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白と蒼の炎  作者: 悠凪
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覚醒

 7月に入った。

 週末の都合で2日にルカと織の誕生日会を織の家で開いていた。

 ルカの家族と織の家族、みんな揃って持ち寄った料理やお酒、ジュースで楽しい時間を過ごした。

「もう18なんだからこんなことしなくてもいいのに」

 織はぶつぶつと小声で言いながら後片付けをしている。そうは言うもののちゃんと片付けてるのは、基本的に優しい性格だからだろう。

「織、ルカは?」

 麻貴が織に尋ねると織は和室を軽く睨み顎で指した。

 麻貴がそっと襖を開けると、そこには体を丸めて大型犬のように眠るルカがいた。

「なんて寝かたしてるんだか…」

 無防備な寝顔を眺めて麻貴は噴き出しそうになるのを堪えた。そのまま台所で洗い物をしている織のところに行って、ルカを織の部屋で寝かせてやるように伝える。

「は?なんでオレの部屋なんだよ」

 織はレンズの向こうで目を丸くした。

「だってあそこで寝てたらゆっくり寝れないだろ?」

「そんなこと知るか。だいたいつれて帰ればいいんじゃないのか」

「ルカを抱えて?俺は無理。ルカ背が高いし」

 麻貴の訳の分からない言い訳に織は大きくため息をついた。

 ルカと織の両親はすこぶるご機嫌に酔って、大人の時間だと外に飲みに行ってしまった後だ。

「女の子一人で家に寝かせるのも心配だし、こんな一階の部屋で、もしもルカに何かあったらどうするんだ?」

「じゃあ麻貴の部屋で寝かせてやればいいじゃん」

「オレは今晩仕事が忙しいんだ」

 何が何でもルカの面倒を見させたい麻貴と、阻止したい織との攻防戦がしばらく続いたが、軍配は麻貴に上がった。

 がっくりと肩を落とす織に、麻貴はニコッと笑って言う。

「あ、織はルカと一緒に寝たらだめ」

「当たり前だ!」

 珍しく顔を真っ赤にした織に、麻貴は大笑いしながら自分の部屋に戻っていった。

 織は手早く洗い物を済ませると和室に向かった。そこには変わらず体を丸めたルカが寝ている。

「なんだ、この寝かた…」

 眉間に皺を寄せながらも、小さい時から変わらない寝顔に織は優しい笑みをこぼした。

 起こさないようにそっと抱きかかえ階段を上がる。身長が高いルカだが、やはり女の子だからか思ったより軽かった。

 歩くのに合わせて長くて癖のない髪が揺れる。間近に見たルカのまつげの長さに織は驚いた。

 自分の部屋に入り、慎重にベッドの上にルカを横たわせてふと再び顔を見ると、ルカは苦しそうな表情をしている。

 また、夢でも見てるのか?

 織はしばらくの間ベッドに腰掛けてルカを見ていた。




 ルカは夢を見る。

 断末魔の叫びと怒号が響く中逃げ惑う人。

 それを狂気染みた笑い声を上げ追いかけるのは、鬼。

 ギラギラした大きな目と赤い舌がのぞく口。人間よりはるかに大きな体は、血管が隆起して筋肉も発達している。

 数え切れないほどの人間に対し、鬼はせいぜい50人ほど。それなのに圧倒的に力が違う。

 抗うことなどできず、虫けらのように人間は殺されていく。 

 首を噛み千切り、腕をもぎ落とし足の骨をバリバリと噛み砕く。

 縊り落とした頭を掲げて、滴る血をおいしそうに飲む鬼もいる。

 あるいは火を放ち業火で焼き尽くす鬼もいる。人間の焼ける匂いは言葉では表現できない。

 焼け爛れた体で逃げ惑う姿を、鬼はさも面白そうに笑い、そして殺し、食らう。

 そんな鬼たちを、高いところから眺める者がいた。

 それもまた、鬼。

 でもその鬼は他の鬼と違って、人間に良く似ている。

 銀色の長い髪と赤い瞳は見覚えがあった。

 ルカが良く知る人物にそっくりだ。前に見た夢は、髪と瞳があまりにも印象が強くて他は分からなかった。

 でも、今は良く見える。

 あの鬼は……創さん。

 




「ルカ…ルカ…」

 誰かの呼ぶ声でルカは目を覚ました。

「……」

 ぼやけた視界に写るのは織だ。自分を見て目を見開いている。

「し、き…?」 

「お前、また目が…」

 変わってるぞ、そう言おうとしたした瞬間ルカは叫びだした。

 頭を抱えのた打ち回り叫ぶ。何か言葉を発しているわけではなく、ただ声をあげている。

「ルカッ!!」

 織は狂ったように叫ぶルカの体を何とか抑えようと馬乗りになる。だが女の子のルカに押し負けるようにベッドの下に転げ落ちた。

「ルカ!!織!!」

 声を聞きつけた麻貴が部屋に飛び込んできた。しかし麻貴はルカの姿に絶句してその場に固まってしまった。

 ルカの体が光に包まれていたのだ。しかし光はすぐに治まり、叫び声もなくなった。

 叫ぶのをやめたルカは、ゆっくりと身を起こした。

 その姿に織も麻貴も目を奪われて言葉すら出ない。

 腰まで長かったルカの髪はさらに長くなり、栗色だった色は漆黒の髪に変化した。

 大きく愛くるしい茶色の瞳は、深い深い紫の瞳に変わっていた。

 それに、ルカは何も身に着けていなかった。白く陶器のような肌と長い手足。

 それは神々しい、聖なる者に見えた。

 織も麻貴も何が起こったか全く理解できない。ルカに近づくことも出来ず呆然としていると、どこからともなく声が聞こえた。

「やっと目覚めたか」

 弾かれたように声のするほうに視線を向けると、窓の外に誰かが立っていた。

 いや、立っていたのではなく、浮かんでいた。

 銀色の髪の毛と赤い瞳、頭には立派な角を持った者が。

 それは、どこからどう見ても鬼だった

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