そのとき彼女は、鬼になる
バレンタインネタ追加
元々短編でしたが世界観が一緒なのでこっちになりました
短編時の名前はお友達がきゅうり回は甘くないといったのでむしゃくしゃして書いたです
消されてますが
ということで人物表
柚香
人間 少女 恋する乙女パワーは無敵です
霞日 シュン
人間 想い人 エウナとかとの関係は別の話で
A子
友人A
B子
友人B
「えっと…湯煎で溶かして…容器に流しいれる?」
誰にでも作れるバレンタインチョコ!、という本を片手に細心の注意でチョコを溶かす。
そう、バレンタイン!2月14日!1年の中でチョコの売り上げが最高になるあの日のことである。企業の戦略?そんなの関係ない!2月14日、それは恋する乙女にとっては聖戦となる日である!
もちろん、この私も例外ではなく両想い(だったらいいなー)の彼のことをを想いながら戦いに必須の物資を作っているのである。
事の始まりは1週間ほど前、まだチョコチョコという空気はないが、どことなくバレンタイン関連の話が少女たちの話題に上ってくる頃…
~以下回想~
(ぽわわわーん)
「そういや、ゆずゆずはバレンタインチョコ誰に送るん?」
学校から私の友人のA子とB子(名前が思いつかなかったわけじゃないよ!)と帰っていると、思い出したようにA子が話しかけてきた。
「えっ、あの、その…」
「馬鹿ねA子、柚香にはもう本命の人が居るじゃない!」
「えっ…い、いやちが…」
「へぇー、やっぱり春之助に送るんかー」
「あの…だから…」
「ついにゆずゆずの恋も実るのね…楽しみだわー♪」
『…で、チョコはもう作ったの?』
「あの…まだ…です」
そこで二人は示し合わせたように同時に聞いた。その後も、私は何度か弁解しようとしたのだが、聞き入れてもらえる事は無く、二人は勝手に盛り上がっていった。…なんで私の想い日との事を知っているんだろう?
『そんなの見てればわかるじゃない♪』
さいですか。
「あの…」
「となるとですな、まずはシュンを捕まえることからですな?」
「うむうむ!そうであろうな!あの春之助のこと、バレンタイなど関係なしに帰るに決まっておる!」
「だから…話をっ…」
「ふっ…となると、まずは…?」
「ふっ…ですな」
「あっ!まっ…」
そのまま二人で笑い会うと彼女たちは何処かに走り去っていった。方や運動も魔術も万能というスーパーマン(※注 女の子です)、方やスポーツこそしてないが戦闘科をの彼女たちのことである。戦いどころか運動、と名の付くものがすこぶるダメな私が
追いつけるはずも無く…
「…行っちゃった」
仕方ないので一人になった道をとぼとぼと歩く。ああ…陽光が暖かい。今はおひさまだけが私の味方。そういえば彼もおひさまの様な匂いだっけ…。そんなことを思い出すと顔が熱くなった。
それにしてもバレンタインかー、去年も一昨年もチョコだけは作ったのだけれど…そう、チョコだけは作ったのである。
彼女たちの言っている様に私には想い人が居る(見ればわかるらしい、ガッテム!)。今年から一緒のクラスになった男子で、必修授業はサボるわ、たまに学校に出てもすぐに帰るわ、で最初の頃は少し恐いと感じたのを覚えている。
そんな彼をどうして好きになったのかと言うと…~以下略~といったことがあったから…(ここは回想です、回想の中に回想を入れないでください。筆者が死にます。)
そんな事があってから、私は過ぎていく毎日の中、無意識に視界の中で彼を探していることに気がついた。そのことに気づいたとき、私は自分が恋しているのを自覚したのである。キャー。
~回想終了~
はっ…ふと湯煎に掛けているボールを見るとチョコレートは完全に溶けた様で、どろどろとした状態になっていた。
は、早く用意しておいた型に…あぅ!足ぶっけた!
