あなたの夢はなんですか? 現実編
初の長め回だよ!
2分割だよ!
書いてる間作者は死にそうだったよ!
長編というほどは長くないから名称に困ったよ!
長め回です
いつもとは考えられない長さなので見苦しい点もあるでしょうがお見逃しください
ということで人物表
登場人物表♪
霞日 エウナ
吸血鬼 肉体労働担当 主
霞日 メリー
幽霊 考え担当
叶 夢
メイド 担当は特に無し
柚香
人間 女子校生 依頼主
霞日 シュン
人間 エウナとは育て育てられの関係
会長
生徒会長 我輩は会長である、名前はまだない
ジェントルマン
主にポンコツ
最後までお付き合いいただけたら幸いです
「今日という今日は許せません!」
「うるっさいわね…敵として来たんだからぼこぼこにしても何の問題もないでしょう」
「あれは和解のジェントルマンかも知れないじゃないですか!花束も持ってましたし!」
「和解するやつが爆発する花束を持ってるわけないでしょう」
「爆発する前に壊したじゃないですか!」
「結果オーライね、ポンコツはいつまで経ってもポンコツだったと」
もう日付も変わろうかという時間、ある屋敷の庭にて二人の女性が言い合っていた。片方の女性は金色の長い髪に純白のドレス、もう一人の少女は緑色の浴衣に身を包み、少女の動きにあわせるようにサイドポニーに結んでいる銀色の髪がまるで抗議をしているかのように、揺れている。
言い合う二人の近くには爆発したのだろうか、まだもくもくと黒い煙と炎を立ち上らせているドラム缶のような何か。そしてそのドラム間の傍で黒髪でメイド服の少女がいいあう二人を面白そうに眺めていた。まあ、少女の表情は終始無表情なので本当に面白がっているのかどうかはわからないのだけれど。
「もう…許しません!」
「やる気?なら相手するわよ」
言い合いもそろそろ実力行使になったのだろうか、浴衣姿の少女がどこからか大きな斧を取り出すとドレス姿の女性へと向けた。ところで戦いがもし居たら頭は禿げてますよね…不毛って言いますし。
女性の方はまるでめんどくさそうに少女のほうを睨むだけで、構えてはいない。
「エウナさま」
「何?今ちょっと忙しいんだけれど」
メイド服の少女から言われる言葉に、エウナは目の前の少女…ユメから視線を外さずにそう応えた。
「はい、ですが…お客様が来ました」
「客?」
「お客さんですか?」
二人はほぼ同時にそう言うとユメが指し示すほうを見た。
「え…えと…あぅ…」
二人の視線の先にはまるで萎縮するようにしている制服姿の少女の姿があった。少女は栗色の長い髪を水色のリボンで束ねており、あぅあぅとしている姿はまるで小動物のようである。
□ □ □ □
「どうぞ、粗茶ですが」
「え…あっ、はい!ありがとうございます」
目の前の少女はユメの出す湯飲みに驚いたようにして返事をした。…ところで何で出すのが紅茶じゃなくて緑茶なのかしら?明らかにこの屋敷洋風なのだけれど…。
話があるといった少女を応接室へと案内すると彼女は屋敷の中が珍しいのか興味深さそうに周りを見渡していた。
早く!話を振って!このままだと進まないから!
「…それで?こんな時間に何のよう?」
こうして見つめているといつまで経っても話が進まないのでこちらから振ってみる。天の声が聞こえてきたからじゃない、断じてない。
「え…?あの…ごめんなさい」
「いや、あやまられても…」
そう言うと彼女はうつむいてしまった。困ったわねー…本当にこんなとこまで何しに来たのかしらこの子。
実際この屋敷がある場所は簡単に来るようなところではない、歩くと片道1時間以上とか普通に掛かるし…こんなところ歩いて上り下りしてるのは我が家のメイドくらいだろう。
そんなことを考えているとメリーがケーキを持ってきてテーブルへとおいた。緑茶なのにケーキなのね…
「ダメですよー、エウナさんは強面なんですからそんなに睨んだらー」
「誰が強面よ誰が」
「エウナさん」
「ほう…殴られたいみたいね…」
「それが拳を振りぬいてる人の言うことですか!」
ちっ、避けやがった。まあ、それはおいといて。
「私はエウナ、この屋敷の主よ。…とりあえず名前くらい聞かせてくれないかしら?」
「エウナさんの愛人の、メリーさんですよー」
愛人って何…まあ、このくらい信じる人なんて。
「あ…愛人さん…?」
「信じてるじゃない…あなた嘘ついてるんじゃないわよ!」
「ま、まさか信じる人がいるとは思わず…」
「エウナさまの愛人のユメです」
『あなたはメイドでしょう!』
ユメの発言に二人で叫ぶと思わず頭を抱える。何を言ってるんだこいつは。無表情だからほんとっぽく聞こえるのがまた紛らわしい。
「これでこちらの自己紹介は全部、あなたは?」
いつまでも頭を抱えていても始まらないので話を進める。正直これ以上長引かせると何をするかわからない…
「あ、はい…えと…その…柚香…です」
どうやらそれで自己紹介は終わりらしい。ま、まあ名前がわかっただけでも前進…よね?
「それで、私に話って?」
「え、えと…私の学校で…」
~話し中~
「…つまり?」
まったくわからなかった。もっとはきはきとは言わないけれどつっかえずには言えないのかしら…
「つまり学校に事件があるから解決してほしい、ということですね」
言っていたことを頭の中で整理しているとユメが話を纏めてくれた。なるほど、そういうことだったのか。
「警察行け」
「え…?」
「ダメですよー、話を聞くなりそんなこと言っちゃー。せっかくエウナさんのところに来たんですから!」
…いったい私にどうしろと?
