作をものともせず、真実だけを見透す神眼。


 正にこれさえあれば、あらゆる罪は白日の元に晒され暴かれてしまうのだ。スキル保有者の数こそ少ないものの、それが存在するだけで犯罪の抑止力となりえる。


 現実的には真理眼の審判対象から外れる拒否権があったり、そもそも訴えがなければ審査される事もないのだが、何事にも完全なんてものはない。

 だが、真理眼所有者が会って話すだけで真実が判明するなんて、それこそマジで警察なんぞの捜査機関どころか、裁判官や弁護士も要らない。


 会って話してノータイムで事件解決って、名探偵もお払い箱レベルだ。


 それだけに真理眼制度はかなり厳しく運用されているのだが、シルシティー全ての市民がそんなスゲー制度の恩恵を受ける事が出来るのだ。正にこれは法の元の平等を高度に体現した画期的なシステム。

 現にシルシティー領内のモラルはどこも高い。犯した罪は常に償わねばならないのだから。


 ただし、その恩恵に浴するには市民権を取得する必要があった。

 国家としても、なんとか税金を徴収するために多少セコい手段を用いる必要があるのかも知れない。

 なにしろ超危険なモンスターたちに囲まれ、更に戦争と狩りを主産業とするモンスター国家にも狙われているのだ。生易しい徴収システムでは、他のブラック国家に遅れを取る可能性がある。


 免悟にしても国の体制なんぞにどーこー言う気はないが、なんにせよ他の無法国家ではなく、このシルシティーのガルナリーが始まりの町であったのは幸いだった。


 とりあえず保護者設定したので、これで子供らが変な事に巻き込まれる可能性はかなり低くなったと思われた。

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