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プロローグ


「お巡りさん、あの人です!」


 突然投げ掛けられたその声に、僕は思わず走り出していた。

 なんにもしていないのに。

 後ろ目に見てみれば、こっちを指さして叫んでいる保母さんと僕まっしぐらに走って来る二人のポリスメン。

 って言うか僕は何も悪い事していない筈なのに、どうしてこんな目に遭わなければいけないんだ? 冗談じゃない!

 全力で走る。

 こんなに思いっきり走るのは一体どれくらいぶりだろう。

 そう。僕は普段運動なんか全然しない。今まで徒競走ではビリしか取った事無いし、校内マラソンでも最後まで走り切った事なんか一度も無い、まさに軟弱な男の見本。学校で付けられたあだ名は小中高ずっとキャシャリンだ。筋肉? なにそれどうすれば付くの?

 そんな僕だから、当然すぐに息も上がる。ポリスメンはぐんぐんと差を縮めて来た。このままでは捕まるのも時間の問題だろう。

 その時――

「こっちだ!」

 突然路地の陰から現れた男が、僕の腕を掴んで強引に引っ張った。

「え? え?」

「捕まりたく無ければ、ついて来たまえ!」

 その怪しい男は僕の手を取ったまま路地裏目がけて走り出す。なんだか良くわからないけれど、取りあえず捕まりたく無い僕は彼に従った。

 彼はゴミ箱を足掛かりにして塀を乗り越え、建物と建物の猫しか通らない様な細い隙間を抜け、人ん家の庭とかも堂々と通り抜けて行く。その迷いの無い動きは、明らかに逃走という行為に手慣れたものだった。

 しばらくそんな道とも言えない道を逃げ回り、やがて辿り着いたのは小さな廃工場。その片隅の、小汚いプレハブ小屋に入り込むとようやく彼は安堵の溜息を吐いて、僕に振り向いた。

「ここまで来れば、もう大丈夫だろう。危ない所だった」

「ええ……」

 大きく息を吐きながら、答える。心臓が聞いた事も無い速さで鼓動を打ち、両の足は生まれたての仔馬みたいにガクガクと震えている。

 そんな満身創痍の僕に、彼は笑顔で右手を差し出して来た。

「私は摩耶。摩耶まや 峰雄みねおだ」

 突然差し出された手とやたら爽やかな自己紹介に、僕は思わず彼の手を握り、

「ぼ、僕は、飛田です。飛田とびた 伊織いおりって言います」

 流されるままに名乗っていた。

 

 これが、彼との出会い。

 そして僕の人生が大きく転化した瞬間だった。


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