「事件がおきたんでしょ?なら警察に行くのが一番手っ取り早いじゃない。何で私のところに来るのよ」
「嫌ですねー、自分で考えない人って…ユメさんはこんな人になっちゃダメですよー?」
「はい、こんな人にならないように誠心誠意気をつけます」
「…喧嘩売ってる?売ってるわね?」
「どうどう…ほらー、エウナさんがそんなこというから柚香さんが怖がってますよー」
メリーに窘められて握っていた拳を解く。覚えてなさいよ。
「…なんで私のところに来たのかしら?」
「えと、クラスの男の人が…」
…なるほど、よくわからない。
「とりあえず今日はもう遅いから泊まっていきなさい、家族に連絡はできるわね?」
「あの…「いいわね?」」
なにやら言っている彼女に押し切ると会話を切り上げた。このままだといつまで経っても終わらない気がしたから。明日は休日よね?確か。
「ユメ、部屋の準備は?」
「すぐにできます」
「メリー、お風呂お願い」
「あいあいさー」
柚香はというと指示を出し終わると連絡していたのか、携帯をしまい何かいいたそうにこちらを向いていた。
「あの…」
「何?」
「いいんですか…?」
「今日はもう遅いし明日ゆっくり話しましょう。その上であなたの頼みを聞くかどうか決めるわ」
「あ、ありがとうございます」
そう言うと柚香はお辞儀をするとユメについていった。
「そうと決まったらもう寝なさい。お風呂はもうすぐ沸くから」
応接室を立ち去る彼女の後姿にそう声を掛けると冷えた緑茶を啜る。明日ね…後でユメにどんな話だったのか聞いておこう。
~以下ユメから聞いた事件の概要~
学校の生徒が次々と寝込んでおり、学校に来ている生徒はもうほとんど居らず、彼女の友人も寝込んでしまっているとかそんな話らしい。
寝込んでしまった人はまるで夢を見ているかの用に安静にしているが、何もしていないのに突然傷が出来たり、突如血を吐くいった奇怪な死に方をするとか何とか。
傷がなくとも体がかなり衰弱をしている人もおりかなり拙い状態らしい。
警察は事件性ありと見て捜査をしているが難航、ほとんど当てにはならないとか。
私ののところに来たのは普段は学校に来ていないクラスメートの男子が何があったのかを聞くと、解決したいならここに行けという話しをされ、藁にもすがる思いで来たとか。
まったく…私にどうしろって言うのよ。
□ □ □ □
私たちの乗っている車のヘッドライトが暗い山道を切り裂いていく。すでに日は暮れており、辺りは闇が支配し始める時刻。
「それにしてもよく受ける気になりましたねー」
運転をしているメリーがなんともなしに話しかけてくる。
「受ける気って…どういう意味よ?」
「エウナさんならてっきり断るんじゃないかって思ってたんですが」
だって面倒でしょう?とメリーはこちらに笑いかけて来た。…一応言っておくが現在彼女は山道を運転中である。そんな状況で隣を見ればどうなるか…
「ちょっと前!前!」
「ん?おわわわわ!」
道を逸れて素敵な世界にダイブしそうになった車が慌てて現実へと帰還する。危なく別の世界の住民と出会うところだった。私はまだ他世界へと旅立つ予定はないわよ。まぁ、今後もないでしょうけれども。
「まぁ、正直なところかなり面倒ではあるわね」
特にすることもないので、私の膝の上で寝言を言っているユメの黒髪を撫でながら話を続ける。…寝言を言うときも表情ひとつ動かさないこの子はいったいどんな夢を見るのかしらね。
「んぅ…エウナさま…」
「よく眠ってます?」
「ええ、ぐっすりと。あとどのくらい?」
「そうですねー今は大体半分くらいでしょうかー」
半分ってことは後30分程度ね。…それにしても車での移動時間と徒歩の移動時間がほとんど変わらない山道も変だけれど、主の膝枕で眠るメイドも十分変よね…
あどけない少女の様に眠るユメを眺めながらそんなことを考える。いや、この子の見た目はどこからどう見ても少女なのだけれど。普段から表情というものを見たことがないからあまり見た目相応に見えないのよね…
「それにしてもエウナさん、面倒なのに受けたんですか?」
しばらく車のエンジン音と寝息だけが車内に響いていたが、メリーから終わったと思っていた会話がまた始まった。メリーの話があちらこちらに飛ぶのはよくあることなので、特に気にすることはせず対応する。
ああ…眠くなってきた。吸血鬼らしくもない早起きなんてして彼女を送ったせいか、体が非常にだるい。そういえば話をしに来たあの子、名前なんて言ったっけ…小動物チックでユメにやたら意識が飛んでいたのは覚えてるのだけれど。
「まぁ見てみるくらいならいいんじゃないの…?…眠い、着いたら起こして頂戴」
私の言葉に彼女は何て言ったのだろうか。おそらくわかったとかその辺りの言葉を言ったのだろうけれど、薄れていく意識の中では判断がつかなかった。そういえば私は何で彼女の願いを聞いたのだろう…。
□ □ □ □
「エウナさま、起きましたか?」
「ん…」
ユメの言葉にゆっくりと意識を蘇らせると、なんだか体が上下に揺られている感覚が心地よく意識がまた眠りに付きそうになる。
寝ぼけ眼で辺りを見渡すとどうやら並木道をゆっくりと移動しているらしく、次の生命のために裸になっている木たちが並んでいるのが見えた。そしてなぜか私の目の前に見える黒髪の少女の後頭部。ふむぅ…?
「はい、メリーさまは車を置いてくるとのことです」
きょろきょろとしている私に何かを感じたのかユメが説明してくる。ふむ、メリーは車をね…
「ところで体が上下に動いてるようなのだけれど何か乗り物にでも乗ってるの?」
「はい、乗り心地はいかがでしょうか?」
乗り心地…乗り心地…
「悪くないわね」
「ありがとうございます」
なんだか体があったかいし柔らかいしで本当にいい乗り心地ね…ん?あったかくてやわらかい?
そこまで認識した辺りで周りの木よりも一足お先に意識が活動を始める。
まだ頭が動いてないわね…よし、まとめましょう。目の前にあるのはユメの後頭部で視界は上下に揺れている、速度はそれほど速くなく歩く程度り速さ、私の体は何か柔らかくてあったかいものに触れており、お尻には誰かの手。ここから導き出される答えはすなわち!
