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◆騒がしい霊

 薄々、そうではないかと感じているベリルの足取りは自然と重くなる。

「……」

 どうしてもっと調べてから依頼してこんのだ……深い溜息が漏れた。

「?」

 何故、彼が溜息をついているのか2人には解らず首をかしげる。

「とりあえず……」

 ベリルは今後の戦闘について指示をだす。

「私が倒した相手のトドメを頼む」

「と、トドメ……?」

「腹でもなんでも殴れって事だろ」

 先ほどと違って、かなりサバサバした態度のベリルに杜斗もりともなんとなく解ってきた。

「相手が幽霊だったら殴れないよ」

 時弥ときやの言葉に2人は顔を見合わせた。そして杜斗は溜息を吐きつつ時弥の肩にポンと手を置く。

「お前ね。そもそも幽霊だったら倒せないだろ」

「ああっ!? そうだった!」

「……」

 面白いな~……とベリルは2人の掛け合いに呑気な思考を浮かべた。

「!」

 ベリルはすぐに感じた敵意に反応する。その様子を見て2人にも緊張が走った。

「……2人」

 ぼそりと言って駆け出したベリルのあとに2人も続く。

「わぁっ!?」

 突然、現れた影に少年2人は驚いて持っていたナイフを振り回すが、そんな慌てた状態では冷静な相手に敵うハズもなく。

「ぐえっ!」

「ぎゃっ!」

 ナイフを持っていた手の手首を掴まれ勢いよく引き込まれて倒れ込んだ処に杜斗と時弥のエルボーが炸裂した。

「あ、ホントだ。英語だぁ~」

「こいつらは幽霊じゃねぇだろ……」

 立ち上がった時弥の呑気な声に杜斗はがっくりと肩を落とした。ベリルは喉の奥から絞り出したような笑いをこぼした。


「……おい、今の叫び声」

「仲間がやられた?」

 4人の青年たちは急いで駆け出した。こうなりゃ一気にやってやる!

「! 来るぞ、部屋へ」

 ベリルは2人を左にある病室に促す。駆け込むとそこは大部屋だった。10ほどのベッドが並べられているが、とても寝たいと思える気分じゃない。

 薄暗い室内──いくつもの足音がなだれ込んできた。

「やっちまえ!」

「ぶっ殺してやる!」

 おおよそ綺麗とは言い難い英語が飛んでくる。

 暗視スコープがあればなぁ……杜斗と時弥は相手の足音と息づかいを探りながら動き回った。

「ぐほっ!?」

「うげっ!」

 そんな中でも叫び声が聞こえてくる。こんな暗がりの中でも相手を的確に倒しているベリルに2人は感嘆した。

 そうこうしているうちに新たに数人が部屋に入ってきたようだ。

 当然、杜斗たちの仲間であるハズがなく足音からして3人。よくもまあ揃いも揃ってこんな場所で何をやってるんだかと3人は呆れた。

 刹那──

「うるさい!」

 男の怒号が部屋に響く。

 その声の大きさにそこにいた全員が一瞬、ピタリと動きを止める。

「!」

“ダン!”

