さよならキリギリス
秋。
夜だというにアリちゃん達は活発に活動し、沢山の食料をより激しく運び、列をなす。
「わーっせ、わっせ」
「わっせ、わっせ……」
クビキリギスは草にしがみつき、懸命に隠れて食事をとっていた。
冬を越すのに食事は大事。さりとてアリちゃんたちに見つかると、それで人生はお終いだ。
「……」
クビキリギスは陰気に見下ろし、タネを運ぶ殺戮集団の行列を送った。
「わーっせ、わっせ」
「わっせ、わっせ……」
さて、こんな寒気のする中、キリギリスちゃんはというと……
「──よっし。これで卵ちゃん達は見つからないわね!」
夏に鳴き続けた甲斐あって、産んだ卵を土に埋めていた。
「ふふふ! あたしの可愛い赤ちゃん達! 来年かしら、再来年かしら。ああ、早く顔が見たい!」
ダメになった土掘り用の刀を捨てて、キリギリスちゃんは愛おしそうに盛り土を撫でた。
埋めた場所をしっかり覚えて、キリギリスは立って歩く。
「にしても……うぅ、近頃やけに寒いわね。具合でも悪くなったのかしら」
こういう時、キリギリスちゃんは日に当たることにしていた。
大好きな日なたぼっこをすることで、キリギリスちゃんはいつも演奏する元気をもらっていたのだ。
「よい、しょ……っと」
つい最近見つけたお気に入りの日当たりスポットに腰を降ろし、キリギリスちゃんは楽な姿勢をとった。
両側頭から垂れた長い足が力なく揺れ、指先の感覚を取り戻すべく日を浴びる。
大丈夫。少し、産卵で消耗しただけ。少し休めば元気になれる。
少し休んだら元気になって、またご飯を探して、鳥やクモから隠れて、冬を越して、また……夏が来て……そうなったら。
「元通り……だ……」
秋の午後。
草が冷えつき、寒風が吹く、昏い季節の前触れのことだった。
暗くなった頃。キリギリスちゃんの微笑みを見下ろし、クビキリギスは立ち止まった。
もうキリギリスちゃんは動かない。馬鹿にしてくることも、ウザ絡みもしなくなった。
「……さよなら、キリギリス。あなたのこと、ずっと嫌いだった」
すぐにクビキリギスは離れていく。これから亡骸がどうなるか、知ったことじゃない。
誰か鳥や肉食の虫にでも食われるか、そうなればクビキリギスも他人事じゃない。立ち止まる時間さえ惜しかった。
「……あたしも、すぐ後を追う」
感傷などではない。クビキリギスだって、永い命とはいえないのだ。