「…ユメ?」
「何でしょうか?」
「何で私を背負ってるの?」
そう、間違いなく背負われているのである。つまりおんぶである。特に大事なことではない。
「エウナさまが到着した段階でもまだお目覚めにならず、そのまま起こすのも申し訳なく思い、ボクがおんぶして現場へと向かうということになりました」
「そこは起こしてほしかったわね…」
「はい、次があれば善処します」
思わず呟く。まあ私が起きなかったのが原因だから良いのだけれど。問題があるとしたら。
「まあ、ありがとう…ところでユメ?」
「何でしょうか?」
「いつまで私を背負っているつもりなのかしら?」
そう、問題があるとしたら私がまだ背負われているという事実である。もう起きたのだから背負わなくても自分で歩ける訳で…というかこの状況は色々とまずい。
実のところ我が家の財政はほとんどが貢物に頼っているところがある。もちろん他にも手段はあるけれども…一番は貢物であろう。
街の人は貢物をする、代わりに私はお祭りの時や有事のときに守ったり手伝ったりといったことをする、持ちつ持たれずの関係が昔から続いているわけで…
つまり街の人から見ると私は多かれ少なかれ慕われており、また昔ほどではないが畏怖の対象なのである。その私が小さいメイドに背負われてるなんて状況を見られた日には…私が積み上げてきた大切なものが崩れるのである。主にイメージとか、カリスマとか。その他もろもろが。それは出来るだけ避けたい事態である。いやホントに。
私がそんなことを考えている間にも視界はゆっくりと進んでいる。って!
「いや降ろしなさいよ!」
「…なぜでしょうか?」
なぜ?なぜといったか!?私が聞きたいわよ!というよりさっきの私の質問スルーしたわねこの子
「いや、私もう歩けるし」
「はぁ…?そうですか」
「…つまりあなたは降ろす気がないと言うことね?」
「……」
そんなやり取りをしている間にも私の足は地に付くことなく視界はゆっくりと進んでいる。そう、そういうつもりなの
「ところでエウナさん、カチカチ山という話はご存知でしょうか?」
実力行使まであと数秒というところでユメが話を振ってくる。
「…?ええ、知ってるわよ」
カチカチ山…確か狸が燃える話だったわよね?
「一応説明しますが。カチカチ山という山でタヌキは老婆を背負います」
あれ?そんな良い話だっけ?
「その後背負われた老婆はタヌキに食べられてしまうというお話です」
…ぜんぜん良い話じゃなかった。
「…性的な意味ではないですよ?」
「知ってるわよ!」
「スケベ…」
「待ちなさい!どうしてそうなったの!?」
何を言い出すのかと思えばこのメイドは…
「ところでエウナさま」
「何よ?」
「カチカチ山に例えるとボクがタヌキでエウナさまが老婆ですね」
「…まぁそうなるわね」
「つまりエウナさまはボクに食べられなければいけないということですね?」
「…ここはカチカチ山じゃないしあなたはタヌキでもないでしょう」
私が老婆かどうかは置いておく。人間観算にするととっくに死んでるレベルだし。
「…お肉な意味ではないですよ?」
「知ってるわよ!」
ちょっと待って…肉的な意味じゃないってことはつまり?
「…スケベ」
「待ちなさい!どうしてそうなったのか説明を!」
「エウナさま、残念ながら性的な意味でもありません」
ユメは悲しそうに首を横に振りながらそう言った。こいつは…
私がこのやるせない怒りをどうにかしようとしている間にも視界はゆっくりと進んでいく。って!
「早く降ろしなさいよ!」
「…ちっ」
「ちっ」て何よ「ちっ」って!気が付けばもう学校見えてるじゃないの!
「エウナさま、あまり暴れないでください…揉みますよ?」
「揉むって何よ!とにかく降ろしなさい!」
まずい、非常にまずい。今までは時間帯もあって誰にも見つからなかったからよかったものの…学校に着いたら確実に見つかる!依頼にきたあの子とか居るし!
「…お前ら何してんだ?」
「これはシュンさまに柚香さま、こんばんわ」
「あ、あの…こんばんわ」
見ると学校の校門で待っていたらしい、制服姿のシュンと柚香がこちらを怪訝そうに見ていた。終わった…。私の大切な何かが終わった…
□ □ □ □
「死にたい…」
「おお…これはこれは」
「見ただけで何かわかるのか?」
「まだなんともいえないですが…とりあえずは誰か学校に詳しい人と校内を案内してもらえませんかー?」
「ああ、わかった」
ユメから降ろされた私は一人うずくまって校庭に一人「の」の字を書いて呟いていた。
「やっぱりシュン君がけしかけたんですかー」
「ああ、のんびりとは出来なさそうだったからな、姉さんたちを動かすのが解決に一番手っ取り早いだろ。…それで事件についてはどのくらい知ってるんだ」
私の隣ではいつの間にか居たメリーとシュンがなにやら熱心に話しており、その内容をユメが片手の手帳にメモを取っている。
「死にたい…」
「あ、あの…大丈夫ですか?」
あまりにも私の姿が惨めだったのか柚香が心配した表情で話しかけてくる。ああ、私の心配してくれるのはあなただけよ…。でも今は何よりも…
「今は放っておいて頂戴…」
「え、あの、でも…」
「柚香さん、エウナさんを心配してくれるのはいいですけど今は放っておいてあげてください…見られていろいろとショックなんですから」
「はい…」
こちらに気づいたメリーが柚香を遠ざけてくれる。ところで…
「メリー…」
「はい、何でしょうか…」
メリーを呼ぶと彼女はまるで労わる様に私の背中をさする。
「あなた…見てたのね」
「はい…先回りしてたんまりと堪能させてもらいましぃ!」
私は背中をさするメリーの手を掴むと思いっきりねじ上げる。
「痛い!痛いです!折れちゃう!折れちゃうから!」
「そう…見てたのに何もしなかったと…」
「ま、待ってください!何もしなかったわけでは!動かないで!痛いですから!」
メリーの手を捻じ曲げたままゆっくりとユメたちの方を向くと柚香が悲鳴を上げた。
「ひ…」
「ねぇ…私たち少しお話してくるから待っていてくれない…?」
「は、はいぃ!」
「いい返事ね…それじゃちょっと行ってくるわ…」
そういい残すとゆっくりと校舎裏の方へとメリーを引っ張っていく。…五月蝿いわね、黙らせるものは…
「…それじゃ帰ってくるまで話の続きをするか」
「はい」
「あ、あの?」
「ん?何だ?」
「あのままで…いいんですか?」
「ああ、アレね。いつものことだから気にするな」
「そ、そうなんですか…」
「それで犠牲者なんだが…」
□ □ □ □
メリーとの肉体言語から戻った後、とりあえず学校内を探索すると言うことになって見て回ってはいるけれど…
「見事に誰も居ないわね…」
すでに一般教室はあらかた見て回ったが生徒どころか教師すら居ない。大抵は部活、とか残業、とかで残ってるものだと思うのだけれど違うのかしら?