スローモーションの様に倒れていく視界、飛んでいくボール。そのとき、自分の中で何かが切れた。次の瞬間、私は床に手を着きながら綺麗に前転をするとチョコの入ったボールを無事キャッチ!バレンタイン数日前、恋する乙女は超人にもなるのである。この程度…造作も無い!はぅっ!壁に頭ぶつけた!
じんじんと痛む足と頭を気遣いながらも、チョコの無事を確認するとほっと胸を下ろす。早速、慎重にハート型の入れ物にチョコを流し込み冷蔵庫で固める。聖戦まであと数日、何があってもこのチョコは守らなければならないのである。
ここからバレンタイデーまで、少女のチョコレートを守るための壮大な戦いが始まるのだが、時間が押しているのでここでは割愛する。
乗り切った…私は乗り切ったのである…
何の陰謀か策略かわからないが、本命チョコを襲う連続した事件の数々。無事チョコを守りきり、バレンタインデーを迎えたとき、少女は真っ白な灰となっていた。
…真っ白な灰になりすぎて寝坊をし、少女が起きて携帯で時刻を確認すると夕方の5時になっていた。え?夕方5時!?
目の前の時刻を信じることができずに、何度も携帯を閉じたり開いたりするが、5時は5時、このとき少女が時間を操れたなら間違いなく使っていたであろう。
あまりにも高速で閉じたり開いたりを繰り返すので携帯のアンテナがその風圧に耐え切れずに吹っ飛んだ。好きだったぜ…お前のこと…、吹っ飛んだアンテナが携帯へと告げた。いい…やつだったよ…それがあんなことにっ。と後に携帯は語った。
だがしかし、こういうときこそ冷静になるべきである。もしかすると通学路のどこかで彼との運命的な出会いがあるかもしれないではないか!そう思いなおすと少女は靴を履き、家を飛び出した。ポジティブである。だがしかし、着替えを忘れて居るので服装はパジャマのままである。
走りながらも時間が戻るかも知れないので、携帯をパカパカすることだけは忘れない(ちなみに筆者は暇なときとかによくします、意外とやめられません)。何度も言うが、5時は5時である。時間は戻らない。あ、5分過ぎてる。
携帯をパカパカとしていると少女はあることに気づいた。A子からのメールのようである。本文は
『放課後 学校 教室ニテ 待チ人 アリ スグ、キタリシ』
なぜ片言?だが重要なのはタイトルの部分、そこには少女の愛しの彼の名前が載っていた!
少女は走った。わき目も振らずに走った。銀行の前辺りで、ヘルメットを被った黒いライダースーツ姿の人を轢いた気がするが、それも気にせずに走った。パジャマのままで。
今宵はバレンタイン、チョコを渡すためならば恋する乙女は鬼にもなる。
余談であるが、彼女は翌日の新聞の『銀行強盗逮捕!捕まえたのは謎のパジャマ姿!?』という見出しが載っていることを知り卒倒するのだが、それはまた別の話である。
キキーッ
学校の前に着くと少女は急ブレーキを掛けた。…おおよそ人体が発してはいけないような音が少女の靴から鳴り響いているが、気にしてはならない。また、止まりきれずに学校の門が少し壊れているが、気にしてはならない。今の少女は鬼なのである。
さすがに切れている息を整えととも校舎を見上げると、残っている生徒は居ないようで、ぽつんと夕日に照らされた校舎があるだけであった。
確か…教室にいるって…
ちなみにそんなことはドコにも書いてはいない。少女の第六感が時空を飛び越え、少女へとそう告げるのである。
なぜか手に持っていた櫛で髪を整えながら教室まで登ると、深く息を呑むと扉を開けた。
この少女、もはや何でもアリである。だが、今宵はバレンタイン、さらに乙女パワーのみなぎっている少女にとって、その程度は造作も無いこと。だが、未だに己の服装には気づく気配はない。
教室の中を見渡すと、ところどころ古びた机が夕日に照らされているだけであり、乙女パワーによって人間離れしている少女の瞳でも、目的の人を見つけることは出来なかった。
当然…ですね。
時計を見るともう5時30分である。忙しい彼がそんな時間まで残っているとは思えない。それでも、もしや?と思ったのだが、どうやら居ないようだ。
結局今年も渡せなかったな…
「まったく…何時まで待たせるんだ」
見るからに落胆した様子で扉を閉めると。突然後ろから声を掛けられた。
「えっ…?」
間違いない…この声は彼の…
どきどきと鼓動する心臓を押さえながらゆっくりと振り向くと、そこには愛しの彼が居た。
「あ…あのっ…!その…!」
渡して言わなきゃ、好きでしたと、付き合ってくださいと。言わなきゃ!
