最終章 僕たちの幼女鑑賞はこれからだ!
どうやら『殴る』という行為にも、ちゃんとコツみたいなものがあるらしい。
何も考えずに思いっきり殴りつけた僕の両手首は、まるで捻挫したみたいに鈍く痛み出していた。拳の部分もぼっこりと腫れていて、いかに全力で殴ったのか改めて思い知らされる。
気絶した犯人は、両手両足を縛りつけて転がしてある。本当はもっと徹底的に痛めつけてやりたいと思っていたけれど、今はそれどころじゃない。ショックを受けた彼女達を安心させてあげるのが、一番重要な事だろう。
「ほら、つぼみちゃん。もう大丈夫だよ」
ひぐひぐと泣きじゃくる半裸のつぼみちゃんに、取りあえずシャツを脱いで羽織らせる。上半身裸は変態みたいで少しどうかと思ったけれど、仕方が無い。
「だっこ……だっこして……おにいちゃん」
まるで助けを求める様に両手を広げて、僕を見詰めるつぼみちゃん。
「うん。おいで」
僕はその場に腰を下ろして、彼女を膝に抱いた。つぼみちゃんは僕の胸に顔を埋めて再び泣き出す。だけどその泣き声はさっきまでみたいな恐怖に怯えたものでは無く、安心を得た子供のそれだった。
「いおり……」
そんな僕の前に、そらちゃんが寄って来る。
先程犯人に張り飛ばされたほっぺたは可哀想に、赤く腫れ上がっていた。だけど幸いな事にそれ以外は傷らしい傷も無く、相変わらず気丈に振舞っていた。
「たすけてくれて、ありがとう……ほんとうに、ありがとう」
瞳を涙に濡らしながらも、しっかりと僕を見てそう言ってくれる。
「うん」
僕はその一言だけで、充分に報われた気持ちになったのだが。
「そら、いおりにおれいがしたいんだけど……なにももってないから……」
もぢもぢと恥ずかしそうに、彼女はそう言うと、
「おれいに、いおりのだいすきなぱんつ、みせてあげるね」
何と、スカートの裾をつまんでゆっくりと引き上げ始めた。
「そ、そらちゃん!?」
「こ、こんなこと、いおりにしかしないんだからねっ!」
打たれて無い方の頬まで真っ赤に染めて、それでも手の動きは止めない。
やがて幼女特有の瑞々しくむっちりとした太ももが現れ、その付け根の美しいY字と、神秘的なまでに白く輝くビーナスの丘がお見えになる。
そして、その丘の中央に愛らしく描かれた、
「クマーーーーーーー!」
俺は思わず歓喜の声を上げてしまった。
愛らしいクマさんプリントのあしらわれた聖布を、羞恥に顔を染めつつも『お礼』と言って僕の鼻先でお見せくださっている、そらちゃん。
両手の中では、潤んだ瞳のつぼみちゃんが凶悪的なまでにキュートな上目使いで、
「つぼみのぱんつも、あとでいっぱいみせてあげる……」
と囁く。
嗚呼――
今、僕の中で彼女達は天使から女神へとクラスチェンジした。
……と、人生最大級の幸せを噛み締めていた、その時。
「そらちゃん! つぼみちゃん! ついでに伊織君、無事か!?」
びっこを引きながら、摩耶さんが数名のポリスメンを引き連れて踊り込んで来た。
「……あ」
「すわ……」
僕達の姿を見て、彼等は一気に固まる。
向こうの視点で見れば、その姿は恐らく上半身裸でつぼみちゃんを抱きしめながらそらちゃんにスカートをめくらせてパンツをさらけ出させ、興奮しながら『クマー!』叫んでいる変態男。
うん。絶望的なまでに悪い印象しか与えられない。
特に摩耶さんはブルブルと震えながら、僕を睨んでいる。彼の瞳から、すうっと血の涙が流れた。
「あ、その……師匠、違うんです。これは、そらちゃんが僕に『お礼に』と……」
あたふたと言いよどむ僕を無視して彼は振り向くと、
「警察官諸兄……あの男を、即座に逮捕して極刑に処してくれたまえ」
そう、人間としての温かみがまったく感じられない口調で言い放った。
瞬時に僕を取り囲むポリスメン。