「確かにだーれも残ってませんねー」
メリーも不思議そうに辺りをきょろきょろと見渡すと隣に居る柚香に聞いてたりしている。
「何でも放課後残っちゃいけないとかで…」
「ほぇー…何か理由があるんでしょうかねー?」
「ごめんなさい、そこまでは私も…」
ふむ、残っちゃいけない…ね。
「…校内で行方不明が出たんだよ」
色々と理由を考えているとシュンがポツリと呟いた。
「行方不明者?」
「ああ、少し前に生徒が5人と教師が1人放課後に連続で居なくなってな。それで放課後はほとんどの生徒が帰ってるんだ」
とはいっても今は休校状態なんだが。そういって自嘲気味に笑うシュン。その姿は何処かさびしげな気もするけれども…私の気のせい?
それにしても休校だったのね、知らなかった。ユメもメリーも学校の現状は知っているのか特に反応しない。…次からは話をちゃんと聞いてよう。
ん?でもそうなると?
「何であんたら制服なわけ?」
「何でってそりゃ、学校で私服だと目立つんだよ」
「ほぇー…そうなんですかー。ということは柚香ちゃんもおんなじりゆー?」
「え!?あの…は、はい」
そうか…私服だと目立つのか。それにしてもこの子嘘が下手ね…苦労しそうだわ。
「あ、あのっ!そろそろ生徒会室です」
私が柚香の将来に思いを馳せていると、慌てた様に指差して言った。見ると哀愁漂うドアの上にはかすれた文字で生徒会室と書いてあるプレートが張ってある。…人居るの?
「…人、居るんですか?」
「た、たぶん…」
「うちの部室の前で何してるんだ…?」
私たちが誰が突撃するかで話し合っていると、後ろから声が掛けられた。後ろを振り向くと、そこには制服をきちっと着ているめがね姿の短い茶髪の少年が居た。
「おおー、いいんちょ。相変わらず不健康そうな顔してるな」
「誰かと思えばシュンか。相変わらず辛気臭い顔してるな。あと会長だ、委員長じゃない」
そういってシュンは後ろの少年と腕を組み合った。無駄に息が合ってるのね…
委員長、基会長は腕を振りほどくと怪訝そうにこちらを向くと
「それでうちに何か用ですか?」
警戒されてるわね。まあ部外者が部室の前に居たら誰でも同じ反応か。ちなみに柚香はいつの間にか私の後ろに隠れる様にしている。こら、服を引っ張らないの。ユメも参加しない!
「簡単な用なんですが。いいんちょさんにいくつが質問がありましてー」
私が後ろ手で静かな戦いをしている間にもメリーが話を続けており。
「なるほどー、有意義なお話ありがとうございます」
「いえ、捜査に協力できたなら幸いです」
質問も終わったのだろう、お互いに例をして会長は去っていった。…何を言ってたのかまったく聞いてなかった…。ああ、そういえば。
「ああ、君」
「…?」
なんとなく声を掛けて呼び止めると。
「体、早く良くなるといいわね」
「…ありがとうございます」
そう言うと彼はそのまま振り向かずに階段を下りていった。
「どう?有意義な話は聞けた?」
魔法関係の実践授業をするという特別校舎へと移動している最中、メリーに聞いてみる。後ろではシュンとユメが柚香に特別校舎とは何なのかという説明をされている。…シュン、あなたここの生徒でしょう。
「んー、微妙ですねー…いいんちょさん嘘を付くのが上手いですから…そういえば、最後になんであんなことを聞いたんですか?」
「最後?」
「体がどうとかってー」
ああ、アレね。
「特に理由はないわよ。ただ彼から消毒液の匂いがしたから」
「消毒液?」
「そう、あの病院特有のあの匂い」
「ふむぅ…」
「何か閃いた?」
「んー、考え中ー」
そのまま黙り込むメリー。話し相手が居なくなってすることがなくなった私は、渡り廊下の窓ガラスから月が見えないかどうかがんばってみる事にした。
無理ね…今日は寒いからさぞきれいな満月が見えると思うのだけれど…
□ □ □ □
「ここで最後…です」
そういいながら柚香は鍵を使って特別校舎の一室を開ける。
「ここで最後なんですか?向こうにまだ部屋がありましたけど…」
「あそこは…開かないんです」
「ほぅほぅ、開かないとな?」
「はい、何でかはわからないんですがどうやっても開けられなくて…開かずの教室とか呼ばれてるんです」
開かずの扉という言葉をうれしそうに聞くメリー、なにやら嫌な予感がした…
「ねぇエウナさ「ほら、ここで最後なんだからさっさと調べるわよ」
何か言いかけた彼女の言葉をさえぎってせかす。教室内は机と教壇、それに黒板があるくらいで一般校舎の教室とほとんど変わらない。唯一違いがあるとしたらドアの上の部分に鳥居のような記号が付いてるだけ。…どの辺が特別なのかしらね?
「これは…」
「どうしたの?ユメ」
「はい、ロッカーの中からこのような物が」
ユメが取り出したのは一体の人形だった。人形は覆面のようなものをを被っており、片手にはハンマーのようなものを持っている…何、これ。
「人形ですかー」
「どうしましょうか?」
「ん、んー…特に関係もなさそうですし置いておいていいんじゃないでしょうか?」
「わかりました」
そう言うとユメは黒板横の棚の上に人形を置いた。え?何でそこに置くの?ロッカーに戻せば良いじゃない。いや、向きとかどうでもいいから、お願いだからわざわざこっちに向くように置かないで…。
ユメは置いた人形を満足そうにして見るとさらにクラゲの人形を隣に…
「ちょっと待ちなさい」
「何か?」
「あなたその人形どこから出したの!?」
「…?ロッカーですが…」
「クラゲのほうよ!」
「頭の上にありましたが…?」
え?頭の上?
周りを見渡すとメリーたちが可愛そうなものを見る眼でこっちを見ていた。え?私が気づかなかっただけ?