がんばれ少女!恋する乙女パワーは今臨界点まで達している!
「っ!?お前平気か?顔真っ赤だぞ!」
「あ、あのこれ…!」
そういいながらチョコを差しだそうとすると、彼に突然体を抱きとめられた。どうやら乙女パワーの出しすぎで倒れたらしい。
「へ?わっ…あわわわわわわわわ」
「いいから黙ってろ!一番近いのは…ったく、寮まで連れてくしかないか…」
少女の前には彼の顔、彼からはまるでおひさまのような匂い…。
「うにゅぅ…」
「っておい!寝るな!おいっ!」
そのときの少女の顔はとても安らかであった。
ん…?ここはドコ…?えっと…私は確か…
がばっと目が覚める。見渡すと見知らぬけれども知っている部屋、女子寮…?
鮮明になっていく意識の中で、倒れる前の記憶を思い出すとぽんっと火がついたように赤面する。
「わわわわわたし…なななななんてこと…」
「起きたか、ということは体は大丈夫だな?」
突然台所がある方から声がしたのでビクッとしてそちらを見ると、そこには彼の後姿があった。
「あ…あの…」
「まったく…体調が悪いなら無理するなよな、用があるのなら別に明日でも…」
今年のバレンタインは今日いっぱい、明日ではダメなのである。
あわあわとしながら隣の時計を見ると12時を回っている。あれ…バレンタイン…終わってる?
信じられないものを見るように時計を見つめていると、突然目の前にれんげが差し出された。
「ほら、お粥、食えるな?」
少女再びあわあわタイム突入、これはすなわちあーんということであり、つまり恋人同士のするようなそういうことである。それにしてもこの男に羞恥心という文字は無いのだろうか?
お粥を全て食べ終えるまで少女の羞恥心やら乙女パワーやらがあーん攻撃に耐えたのは、もはや奇跡とも言える。味はわからなさそうだが、幸せそうである。
「食べたならさっさと寝ろよ、俺は別のところで寝てくるから」
あ、制服はそこな。そういって部屋の隅を手で示すと、彼は扉から出ようとする。どうやら自分は他で寝るのでここで一泊していけということらしい。変なところだけ用意周到な男である。
「あ、あのっ…!」
そこまで大きくない少女の声、それでも少女にとっては精一杯の大きさの声。言わなきゃ!彼が出て行く前に!
「ん?何だ?」
「あ、あの…チョコ」
「何だって?」
肝心なところを聞き逃す男である。さっきのあーんといい、自分の部屋に止めるといい、狙っているのではあるまいな?
「あ、ありがとうございます…」
そんな程度気にするな、そういって笑うと彼はドアから出て行った。
「結局…チョコ…渡せなかったな…」
暗闇の中おひさまの匂いのする布団にもぐりながら呟く。
でも、チョコを渡すよりもいい体験できたな…
少女はさっきまでのことを思い出すと顔を赤らめ、彼の布団を顔まで引き上げる。
どうやら今日は少女にとって眠れない夜になりそうである。
余談であるが、彼の部屋から出てきた少女を同寮の男子が発見し、大騒ぎになるのだが、友人であるA子とB子の持っていた証拠によって事なきを得た。
その証拠を見て少女があわあわしたのは言うまでもない話。
バレンタインですから2つ投稿してもいいですよね!
ごめんなさい短編をまた投稿するとかしてごめんなさい
柚香さんが惚れた理由に関しては次の長編辺り?