「ち、ちがうよ!? ねえ、ふたりとも、説明して!」
僕の懇願に、ふたりは
「いおり……すごかった……」
「え、えと……おにいちゃんは、やさしくしてくれました」
うっとりとした瞳で頬を染め、そう呟く。
「何その誤解しか生まない様なフォロー!」
あれから数日。
どうにか誤解を解き、摩耶さんの怒りをなだめて事件はようやく解決した。
僕と摩耶さんは、誘拐犯から子供を助けた功労者として警察から表彰を受け、地元の新聞にも掲載されたりした。今までの人生で一番誇らしい事として、僕は大いに胸を張ることができた。
……にも、関わらず。
僕と摩耶さんは、今日も相変わらずこっそりと隠れながら、犯罪者さながらに幼女鑑賞を続けている。
「あーあ。もう少し寛大な対応を取ってくれても良いと思うんだけどなあ」
「仕方あるまい。幼稚園側から見れば、我々も先日の犯人と同類なのだから。特にあんな事件のあった後では、警備が厳しくなるのも当然の事だろう」
白昼堂々園児をさらわれるという大失態を犯した幼稚園は、あれ以来更なる警備の強化を進め、僕達の幼女鑑賞は更に難易度を増していた。
しかし、それでも。
「でも、わたしたちはしってるもん。いおりも、まやも、いいひとだって」
フェンスの向こう側では、相変わらずつぼみちゃんとそらちゃんが僕達に会いに来てくれている。
それどころか、彼女達は完全に心を許してくれていた。
すっかり幼女の階段を昇り切ったそらちゃんと、最近急に羞恥を覚えたらしいつぼみちゃん。もはやふたりのおぱんつを目にする事は滅多に無くなってしまったが、それでも僕は満足だった。
「まあ、僕もこうやってふたりに会う事ができているから、取りあえずは満足かな」
僕が微笑みながらそう言うと、
「そ、そらも、いおりとおはなしできて、うれしい……かな」
はにかんだ笑顔で、そらちゃんがそう返してくれた。
そんな彼女の隣では、つぼみちゃんがウルっとした瞳で
「つぼみ、おにいちゃんのおよめさんになりたいな……そうすれば、ずっといっしょにいられるもん」
なんて事まで言ってくれる。
「つぼみちゃん、ずるい! いおりは、そらとけっこんするの!」
今や完全にデレたそらちゃんが、つぼみちゃんに頬を膨らませる。
嗚呼、神様。こんな幸せがあって良いのでしょうか?
と、萌え死にそうな僕の背中をつんつんと。
「伊織君、伊織君」
振り向くと、摩耶さんが真剣な顔で僕を見詰めている。
「し、師匠……えーと、これは、その」
てっきりまた理不尽に怒られるのかと思って平伏すると、意外にも彼は怒っている訳では無く。
「いいから、こっちに来たまえ」
そう、僕に手招きしてきた。
「?」
内心ホっとしながら彼に続く。
「あれを見てみたまえ」
促されるままに、フェンスの隙間から幼稚園の運動場を見ると……
「お、おお……」
そこには長い黒髪をたなびかせ、惜しみなくおぱんつを披露しながら無邪気に駆け回る新たな天使が居た。
「どう思うかね? 伊織君」
「す、素晴らしい……まごう事無きエンジェルです」
「うむ。やはり君もそう思うか」
「はい。祝福の鐘の音が聞こえる様です」
僕達は一心不乱に、新たに舞い降りた天使の鑑賞を始めた。
そう。
僕達は、あまりにも熱心に鑑賞をしていた。
それはもう、我々の視線の先に気付いたつぼみちゃんとそらちゃんがみるみる機嫌を悪くしていくのも、気付かぬ程に。
「……いおり……まや」
「え?」
とても幼稚園生が出したとは思えない、冷たく重い声に振り向くと。
頬を思いっきり膨らませたそらちゃんが、僕達を睨んでいる。
その隣でつぼみちゃんが両手を口元に添えて、遠くの警備員に向かって無慈悲に叫んだ。
「けーびいんさん! ここにへんたいがいます!」
了