「エウナさん…」
メリーが悲しそうに顔を伏せて近づいてくる。
「メリー…」
「あなた疲れてるんですよ…」
「…」
どうやら私が気づかなかっただけらしい…
「さてと…ここも収穫なしだったがどうする?」
場の空気を変えるようにシュンがメリーに言った。
「そうですねー…とりあえず開かずの教室というものに行ってみましょうか」
「ん?あそこは開かないんじゃないのか?」
「まぁまぁ、物は試しですよ」
そう言うとメリーたちは部屋から出て行く。
「エウナさま、置いていかれますよ?」
「…あ、ええ、今行くわ」
軽く放心していた私はユメの言葉に意識を取り戻すと慌ててメリーたちの後を追う。
「開かないの?」
「ですねー、何か魔術が掛かってるみたいです」
私がドアの前に付いてメリーに話しかけると彼女はドアを叩いたり引っ張ったりと色々試しながら、そう答えた。
「そう、ならしょうがないわね」
そう言うと私はきびすを返す。うん、残念だけれど開かないんならしょうがない。本当に残念ね。
「ねぇ、エウナさん」
「…何?」
「ちょーっとお願いがあるんですが」
嫌な、予感がした。
~お願い中~
私はメリーのお願いを聞くために開かずの教室の前に立つと拳を振りかぶる。はぁ…結局はこうなるのね…
「がっつーんとやっちゃってください」
「シュン、危ないからユメと柚香連れて離れてなさい」
「おうよ」
近くに立っているシュンにそう言って遠ざけると目の前のドアをぶち破る。破った衝撃でドアが木屑となって周りに飛び散る飛び散る。…離れさせてよかったわね。近くで見たいとか言って隣で騒いでいるバカのことは知らないけれど。
「開けたわよ?」
「おぅふ…」
メリーは木屑があたったのだろう、頭を抑えて蹲っていた。
「開 け た わ よ ?」
「は、はいぃ!」
彼女のことを見下ろしてもう一度言うと身の危険を感じたのかビクッとして立ち上がった。…離れればよかったのに。特にいわなかっけれども。
その後ドアのところから中を覗き込むが…
「何にもないですねー」
見事に何もなかった。それはもう徹底的に教団や机どころか黒板すらもなく窓から一般校舎と月が見えるだけだった。へぇ…ここ一番眺めがいいのね。
メリーは諦めきれないのか中に入ると壁を叩いたりしている。私はなんとなくすることもないので彼女の隣で壁とスキンシップを取っているユメに抱きついてみる。…無反応なのね。
「むむ?」
「どうかした?」
「ん、んー…シュン君」
メリーは私の質問には答えずにシュンのほうへと向くと
「私とエウナさんは少しここで調べますから、ユメさんと柚香ちゃんとで隣の教室で待っててくれますか?」
「…ああ、わかった」
シュンはメリーの表情から何かを感じたのか柚香とおとなしく出て行く。…この位置からだと彼女の表情が見えないわね。
とりあえずユメもシュンと一緒らしいので開放すると、こちらを向くと一礼して立ち去っていった。
「それで、どうしたの?」
「エウナさん…ここの壁、お願いできますか?」
メリーはいつになく真剣な顔をして壁を指差す。
「…ええ、わかったわ」
私も特に理由は聞かずにメリーの指差したところを叩くと、壁にパラパラとコンクリートのかけらを零しながら穴が開いた。そして中からのぞいてきたのは…骨?
「…これは?」
「たぶんですが…人柱です」
人柱、災害なんかで壊されないように生きたまま埋められる人のことだったかしら…
「でも、今の時代に人柱だなんて…」
「…この校舎は旧校舎をそのまま流用してるらしいんです。ですからここが経ったのは…」
かなり昔、と。
「それで?」
「せっかくですからこの人に話を聞いてみます。人柱なら神様に近い位置に居ますから」
「そんなこと出来るの?」
私がそう聞くとメリーは仮にも幽霊ですからねーと言って笑った。…そういえばそうだったわね。普通の人とほとんど変わらないから忘れてたわ。
「そう、何か手伝うことは?」
「今は…ないですね…終わったら呼ぶんで皆でお祈りでもしましょう」
私はその言葉に返事をすると、メリーを残してユメたちの居る教室へと向かった。
教室ではユメがどこから出したコップでジャグリングを見せており、柚香はそれに夢中になっている。好都合ね。
「話は終わったのか?」
シュンの隣に行くと小声で聞いてきた。
「ええ、メリーはもう少しすることがあるらしいわ」
「そうか」
そう言うとシュンもユメのほうへと視線を戻した。…私も見てみたけどアレは人間業じゃないわね。途中からユメ本人も回っていたし。
□ □ □ □
気が付くと周りは真っ暗闇、その中で出口のようにぽっかりと白い扉が見える。…呼ばれてる?。
『ダメですよ、エウナさん』
どこからか少女の声がする。
『永遠に見える夢なんて無いんですから、行っちゃダメですよ』
でも…呼ばれて…
『あそこがどんなに幸せな世界でもそれは幻想なんです。幸せだったころには戻れません』
あなたは…だれ?
何でだろう、私はこの声を知っている気がする。楽しかったあの日、いつまでも続くと思っていたあのころ。どうして今は思い出せないの?
『…思い出さなくてもいいですよ』
誰かの声が優しく私にそういう。でも…思い出さないと…あの子が…
『ほら、早く戻ってあげないと。メリーさんが泣いてますよ』
メリー…そうだ、メリーは…
『エウナさん、幸せですか?』
私は…
そこで私の意識は闇に閉ざされた。
□ □ □ □
体が揺らされて誰かが私のことを呼ぶ声がする。
「エウナさん!」
五月蝿いわね…少し眠らせて…
「眼を…開けてくださいよ!」
ああ、もうわかったわよ…
あまりに五月蝿いので眼を開けると目の前にメリーの泣き顔があった。
「メリー…?」
「っ!」
私が眼を開けるとメリーは私の胸に顔を押し付けて泣き始めた。え?何?何で泣いてるの?
「ちょ、ちょっとメリー?」
声を出さずに私の胸で泣くメリー。私はというと、しょうがないので片手で彼女の背中をさすりながら声を掛ける。消毒液臭い…いったい何してたのよ。
「大丈夫、大丈夫だから…」
正直何が大丈夫なのか自分でもわからないのだが、他に掛ける言葉が無いのよね。私はそのまま数分間、彼女が泣き止むまでバカの一つ覚えのように大丈夫と言い続けた。
「…落ち着いた?」
「はい…」
泣きやんだはいいけど…メリーは沈んだ表情のままである。何、何なのこの状況は…誰か私に説明して…
「それで、どうしたの?」
居ない誰かに説明を求めてもしょうがないので自分で聞くと、メリーはゆっくりと話し始めた。
~寝ぼけた頭で必死に状況把握中~
「なるほど…」
纏めるとこうである。
メリーが戻ってくると私が廊下に倒れており、いくら呼んでも返事が無かったと。ふむ、別に廊下で寝る癖はないのだけれど…。
「ホントに…よかったです」
「あー、大丈夫だから泣かないの」
また泣きそうになるメリーを慌ててあやす。この子ったらいつの間にこんなに泣き虫になったのかしら…
それにしても倒れていた、か…何も覚えてないわね。ユメが壁走りとかしていたのは覚えていたのだけれど…そこからの記憶がまったく無い。ん?そういえば他の子は?
