クビキリギスの夜
「はぁ~~……お腹空いた……」
夕方。カラスから隠れて寝床になるような草を探していると、キリギリスちゃんは知った顔を見かけた。
陰気な雰囲気、細長い体格、尖ったフードを被った格好。
「ん……? あ、クビキリギスだ! やっほ~、クビちゃん!」
「……っ!」
クビキリギスは肩をビクつかせ、駆け寄るキリギリスちゃんを見下ろします。
陰気なメイクから吸血鬼を連想させる、この女の子はクビキリギス。臆病な夜行性で、眠い起き抜け姿ばかり見る女の子。
「久し振り~! 元気してた? てか今何してんの? ほら声出せよオラ!」
「……っ、……」
キリギリスちゃんが軽くパンチを入れ、クビキリギスは迷惑そうに体を傾ける。
嫌なことがあったキリギリスちゃんは、クビキリギスに会うと必ずイジメをして鬱憤を晴らすのだ。
「ギィ~……ッ……ギィ~~……ッ」
「ははっ。何言ってるか分かんねぇー」
クビキリギスは金属音に似た鳴き声を立てて、キリギリスちゃんを追い払おうとする。
普通にガチで嫌いなのだが、キリギリスちゃんはお構いなしだ。
クビキリギスはキリギリスちゃんを避けるように体を引き、しがみつく草を探し始めた。
「もう行っちゃうのー? まったねぇ、陰キャ! キャハハハ……!」
草の合間に消えていくクビキリギス。食に困り、体格もしっかりしているキリギリスちゃんが彼女を襲わないのにはワケがある。
遡ること、少し前。成虫になったばかりの頃だ。
キリギリスちゃんは、いつものように小鳥から逃げ隠れしていた。
「チュ、チュ……チュン、チュン……」
「ひぃ……ひ……でか過ぎ……は、早くどっか行ってよ……」
単なる恐怖の対象でしかない小鳥だが、その時は別の恐怖もあった。
小鳥の喉付近のことだ。
「ん……? え、何あれ……?」
小鳥のおぞましい、ふさふさの毛並み。羽毛にしがみつくように、クビキリギスの頭があった。
「ヒッ!? な、なななななな……生首ぃ~!」
羽毛にくっついて揺れる、クビキリギスの頭。理性も知性もなさそうに見える小鳥が、その時は冷徹な人食い族に見えた。
しかし、それは間違いだった。
「え……? あっ、ヒッ!?」
羽毛に血走った目で噛みつく、小鳥に着いていってるのはクビキリギスの遺志だったのだ。
間際の反撃に羽毛に噛みつき、胴を食べられた死後なお離さずにいた、森の亡霊の姿だった。
小鳥は肉を噛まれた訳でもないし、何かで亡骸を落とすまで気にせずにいるだろう。
その隙間時間をキリギリスちゃんは運悪く──あるいは運良く、亡霊の足跡と目撃したのだ。
(あんなやつらと戦ったら、食べるどころか足を食い千切られちゃうよ。多分)
野生の世界でケガは死を意味する。病院なんてない生活で、キリギリスちゃんは陰気な隣人を馬鹿にしながら警戒していた。




