痛いの痛いの飛んでいけ。
あなたを見て息が止まった。
あなたが歩いているのを見た。澄んだ横顔で口角を上げてる。青い空を背景にして歩く。
左に向かって話す視線は、やや下に向いていて、割れ物を扱うような瞳をしていた。その瞬間だけ止まって、それでいて長かった。私だけがそう感じている気がして、許せなかった。
「っ。」
声が出そうになって、抑えた。でもきっと抑えなかった所で、声にならないものになって、彷徨うだけだったわよね。
あなたが見えなくなっていく。角を曲がって、姿を隠す。私だけが動けない。気持ちが影を捉える。
追えない。
しばらくして、街の雑踏が帰ってきた頃に、その場を後にした。家を目指して歩く。今日の朝に日を浴びた時は、靴を履いた時は、鏡を見た時は、どれも記憶にすらなかったのに。覚えていなかったものが、喉に引っかかっているのよ。
家に着くなり部屋に駆け込む。着ていたものを脱ぎ捨て、鞄を床に零す。床に座り込み、ベッドのシーツを離さず掴んだ。
あの時は何ともなかったのに。痛くなかったのに。踵を返して戻ってきた過去が、強く滲んで、シーツに落ちる。
声が漏れる。徐々に大きくなっていく。私の気持ちとともに。溢れたものが部屋を満たして、私にも刺さる。痛い。
あぁどうかあなたもこの痛みを感じて今日までの日々を歩いているように。
どうか私の痛みが、彼に届いているように。
そう、願った。
それがどれほど残酷か、わかったままで。