慌てて周りを見渡すが、私とメリー以外には誰も居ない。なぜだろうか、嫌な予感がする。
「とりあえず教室に入りましょう?」
廊下にいないなら教室にいるだろう、と無理やり嫌な予感を押し込んで教室の扉を開ける。あれ?ここ閉まってたかしら?
そして中に見えたのは重なるようにして倒れて居る柚香とシュン、そして私の寝ていたドアの方に向かって倒れているユメの姿。え?何…これ?
良く見ると服は無事なのにシュンの背中は血で染まってる。服はまったく傷ついていないのに…
これって…つまり…
「ユメ!」
思わずメイド服の少女に駆け寄ると名前を叫ぶが反応がない。嘘…でしょ?
隣ではメリーが私と同じくシュンと柚香の所に駆け寄っていた。
「嘘…この状況って…」
「これは…」
「メリー…嘘よね…?まさかユメたちが…」
私がすがるようにそう聞くとメリーは悲しそうに俯いていた。
「ねぇユメ、嘘だって言ってよ…冗談なんでしょう?」
「エウナさん…」
「起きて…起きなさいよ!今ならまだ許してあげるから…!ねぇってば!」
「エウナさん…落ち着いてください…」
落ち着け?この落ち着けというの!?何でこんな…!
「起きてよ…冗談なんでしょう…」
何で…私が…依頼を受けたから…?
「んぅ…」
「う…」
「シュン君!柚香ちゃん!」
「姉さんか…ということは…戻れたんだな」
メリーが叫んだほうを見るとシュンと柚香が薄く眼を開けていた。シュンと柚香は起きた…ということは!?
私はユメのほうへと視線向けるが以前変わらずに瞳は閉じられたままであった。
その後、完全に意識を取り戻した二人の話とは違い、その後もユメが目覚めることは無く、彼女は意識不明で病院へと入院することとなった。
□ □ □ □
ぽつり、ぽつりと点滴が落ちている。その管は目の前の少女へと繋がっており、アレから3日経っても目を覚ましてないという現実をいやおうなく私に付き付けている。
黒い髪をした少女の顔はとても穏やかで、毒りんごを食べた白雪姫のよう。ただ違うのは彼女は眠っているだけで死んでいるのではないのだけれど…ねぇ、白雪姫は毒りんごを吐き出して起きたけれど、あなたは何をしたら起きるのかしら?
私がユメの寝顔を眺めながらそんなことを考えていると、病室内へとメリーが入ってきた。
「シュン君と柚香ちゃんは無事退院できましたよー」
「そう…それは何よりね」
私はユメの頭を撫でながら対応する。ねぇユメ、あなたの守った人は無事だったのよ。だから早く目を覚まして。
「相変わらず…ですか?」
「見てのとおりよ」
「そうですか…」
そう呟くと彼女は私の隣まで来るとベットのほうを見て黙り込み、病室内を沈黙が支配する。
「それでは…行って来ますね」
いったいどのくらいの間そうしていたのだろうか、私の隣にいる少女はぽつりとそういった。果たしてその言葉はどちらへと向けられたものなのかしらね。
「私も行くわ」
「ですが…」
「何か手がかりが掴めるかも知れないんでしょう?なら、私も行くわ」
「…わかりました」
あの時、メリーが人柱から聞いた話によると、すべての元凶はここの病院の一室であるらしい。
最後にユメの頭を一撫でするとメリーと一緒にエレベーターへと乗り込み8階へのボタンを押すと、静かな駆動音を鳴らしながら上へと上っていく。他に乗っている人は居らず、空間内に居るのは私たちだけ。
そしてどちらも会話はなく、ドアの上に805と書かれた部屋の前へと着いた。
「ここ?」
「はい、おそらくは…」
メリーに確認を取ると805号室のドアを開けると中へと入ると、立ちくらみでもしたかの様に視界が軽く歪む。なるほど…これは当たりっぽいわね。
「お邪魔するわよ」
ベットで横になっていた長い黒髪の少女が突然入ってきた私たちの方を見て少し驚いたようにこちらを見ている。彼女の体は痩せており、肌は青白くてあまり長くはなさそうな気配がする少女だった。
少女のベットの横の棚には誰かが頻繁に訪れているのか真新しい花が生けてある。
「あなたたちは…?」
「初めましてこんばんわ、特にご迷惑でなければ貴女の夢についていくつか質問をしたいのですが」
メリーがそういうと少女は合点が言ったのだろう。淡く微笑むとどうぞ、と先を促してきた。
「単刀直入に聞きます。学校で起きている事件はあなたが原因ですね?」
「事件…ああ、夢のことですね。はい、間違いなくあの夢は私が原因です」
「随分とあっさり認めるのね?」
「特に隠す必要もないですから」
くすくすとそう笑うと彼女は窓の外へと視線を向けた。今日は曇りだからさぞ素敵な景色が見えるんでしょうね。
「そうですか…それじゃ夢に他人を巻き込むのをやめてもらうことは出来ませんか?」
「それは無理です」
「どうしてですか?」
「私はただ夢を見ているだけすから、その夢に誰が入って来ようが誰が出ようが、私とは何の関係もないでしょう?それに…」
そして私の方へと視線を向けると。
「誰であろうと夢を見るも見ないもその人の自由じゃないですか。…ふふ、それがあなたにとって大切な人だったとしても」
こいつ…!