 逃げようとした1人の少年の目の前にベリルがナイフを投げた。

「ヒッ!?」

 右にある壁に深々と突き刺さったスローイングナイフ(投げ用ナイフ)を少年は震えながら見つめる。

 それに驚いた時弥と杜斗だったが、少年の足下の床が抜けている事に気が付いた。あのまま走っていたら確実に階下に落下していただろう。

「……」

 少年は恐る恐るしゃがみ込んで階下を見下ろす。

「うわ~危なかったね、君」

 時弥は英語で少年に発した。階下にはガラスだけでなく文房具が散乱している。もし落ちていればそれらが突き刺さっていたかもしれない。

「……」

 他の青年たちも毒気を抜かれたように立ちつくした。

「それで良い。大人しくしていろ」

「イテテテテ!」

 ベリルはまだ抵抗しそうな青年を踏みつけて携帯を取り出し警察に連絡した。


 数分後──いくつものパトランプが廃病院の前に駐まる。

 ぞろぞろとパトカーに押し込められていく青年と少年たちを3人は見つめる。

「まったく……これでは全額をもらう訳にはいかんな」

 ベリルは肩をすくませてつぶやいた。依頼料がいくらかは知らないが「お気の毒様……」と杜斗と時弥は苦笑いを浮かべた。

「はて?」

 ベリルが何かを思い出したようにぼそり。

「どうした?」

 問いかけた杜斗を見ずに彼は眉をひそめて口を開いた。

「依頼してきたのは誰だったかな」

「え、忘れちゃったの?」

「ちゃんとした契約しなかったのか」

 2人の言葉にベリルは考え込みながら応える。

「いつも深夜に来て玄関で会話をしていたのだ。まあ、今回は金を取るほどのものでもないから良いか」

 言いながら遠ざかっていった。

「……」

 時弥はその後ろ姿をじっと見つめてゆっくり杜斗に顔を向けた。

「ねえ……」

「あん?」

 時弥の顔は半笑いで口元が微かに震えていた。

「もしかして……幽霊からの依頼だったんじゃ……」

「まっさかぁ~」

 杜斗は「わははは」と笑って右手を大きく振る。

「だ……だって」

「んな訳ねぇって。そんな事よりもよ」

 杜斗は時弥にニッと笑うと褒めるような声を上げた。

「あそこで“うるさい!”ってよく怒鳴ったな。あれであいつら動けなくなっちまったぜ」

 ちゃんと英語だったし。と、杜斗はケタケタと笑う。

「え……」

 しかし、時弥は目を見開いて杜斗を凝視した。

「……あれ……杜斗が怒鳴ったんじゃないの?」

「え……」

 2人は互いに顔を見合わせた。

「あいつが叫んだとか……」

「あの声は違うと思う」

 呆然と立ちつくしている2人の前にピックアップトラックが止められる。運転席から顔を出したのはベリルだ。

「良ければ送っていくが」

「あ、ああ。頼むよ」

 呆然としながらも杜斗たちは後部座席に滑り込んだ。


「これであの病院も静かになるだろう」

 おもむろに発したベリルの後頭部を2人は視界全体で捉えていた。

「そうだね……」

「ああ……」

 それからホテルの前まで送られ2人は無言で車から降りる。

「どうした?」

 反応の薄い2人にベリルは首をかしげた。

「いや、別に何も……」

「送ってくれてありがと」

「うむ」

 ベリルはニコリと笑い、聞こえるか聞こえないかの声でぼそりと発した。

「お前たちを連れていくとうるさかったのでな」

「へ……」

「なんでもない。それじゃあ」

 聞き返した時弥に笑顔で手を挙げて走り去る。

「今の……どういう意味なのかな」

「さ、さあな……」


 次の日──そんな話をアメリカ軍の兵士にしてみた。

「ベリル?」

「知ってるのかい?」

 時弥の問いかけに、その兵士はしばらく考え込んで口の端をつり上げた。

「あいつは今60歳くらいじゃなかったかな」

「……は?」

「ああ、なんでもない。今日、帰るんだろ?」

「うん」

「楽しかったよ。またな」

 爽やかに笑いながら30代ほどの男は遠ざかっていった。

「うん……またね」

 それに手を挙げて応えながら彼の言葉を反芻はんすうした。

「……60歳?」

 って事は……もしかして!? 時弥は真っ青になって一目散に杜斗のもとに駆け出した。


「は? 60歳?」

「ジャックが言ってたんだよ!」

「バカ言え。どう見たって20代後半って感じだったじゃないか」

 杜斗の言葉に時弥はガタガタと体を震わせてか細く発した。

「あの人も……死んでたんじゃ……」

「バッ!? 怖い事言ってんじゃねぇ!」

 2人はなんだか背筋が寒くなった。

そして「もう絶対に肝試しなんかしない」と、誓ったのだった──


 最後に笑ったのは誰……?


 END

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