「エウナさん!」
その言葉を聴いた瞬間、私の頭に血が上った感覚がして、私はメリーの制止の声も聞かずに彼女の首を掴んでいた。ほんの少し力を入れればこの細い首はへし折れるでしょうね。
「なら私が永遠に覚めない夢を見せてあげましょうか?」
「私を殺すと永遠に目覚めない可能性がありますよ?」
「あなたを殺せば目覚める可能性もあるわ」
「ならやってみたらどうですか?」
私は首を掴んだままそういった彼女の微笑を睨みつける。
「大切な人が永遠の眠りに付くか、それとも目覚めるか、試してみるのは自由ですよ」
「…」
「エウナさん…ダメですよ」
私は無言で彼女の首から手を離すとメリーのところまで戻る。
「へぇ、意外と冷静なんですね」
私の後ろから挑発するような声がしたが、今度はメリーに腕を掴まれていて動くことが出来なかった。
「…最後にもう一度聞きますが、やめる気はないんですね?」
「やめるも何も、私は夢を見ているだけですから」
「…では、私たちは戻ることにします。質問に答えていただきありがとうございますね」
メリーはそういって礼をすると、先に出ている私の方へと歩き始めた。
「ああ、忘れてました」
メリーが部屋のドアを閉めようとしたとき、思い出したかのようにそう言って彼女の方へと視線を向けると
「協力者の名前、教えてもらえませんか?」
その質問に彼女はしばらく沈黙していたが
「協力者なんて居ません」
「そうですかー、それではコレで失礼しますね」
今度こそドアは閉じられ、病室へと戻ることになった。
□ □ □ □
彼女の部屋へと行った次の日、私は眠り続ける彼女だけを見つめていた。気が付くとメリーは何処かへと行っており、居るのは彼女と私の二人だけ。
「エウナさん…?」
「メリー…帰ったの?」
「はい、今戻りました」
「そう…」
そう呟くと私はまたユメの元へと視線を戻す。さっきから頭の中で繰り返されるのは彼女との会話。
「あなた、あの会話の中で何かわかったのでしょう?」
「…はい」
「私は…何も出来ないのね」
ポツリと言葉が漏れる。私は何も出来なかったし、何もわからなかった。そう、何も…
「何も、出来ないわけじゃないですよ…」
私がうつむいていると、ふと後ろからメリーに抱きしめられる。
「エウナさんは…ユメさんのそばに居てください。それは、私には出来ないことですから…」
「メリー…」
「もし眼が覚めたとき、誰も居なかったら寂しいじゃないですか」
そこまで言うとメリーが離れた。
「ですから事件のことはババーンこの名探偵にお任せあれ!」
…この子ったら。私ったらホントにダメね…
「…事件のことは任せていいのね?」
振り向くとメリーに微笑みかける。
「はい、手はすべてそろいました!後は幕を下ろすだけです。ですから、エウナさんはユメさんのことをお願いしますね」
「そう…わかったわ。事件の解決は任せたわよ、探偵さん」
メリーは了解です、と言ってドアから出て行った。
メリーが出て行ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか、窓のほうを見ると昨日とは違い、星空が病室内からも見えた。さてと…メリーを迎えに行ってあげますか。
□ □ □ □
特別校舎のある教室、ちょうどシュンたちが倒れたところでメリーが一人立っていた。
「女の子を待たせるなんてマナーがなってないですよ」
「場所だけで時間を明記してないあんたが悪いんだろ」
メリーがそう言うと、教室のドアから茶髪にめがねの少年が入ってきた。
「やっぱりお見舞いに来てたのはあなただったんですね、いいんちょさん」
「会長だ…知ってて呼んだんじゃなかったのか?」
「なんとなく予想は付いてましたが…確証はなかったもので」
「だから看護婦づてに渡すなんていう回りくどい呼び方をしたのか…」
805号室の少女と話した後、メリーは看護士にいつもお見舞いに来る人にお礼の手紙書いたので自分の代わりに渡してほしい、といって呼び出したのである。
「それで?俺をここに呼び出したのは何の用だ?」
「はい、ちょっとお願いがありまして」
「…何だ?」
「ユメさんたちの意識を元に戻してはもらえませんか?」
「何かと思えば…それは「できますよね?協力者のあなたなら」」
少年の言葉をさえぎると、メリーはそう告げた。
「…何を言ってるかわからないな。いったい何の証拠があってそんなことをいうんだ?」
「そう、そこなんですよ。正直のところ証拠らしい証拠はないんですよねー。だからこうしてお願いに来ているわけですが」
メリーはそこで切ると残念そうに首を振りながらも続ける。
「証拠はないですが、お願いは聞いてくれますよね?」
「だから俺は協力者なんかじゃ…」
「そうですか…彼女を守るためにはそれしかないんですが…残念です」
「…どういうことだ?」
その言葉を聞いた瞬間、少年の眼が鋭くなった。
メリーは少年の質問には答えずに歩きながら話しはじめる。
「あなたが彼女が人を殺すことがわかってまで協力をしていたのって、病院の彼女に警察の捜査が行かないように守るためだったんでしょう?
見るからに病弱そうですもんね彼女、そんな子が警察の取調べなんてしたら…死にはしないでしょうがかなりのストレスになるでしょうねー」
メリーはそこで区切ると一度止まり、少年のほうを見た。
「…それこそ、ただでさえ短い寿命が縮むほど」
そして自身を睨んでくる少年に楽しそうに笑いかけるとまた歩き始める。
「彼女が事件の原因がどうか、といった辺りは本人に聞いたら普通に答えてくれました。 おそらくは彼女にとっては事件なんていうほどのことじゃないんでしょうね…事実、警察の人が取り調べに来ても彼女のやったことが犯罪になることはないでしょう。
だって、彼女は夢を見ているだけなのですから。…もしくは、自身のことを隠さずに言うことで私たちの目的を達成させ、誰かを庇った…とか?
…まぁ真実はどうであれ、そんな彼女も協力者のことについてはそんなものは居ない、とか言って教えてくれなかったんですよねー」
「…そう言ったなら協力者なんて居ないんじゃないのか?」
「それはおかしいんですよ。彼女の夢は意識だけを取り込むものです。
実際にシュン君やユメさん、柚香ちゃんが取り込まれたときはまるで眠っているようでした。
ですが…それでは行方不明になった人たちのことが説明できません。
それにシュン君は中で行方不明になった先生の骨を見つけた、と言ってましたし、意識だけを幻想へと取り込むはずなのに、現の体までなくなるのは明らかにおかしいでしょう?
それで協力者が居ると思ったんです。
まぁ、死体はまだ見つかってないですが…たぶん学校内を捜せば何処かからみつかると思いますねー、服は無事で体だけが傷つけられた死体が。…幸い今は冬ですからそれほど損傷は激しくはないでしょう。
それに、彼女が取り込む瞬間って体の意識が無い時だけなんだと思うんですが、違いますか?」
またも立ち止まり少年のほうを見るが、返事がないとわかるとまた歩き出して話し始めた。
「まぁ、それはいいとしましょうか。
正直言って協力者が居るという事実だけが大事で彼女がどうやったかはそれほど大切ではないわけですから…
さて、協力者が居るとわかったら何故彼女は嘘を付いたんでしょうか?
たぶんですが、協力者さんを庇ったんでしょうね。
彼女のやったことは犯罪にはなりませんが、死体を隠したと言う行為は十分犯罪となります。
その結果、自分のことを思ってやってくれた協力者さんの人生がどうなるかは…想像が付くでしょうね。
この時点で彼女と協力者さんはかなり親しい間柄だと言うことがわかります。
さらにこれは看護士さんが言っていたことなんですが…彼女にお見舞いに行く人ってほとんど居ないららしいですねー、それこそ家族すらも。
以上のことからあなたが彼女の協力者だということがわかりました。
ここまでで何か間違ってるところはありますか?」
「間違いがひとつ、教師や生徒の連中を殺したのは俺だ。彼女は関係ない」
少年はメリーの言葉にふっと笑うとそう言った。
「ありゃりゃ、そうでしたかー…
てっきり彼女かと思いましたけど…あの空間に干渉をしたのはあなたでしたか…まぁひとつ、と言うことは他はおおむねあっているってことですよね?」
「ああ、良く考えたな。それで?その情報を警察に言うか?
いっても意味はないよな。あるならとっくにしているはずだから」
「はい、まず間違いなく警察に今の話をしても部外者の戯言と言うことで処理されるでしょう…ですが、あなたひとつ忘れてませんか?」
メリーは黒板の横に置いてあるクラゲのぬいぐるみを手に取ると少年のほうを見て
「シュン君たちは犠牲者なんですよ?」
「…」
「確かに、私やエウナさんが言ったのなら意味はないでしょう。ですが、シュン君たちはどうでしょうか?
彼らは疑いようのない被害者です。…確かに虚言と取られる可能性はあります。
ですが、警察さんたちも捜査は難航している現状、被害者と言う人物から事件についての話がきたらどうでしょう?
それがどんな話しであろうとも、聞いてくれる人は一人か二人は居るでしょうねー。
その結果、学校を捜査して学校内に漂う魔力から彼女へとたどり着く可能性は決して低くはありません。
正直なところ彼女の魔力はかなり特殊ですから、特定はあまり難しくはないでしょう。
それに実際に警察さんたちの捜査が難航している理由は調べる場所がわからない、という理由が強いらしいですから。
あとコレは知らないかもしれませんが、シュン君は警察の中で知り合いが居るらしいですよ?。それも捜査状況の愚痴を言うような、かなり親しい間柄の知り合いが」
少年はメリーの言うことを黙って聞いている。
「それで最初のお願いに戻るんですが…彼女を守るためにも聞いてくれますよね?
まぁ、もしも今後もこの事件が続くようなら…ふふ、どうしましょうね」
メリーはそこまで話すと、もう用は無いと言った風に少年へ笑いかけ、教室から外へと出た。
教室内で一人残された少年は、何かを考えているかのようにずっと動くことはなかった。
□ □ □ □
病院の駐車場で星空を見上げながらぼーっとしていると、見慣れた灰色の車が入ってくるのが見えた。
「お帰りなさい、メリー」
「ありゃりゃ、待っていてくれたんですかー?」
「あら、待っていなかったほうがよかった?」
「いえいえー、ありがたやありがたやー…ぐふ」
メリーはそう言うと私に抱きついてくる。殴り飛ばした。
「こ、この感覚…久しぶりのような気が…」
「ほら、こんなところで寝ると風邪引くわよ。」
「あ、待ってくださいよー」
慌てて追いかけて来るメリーを待ってから、二人で並んで歩く。
「首尾はどうだった?」
「はいー、何とかなりそうですねー」
「そう、それはよかった」
私はそう言うとメリーの頭を撫でると、メリーは少しビクッとしながらもおとなしく撫でられている。
ずっと撫でているわけにも行かないので適当なところで手を外し、病室へと並んで歩いていると、メリーがポツリと話し始めた。
「実際のところ、まだ根本的な解決には…」
メリーがそこまで言った辺りで、空から何かが降ってきた。
ぐしゃり
肉のつぶれる音を出した何かはまるでトマトがつぶれたかの様に赤い血を流している。落下の衝撃で手足は折れ曲がり、長い黒髪をしている頭は血を流しながら何処か虚空を見つめてた。これは…人?え?この子ってまさか…
「え…この人って…ってエウナさん!」
メリーが叫ぶのを背中に聞きながら走り始める。彼女が死んだってことはつまり…!
『私を殺すと永遠に目覚めない可能性がありますよ?』
脳内で彼女の言った言葉がよみがえる。ほんの昨日話した内容だ。まさか…嘘でしょう?
私はエレベーターの遅さにいらいらとしながら駆け下りるとユメの病室へと走りこむと叫んだ。
「ユメっ!」
…えっと?
「エウナさん…早いですよー…ってわわ!ユメさん、その髪どうしたんですか!」
あとから付いてきたメリーも驚いたようにそういう。
「これはエウナさまにメリーさま、そんなに急いでどうかなさいましたか?」
病室内ではユメがベットから倒れる前と対して変わらない様に半身を起こしてこちらの方を見ていた。ただ違いをあげるとしたら彼女の真っ黒であった髪は雪の様に真っ白となっていた。それはもう1本も残さず見事に白い。
あー…その髪の色はどうしたのかだとか、意外と元気そうねだとか、心配掛けるんじゃないだとか…色々な言葉が浮かんだがまずは…
「お帰りなさい、ユメ」
「はい、ただいま戻りました」
色々な質問よりも、まずは挨拶から始めることにしましょうか。
ということで現実編です
何一つ解決して無くない?とかラストの展開速くない?とかは言わないでください…作者の能力不足です…
元々ひとつだったのですが今まで書いたことのない長さに作者がノックアウトしたので分かれました
コレだけで1週間掛かってるのにね…
無事投稿されてればこの後幻想編が入ります
入る予定です
入ってください
それでは、後少し事件にお付き合いください